Be blue (愛理、播磨他) ( No.3 )
日時: 2005/08/10 06:36
名前: によ



−第三章−


 あれは私がバイトを始めてから1週間ぐらいがすぎた頃。
 嵯峨野さん達が作った女子バスケ部の設立お祝いを兼ねた打ち上げがあったのは……
 今思うと…あの時がキッカケだったと思う。

「高野もありがとな。女バスのこと宣伝してくれて」
「いいのよ。ちゃんとクロは出たわ」
「しっかし、アンタいつの間に撮ってたのよ、ビデオなんて。ドキュメント風になってたじゃない。ナレーションまで入れてさ」

 そう。その打ち上げがあった前日に晶からそのビデオを見せてもらっていた。
 なんていうか美琴の言った宣伝なんて言葉では済ませられないぐらいに凝りに凝ったビデオだった。
 その時、晶から『愛理、女バスの打ち上げがあるんだけどこない?』と誘われた。
 最初は全然関係ない私が行くのもどうかと思って断ろうとも思ったけど、なんだか面白そうだし…といった感じで迷っていた。
 でも…私が迷っている間に晶が女バスの関係者だけでなくヒゲも出席することを聞いて……
 もちろん、ヒゲだけじゃなく今鳥くんや2−Dの東郷くんまで出席するってのも聞いたんだけどね……
 さりげなく何で男子が出席するのか聞いたら、ヒゲ達と天満や八雲もバスケチームを作って試合をしたっていうじゃない!
 なんかね…バイトがあったから参加できなかったのは仕方ないんだけど、ヒゲまで絡んでるなんて。
 まるで、私はノケ者?みたいに感じちゃって……
 それで、私は無性に腹立たしくなって…今、ここにいる。

「ミコちゃんこそどうなのよ? せっかくだから続けてみたら?」
「えっ、私? 私はいーよ。ただ素人がボールで遊んでたって感じだったし」
「え──っ、そんなことないよ!! 私達の中で一番うまくなってたじゃん!!」
「そっ、そうかなあ。でも道場もあるしなあ」
「オレも保証するぜ」
「周防はマジで才能あるぞ。3年までみっちりやれば、かなりのレベルになる。このままやめちまうのは絶対もったいないぜ。直接戦った俺が言うんだから間違いねーよ」

 さっきから話題はバスケの話。
 まあ、女バス設立の打ち上げなんだから仕方ないけど……
 ビデオでだけだけど…美琴のプレーは結構サマになっていて、そのせいかしきりに皆にバスケを続けるよう説得されていた。

「あの…わ…私もそう思います!!」

 突然、大きな声が聞こえた。
 確か…1年生の俵屋さん…だったかしら?
 前に私を女バスに誘ってくれた時に一緒にいた娘だ。

「す、周防先輩はセンスもあるし! 身長も高いし! 私や…みんなをよく見てくれるから…チームプレーもできます!! 絶対バスケに向いています!!」

 凄い熱弁。
 ホント、一心不乱にバスケにのめり込んでいるって感じよね。
 なんて言うか…真っ正面に何かに打ち込んでいるって感じで…この娘も美琴のことをよっぽど……

「……なんだか、みんな色々あるのね……もう、高校2年生だもんね」

 美琴が私のあまり知らない娘までに必死に説得されているので、思っていたことをひとりごちてしまった。
 私も内緒にしているけど…バイトを始めたし。
 ホント、みんな色々あるのね……

「どうしたの愛理ちゃん。何かあったの?」

 いつの間にか私の隣に来ていた天満が独り言を聞いていたようだ。
 別に深い意味はないのよ、と答えようとしたら東郷くんに話しかけられていて、さっさとそっちのほうに行ってしまった。
 私の知らないうちに親友達は少しずつ変わり始めているよう……
 美琴は皆から頼られているし、天満はいつの間にか東郷くんとも友達になっているようだし。
 なんだかね……

「チョクショウ、面白くねーぜ」

 ヒゲが投げやりな感じでそう言った。
 気付いたら、私の近くにいるのはヒゲだけ。他の皆は盛り上がっていて、すぐ近くにいるのに遠い感じがする。
 珍しく気が合うわね…私も面白くないわ。

「ねぇヒゲ、退屈だわ…何か面白いこと言いなさいよ」
「…今はそーゆう気分じゃねぇんだよ。察しろバカ……」

 確かにね…私もそーいう気分じゃないかもね。
 皆が何かに打ち込んで…いかにも『青春です』って感じだしね……
 でも…私だって……

「……ねぇ、あのさ。私が……」
「しつけーぞ…今は誰とも話したくねぇんだよ」
「……そう…」

 …なによ……
 私だってそうなのよ!
 なんか皆が青春を謳歌している中でひとり取り残されている気分なのに……
 私が何かに打ち込んでいたらどう思う?って聞きたかっただけなのに。
 少しは気遣ったっていいんじゃない?
 そう思ったけど…なんだか虚しくて、ヒゲの言葉に怒る気にもなれなかった。
 周りはいつまでも終わらないといった感じで盛り上がっている。
 その中でぽつんと私だけが取り残されている。そんな錯覚がおきる。
 おまけに同じように取り残されていると思ったヒゲまでが、なんだか知らないけどすごく機嫌が悪いし……
 まるで…そう、何かに怒っているような……
 って、いったい何に怒っているっていうの……!?

「ねぇ麻生君とサラちゃんて、付き合っているのかな?」

 突然、いつの間にか東郷くんのところから戻ってきた天満が私の耳元でそう囁いた。

「あのね、一緒に居たからって絶対そうってわけじゃないのよ」

 全く…天満にかかったら一緒にいるだけで恋人同士にされちゃうわね……
 そんなわけあるワケが────!!?
 もしかして…ヒゲが機嫌が悪い理由って……
 この中に好きな人がいて…他の男子と楽しそうにしているからとか!?
 ま、まさかね…ヒゲがここに居る誰かを好きだなんて……
 でも、皆と馴染めなくて機嫌が悪いなんてことは一度もなかったハズだし……
 …考えすぎよ。それにヒゲが誰のことを好きになったって私には関係ないじゃない……
 ………退屈だし、面白くないわ!
 なんで私、今日ここにいるんだろう…来るんじゃなかったのかな……
 そう落ち込んでいる時に姉ヶ崎先生が打ち上げのお開きを宣言した。
 皆はまだ騒ぎたいらしいけど…凄く居たたまれなくなっていた私はそれを聞いて、そうそうに帰り支度をし始めた。

「愛理、途中まで一緒に帰りましょう」

 帰ろうとしていた私を見かけた晶がそう声をかけてくれた。
 晶は私のことも見ていたんだ…でも、

「晶はまだ居たいんじゃないの? 私のコトなら気にしなくていいわよ」

 卑屈になっていたせいか、思わずそう言ってしまった。
 本当は声をかけてくれた晶に感謝の気持ちすらあるはずなのに……
 ホント…素直じゃないわね、私って……

「私も今日は早めに帰らないといけなかったし、それに帰り途中に愛理に話したいこともあるのよ」
「そう…なら、一緒に帰りましょうか」

 そう言葉を交わして、私達はお店を後にした。
 店を出てから暫くはずっと無言のままだった。
 商店街を抜けて、住宅街に入り始めた頃、

「無理に誘ってごめん、愛理。面白くなかったようね」

 晶……

「べ、別に無理に来たわけでもないし、今日は楽しかったわよ……」
「そう…それならいいけど……それより、バイトのほうはどお?」

 どうやら話したいことというのは、謝りたかったことのようだった。
 そして、晶の気遣いが心に染み入って……

「ええ、楽しいわよ。店長さんもいい人だし。改めてお礼を言うわ」
「いいえ、どういたしまして」

 本当に…感謝しているわよ…晶。
 バイトのコトも今の気遣いも……
 ホントはもっと素直に『ありがとう』と言いたい。
 でも、私はこーいうのが本当にヘタで…ゴメンね、晶……

「じゃあ、私はこっちだから…また明日学校で」
「えっ…あ、うん。また明日ね…おやすみ、晶」
「ええ。おやすみ、愛理」

 いつの間にかに、いつも晶と学校から一緒に帰る時に別れるところまで来ていて、お別れの挨拶となっていた。
 晶は私に手を振りながら自分の家へと向かい始めた。
 晶が見えなくなるまで、私はその後ろ姿をずっと見送っていた。
 なんとなく寂しかったから…ひとりになってしまうのが……
 晶が見えなくなると、私は走って家路にと向かっていた。



.....to be continued

 

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