5話目(播磨、八雲、サラ、晶) ( No.4 )
日時: 2006/03/23 22:31
名前: くらんきー


 あの野郎、またも懲りずに呼び出しやがって・・・ ココ暫く登場すらなかったから、すっかり忘れてたじゃねーか。
 名前こそ書いてねーが・・・ 『果たし伏』の文字。 手紙なんていう古くせー呼び出し方。


 天王寺・・・ アイツしかいねえ・・・


 しかし、アイツの腑抜けさもMAXまで来たな。天満ちゃんに一目惚れしたかと思ったら、今度は周防だ。
 結局、アイツもアホ鳥と一緒だったみてーだな・・・
 しかも何なんだ、この乙女チックな文字は・・・ まるで別人だぜ。妹にでも書かせやがったのか?

「・・・・・・」

 って! 待てよオイ! よく考えてみりゃ茶道部の窓から丸見えじゃねーか! 何てトコに呼び出しやがる!
 絃子にでも見られてみろ! エライ事になるぞ!?

 ・・・はっ!

 ま、まさかヤツは、俺と絃子が同居している事を・・・・・・


 そういや、知ってやがんだよなー・・・  家に訪ねて来た事もあるし・・・ (2巻参照)


 ・・・・・・にしても、早く来やがれ! 呼び出しといていつまで待たせやがるんだ!?


「おーい、播磨先輩! こっちでーす!」
「・・・・・・あ??」




HE WAS GOD 〜HYPER ONIGI RE−MIX〜   5話目




 茶道部の部室の中から、手を振って自分を呼んでいるのは八雲の親友、サラ。
 呼び出しを食らった相手が来ない・・・という事で怒り、髪の毛を逆立たせ
 金色のオーラを纏おうとする播磨だったが、サラの声で一瞬にして毒気を抜かれる。


 ・・・で、二人は今、茶道部部室にいる。


 播磨はなんだか釈然としない様子で、サラが紅茶を淹れているのを眺めていた。


 あの手紙・・・天王寺だよな? あのバカは未だに現れねー。
 んでもって、何故か都合よくココにいる阿出増・・・  あ、そういやコイツ、茶道部の部員だったっけ。
 んじゃ、別に不自然じゃねーんだが・・・ 何か引っ掛かんだよなー・・・


「なあ、阿出増。俺がさっき居た所に図体のでかいハゲがいなかったか?」

 播磨がそこまで言うと、サラの手が一瞬とまり笑顔でこう返してきた。

「第一回キャラクター人気投票で、最下位 1票だった人なんて知りませんよ?」
「えらく詳しいな・・・」

「ってゆーか、私に何の接点も無いじゃないですか。知りませんよ。
 そんな『矢神際の茶道部カフェに無一文で来て、刑部先生にこっぴどく叱られた人物の一人』なんて・・・」
「知ってんじゃねーか!」

 サラは播磨のツッコミをスルーしつつ、紅茶を淹れていた手を再び動かし始めた。
 味の違う二つの紅茶を淹れ終わると、播磨の前にその一つを置く。

「まあまあ先輩、これでも飲んで落ち着いて下さい」
「お? ・・・悪りぃな」

 そして自分の分を播磨の向かいに置くと、やはり播磨の対面に腰掛けた。

「・・・さて、先輩を呼び出したのは他でもありません・・・」
「・・・って、お前かよ!? 天王寺じゃなかったのか!?」

 口に運びかけた紅茶を再びテーブルに戻すと、播磨は驚愕の声をあげた。
 それはそうだ。別に知らない仲でもないのだ。まどろっこしく手紙なんかで呼び出さなくてもいいはず。
 八雲に電話してもらうなり、2−Cに来るなり、方法は他にもあったはずなのに。何故手紙なのか?

 日本では相手を呼び出すときには『果たし状』を送りつけるんですよね? 高野先輩に聞きました。
 ・・・とはサラの言葉。
 でも字、間違えてるし。



 ―――サラ・アディエマス、漢字が苦手。



「先輩に聞きたい事があったから、呼び出させていただきました!」
「スルーすんなよ・・・」

「先輩! 八雲と付き合ってないってどういう事ですか!? そんな事・・・神様が許しても私が許しませんよ!」



 ―――そして、シスター。再確認。



 播磨相手に全く怯む事無く、キッと目を鋭くさせるサラ。
 だが幾ら睨みを効かせてみても、同じ金髪のツインテールのお嬢様にはとてもとても敵わない。
 むしろ可愛く見える程の表情だ。 ・・・がそんな表情に構う事無く、播磨は言葉のみに反応する。

「な!? お前知ってたのか!? いつから!?」
「え〜と・・・ 昨日です。昨日」

 がしっ

「んじゃ、話が早えーぜ! さっさと誤解を解いてくれ! 頼む!」

 サラの腕をがしっと掴んで頭を下げる播磨。
 自分の質問を質問で返し、話題の方向を転換させる播磨の様子を見て、ちょっと不機嫌になるサラ。


 まず、どういう事かを答えて欲しいんだけど・・・ ちょっとは人の話を聞いてくださいよ! もう!
 私は、先輩が八雲の事をどう思ってるか知るために呼んだのに・・・ 全く、鈍いですね播磨先輩・・・
 まあ、こんな事もあろうかと・・・ はじめから多少のお仕置きしようとは思ってたんですけどね。


「それはともかく、せっかく淹れたレモンティーが冷めてしまいますよ? お口に合うかどうかは分かりませんがどうぞ♪」
「おお・・・ 話せるじゃねーか、阿出増! んじゃ早速・・・」





 ぶふうーー!





 一口、サラの淹れたレモンティーを口にした瞬間、それが播磨の口から霧状に噴射される。
 そしてそれは光の反射を受け、部室に綺麗な虹を描いた。

「あら? お口に合いませんでしたか?」
「合うわけあるか!! 何入れやがった!!?」

「失礼ですね、播磨先輩! レモンを切らしてたから、お湯の代わりに『ままれもん』を入れただけですよ?」
「入れただけ・・・じゃねー! 洗剤だ、それは!」



 ―――ままレモンティー、別名 台所用中性洗剤。



「男の子が細かい事を気にしちゃダメです」
「細かい事で済ます気か、おめーは!? どういう神経してんだ!?」

 播磨が怒鳴り、サラがそれを流す。 怒鳴る。流す。 ・・・の繰り返し。
 晶程ではないとはいえ、ある程度の受け流しと話題転換はお手のもの。流石は晶の一番弟子。

「全く・・・ そんな事じゃ、塚本先輩に嫌われますよ?」
「な!? そ、そいつはまずい・・・ 今の事はナシだ!」



 ・・・・・・って、あれ?



「・・・おい、阿出増。今、何つった?」
「ですから、塚も・・・・・・」



「「・・・・・・・・・」」

 し〜〜ん・・・



 そして、しっかりしてるようでドコか抜けてる女の子、サラ。
 さり気なく、しかし確実にタブーに触れてしまった。


「あ、もうこんな時間! そろそろN○VAの時間「オマエ、英語喋れんだろ!」


 某駅前留学の時間だという事で、席を離れようとするサラだが、播磨の鋭い(否、普通の)ツッコミが入る。



 ―――サラは逃げ出した。 ・・・しかし回り込まれてしまった。



「ナ、ナイスツッコミ・・・」
「んじゃ、詳しく聞かせてもらおうか」


          ◇          ◇          ◇


 ああ〜・・・ 何かトンデモナイ事になっているような気がするのは私の気のせいですよね・・・
 私のセリフで、何人かの人生が左右される可能性が・・・
 やっぱり高野先輩に黙って、勝手に何とかしようとしたのが間違いだったのかしら・・・?


 (ああ〜、誰か助けてくださいよ〜〜・・・)


「で、何でオメーが知ってるんだ?」

 急かす播磨。播磨にとって、サラの言動は不自然極まりないものだった。
 八雲と付き合っていると思っていたサラが、付き合っていない事と天満のことが好きだという事、両方を知っている。
 播磨の足りない頭ではとてもじゃないが理解不能だった。前者はともかく、後者は聞き流せるものではない。
 播磨の目が光る・・・が、目は見えない。その変わりにサングラスがギラリと光る。


「え、えーと・・・ あの・・・アレですよ。アレ・・・ 何だっけ・・・ や、野生の・・・カン・・・? ・・・でしたっけ?」
「俺に聞くな」

 (あ〜〜ん・・・ どうしよー!  神様、憐れなカワユイ子羊を救ってくださいよ〜〜・・・ はやく〜!)


 ♪〜〜You got mail〜〜♪


 その時、正に神の助けか? サラに1通のメールが届いた。

「あ、メール。ちょ、ちょっと待って下さいね」

 藁にでもメールにでも縋ろうとするサラは、慌ててメールボックスを開くとメールを確認する。
 そして、彼女の表情に変化が見られたのは、そのメールの送信者の名前を確認した時だった。
 送信元には、『高野 晶 先輩』の文字が・・・



 ―――信じるものは、救われる。 ・・・のか?



 ―――メールの内容―――

「えーと、なぜ知ってるかは・・・ 神様のお告げです! 今朝、お告げが下ったからです!」

 後はアドリブで・・・



 高野先輩、流石! 大好きです!! 盗聴バンザイ!!



 ―――どなたか、ツッコミ希望。



「えーと、なぜ知ってるかは・・・ 神様のお告げです! 今朝、お告げが下ったからです!」
「は? オツゲ?」
「お告げも知らないんですか? はあぁ〜〜・・・」

 心の底から溜息をつくサラ。この男は、神様のお告げを聞くというシスターの仕事も知らないのか?
 それ以前に、教会に着いた時、次のレベルまで後どれくらいの経験値が必要かを知りたくはないのか?
 彼女がどの辺りまで考えて溜息をついたかは、彼女にしか知り得ないが・・・


「し、知ってるに決まってんだろ・・・・・・? 目蓋にあるヤツ、アレだ! アレ!」
「まつ毛です。それは。  お告げですよ。 お ・ つ ・ げ!」
「ああ・・・ お告げな。 お告げ・・・・・・・・・ふーん・・・お告げかー・・・」
 (お告げ? お告げって旨いのか?)

 ・・・首を傾げ、そんな事を彼が考えていたのは、少なくとも目の前のシスターにはバレていたりする。


 (チャンス、到来ィー!)


 これぞ勝機と言わんばかり、鬼の首を取ったかのような形勢逆転劇を展開させるサラ。

「今度はこっちの番ですね、播磨先輩?」

 彼の脳ミソでは、数分前の事を忘れるなんて朝飯前。しかし、朝飯が何だったのかはリアルに覚えている。
 何がこっちの番で、何がそっちの番なのか? 何が真実で何が虚像なのか?
 彼がドコまで考えているかは分からないが・・・
 それはともかく播磨 拳児、?マークの海でバタフライ中。

「八雲と付き合ってないって、どういう事ですか!?」
「ナンだ、それの事か・・・」

 何の事かが分かって、何故かホッとする播磨。

「そうです、それの事ですよ! どういう事なんですか!? 一夜を共にした事もあるっていうのに!」
「誤解を招くような事を言うんじゃねー! ・・・いいか、阿出増! 良く聞け!」

 播磨の真剣な様子がサラに伝わる。まともな理由があると思っていなかったサラは、一瞬後ずさってしまう。
 ・・・が、グッと気合を入れ直すと、身を乗り出して播磨の言葉を待つ。

「妹さんにはただ、漫・・・」
「マン?」


 (グッ・・・ 言えねー! コイツに漫画描いてるなんて、言えねー!)


「ま、万石のサインをあげただけだ・・・」

 考え抜いた末に彼の吐いたセリフがこれ。彼の頭の中は、天満と漫画、万石で構成されていたりする。
 うな垂れる播磨の目には、最早サングラス越しの暗いテーブルしか映っていない。

「・・・万石って、八雲がよく観ている時代劇のお侍さんですよね?」
「ああ、そうだ・・・ そんで仲良くなっただけで、妹さんとは何でもねえ」
「じゃあ、部ちょ・・・ えーと、お告げの内容はホントだったんですね・・・」

「お前、一体ドコまで知ってんだ!?」

 お告げの意味を知らない播磨に、サラのセリフは『真実を知っていたが確かめたかった』的に聞こえた。
 お釈迦様の掌で遊ばれているような、どこかで感じたあの感覚を感じ取った彼は、反射的にサラに問いかけた。
 まあこの場所が、デジャヴでの登場人物が顧問を務める茶道部だという事を、彼はしっかり忘れているようだが・・・



 ―――播磨 拳児、釈迦の掌上のお猿さん。



「えーと、塚本先輩の事が好きで、それだけのために学校に来ている・・・と。
 そして、近々告白をするために密かに準備をしていて、フラレた時には学校を辞める・・・でしたっけ?」
「全部じゃねーか!!」

 やはりドコか抜けているサラ。余計な一言まで仄めかしてしまう。
 それに気付かないのは、彼女の長所でもあり、同時に短所でもある。
 いい意味では、素直で隠し事をしない。悪い意味では、言葉の刃を操り、歯に衣を着せない。
 つまりは白いか、黒いかだ。 ・・・今の彼女がどちらに属するかを知る人物は少ないが。


「・・・・・・つーか、辞める事まで知ってんのかよ?」
「ホントに・・・辞めちゃうんですか・・・?」
「フン! ・・・俺の勝手だ!」

 紅茶が湯気を立てて、温度を失っていくのをぼんやりと眺めている。
 そして、播磨の言葉を聞いた瞬間、親友の顔が頭をよぎった。

「ダメです」
「あん?」

「先輩が辞めたら、悲しむ人がいるんです! だから、ダメです!」
「・・・んな事で、ハイ、そうですか。って言えるワケねーだろ!そんな軽い決心じゃねーんだよ!」

 ちっ! と舌打ちをして居心地悪そうにする播磨。次の瞬間

「帰るぜ・・・」

 と一言残し、席を立つ。
 それを見てサラが播磨の行く手を阻む。両手を広げ、通せんぼ。
 彼女は入り口に立ち、播磨を部室から出さないように全力を注いだ。

「通しません!」
「どけ、阿出増!」

 播磨は眉を寄せ、顔をしかめる。魔王と呼ばれた男のオーラが空間を歪める。
 しかしサラは一歩も引かず、全身にグッと力を込めた。播磨の視線を見据えると、喉を鳴らす。

「嫌です。殴られたって退きません」
「そーか・・・ んじゃ、しゃーねーな・・・」

 播磨はサラとの間合いを詰め、ゆっくりと手を挙げる。その手はサラに向けられ、距離が限りなくゼロに近づいていき・・・
 サラを、まるで荷物を持つかのように、ヒョイと除け進路を確保する。

「わわわっ!」

 サラは当然驚きを隠せず、空中で手足をバタバタさせて見せた。
 そして、播磨に対して180度方向を転換させられたサラは、暫くキョトンとしていたが、我に返ると播磨に食ってかかった。

「な、何するんですか!?」

「お前軽いな。さては70キロ無いだろ?」
「ある訳ないでしょ!」



 ―――播磨 拳児、かなり失礼。



「全く! ・・・もういいです! もう止めません! ・・・その代わり」
「・・・?」
「その代わり一つだけ聞かせて下さい。」

 頬を膨らませてムッとしていたサラだが、急に真剣な表情になったかと思うと播磨に問いかけた。
 その時の彼女には、何時ものにこやかな表情は皆無だった。

「播磨先輩、あなたは・・・」
「・・・・・・」





「        」





 ―――同時刻、メルカド―――


「・・・っくしゅん!」
「八雲、風邪? ダメだよ? 気をつけなきゃ!」
「え? ・・・たぶん違うよ。姉さん」

「そっか〜〜・・・ 播磨君が八雲の事を話してるんだね? も〜〜、八雲♪ ラブラブじゃない♪」
「え!? ・・・それはたぶん違「それはともかく八雲、ハリケーンパフェ! 大盛りね♪」

 ・・・くすっ

「・・・・・・はいはい」


 ―――再び茶道部―――


 茶道部にはサラが独り、佇んでいた。目の前にはレモンティーが一つと、ままレモンティーが一つ。
 先程の播磨のセリフを頭に思い浮かべるサラ。

「播磨先輩って・・・・・・」

 そこまで言うと、彼女は小さく溜息をついた。


 (バカなんですね・・・)


「そうね」


 ビクゥ!


「そこです!」

 殺気(?)を感じたのか、サラは近くにあったフォークを一つ手にすると、天井へ向けて鋭く投げ放った。
 天井にフォークが突き刺さる。何時もこんな事をしているから、天井が弱っていくのであろう事を彼女はどう思っているのか?

 がちゃ・・・

「こっちよ。 ・・・まだまだ甘いわね、サラ?」
「な〜んだ。 そっちだったんですか」

 普通に入り口から入ってきた晶。何事も無かったかのように振舞うが・・・
 人に向かってフォークを投げつけた事についてはどうでもいいのか?
 ・・・どうやら、彼女らの間には確かな信頼関係が存在するようだ。


          ◇          ◇          ◇


「サラ、私は決めたわ」
「何をですか?」

 サラは、ペケ印の絆創膏が貼られた頭をさすりながら、晶の言葉に相槌を打つ。
 ピコピコハンマーで殴られただけなのに、処置が大袈裟すぎるという噂もちらほらあるが・・・
 フォークを投げつけた事は、微妙にどうでも良くなかったらしい。

「播磨君の告白を手伝う事にした」
「へえ〜〜・・・ って! 何でですか!? そんなことしたら・・・」

 そんな事をしたら、播磨が学校を辞めるのを手伝う様なものだ。晶の計画とは掛け離れたものになってしまう。
 サラには晶の意図が、全くと言っていい程読めなかった。

「自分の計算と、自分のカン・・・ どっちが当たるか知りたくてね」
「・・・・・・意味が分からないんですけど」
「あなたと播磨君のやり取りを見ていたら、フと思ったの」

 (ドコらへんから見てたんですか?)

「最初から」
「・・・久しぶりに聞きますけど、どうして考えてる事が分かるんですか?」

 サラは答えを知っている。だが、あえて聞いてみた。返ってくる答えを彼女の口から聞きたくて。

「野生のカン、かな」

 そのセリフを聞いた瞬間、サラはニッコリ笑うと、誰に語るわけでもなく心に思い浮かべた。

 (大丈夫だよ、八雲。高野先輩のカンだよ? 外れるワケ無いって♪)

「ありがと」
「いえいえ♪ どういたしまして♪」

 そして二人はカップを手に取り、レモンの輪切りが浮かべられた淹れたての紅茶に口をつけた・・・


 ―――その日の夜、メルカドからの帰り道―――


 バイト終了時刻がやって来る。八雲は着替えると急いで家へと向かった。・・・理由は姉の事。
 今日のご飯は天満が作る事になっていたので、料理が不得意な彼女を手伝おうと考えたためだ。

 その帰り道、彼女は考え事をしながら帰っていた。それは播磨の事。
 以前から無意識の内に考えていたのだが、播磨への想いに気付いた時から、考える時間が増していた。

 無意識に・・・そして、意識的に・・・


 (・・・播磨さんの漫画、もう少しで完成か・・・)


 播磨さんの漫画は、姉さんのために描かれている・・・
 播磨さんは否定しているけど、あのヒロインの女の子は姉さんがモデルなんだ・・・

 でも姉さんは烏丸さんの事が・・・  じゃあ・・・ 播磨さんの想いは、姉さんには・・・

 うまくいかないんだな・・・世の中って・・・

 (播磨さん・・・ 姉さんに断られたら、どうするんだろう・・・? ・・・もしかして、学校を・・・)


「・・・!」


 彼女は、播磨の事を考える時間が増えている。・・・それは播磨の漫画が完成に近づくにつれて。
 そして、ある考えをはじき出そうとしてしまう。・・・否、はじき出してしまった。
 それは彼女が、一番考えたくなかった事・・・


 (・・・ううん、違う。播磨さんは、そんなに弱い人じゃない・・・ 私は信じてる・・・)


 私が、信じないと・・・

 私が・・・

 播磨さんの事を好きな・・・

 私が・・・


 八雲は空を見上げる。すると丁度、月が雲を払い除けたところ。
 その様は正に彼女の心そのものだった・・・


続く・・・





〜おまけ〜


「八雲〜〜! ご飯まだ〜〜??」

 その頃、塚本家では自分が当番だということを完全に忘れて、お茶碗にエイトビートを刻んでいる天満の姿があった。


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