6話目(播磨、八雲、愛理、晶) ( No.5 )
日時: 2006/05/12 23:30
名前: くらんきー

「播磨先輩、あなたは・・・」
「・・・・・・」



「あなたは神を信じますか?」



「・・・阿出増、何を言いたいのかよく分かんねーが、とりあえずその催眠セットを終え」



 え? この音声は何かって? これは私のコレクションの一つ。
 ちなみに、この間の部室でのやり取りを盗ちょ・・・・・・・・・録音した(無断で)ものよ。
 サラが催眠術をかけようとして、失敗した時の記録。

 ・・・で、この話にはもうちょっとだけ続きがあるの。


「まー、神なんてモンは居ねーよ」
「む・・・! 居ますよ神様は!」

「・・・ちょっと前までは居たんだがな」
「・・・・・・はい?」

「俺が神だったからな・・・」

「・・・・・・・・・」

「ま、質問に答えたって事で帰るぜ。じゃーな」

 ガチャ・・・  バタン。



 ま、ハッキリ言ってバカね。

「八雲もそう思うでしょ?」
「え?? ・・・何がですか?」

「いや、こっちの事・・・」



HE WAS GOD 〜HYPER ONIGI RE−MIX〜   6話目



「よっしゃーーーーー!!!」

 原稿の束を持って雄叫びを上げる男、皆様ご存知、播磨 拳児。
 歓喜の余り、その表現方法に『叫ぶ』という方法を取っている彼は、遂に原稿を完成させたのだ。
 本日は12月22日。彼は、矢神際で手塚本先生に励まされて以来、実に一ヶ月近くに亘り漫画を描いていた。

 そして彼が漫画を描いていた最大の理由・・・それは・・・


「遂に・・・遂に、俺の想いが・・・」


「「・・・・・・」」


「おめでとう。播磨君」
「いやー、オメーらのお蔭だぜ! マジでクリスマスまでに原稿が上がるとは思ってなかったからな」


 クリスマスに天満に想いを伝えるため。つまり、その想いが詰まった漫画をそれまでに仕上げるため・・・
 そして、彼一人では完成させるのが難しいであろう物であったが、優秀なスタッフに助けられながらも、彼はやり遂げた。
 そのスタッフとは、何時もの如く八雲。ベタ担当+ご意見番、晶。そして・・・

「後はクリスマスを待つのみだぜ! アシスタント諸君、ご苦労だった! 以上、解散」
「・・・ずいぶんと偉そうね。ヒゲ・・・」
「ん? お嬢か・・・ ワリィ、いやー感謝してんだぜ? マジで!」
「フン・・・ 当然でしょ!」

 主にお茶汲み係+雑用、稀にトーン担当の金髪娘、沢近 愛理。以上3人である。



 ―――沢近 愛理、お嬢様。・・・のはず。



「それよりアンタ、明後日本当に天満に告白するつもり?」
「おうよ! 俺の熱い心は、鎖で繋いでも今は無駄だぜ! 邪魔するヤツは指先5本でぶっ倒す!」
「・・・・・・あ、そ」
「・・・・・・・・・」

 播磨から視線を外す八雲と愛理。彼女らは播磨を直視できなかった。
 天満の事しか考えていない、目の前の、自分の想い人を・・・


「播磨君。こうなるだろうと思って、天満には既に『明後日、屋上で播磨君が話があるから』って伝えておいたよ」



 ―――高野 晶、段取り良すぎ。



「な!? マジか!? ナイスだぜ! 高・・・え〜と・・・高、たか、タカ・・・」
「の」
「高野!」

 晶の人並み外れた計算により、全ての予定が既に立てられていた。
 それは播磨にとっては有難い以外の何物でもないが、その横にいる2人の少女らにとってはとても複雑。
 というのも、播磨の漫画の手伝いをしていた時から、頭の片隅で自分の行動と思考の矛盾に気付いていたはずなのだ。
 自分の想い人が、他の誰かに告白するのを手伝うなんて・・・

 愛理は、晶から「計画の為だから」と聞いていたので晶を信じてその通りにしていたのだが、八雲は違った。
 はじめから自分の意思で手伝っているのだ。
 手伝い始めた頃は、自分の心の中にある『何か』を知らなかった為・・・という事もあったが、
 それよりも、自分は『好きな人が目的を果たそうとするのを手伝いたい』という想いがあったから。
 結果、自分の想いを犠牲にしても・・・  そう思っていた・・・


 (祝日を挟んで、後2日か・・・ 播磨さんが姉さんに告白するのは・・・)


「お? どうした、妹さん? 元気ねーじゃねーか?」
「え!? ・・・あ、いえ・・・そんな事は・・・」
「いや、流石に疲れたんだろ? すまねーな、妹さん。いつもいつも手伝ってもらって・・・」
「いえ・・・好きでしている事ですから・・・」

 その時彼女は反射的にこう答えた。そしてハッと我に返った時、顔から火が出そうな程真っ赤になる。


 (あ・・・ え!? わ、私・・・!)


「えっと、あの・・・わ、私は・・・その・・・」

 顔を真っ赤にしてあたふたする八雲だったが、思わぬ人物が助け舟を入れる。

「あーあ、疲れて喉が渇いちゃった。ヒゲ? 手伝ってあげたんだから、奢りで十七茶買ってきて」
「あん? つーかココ、茶道部だから茶くらいある「買 っ て き て!」ハイ、ワカリマシタ。サワチカサン」

 何でコイツにゃこんなに弱いんだ!? 等と思いながら、ダッシュでその場を離れる播磨。
 その様は正に、Bボタンを押しながら十字キーを右に押されたヒゲ親父。
 まあ、そのヒゲの名前がマ○オであろうがハリオであろうが作者の知った事ではないが・・・


 チラリ。


「・・・?」

 横目で八雲を盗み見る愛理に、視線を感じた八雲は取りあえず「?」マークを浮かべてみる。
 ジャンプすればコインが出てきそうな状況の中、愛理は八雲に問いかけた。

「八雲、あなた・・・ヒゲ・・・播磨君のこと好きなワケ?」
「え!? 私は・・・その・・・」

 自分の想いを、ズバリ声に出して読み上げられた八雲は、驚きを隠せなかった。更にはオドオドしながら・・・
 否、まごまごしながら、もしかして沢近先輩も他人の心が読めるんじゃ・・・とか考える始末。



 ―――八雲は混乱している。



「どうなの? 好き? 嫌い? どっち?」

 愛理の召喚獣付きの質問に、八雲は一気に現実世界に呼び戻される。

 (な、何か言わなくっちゃ・・・)

 チラリ、愛理の方を覗き見ると如何した事だろう。
 召喚獣のアナコンダよりも鋭い目つきをしたお嬢様が返事を待っているではないか。
 以前に一度感じた事のある“あの”ヤバ目なオーラを纏いながら・・・


「え・・・っと、す、す・・・す・・・・・・・・・・・・・・・好き・・・・・・です」


「・・・やっぱりね」

「そういう愛理も播磨君のことが・・・」
「え!?」

 驚きを隠せず、下を向いていた顔を愛理の方へ向ける八雲。
 愛理は照れを隠しながら(隠せてないが)顔を真っ赤にして捲し立てた。

「何でこの私が、あんな下品で、デリカシー無くて、つまんなくて、頭悪くて
 足が臭くて制服着てるトコしか見たこと無いようなヤツのこと・・・」
「「・・・・・・」」
「何であんなヤツの事好きになってんのよ・・・私・・・」

「沢近先輩・・・」

 八雲から視線を外し背を向けると、播磨が出て行った入り口の方を見つめてみた。

 (私・・・やっぱり播磨君のこと・・・)


 ガラ・・・


「買って来たぜおじょ・・・ズガッ!!


 バタン。


 思いもよらぬ・・・というか常に想っている人物の登場に、反射的に身体が動いてしまった愛理。
 「あ」と言った時には自分の膝は播磨の顎に食い込んでいた。
 タイミング良く(悪く?)帰ってきた播磨は、愛理の膝がクリーンヒットしたと同時に床に倒れこんでしまう。
 彼女もまた、八雲と同じく知らぬ間に播磨に惹かれた人物。普段の行動は好意の裏返し・・・ツンデレとはよく言ったものだ。


「播磨拳児・・・彼は、次に生まれ変わる時はキリンになりたい・・・と、そう考えながら永い眠りについたのでした ―――完」


「勝手に終わらしてんじゃねー!」
「勝手に終わらしてんじゃないわよ!」
「勝手に終わらせないでください!」

 見事にハモる3人を見て、姐さんから一言。

「あ。生き返った」
「死んでねー!」

「アンタがいきなり入って来るから悪いのよ!」
「茶ぁ買って来いっつったのは、オメーだろーが!」
「何よ、私が悪いって言うの!?」



 ―――当たり前です。



 そんな何時ものやり取りをしながら過ぎていく時間。愛理にとっては何時もの事だが、その後必ず思うことがある。


 私って・・・謝るの下手だなぁ・・・・・・


 そんな2人を見ていた八雲も、色々考えさせられる。
 以前にも何度か考えた事はあったのだが、今日ほど真剣に考えた事もなかっただろう。


 沢近先輩・・・やっぱり播磨さんの事・・・・・・


 それぞれの想いを秘め、時間だけが過ぎ去っていく。
 彼女らの想いに気付かない振りをして・・・

 そんな中、播磨が天満に告白する日が遂にやって来ることになる・・・



 ハズなんだけど



 ちょっと割り込むわね

 ピッ。 送信完了。

 彼女は既に、手を打っていた。 ・・・と同時に、メールも打っていた。
 茶道部から誰もいなくなり、戸締りをした彼女は、保存していたメールを2人に同時送信する。


 メールの内容は・・・


 ―――沢近家、愛理の部屋―――

「播磨君はあなた達にしか止められないと思うの・・・か・・・・・・」

 愛理はソファに寝そべりながら、晶からのメールを声に出して読み上げてみた。
 その時、彼女の口から一つ、溜息が漏れる。

「何を無責任な・・・ 結局、計画ってのも人任せじゃない!」

 愛理はクッションに顔を埋めながら、もう一度大きく溜息をついた。


 はあ・・・


「アイツを止められるのは、私と・・・」

 一度は顔を上げた愛理だが、そこまで言うともう一度クッションに顔を埋めた。


 ―――塚本家、八雲の部屋―――


 私と沢近先輩の立場は、播磨さんと同じ・・・・・・か。
 確かに、言われて見ればそうかも知れない・・・


「でも・・・私はどうしたらいいんだろう・・・?」

 播磨さんがいなくなるのは嫌・・・けど、手伝ったのは私・・・
 私は何がしたいんだろう・・・ 播磨さんが望んだから、手伝っただけだと言えばそうだけど・・・

 でも、私は・・・ 私・・・播磨さんのこと・・・

「好き・・・なハズなのに・・・ 何をやってるんだろう・・・ 私・・・・・・」

 八雲はそう呟き、チラリと携帯の方に目を向ける。


 播磨は天満の事を好きでいる。しかし、天満の好きな人物は別にいる。
 播磨はその事を承知で、天満に告白しようと考えた。彼の思いはハンパなものじゃなかったから・・・
 想いを伝えずに終わるなんて事だけはしたくなかったから・・・

 そして八雲と愛理は、播磨のことが好き。しかし、播磨は天満が好き。
 自分ならその事を承知で、果たして播磨に告白できるか? その勇気があるのか?


 ・・・他に好きな子がいると分かっていて告白する。播磨の覚悟がどんなものか解るであろう2人に、晶は何を求めているのか?


「播磨さんを止められるのは、播磨さんと同じ立場にいる私と沢近先輩だけ・・・か」

 八雲は天を仰ぎ、晶からのメールでの頼みごとを声に出してみた。

「全て任せたから・・・って、私は何をすればいいのかな・・・?」

 八雲は鋭いお嬢様と違って、何をすればいいのか、具体的に何を頼まれたのか、よく解らない。
 ・・・が、色々と考え事をしている内に夜が更けてきたので、24日に学校へ行く事を決め、彼女は眠りについた。


 色々な思いが交錯する中、遂に運命の日がやって来る事になる・・・





 ―――12月24日、矢神高校屋上―――

「お待たせー! 播磨君、話って何??」

 晶の言った通りに天満は屋上にやって来た。そしてそれを待っていた播磨。
 播磨はここで人生最大の試練を迎えようとしているところだった。



 ―――播磨 拳児、告白5秒前。



 ドクン・・・   ドクン・・・


 (言うぜ・・・天満ちゃん・・・ だが、その前に・・・)

「塚本・・・俺はお前に言っておかなければならない事があるんだ・・・」
「? え? 何なに??」

 (そう・・・この誤解だけは解いておかなきゃならねえ! 俺は・・・俺は君が変態さんだと思ってる人物なんだ・・・)

「落ち着いてよく聞いてくれ・・・ 今から言う事は全て事実なんだ・・・」
「う、うん・・・」
 (どうしたんだろ? 播磨君、真剣だなぁ・・・)


 砕けろ! 俺!!





「俺は、俺は変態なんだ!!」





 ガタッ・・・

「・・・・・・!!」
「・・・!?」

 屋上へと続く扉の前には、口パクをして播磨の方を指差す愛理と
 口元を押さえながらブンブンと首を振って、混乱している八雲の姿があった・・・


続く・・・


戻り