2話目(八雲、サラ、晶、花井) ( No.1 )
日時: 2005/11/10 22:45
名前: くらんきー

「じゃあな、妹さん」
「え・・・は、はい」


 播磨さんと別れた後、ちょっとした違和感に気付いた。
 さっきよりも心が軽い。・・・心にかかっていた霧が晴れたような感じ。
 さっきまでどうしてあんなに悩んでたのかな?

 ・・・私にとって・・・播磨さんは?
 ・・・・・・『特別な人』?
 姉さんやサラと同じ『大切な人』? それが男の人だってだけで・・・?

 漫画を描くのを手伝ってるのは? 頼まれたから? 断りきれなかったから?
 ・・・ううん、違う。嫌なのに手伝ってる訳じゃない。手伝っていて、楽しい・・・
 姉さんやサラが私を心配してくれるように 私も播磨さんのことが心配だから・・・?

 ・・・うん、『大切な人』の力になりたい。そう思うのに理由なんて要らないよね?

 高野先輩からの質問の答え、出ちゃった。播磨さんに会ったおかげかな?
 そう、播磨さんは私の友人。 ・・・サラと同じくらい。 ・・・親友と呼べるくらい・・・?
 ・・・でも、心に何か違和感がある。この気持ちは・・・なんだろう?


「・・・・・・・・・」

 ・・・分からない・・・


 でも、何か心地いい気分だな・・・



HE WAS GOD 〜HYPER ONIGI RE−MIX〜   2話目



 私は・・・他人の心が視える時がある・・・

 ・・・また、強く視え始めた・・・

 我慢しなきゃ・・・


 周りを見ると男子生徒の周りに浮かぶ無数の声。月齢周期で強くなる彼女の能力、『自分に好意を持つ異性からの声が視える』という能力が強くなり始めていた。
 その『声』で満ちた空間の中で、自分が良く知る女子を発見する。

 ・・・あ、サラだ。

 教室に向かう途中の廊下でサラが待っていたのだ。
 サラは八雲を見つけると小走りで近づいて来て、何とも言えぬ表情・・・強いて言えば『ニヤニヤ』そんな感じの少し意地悪そうな笑顔を浮かべ、八雲に質問する。

「やっくも♪播磨先輩といちゃいちゃしながら登校できた?」
「もう、サラってば・・・ 私と播磨さんはそんな仲じゃ・・・」
 (・・・ 雲 君!)


 ビクゥ



 そこまで話した八雲だが、彼女だけが視える『心の声』に気付いて思わず止まってしまった。
 その『心の声』は特大のもので、八雲はこの声が視えると瞬時に誰だか分かってしまう。一種の探知レーダーみたいなものだ。
 階段の方から視えたその声は、最初は『雲 君』しか見えてなかったが、全て視えた瞬間にこの声の持ち主が姿を現した。

 (八 雲 君!)
「八雲君!八雲君はどこだ!?」

 姿を現したのは、花井 春樹。文武両道、質実剛健、好きな言葉(以下略)。
 八雲バカ一代の彼は、八雲の探知レーダーにしっかり引っかかっていた。



 ―――花井 春樹、朝イチから堂々とストーカー。



「あの・・・おはようございます。花井先輩」
「おはようございまーす」

 八雲が最初の一文字を声に出した途端、驚くほどの反応速度で振り向く花井。

 (今 日 も 美 し い! ま る で 天 使 の よ う だ。 否、 天 使 だ!)

「・・・!! ああ、おはよう八雲君! 君の方から挨拶してくれるとは・・・この花井 春樹、感激だ!」
 (今 な ら 清 水 の 舞 台 か ら 飛 び 降 り れ る !)

「じゃあ、遠慮なくどうぞ」


 どがっ!


「うわーーー!」


「た、高野先輩・・・?」
「おはよう、二人とも」
「おはようございます、先輩♪ ところで何時からいらしたんですか?また気配を消してたでしょ?」

 いつの間にか現れ花井を階段から蹴り落とし、何事もなかったかのように二人に挨拶をするこの女性、高野 晶。はっきり言ってやりすぎです。
 更には、何事もなかったかのように振舞うサラ嬢。あなたもなかなかのものです。


 また・・・って、サラ・・・

「花井君が『八雲君』って言ったとこらへんから。清水の舞台から飛び降りたそうだったから望みを叶えてあげたの。まあ、清水舞台とはいかないけどね」

 先輩・・・ 心が視えるんですか?

「なんとなく分かるの。野生のカンで」
「え??」

 ・・・私、今 喋ってたかな・・・??

「喋ってないよ」
「そ、そうですか・・・」
「ええ」

「「・・・・・・・・・」」

 ・・・どうして分かったんだろ??



 ―――高野 晶、ほぼエスパー。



「あの〜・・・ どうでもいい事なんですけど」


 そんなやりとりをしていると、話しかけるタイミングを待っていたのか、サラが晶に質問をした。

「花井先輩、大丈夫なんですか?」


 どうでもいい事・・・って・・・  サラ・・・


 チラリと花井の屍の方に視線を送り、その質問に答える晶。

「・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫」
「・・・」

 先輩・・・ 今の『間』、心配です・・・

「ピクリとも動かないんですけど・・・」
「ち。 仕方ないわね」

 そう言って花井の方まで近づいて行く。じっと花井を見つめ、顔を近づける晶。それはもう、王子が姫に目覚めのキスをするかのように・・・


 バチーーン!   バチーーン!


「起きなさい花井君!寝たら死ぬわよ!」

 作者の説明など全く無視で花井の胸倉をつかみ、往復ビンタを食らわし叩き起こす晶サン。しかも音から察するに手加減は一切無し。このビンタでより深い眠りにつかないかどうかが心配される。

「痛、痛い!・・・何をするんだ!!」   ←(あ、起きた)
「酷いわ、花井君!親父もぶった事ないのに!!」



「待てーーーーい!!」
「先輩、それは酷・・・」
「それを言うなら、『親父にもぶたれた事ないのに!』でしょ?」



 ―――サラ・アディエマス、ある意味正しいリアクション。



「ツッコミ所はそこじゃないぞ!サラ君!」

「花井先輩。高野先輩が起こしてくれたんですよ。寝たら死ぬとこだったらしいですよ?良かったですね!」
「良くない上に解説すべきはそこじゃない!階段から蹴り落としたの、高野君だろ!?」

「まあまあ、花井先輩!これでも飲んで落ち着いて下さい」

 そう言ってサラは『二十七茶』なる物を、ドコからともなく取り出し花井に手渡した。
 サラ曰く、「茶道部ですから、お茶くらい何時も持ち歩いてます♪」・・・らしい。



 ―――ちなみに、八雲は持ち歩いてない。



「ん?ドコからそんな物を・・・ 今はそれドコロじゃないが・・・まあ、人の厚意はありがたく受けておこう。頂こうか、サラ君!」
「どうぞ♪」

 『二十七茶』とは・・・!?
 それはサラが『十七茶』と『十種類の怪しい薬』を調合して作った、高野 晶さんもイチオシの殺じn・・・げふんげふん。茶道部イチオシのお茶だ!基本的には飲んだ人間の意識を奪うように作られているが、稀にムキムキのお兄さん(全裸)の幻覚を見るなどの症状に襲われるケースもあるとかないとか・・・



 ―――二十七茶、お茶と言うより むしろ毒薬。



「な、なんですか?あなた方は・・・!? ぼ、僕には八雲君という心に決めた女性が・・・や、やめろおおおぉぉぉーーーー!!!」

「ああ主よ、この憐れなメガネを救いたまへ。そして私の罪も『サクッ』と許しちゃってください。『サクッ』と・・・」



 ―――合唱。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 花井が乱心して周りにギャラリーが出来始めた頃、八雲と晶は少し離れた場所にいた。

「八雲。昨日の質問のことなんだけど」
「え? あの・・・それは・・・」

 晶は片手をスッと八雲の前まで持っていくと、表情が変わったか変わってないか良く分からない程の顔で笑い こう言った。

「ふふっ、答えはいいよ、言わなくても。・・・でも 私のした質問の答え出しておいて。その方があなたの為だから」

 晶は『野生のカン』という ほぼ超能力に近いもので、八雲の播磨に対する気持ちに気付いていた。それは『恋心』と呼べるものであるという事を。そして、八雲がその気持ちに気付いていないだけという事も。

 晶は既に自分の親友、沢近 愛理に播磨への想いを気付かせたのだ。そして、八雲の様子からその想いにも気付いた。
 そんな彼女は、友人達のため、自分のある計画のために二人の後押しをすると決めていた。それは「面白いから」という理由ではなく、いや、その考えが無いと言えば嘘になるかも知れないが・・・ それよりも『臆病な恋は後悔を招く』という事を知っていたから・・・
 彼女らが自分の気持ちに気付いたとき、肝心の播磨が居なければ後悔するに決まっているから・・・

 晶は、播磨が漫画を描いているという事を知っている。そして、播磨が漫画を描き終え、天満に告白してフラレたら学校を辞めるのではないか?と考えたのだ。恐ろしいことに、その予想は全てドンピシャで当たっている。そんな事になれば・・・愛理も、八雲も、天満だって・・・

 それだけは止める。何としても。

 そう考えた彼女は一つの計画を立てる。その計画は“ゼロ”計画といった。



「ちなみに」
「?」

「播磨君はあなたのこと『親友だ!』って言ってたよ」
「えっ?」

 播磨さんも私と同じ事を・・・?

 ・・・顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。

「真っ赤よ。八雲」
「せ、先ぱ・・・」
「じゃ、また」
「えっ、は、はい」

 喋り終わる前に話を打ち切る・・・先輩の得意技・・・

 ・・・・・・

 ・・・私が播磨さんの親友・・・

 私、サラと出会う前は親友と呼べる人はいなくて・・・いつの間にか何時もサラと一緒にいる。そして、サラには何時も助けられて・・・優しくされて・・・
 私は「サラは親友だ!」って胸を張って言える。すごく信頼している。私も・・・播磨さんからそんな風に思われてるかな・・・?

 だとしたら・・・

 ・・・嬉しい・・・


 今朝から感じていた八雲の『違和感』。 彼女はこの時まだ気付いてはいなかった。
 ・・・そう、『まだ』


続く・・・


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