11話目(播磨、八雲、谷先生) ( No.10 )
日時: 2006/01/26 23:25
名前: くらんきー

「谷先生・・・どうしても行ってしまうんですか・・・?」

 妙は谷先生の背中を見つめ、寂しそうに呟く。

「・・・妙先生・・・ もうココには俺の居場所はないんですよ・・・ すみません・・・」

 顔だけ振り向かせて妙を見据え、自分の決意は変わらない事を告げる。

 涙を拭い、妙は喉から声を絞り出すようにこう言った。

「私・・・私、待ってます! あなたが帰ってくるのを・・・ 毎日、クッキーを焼いて待ってます!」

 今度は身体ごと振り返り、拳を握り締める谷先生。決心が揺らぎそうになる。

「妙先生・・・」

 二人を横から、夕日が眩しく照らしつける。

 ダッ・・・

 谷先生が振り返ったのを見ると感極まったのか、妙は急に谷先生のもとへ走り出す。

「速人・・・ 好き・・・」
「妙・・・ 俺もだ!」

 抱き合う二人・・・

 ―完―





 カリ カリ カリ・・・



「・・・くっきー・・・」



 ―――って、アンタもか・・・ (7話目 参照)



 今の彼は、哀愁漂う『哀戦士』。悲しみの果てに彼は何を見たのか?
 とにかく谷先生は現実逃避のため、あの出来事があってから今の今までずっと漫画を描いていた。そして今、彼の漫画がココに完成したのだ。
 その完成度は、絃子や愛理の描いた漫画に匹敵するほどの内容である。(いい意味でも 悪い意味でも)

「・・・でも現実は、漫画みたいにはならんのでした・・・と」

 はあ・・・

「どうしよ? これ・・・」


 ―――その頃、播磨の部屋―――


「・・・出来たぜ! 完璧だ・・・ 完璧すぎる・・・」

 ペンを机の上に置くと、完成した原稿を見てそう呟く播磨。
 逸る気持ちを抑えつつ、この原稿を誰かに見せて意見を聞きたいと思った播磨は・・・

「よし! 早速、編集さんに見せに行くか!」

 っと・・・ その前に電話しねーと・・・

 ピ ピ ピピ・・・

 播磨は自分の携帯で談講社の三井へ電話をかけた。


「もしもし? 田沢君?」
「あ、ボク播磨っす・・・ 新しい原稿が上がったんで、今からそちら伺ってもいいっすか?」

「あ〜っと、今日はちょっと予定が一杯なんだよね〜 ・・・あ、そーだ! そういえば田沢君の彼女が来てるからさ、彼女に見てもらうといいよ。 話は通しておくから」

 俺の彼女って誰だよ・・・
 俺が愛してるのはこの世で只一人・・・ 塚本 天満だけだぜ!

 ・・・って事は・・・ ま、まさか・・・

「も、もしかしてその子の名前って・・・?」
「え? 確か塚本さんじゃなかった?」

 やはり!!

「すぐ向かいます!! んじゃ、失礼しまっす!」

 プチッ! プー プー・・・

 電話を切るとすぐさま着替え、いつもより身だしなみに気を使って髪をセットする播磨。
 いとしの天満ちゃんの前でだらしねえカッコなんて出来っか! とは彼の言葉。

「待ってろ、天満ちゃん! すぐ行くぜ!」


 ―――談講社―――

「あ、いたいた。塚本さん」
「あ・・・はい」
「後で田沢君が来るからさ、原稿見てあげてくれる?」
「はい、田沢さんという方ですね・・・? 分かりました」
「じゃあ宜しく」

 そこには播磨のよく知る少女が一人・・・ 赤い目をしたその少女の名前は、『塚本 天満』という名前ではなかったが・・・


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 タッ タッ タッ・・・  ←走ってる。


「天満ちゃん・・・」


 〜播磨の妄想〜
「私、播磨君の力になりたいんです! お手伝いさせてください!」
「君は・・・? もしかして田沢君の?」
「てへ♪ 今は片思いなんですけど・・・ いつか・・・きっと・・・」


「くっ! 可愛すぎるぜ! 天満ちゃん!!」

 君をこれ以上待たせるのは もはや罪だ!

「ううぅおおぉーーー!!! 今行くぜぇーー! マイエンジェーーール!!!」

 愛へと向かって走る播磨。矢神の中心で愛を叫んだ彼は、不審者と間違えられて警察に職務質問をされたが、そんな出来事では快晴の空のような彼の心を曇らせる事は出来なかった。



 ―――談講社―――


 ガチャ    バンッ!

「はあ、はあ・・・ ま、待たせたな・・・」

 警察に捕まって時間ロスしたため、全力疾走で談講社まで走ってきた播磨。乱れた息を整えながら愛するあの子に声をかける。

「いえ・・・」

 ・・・が、目の前にいた少女は塚本 天満ではなく、その妹の塚本 八雲であった。 もっとも、播磨はその事にまだ気付いてないが・・・

「・・・え? 播磨さん・・・?」

 八雲は、後で来る人物は『田沢』という人だと思っていたので、播磨が現れた事にちょっとビックリ。



 天満ちゃん・・・ 遂に・・・

「君のために描いたんだ・・・ 一番最初に・・・読んで欲しいんだ! 君に・・・」

 俺の・・・ 俺の想いを・・・

「(播磨さん・・・) はい・・・私も、ずっと楽しみにしてました・・・読ませてください・・・」

 流石だぜ! 天満ちゃん! まるで一度、俺の漫画を読んだ事があるようなセリフ・・・可愛すぎるぜ、チキショー!!





 ・・・って 待て、俺・・・





 播磨が落ち着いてもう一度目の前の少女を見ると、そこには・・・
 愛するあの子の妹で、友人ランキングぶっちぎりで1位の・・・

「い、いやー・・・ 妹さんではないですか・・・」

 八雲がいましたとさ。



 って! ココ、談講社だよな!? 天満ちゃん家と間違えたのか? 俺!?
 そこまで天満ちゃんにメロメロなのかよ・・・ 重症だぜ・・・

「・・・・・・」

 じゃねーだろ! 天満ちゃんがいねーじゃねーか!
 ココは談講社だ。それは間違いねえ・・・ となると・・・?

「あ、あのう・・・ 妹さんはナゼゆえココに・・・?」
「え? あの・・・編集長に勧められて、アルバイトで編集員をやってるんです。春休み頃から・・・」

 恐る恐る質問をぶつけてみる。 ・・・と、バイトだと言う。アルバイトに新人の担当をさせる談講社、侮りがたし!

 (まあ・・・妹さんの意見なら参考になるからいいけどよ・・・)

「あ、あの・・・ 何か・・・?」
「え? あ、ワリイ。 何でもねえんだ!」
「そうですか・・・ じゃあ早速、読ませてもらいますね」
「おう」

 そんなやり取りの後、八雲は漫画に目を通すが・・・


 ・・・播磨さんの漫画、久しぶりだな・・・
 この漫画が・・・私のために・・・?


 ぱさ・・・


 1ページ目の一コマ目を読んだ瞬間に思わず原稿を落としてしまった。
 そこには『自分の姉によく似たヒロイン』が描かれてあったからである。

「・・・・・・えっと・・・・・・」
 (この人、姉さん?・・・だよね? じゃあ、さっきの播磨さんの言葉は・・・)



 私の勘違い?



 ―――正確には、播磨の人違い。



 八雲の顔が見る見る赤くなっていくのが分かる。
 それを隠そうと手で顔を覆うのを見て、播磨は不思議そうに尋ねた。

「ど、どうした? 妹さん?」
「な、何でもありません!」

 播磨の声にビクッとすると、何事も無かったかのようにこう返す。ちなみに、まだ頬は赤い。
 播磨が気付いてないだけで明らかに何でもなくは無いのだが・・・

「じゃあ、改めて・・・」

 コホンと咳払いをして、八雲は再び読み始めた。

「・・・・・・! こ、これは・・・」


続く・・・


 〜おまけ〜

 ―――沢近邸―――

「あ、晶。 この前渡された“これ”、使わなかったから返すわ」

 愛理はそう言うと、『一般の生徒が決して持ってないような物』を晶に渡した。
 ナゼ彼女がこの様なものを持っているかというと、谷先生抹さt・・・げふぅん。 例の事件で任務遂行に障害があった場合、これを使って排除する手筈だったので、予め晶から手渡されていたというわけだ。

 ちなみに『これ』というのは、晶姐さんや絃子先生がしょっちゅうブッ放している物に酷似している。
 晶 曰く、威力が強めの『それ』は使われる事なく 再び彼女のもとへ戻ってきた・・・

「でも、どうせだったら一発くらい撃っときゃよかったかしら?」

 ちょっとは撃ってみたいという気持ちもあったのか、愛理は、自分の部屋の壁に向かって引き金を引いてみた。



 ダアァァーーーーーン!!



 すると、腕が外れそうになる程の衝撃と共に弾丸が壁に突き刺さった。
 壁からはパラパラと素材が剥がれ落ち、直撃した辺りには無数のヒビが入っている。

「・・・・・・な、な・・・なな・・・」

 愛理は口をパクパクさせ、何が起こったのか理解できない様子で声にならない声を発している。

「・・・ホ、ホン・・・モ・・・ノ・・・?」



 ―――気付けよ。



「愛理、安全装置をしとかないと危ないわよ」
「そーゆー問題じゃないでしょ!!」

 その後、沢近家がパニックになったのは言うまでもない。


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