10話目(晶、愛理、絃子、葉子、谷先生) ( No.9 )
日時: 2006/01/06 13:44
名前: くらんきー

「ムギョーーーーーー!!!」

 いきなり奇声を発する谷先生。怪しい液体を口にした彼の運命やいかに!?
 ・・・その時の彼の背後には、頭の上に変な輪が浮いたおばあちゃんが手招きをしていたとか していなかったとか・・・

「先生、気分はどうですか?」

 冷たいはずなのに湯気が出ているその液体『27 〜トゥエンティー・セヴン〜』にしっかりと蓋をし、3重にビニール袋を被せて慎重にカバンに直すと手袋を外す晶。

「はっはっは・・・ すこぶるイイデース! ミス・たかーの!!」
 カタカタカタ・・・・・・

 メガネの奥の虚ろな瞳には晶は映っておらず、遥か彼方を見つめている。 ・・・てゆーか、目が死んでいる。
 余りの衝撃にか、発音やら呼び方やらが変わってるし。
 ・・・しかし、流石は英語教師の谷先生。まるで似非外人のような発音だ! 英語教師の本領発揮か?

「そう言えば・・・ 校長室で姉ヶ崎先生が話があるって言ってましたよ」
「りありー? そら、ホンマかいな!?」

「確か『私達の将来が・・・』とか、『式場の場所が・・・』とか・・・ 言ってたとか言ってなかったとか(・・・言ってないけど)」
「本当ザマスか? ミーは感激ザマス!」
 カタカタカタ・・・・・・

 毒がまわtt・・・げふんげふん。えーと、蛍光ピンク色をしたお茶の不思議な力が働いてきたのか、谷先生の思考回路がさっきよりバグっている。

「『谷先生からプロポーズの言葉、聞きたいなぁ・・・』とか、言ってたとか言ってなかったとか(・・・面白い)」
「ごっつぁんです! 自分でよければ何時だって言うでごわす!」

「ちょうどココに婚約届があるんですけど・・・ よかったらどうぞ(・・・カメラ回しといてよかった)」
「さすがナリ! 我輩、頑張るナリ!」
 カタカタカタ・・・・・・



 ―――ちなみに、カメラは回りっぱなし。



 そう言って晶は懐から『辞表』と書かれた紙を取り出すと、それを目にいる男に手渡した。
 その男、谷 速人は勿論気付くわけもなく素直にそれを受取ると、カタカタ震えつつ鼻歌交じりのスキップで校長室に向かった・・・
 その様子は「くっきー、てらのざうるす、どんぐり」等と意味不明な事をブツブツと呟いているので怪しい事この上無しだ。

「さて、後は・・・」

 晶は携帯を取り出しアドレス帳を開く。
 そして3名の人間に同時送信した。

 メールの内容は・・・





 <3分後、校長室前>





 という短い・・・それは短い文章だった。


 それを受けた3人の対応はそれぞれ・・・

「む・・・ (3分後?) ・・・ああ、すまないが暫く自習にしといてくれ」
 ダッシュで校長室に向かうロングヘアの物理教師。

「あらあら、楽しそうね♪」
 パタパタと小走りで校長室に向かう笑顔の眩しい美術教師。

「あら? ごめんなさい、一つ教材忘れちゃった。自習にしといてね」
「すごーい、愛理ちゃん! サマになってるぅ♪」
「なあ、塚本・・・ そろそろ気付こうぜ・・・?」

 コレまた Bダッシュで校長室に向かうツインテールの新米英語教師。



 ―――3分後、校長室前―――

「晶、どうなったの?」
「谷先生、スキップしてるけど何かあったのかしら?」
「・・・まだ生きているようだが?」

「谷先生はこれから辞表を出しに行くところです」

 3人の質問にさらりと答える晶。

「あれが辞表を出しに行く人間の顔? 何だかニヤけてわよ? 鼻の下伸びてるし・・・」
「手に持ってる紙が辞表だって事を知らないからね。 婚約届だと思ってるよ」

「「「???」」」

 ワケが分からないといった感じの3人。そこに晶の簡単な説明が入る。

「実は・・・ かくかくしかじかで・・・」


「面白そうじゃない、それ」
「流石、高野さんね」
「そうだな、まあ命までは取らなくてもいいか・・・ 我々も鬼じゃないからな」



 ―――いや、むしろ鬼神。



 泥酔者のような千鳥足で校長室の前までやって来た谷先生。
 そして、それを録画しながらデジカメを構える晶と、教師(?)3人。
 彼女らの期待に応えるかのように、谷先生は破滅への扉を開いた。

 ガチャ・・・





「ポックンの気持ち、受け取ってクリ〜〜!! 愛しとるば〜い!!」





 パシャッ!  ×4





 この状況を校長先生の立場から見ると・・・

 授業中にも係わらず、

 泥酔した教師がノックもなしに、

 辞表を持って愛の告白をしてきた。


「・・・・・・・・・」


 ・・・谷先生は即日解雇を言い渡されましたとさ。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 ―――茶道部部室―――


「いやー、流石だな! 高野君!」
「やるじゃない! 晶!」

「まあね」

 無表情でVサインをする晶。・・・と笑顔で会話する3人の教師(?)

 谷先生がクビになった事を祝うために彼女らは茶道部に集まっていた。
 そして話の流れから播磨の話になっていった。

「これで平和になりましたね。 『私の』拳児君が美大へ行くための勉強も捗るってもんですね♪」

 ちなみにこのお方、笹倉 葉子は『播磨は自分を尊敬して芸術に目覚め、自分と一緒なら「三畳一間のボロアパートでも幸せだ!」と言い切るくらい自分を愛してる』と勘違い中。

「・・・笹倉先生? 『私の』ヒゲ・・・播磨君は私と○○大学へ行くんですよ?」
「え?? でも・・・」
 (・・・!? そう言えば・・・拳児君は「俺の絃子」とは言っても「俺の葉子」って言ってくれたことは無かったし・・・ ま、まさか私の勘違いとかだったりする?)


「沢近君、『私の』拳児君がそう言ってたのかい?」
「言ってませんけど、あそこなら就職にも有利ですし・・・ 何より私がいるし・・・」

 (やっぱり私、勘違いを?? じゃあ拳児君は絃子先輩のものに・・・? そ、そんな〜〜・・・)



 ―――笹倉 葉子、ようやく事実に気付き始める。



「う〜ん・・・ そうだな・・・ あの“ピーーー”の所為で只でさえ不利になってるからな・・・」
「その放送禁止用語って、谷先生の事ですか?」
「・・・あ、そうか。 私と一年入学が違ってくるのか・・・」
「そこが問題なんだ」
「・・・聞いてない・・・」

 (・・・あ、でもでも。絃子先輩と拳児君は『従姉弟同士』だから・・・)

 播磨の将来について語り合う絃子と愛理。晶のツッコミはスルー。
 更に言えば、二人とも余計なことは一切耳に入っていない様子。

「しかし、『私の』拳児君にあの大学は厳しいんじゃないか?」
「大丈夫です! 賄賂は弾みますから!」
「愛理、ソレ犯罪・・・」
「そうか、君には感謝しないとな」
「そんな・・・ 『私の』播磨君のためですから」
「・・・やっぱり聞いてない・・・」

 (・・・・・・『従姉弟同士』!? という事は・・・ 拳児君をゲットすれば絃子先輩もオプションとしてー!? 言い換えれば拳児君か絃子先輩、どちらかをゲットすれば二人とも・・・)


「じゃあ三年に進級と同時に『大学合格+卒業確定』を約束させるという事で手を打っておきますね」
「色々と済まないな、沢近君。 君の今年の成績には全て『龍』を付けよう」
「ホントですか? ありがとうございます」
「いいんだ。 『私の』拳児君のためだからな」

「そうですよねー。 『私達の』拳児君のためですからねー♪」

 どういう思考回路をしていたらそのような事が思い浮かぶのか? ・・・とりあえず復活を遂げた葉子は、この危険極まりない会話に堂々と参加する。 このあたりは流石である。
 やっと葉子の存在に気付いた絃子。 チラリと葉子を見てその異変に気付く。

「お、おい葉子・・・ 鼻血、鼻血・・・」
「へ? ・・・ああ、つい・・・」

 自分と絃子+播磨のいや〜んな事を考えてた葉子、その幸せそうな顔からは鼻血が・・・

「・・・何考えてたんだ?」
「何って・・・ そんな恥かしい事言えませんよ〜♪」

 (((恥かしい事考えてたんだ・・・)))  ×3

「・・・とゆー事で私も協力は惜しみませんよ」
「・・・葉子・・・」
「いいんです。 『私の』絃子先輩のためですから♪」


 ―――播磨の部屋―――

「ハ、ハ、ックショーーン!」

 自分の全く知らないところで勝手に進路が決められている播磨、漫画を描いていた手を止めて鼻を拭う。

「・・・風邪か? って、こんなところで風邪なんか引いてられねぇ! ・・・これを描き上げるまでは・・・」

 自分の目の前に置いてある原稿に視線を落とす播磨。

「・・・描くしかねえんだ・・・ 俺のラブストーリー・・・ 俺の・・・生きた証・・・」



 ―――むしろコミカル・ストーリー。



続く・・・


 〜おまけ〜

「ちなみに、さっき笹倉先生が考えてた事は・・・」
「あ、高野さん、言っちゃダメよ!」
「・・・彼女が内容を知ってる事に関してのツッコミはいいのか?」
「てゆーか なんで知ってんのよ、晶?」

「それは秘密・・・」



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