9話目(愛理、晶、谷先生、東郷) ( No.8 )
日時: 2006/01/29 23:43
名前: くらんきー

 ―――3−C教室前―――


 (この扉を開ければ・・・もう、引き返せない・・・)


 沢近 愛理は悩んでいた。いや、答えなど既に出ているのだが・・・


「もうすぐ授業開始のチャイムが鳴る・・・もうすぐ・・・」


 ・・・って!何で私がこんな事を! ・・・今更だけど・・・
 まあ、全部ヒゲの為だからしょうがないんだけどね・・・

 ・・・・・・!

 べ、別に私はヒゲのことなんてどうでも・・・良くない事もないけど・・・
 ヒゲがいないとストレスを発散させる場所が無いって言うか・・・落ち着かないって言うか・・・

 そう、アイツがいるだけで私の心は自然と休まる・・・アイツの声を聞くと、私の心は自然と躍る・・・

 ・・・・・・!

 な、何で私こんな事考えて・・・これも全部ヒゲのせいだわ!
 そうよ!全部ヒゲが悪いのよ! そもそもアイツが私を惚れさs・・・ほ、惚れ・・・


 かあぁぁ〜〜  ←(顔が赤くなる擬音)


「あーー! もう!」
 (あの“メガネ”絶対に許さないわ! よくも『私の』ヒゲを・・・)


 そして、ゆっくりとドアに手をかける・・・   ←一番最初に戻る。


 ・・・などという考えをループさせる愛理。 これもツンデレ故にか!?



 キーン  コーン  カーン  コーン



「・・・・・・鳴った・・・わね・・・」
 (行くわよ! 愛理!)

 小さく一つ呟くと、ミッションを遂行すべくドアに手をかけ、一気に開けた。



 ・・・ガラッ



「ハーイ、みんな静かに! 授業を始めるわよー!」





「「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」」





 教室は凍った。時間ごと・・・ 確かにざわめきは消えたかもしれないが、授業どころではない。
 生徒達は今起こっている状況を理解するので精一杯だった。


「うっ・・・」
 (流石にスンナリ行くとは思ってなかったけど、ここまでとは・・・)


 愛理は、一番最初に元の時間軸に戻ってきた彼女の親友、周防 美琴から当たり前の質問をされることになる。



 ―――ちなみに、皆 一緒のクラス。



「・・・なあ沢近、アンタ何やってんの??」

「え!? え、と、これには深いワケが・・・」
 (ヒゲを留年させた“メガネ”の授業ジャックなんて言える訳ないでしょ〜〜!)


 そう、晶の計画には一つの問題があった。人目に付かずミッションを遂行させるには如何すればいいか?
 職員室ではまず無理。教室でも無理。そうなれば屋上や体育倉庫とかか・・・? それもちょっと無理がありそうだ・・・
 が、それは休み時間等の話。授業中であれば廊下であろうが、屋上であろうが何時でも狙撃できる。

 ・・・!?

 じゃなかった。気兼ねなく(?)ミッションを遂行できる。

 ・・・ということで愛理は、谷先生の教科である英語を授業ジャック。
 そうなれば谷先生は保健室に行くだろうから、そこを一気に・・・・・・
 という訳だったりする。



「ふふふ・・・何も言わなくてもそれくらいは察しがつくだろう・・・?」
「お、お前は!? ・・・東郷!」


 そんな彼女の行動を解説しだした男が一人。 ・・・東郷 雅一だ。
 ちなみに花井との委員長争いで勝利を収めた人物だったりもする。



 ―――東郷 雅一、新生3−Cの委員長。



 ガタッ・・・

「ふっ・・・つまりはこういう事サ」

 東郷は席を立ち、愛理から見ればテキトーとしか言いようのない解説を始めた。

「彼女は自分の可能性を知りたかった・・・自分の限界に挑戦しようとした訳サ!」
「・・・はあ」

 コッ・・・  コッ・・・

 席を離れ、教室をぐるっと回る様に歩き出す東郷。

「自分の将来を見つめ、教師になりたいと思った彼女は・・・」

 手に持ったペンをクルクルと回す。

「自分の得意教科の英語で、現役の高校生相手にドコまで通用するか知りたかったのサ!」

 ビシッ・・・っとペン先を愛理の方に向け、演説を続ける東郷。

「なあ、皆! 俺達クラスメートじゃないか! そんな俺達が協力してあげられなくて如何する?」

 ざわめく教室。説得力が有りそうで無い演説。



 ―――効果音は、ざわ・・・ ざわ・・・



「学びたいヤツがいて教えたいヤツがいる・・・それだけでもう十分授業なんじゃないか? なあ、ブラザー!」

「おお・・・そうだ!」
「なんか、そんな気がしてきた・・・」
「そうだ! 頑張れ、沢近さん!」
「その美、その才・・・ 俺は好きだ!」
「はい、ドサクサ!」


 東郷の演説に感動した3−Cの生徒達。次第に東郷コールが巻き起こる。

「大人の決めた枠組みなんか外しちまえ! 必要なのは燃え滾る魂(ソウル)サ!!」
「そうだぜ!  ・・・たぶん」
「ああ!  ・・・おそらく」
「「「「「トーゴー!!   トーゴー!!」」」」」


「・・・そういうことで納得はいかねえかい? Dカップのお嬢さん」
「んな!? おい、お前何言ってん・・・」

「そうだったんだ〜愛理ちゃん・・・ 私は応援するよ♪」
「おい、お前も落ち着け! 塚本! どー考えてもおかしいだろ!?」



 ―――周防 美琴、常識人 最後の砦。



「ちょっと皆! 静かにしなさーい! 沢近さんが授業できないでしょ!」

 五月蝿くなり過ぎた生徒達に学級委員の大塚 舞の喝が飛ぶ。
 ちなみに舞は、去年の一年間で『生徒達を静かにさせる術』5段になっていた。
 その秘訣は、ある程度『やりたいようにやらせる事』だったり・・・
 ・・・って事で、英語教師 沢近 愛理の件についてはスルー。



 ―――大塚 舞、今年一年 もう投げてる。



「皆、ありがとう! 私、頑張るわ!」
 (東郷君もたまには役に立つのね・・・)

 成り行きに任せまくってる生徒達に便乗して、教師役を続ける愛理は・・・

「・・・ということなんで、後の事は任せて下さい。 谷先生・・・」

 いつの間にか教室内にいて、空気と一体化したかの様に影が薄くなった谷先生の肩を『ぽむ』と叩き、氷の微笑を浮かべそう言った・・・

「沢近、これは一体・・・?」
「任せて下さい。 谷先生・・・」

 状況が分からないといった感じの谷先生。
 しかし愛理は、谷先生の質問に今度は召喚獣付きの微笑で答えた。



 ―――沢近 愛理、MP120消費。



 5匹ほどの毒蛇に囲まれた谷先生は「うん、宜しくね・・・」としか言いようがなかった。
 教室の扉を閉める彼の目には、間違いなく光り輝くものが・・・


 ガラッ・・・     ピシャッ!


 次の瞬間、一瞬扉が開いたかと思うと『英語教師 谷 速人の入室を禁じる』という張り紙が張られ、再び閉まる。
 そしてその扉は、彼にとって無情なまでに固く閉ざされ続けた。



「じゃあ次の訳を・・・塚本さん」
「センセー、解りませーん!」

「アンタねぇ・・・ 罰として3日間甘いもの禁止!」
「ええぇ〜〜!! ヒ、ヒドイよ愛理ちゃん・・・」

「「「「「ははははは・・・」」」」」

「静かにしなさーい!」


 教室のドアの前で佇む谷先生。心の底から一言・・・

「楽しそうだなぁ・・・」

 と呟くとその場を後にし、保健室へと向かった。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ―――保健室前―――

「いやー・・・ やっぱりヤなことがあった時は妙先生に癒してもらうに限るなぁ・・・・・・って、アレ??」

 保健室までやって来た谷先生。ドアに何かが貼ってあるのに気付いた。

 ドアに貼ってあった物・・・それは・・・

 『英語教師 谷 速人の入室を禁じる』

 という張り紙だった。



 ガアアァァ〜〜〜ン・・・



「た、妙先生・・・・・・?」



 ―――5分後、屋上―――


 谷先生はそこに居た。
 小春日和の屋上に・・・ 授業中に・・・


「あ〜る〜はれた〜 ひ〜る〜さがり〜 い〜ち〜ば〜へつづ〜くみち〜」


 今の彼はとてつもない『負のオーラ』を放っている。春の陽気など忘れてしまう程に・・・
 そのオーラの総量たるや、結婚式を挙げた直後の新郎新婦さえも不幸な気分になりそうなものである。

 ドナドナを熱唱する彼の事を密かに見守る少女が一人。
 その姿は正に、○馬を見守る明○姉ちゃんのよう・・・

 まあ、明○姉ちゃんと違うのは、その姿を録画しているか していないかの差くらいか?



 ―――見守っているのは、晶姐ちゃん。



 (さて・・・そろそろ・・・)


「谷先生、こんなところにいたんですか? 探しましたよ」


 いよいよミッションをスタートさせる晶姐ちゃん。その実力やいかに!?

「高野? イヤー・・・ もう先生の居場所 無くなっちゃった。  は、ははは・・・・・・は・・・」



 ―――笑い事ではない。



「人生長いんですから、たまにはそんな事もありますよ」

 そう言って晶は徐に手袋をはめる・・・

「とりあえず落ち着くためにコレでも飲んでください」

 手袋を装着後の手には『27 〜トゥエンティー・セヴン〜』と書かれた怪しい薬品が持たれていた。


「・・・何? ソレ?」
「何の変哲もない只のお茶です。何時も持ち歩いてるんで気にしないで下さい」


 そう言いつつ、その液体を湯飲みに注ぐ晶。

 ・・・この時、彼はナゼ気付かなかったのだろうか? 普通は気付くであろうこの『お茶』の色に・・・
 そこまで精神が蝕まれていたのだろうか?


「飲まなきゃやってられない時は飲むのが一番かと」
「・・・それもそうか・・・」

 そう言って彼は『蛍光ピンク色』の一際怪しい液体を口にした。
 ・・・ちなみにこの液体は別名『二十七茶』というのだが・・・・・・ それはまた別の話・・・



 ごくごく・・・   ←飲んでる。



 ・・・カタカタ・・・   ←手が震えてる。



 ポロッ・・・   ←湯飲みを落とした。



 パリーーン   ←湯飲みが落ちて、割れた。



「ムギョーーーーーー!!!」

 その時、彼の身に何が・・・!?


続く・・・



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