8話目(絃子、晶、八雲、サラ) ( No.7 )
日時: 2005/12/01 23:02
名前: くらんきー


 ―――職員室―――


 話は数日前に遡る。新学期が始まって絃子は、播磨の担任になるため「3年生の担任をやらせてほしい」と校長先生を脅はk・・・げふんげふん。校長先生にお願いしていた。そして播磨が何組かを調べておいて、その組の担任になろうとしていたのだ。
 ご機嫌な事この上なしといった感じの絃子。鼻歌交じりでクラス分け名簿を見ていたのだが、加藤先生の一言で思わず真顔になってしまった。


「谷先生、播磨が留年したらしいじゃないですか。あれ程頑張っていたのに・・・やはりこれも担任としての力不足が原因なんじゃないですか?」


 普通ならば『いつもの加藤先生の嫌がらせ』で済んだかもしれない。 ・・・が、絃子にとってこのセリフはとてもじゃないが聞き流せるセリフではなかった。
 ゆっくりと立ち上がると、決して一般人が出すことの出来ないようなオーラを放ち、元 播磨の担任のもとへ向かった。ちなみに絃子が立ち上がった瞬間、窓ガラスが何枚か割れたが何故割れたのかは未だ解明されていない。


 (拳児君が留年だと!?一体どの教科だと言うんだ!?)


 幾ら何でも英語ではないだろうな、担任の谷先生の教科だし・・・
 という事は・・・『私の』拳児君は5教科赤点だったから、残りは4教科。残りの教科も完璧に近い仕上がりだったはず・・・
 では・・・一体・・・誰が『私の』拳児君を・・・!? 誰だか知らんが、それ相応のお礼をさせて貰おう・・・


「けん・・・播磨君が留年したそうですが・・・ 谷先生、一体何の教科なんですか?」

「ああ、刑部先生、おはようございます。 ・・・いやー、実は播磨が私のテストに名前を書き忘れて0点なんですよ。ホントは合格点あったんですが、勿体無いですよねー」

 目の前にいる人物のオーラを感じないのか、地雷地帯を縦横無尽にスペシャルローリングする谷先生。のほほんとこの様な言葉を放った。


 ・・・・・・英語・・・・・・


 オーラが一層強くなる。周囲の空間が揺らぎ始め、髪の毛が逆立つ。腕に仕込んだ愛用のモデルガンが披露されようとするのを何とか最後の理性で押さえつける絃子。

「ほほう、名前を・・・しかし、それだけで留年とは酷くありませんか?」
「う〜ん、でも決まりですからねー。去年も進級したのは特例でしたし・・・まあ、今年は仕方ないですよ」

 今鳥直伝の・・・かどうかは知らないが、スペシャルローリングの速度を上げ、『某青色のハリネズミ』の様な軽快な動きで地雷を爆発させまくる谷先生。



 ―――谷 速人、メガネをかけた今鳥ではない。念のため。



「ふ、ふふふ・・・・・・」
「・・・? 刑部先生?」

 ガラッ・・・

 絃子は何に対してか独り嘲ると、覚束ない足取りで職員室を後にした。
 その時の絃子には、その身に纏うオーラのためか誰一人として近付か(け)なかった。

 ギラッ

「あのメガネ!!絶対にゆるさん!!」


 ―――そして、現在―――

 (今日・・・だな・・・あの“メガネ”が天に召されるのは・・・)

 ・・・まあ、ヤツが居なくなったところで私の怒りが治まる訳じゃないが・・・
 『私の』拳児君とのハネムーンを1年も遅らせたんだ!その罪は償ってもらう!
 高野君は「1時間目終了までには終わらせる」って言ってたな・・・まあ、彼女が言うんならそうなんだろう。

 絃子は今、茶道部部室に居る。そして、今日起こるであろう『事件』に参加できない事を少し残念に思いながらも、晶に全てを任せることにした。

「さて・・・と、そろそろ授業の準備を・・・」

 そう独り呟き、部室を後にする。絃子が校舎へ向かう途中、教え子でもあり茶道部員の2人の少女らに出会った。八雲とサラだ。

「やあ、おはよう」
「おはようございます、刑部先生」
「先生、おはようございまーす♪」

 挨拶を交わす3人。至って普通の朝の1コマ。 ・・・と、正にその時! 『事件』が起きた!



 ―――超姉さん、事件です。



 ふと何かに気付いたように校舎を見る八雲。それに釣られてサラも八雲の視線を追う。
 その時見たモノに八雲は絶句し、サラが叫んだ!

「・・・!!」
「ああぁーー!!」
「ん?」
 (高野君か? 仕事が早いな。流石だ!)

 晶の暗さt・・・じゃなくて、自分に代わってのお仕置きだと思い、2人の視線を追う。・・・と、そこには!



「あ、あそこに空飛ぶ花井先輩がーー!!」



 外壁の2階と3階の間くらいに“メガネ”をかけた男子生徒の姿が・・・ 確かにその時、彼は舞った。
 その生徒の名は花井 春樹。矢神高校が誇る武術の達人、少林寺拳法 全国大会出場経験を持つ猛者だ!武術を極めれば空を飛ぶ事も可能になるのか!?



 ―――花井 春樹、地面に向かい高速移動中。



 それを見た絃子は『すてーん』という感じでコケる。

「おはよう八雲、サラ。おはようございます先生・・・如何したんですか?」
「「た、高野先輩!」」

 そこに現れたのはこの人、高野 晶。今日、『事件』を起こすであろう人物だ。
 八雲とサラは花井が窓から落ちた事と、いきなりの晶の出現に気が動転している様子。

「高野君・・・ちょっと・・・」

 晶が現れた事に驚く八雲達とは対照的に、絃子は至極冷静。恰もここに現れるのを知っていたかの様に・・・
 絃子は片手で頭を抑えながら手招きをして晶を呼び寄せ、八雲とサラから少し離れた所へ移動し始めた。

「はい」

「違うだろ、高野君! あの“メガネ”じゃないだろ!?」
「んん?・・・間違えたかな?」

 どうやら、この“メガネ”は私の求めている“メガネ”ではなかったらしい・・・と続けると晶は、ゲヒョゲヒョと笑って見せた。・・・どうやら誰かのモノマネをしているらしい。



 ―――偽りの天才、アキラ。



「・・・今度はものまね士かい?」
「また一つ、夢が叶いました」
「それは良かった。・・・で、話を戻すが私の言っている“メガネ”は・・・」

 晶の行動に冷静に対処する絃子。流石は晶が所属する部活の顧問だという所か・・・

「知ってますよ、先生。あれは冗談です」
「・・・そうか、解ってくれてれば良いんだが・・・」


 どっからどう考えても冗談では済まない様な気がする今日この頃・・・そして、ちょっとは彼の事を心配してあげて欲しいものだ。
 絃子は「じゃあ、如何して花井が?」という疑問など起きないようなので、姐さんから何故花井が落下したのかを説明してもらう事にしよう。



「・・・こほん。じゃあ」
 お願いします。

「悲しい事に・・・私と花井君は同じクラスなの」
 ほう・・・『悲しい事』とな・・・

「そう・・・それで今朝、偶然 花井君の机の上に八雲の私服姿の写真が置いてあったのよ」
 ほほう・・・『偶然』とな・・・

「更にその写真には、よく見るとヒモが付いてあったの」
 ほほーう・・・『よく見ると』ですか・・・

「コレまた偶然、そのヒモの先が私の目の前にあったから引っ張ってみたの」
 ほっほーう・・・引っ張ると、どうなったんですか?

「花井君が写真を追って窓から転らk・・・もとい、写真を手に入れるために『舞空術』を使ったという訳。ちなみに花井君の席は一番窓際」
 ほっほーーう・・・で、その写真は今ドコに?

「それならココ。私が持ってるよ」
 タイヘンヨクワカリマシタ・・・



 ・・・と言ふ事らしい。
 ちなみに、こんな説明をしている間に『冗談』で天に召されようとしている哀れな“メガネ”はどうなっているのだろうか?

「ううっ・・・花井先輩・・・いい人だったのに・・・・・・」
「サ、サラ・・・まだ、死んだと決まったわけじゃ・・・」

 花井の死を嘆くサラ。絃子と晶もサラの所へやって来た。

「とりあえず、生きているかどうか確認しようか」

 そう言うと絃子は晶と共に花井の屍の下へ向かった。それに続く八雲とサラ。


「・・・・・・う・・・う・・・・・・や・・・く・・・も・・・・・・君・・・」

 なんと!花井は無事(?)だった!流石は武術の達人、受身のスキルはハンパじゃない!

「は、花井先輩!? 大丈夫ですか? サラ、花井先輩生きてたよ。良かった・・・」

「「ちっ」」

「え?」
 (・・・今、舌打ちが・・・・・・気のせいかな?)

 八雲は戸惑った。それはそうだろう・・・花井が生きていたという喜ぶべき出来事があった瞬間に、舌打ちが聞こえたのだから・・・しかも2人から。まあ、それが誰と誰から聞こえたのか、名前は伏せておく事にしよう。

「生きてたんなら、保健室にでも放り込んでおけば大丈夫でしょ」
「まあ、そうだな」
「そうですね」
「・・・・・・・・・」

 どうしてこの3人はこんなに冷静なのだろう? 八雲は思う。
 しかし、その内彼女も気付くだろう。これしきの事で驚いていては体が持たないと・・・さっき舌打ちをした同級生の様に・・・



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ―――その頃、教室―――

 (晶の言ってた合図・・・『メガネの断末魔』って、この事かしら?)



 ―――さっきの出来事、実はただの合図。



「・・・そろそろ私の出番のようね・・・」

 漫画を描き終えた事によって飛躍的成長を遂げた(?)愛理は、播磨を留年させた人物に怒りの矛先を向けていた。
 愛理は晶から受取った『一般の生徒が決して持ってないような物』を手にし、教室を後にする。
 ただいま授業開10分前。運命の歯車は今、回りだした・・・のか?


続く・・・


 〜おまけ〜

「はい! こちら、銀次郎便ですが?」
「あ、生物なんですけど配達お願いできますか? ・・・着払いで」

 晶は今、宅配会社に電話をしている。今のところ彼女は荷物を持っていない。・・・が、晶の計算ではもうすぐ、生物の荷物をある所へ届けなければならない用事が出来ると踏んでいる。

「はい、ありがとうございます! 場所は・・・はい・・・矢神高校の・・・はい、分かりました!すぐ伺います」


 ―――15分後、矢神高校―――

「さぁーて、荷物は・・・って!花井じゃねーか!!」



 ―――銀次郎便、元 花井のバイト先。



「ま、いいか。運んじゃえ! ・・・届け先は、保健室・・・と」

 こうして花井は無事(?)保健室に運ばれましたとさ。――ちゃんちゃん♪




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