7話目(播磨、絃子、葉子、晶) ( No.6 ) |
- 日時: 2005/11/17 17:26
- 名前: くらんきー
「拳児君・・・どうしてもいってしまうのか?」
自分の部屋でバッグに荷物を詰め込んでいる播磨に、部屋の入り口から絃子は恐る恐る話しかける。
「ああ・・・留年しちまった以上、ここにはもう俺の居場所はねえ。俺は旅に出る」
荷物を全て詰め込み、絃子の方に向き直り一言「世話になったな・・・」と呟く播磨。 絃子は俯き、声を絞り出すようにこう言った。
「止めても・・・ダメなのかい・・・?」
「ここまで世話してもらって、勉強も見てもらって・・・挙句、留年だぞ!・・・もうお前の顔、見れねえよ・・・」
「な! け、拳児君・・・もしかして出て行くのは私のために・・・?」 「他に・・・何があるって言うんだ」
播磨がココを出て行くのは自分のため。自分と同じ思いを、やはり播磨も感じていたのか・・・絃子は胸が締め付けられているように感じた。 そして、播磨が自分の横を通り過ぎようとした時、絃子は無意識の内に播磨の腕を掴んでいた。
「君に・・・出て行ってもらったら・・・・・・困る・・・」 「絃子・・・」 「君は・・・気付いているだろうか?私は、君の事が・・・」
「・・・・・・」 「・・・好きなんだ・・・拳児君」 「絃子・・・俺もだ」
抱き合う二人。
カリカリカリ・・・
―――刑部 絃子、執筆中。
「絃子さーん!出てきてくださいよー!」
引きこもって自分の部屋から出てこない絃子、ひたすら漫画を描き続けている。 葉子が絃子の部屋のドアを、ドンドンと叩いて何度も絃子を呼んでるが返事が無い。かなり屍っぽい。
(う〜ん、どうしたんだろ?先輩・・・ せっかく拳児君の進級祝いにケーキとロウソクと荒縄を買ってきたのに・・・)
ちなみに葉子は、播磨が留年したことをまだ知らない。・・・って言うかそれ以外にもツッコミどころが多そうな事を考えているようだが。
(拳児君は・・・?)
播磨はどうしているんだろう?と思った葉子は、播磨の部屋を覗いてみる。・・・と、そこには!
「ブツブツ リュウネン・・・コノオレガ・・・リュウネン・・・ テンマチャントチガウガクネン・・・ ブツブツ」
真っ白に・・・否、半透明と化した播磨が部屋の隅で椅子に座り、どっかのボクサーのように燃え尽きていた。こちらは完璧に屍だ。
「ちょっ・・・拳児君!どうしちゃたの?」
あまりの播磨の悲惨さに、駆け寄る葉子。今の播磨は『北アルプスの天然水』のように澄みわたった透明度で、気配すら感じさせないほど空気と一体化している。そのくせ、ハエが集って来ているのだから危険な事この上ない。
「ボソボソ 夢・・・だったんですよ・・・ ささやかな・・・ 小さな・・・小さな夢・・・」 「え?」 「ボソボソ 売れなくたって良いんですよ・・・ 彼女の笑顔さえあれば・・・ 三畳一間のボロアパートでも・・・幸せなんですよ・・・俺は・・・」 「・・・・・・」
(え〜っと、拳児君は芸術家を目指してるから・・・売れるって、絵画のこと? でもって『彼女』=私、な訳だから・・・)
―――笹倉 葉子、幸せな思考回路。
「ボソボソ 俺が・・・留年なんてしなければ・・・」 「・・・留年? け、拳児君、留年しちゃったの?」
葉子はこの時、はじめて播磨が留年したのを知ることになる。あれ程頑張っていた播磨が留年するとは夢にも思わなかった。自分も播磨の勉強を見ていたのだ。その上で不安要素など無い、文句なしの仕上がりだったはず。それが何故?葉子は思った。
「その教科って・・・一体?」 「・・・・・・英語っす・・・・・・」
「・・・・・・なるほど、ね」
この時、葉子は全てを悟った。何故、播磨が屍と化していたのかを・・・ そして何故、絃子が部屋で引きこもってるかを・・・
(絃子先輩はきっと・・・)
―――絃子の部屋―――
「ヤる気ですね・・・」 「・・・高野君か?」
何故か絃子の後ろには、正座をして日本茶をすする晶の姿が・・・ ちなみに入り口のドアには鍵が掛かっている。尚且つ、絃子が部屋に入ったときは確実に独りだったはず・・・それなのに絃子は驚いている様子を全く見せずに漫画を仕上げている。
「日本茶を持参で窓から入ってきて、尚且つ、気配を完璧に消しているとは流石だね。忍者にでも就職する気かい?」 「それも面白いかもしれません」 「おや? 君の進路は就職希望で、第一希望は『召喚士』、第二希望が『きぐるみ士』、第三希望が『ガンナー』とか言ってなかったか?」 「それはもう、全部なりました」
(召喚したのか?この娘は・・・)
絃子はそこではじめて晶の方を見た。そして改めて思う。「この娘は大物になるな」・・・と。
―――高野 晶、フェニックスを召喚済み。 ←(8巻参照)
ちなみに、『ガンナー』はいつもの事。『きぐるみ士』には夏休みに“コ猫物語”を演じた時になっている。
「それよりも先生。・・・あの“メガネ”をヤる気ですね?」 「当然だ。あんな人間の風下にも置けんような奴は排除しなければ・・・」 「10年はクサイ飯を食べなきゃいけませんよ?」 「・・・っ! ・・・じゃあ如何しろと言うんだ!?見逃せとでも言うのか?」
絃子の眼つきが厳しくなる。しかし晶はそれに動じず、すんなりとこう返す。
「いいえ。でも、こういう事は私に任せてもらえませんか?」 「・・・高野君に?」 「はい」 「どうする気だ?」 「我に秘策アリ・・・です」
絃子は思った。このセリフを言ったときの晶ほど頼もしいものがいるか?・・・と。そしてその答えを自らの行動で示した。
「ふふっ・・・ じゃあ、遠慮なくお願いするよ」 「はい、任せてください」
―――播磨の部屋―――
(絃子先輩はきっと・・・私に拳児君をよろしく頼むというメッセージを書いている最中なんだわ! そして、拳児君を留年させた谷先生を亡き者にしようと・・・ ううっ・・・先輩!私達、幸せになります!だから・・・だから何も気にしないで、網走でお勤めしてきて下さい・・・!!)
―――笹倉 葉子、幸せな思考回路。再確認。
続く・・・
〜おまけ〜
「ブツブツ ヒゲが・・・留年・・・」
カリカリカリ・・・
愛理は放心状態だった。 『播磨と違う学年になった』という事を天満から聞いた愛理は、ショックを隠しきれなかった。 ただでさえ素直になることが少ないのに、このうえ学年まで違うとなると現実逃避したくなるのも当然かもしれないが・・・
―――沢近 愛理、執筆中。
「お嬢様、ココはどう致しましょう?」 ←ナカムラ 「・・・え? ああ、そこは集中線で。 ・・・スズキ、ホワイト切れそうだわ。買ってきて」 「はい、買ってまいります」 ←スズキ
「ブツブツ ヒゲが・・・留年・・・」
カリカリカリ・・・
―――漫画嵐(ブーム)到来。
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