後日談 − Good morning, Secret X'mas eve! ( No.10 ) |
- 日時: 2005/11/02 08:43
- 名前: によ
− 後日談 − Good morning, Secret X'mas eve!
どこかのホテルか、と見紛うような豪華な部屋。 今まで見たこともない部屋に播磨はいた。
───ここは…いってえドコ───っ!!
播磨は寝惚け眼でぼんやりとしながら周りを見渡そうとした瞬間、頭がズキズキと痛んだ。 寝起きということもあるが、痛みもありどうも頭がスッキリしない。おまけに身体も気怠く、まるで鉛のようだった。 それでも鈍痛のする頭に手を添えながら部屋を見渡すと見覚えのない部屋だと思ったのが、どこかで見たことがあるようなとも感じていた。
───ったく、なんで頭が痛えんだ!? それにどうして俺はここにいるんだ?
記憶を辿ろうとしても、頭痛とグルグル廻っているような感覚でハッキリと思い出せない。 それに酷く喉も渇いていた。
「水が欲しいぜ……」
そうひとりごちるとベットから這い出るようにして起きあがり、フラフラとした足取りで扉まで歩いていった。 扉を開けると目の前にはやたらバカでかいホールが眼下に広がっていた。中央には立派なシャンデリアまで吊り下げられている。
「どこだよ…ここは……」
またひとりごちる播磨であったが、言葉とは裏腹にはやり見たことのある場所だとも感じていた。 だが、喉まで出かかってはいるも思い出せない。それが無性に腹立たしく、力任せに髪を掻きむしった。
───とにかく水だ…って、どこにあんだ?
そう思い、周りを見渡した瞬間、視界に金髪の少女が映った。
「あ…播磨君」 「なっ……お嬢───っ!」
また頭がズキッとした。
「ちょっと…大丈夫なの?」 「いや…頭が痛くてよ……って、何でお嬢がいんだ?」 「何でって…ここ、私の家じゃないの……」 「お、お嬢のい───っう……」 「顔色悪いわよ。まあ、昨日あれだけワインを空ければ当然って気もするけど……」
───昨日? ワイン? 俺は昨日いったい……?
「ま、二日酔いでしょ。ちょっと水持ってくるから部屋に戻ってなさいよ」 「…ああ、すまねえ」
愛理にそう言うと、来た方向に駆け足で戻っていった。 その姿をぼんやりと見つめながら昨日のことを思い出そうとしたが、どうもハッキリとしない。 播磨は考えるのも億劫になり、愛理に言われた通りに元居た部屋へと戻ることにした。
*
飲み過ぎなのよね、と愛理は小走りで厨房に向かっていた。 ただ、そうは思っても不愉快ではない。むしろ顔がにやけてしまうので気持ちはその逆だった。 播磨がいる。それだけで嬉しかった。 以前の愛理なら素直になれず、播磨が家にいるだけでも大騒ぎとなっていただろう。 だが、今は秘めていた想いも認め、場の流れというか勢いで告白までしてしまっていた。 告白の結果は───正直わからない。 播磨の想い人は今も天満であることには間違いがない。ただ、播磨はその天満に振られている。 しかし、振られたと言っても諦めてもいないだろう。そういう方向に持って行ったのは愛理自身でもあるわけだが。 少なくとも『今は』付き合えるということはないのは確かだった。 でも、将来はわからない。愛理が諦めない限り、この想いが冷めてしなわない限り。 厨房に入った愛理はメイド達が注目する中、コップを探し始めた。 しかし、普段は滅多に来ない、というより何故か入れてくれないので、その場所がわからない。
「ムッ…お嬢様、何かお探しですか?」 「あ、スズキ。丁度いいわ。コップを探してるんだけど……」 「部屋までお持ちしますが?」 「いいの。私が自分で運びたいだけだから」
スズキはにこりともせず小首を傾げだが、ノシノシと大きな身体を揺らして沢山ある棚の一つを開けるとコップを一つ取り出して愛理に手渡した。
「ありがとう。えっと…ああ、冷蔵庫はそこね」
厨房をキョロキョロ見渡した愛理は冷蔵庫の場所を確認すると、中からミネラル・ウォーターのボトルを取り出して、コップにそれをなみなみと注いだ。
───これでいいわよね
水の準備も出来て、播磨がいる部屋に戻ろうとしたときスズキが声をかけてきた。
「え? 何、スズキ?」 「お嬢様、これも……」
スズキが手に持っていたのは水差しだった。 水も半分ほど既に注がれている。
「そうね…一杯じゃ足りないかも知れないし。ありがとね」
愛理はスズキからその水差しを受け取ると、来たときと同じように小走りで部屋に戻り始めた。
*
「待たせたわね」 「いや…それよりも何だかすまねえな」
部屋に戻ってきた愛理から水の入ったコップを受け取った播磨はそう詫びた後、一気に水を飲み干した。 幾分か気分がスッキリとするが、まだ喉の渇きが収まらなかったので水差しも受け取って、それごと口につけて水をゴクゴクと流し込んだ。
「プハッ〜、生き返った気分だぜ!」 「なんか…凄いわね……」 「ん? ああ、サンキュな、コレ。ところでよ……」
唖然としている愛理に空になった水差しを返した播磨は次の言葉を紡いだ。
「どうして俺はお嬢の家なんかにいんだ?」
播磨にとっては素朴な疑問だった。 だが、そう言った瞬間に愛理の雰囲気がガラリと変わった。 顔を硬直させ、身体も僅かに震えている。何より、後ろに蛇がいる。
「ア、アノ…サワチカサン?」 「アンタ…覚えてないわけっ!?」 「イエ…ソ、ソウデハナクテデスネ……」
───やべえ…殺される……
蜷局を巻いた蛇がまさに飛び掛かるかのように、愛理から手──いや蹴りが繰り出されると直感して身体が硬直する。
「ま…仕方ないわね。昨日はあれだけ飲んでいたし……」
首まで竦めていた播磨は愛理が何もしなかったのに思わず拍子抜けした。 こんな状況の時は、気付いた時にはボロボロになっているハズなのに。 「えっと……」 「全く…お酒が弱いのになんであんなに飲んだのかしらね」 「俺…昨日は酒飲んでたのか?」 「そうよ。お父様とせっかくの御食事だったのに…アンタはガチガチに緊張してワインをがぶ飲みしたじゃないの。そしたら、急に倒れちゃうし……」
───お父様、御食事、ワインをがぶ飲み……うぉ!?
播磨はやっと昨日の事を思いだした。
───昨日は天満ちゃんに告白をして…お嬢に家に引きづり込まれて、テーブルには外人がいて………っ!! 確か、お嬢にも告白されてたんじゃなかったかっ!!!?
次々と思い出される驚愕の事実。 愛理に告白されて、その勇気に背中を押されるように天満に告白をした。 結果は見事玉砕。それで街を離れようかと思ったら、愛理にそれを見破られた。
「お嬢…昨日の事なんだがよ……」 「な、何よ……?」 「アレは…そのよ…告白なのか?」
播磨はバツが悪かったが思い切って聞いてみた。 どうしても全部が全部信じられない。もしかしたらアレも演技か陰謀の何かじゃないかと若干の希望を持って聞いてみた。
「そ…それは…そうよ……もう一度聞きたいの……?」
愛理は顔を真っ赤にさせて、急にモジモジと身体を捩らせていた。
「い、いや…つーか、俺には……」 「わかってるわよ…でも、勝負の事まで忘れてはないわよね?」 「勝負って……ああっ!?」
播磨はもう一つ大事なことを思いだした。 あの時、愛理は播磨には理解出来ない勝負を挑んできた。 勢いに押されてつい受けてしまった。
「お嬢…アレっていってーどーいう意味───」 「そ、それより大夫顔色も良くなったわねっ!!」
愛理は播磨の言葉を遮るように話題を突然変えた。 未だに理解できないことだが、はぐらされたのに何故かホッともする。 この話題は別の時でもいいか、と冷や汗をかきながら播磨は思うことにした。
「ねえ…私の部屋に…こ、来ない? その…サンドイッチぐらいなら用意できるわよ。言っとくけど、全然ヘンな意味じゃないからっ!」 「あ、ああ…そーいや腹が減ってるような……」 「そう。すぐに用意させるから…こっちに来て」 「お、おう……」
播磨は愛理の背を見ながらついていった。 自分より背の低い、両端で縛られた金髪が微かに揺れている様を何も考えずに眺めながら。 既にこれからどうなるのかサッパリわからなくなっていた。
*
顔の火照りが収まらない。 播磨を部屋に入れるのは昨日に続いて2度目だが、昨日とは状況が全く違う。 まさかこんな事になるなんて想像すらつかなかった。 嬉しくもあるが、それよりも恥ずかしさでいっぱいだった。 だが、せっかくの機会でもある。ここで引くわけにもいかない。
───自然に…自然に……意識しないように……
念じるようにして心を落ち着かせようと試みた。 しかし、火照りが収まる気配もない。気休め程度だったが、しないよりはマシだった。 とりあえず部屋に入ってすぐ受話器をとった愛理は、スズキにサンドイッチを持ってくるように頼むと播磨に適当に座るよう促した。 播磨はソファーの隅に縮こまって座る。 愛理と同じく播磨も何かしら意識してしまっているようだった。 それから一切の会話がない。 愛理は何か喋らないとと思ったが、そう思えば思うほど何も喋れなかった。 ずっと立ちっぱなしというのも落ち着かないので、とりあえずコーヒーテーブルを挟んで播磨と対面するようにソファーに腰掛けた。
───はぁ…勢いで言っちゃったとはいえ、やっぱり気まずいわよね……
昨日のことが自然と思い出される。 播磨がこの街から、自分から去ってしまうだろうと気付いたとき、いいようもないぐらいに怖くなった。 それからのことは愛理もハッキリとは覚えていない。 必死で、凄く興奮してしまい思わず播磨に平手打ちをしてしまった。 とにかく播磨を少なくとも街には縛り付けたい一心で詭弁とも言えることを口走ってもいた。 今更になって何であんな事を言ってしまったのか自分でもわからない。 潔く身を引くはずが、全くの逆となってしまった。 それも当事者のひとりとも言える天満を巻き込んでしまってまでだった。
───そういえば…天満はあの後どうしたのかしら…って、晶と美琴も居たはずなんだけど……?
ふと周りの景色についても思い起こしてみたが、天満はともかく晶と美琴のことが思い出せない。 最初、天満が怒りにまかせて怒鳴っていた時に居たのは覚えているが、その後はどうだったのか。
「………嬢。お………嬢! おーい、聞こえてますか〜?」 「えっ!? あ…な、何?」
ハッと顔をあげると、播磨が呼んでいた。 ずっと考え事をしていたので播磨が呼んでいるのにも暫く気付かなかった。
「いやよ、さっきからドアがノックされてるんだが……」
呆れたような顔で播磨はそう言った。 コンコンコンコン、と確かに扉がノックされている。
「今開けるから」
愛理はそう言いながら腰を上げて扉を開けると、サンドイッチを持ったスズキが立っていた。
「お嬢様、お持ちしました」 「ああ…そうだったわね。ありがとう、スズキ」 「いえ」
二人分のサンドイッチがのったトレイを受け取ると、スズキは黙礼して扉を閉めた。 それをそのままテーブルに置いた愛理は播磨に「どうぞ」とだけ言って、サンドイッチを勧めた。
「お、美味そうだな。んじゃ、遠慮なく……」
そう言ったかと思いきや、瞬く間にどんどんサンドイッチがなくなっていく。 気持ちいいぐらいまでの食べっぷりに愛理は唖然としてしまった。 さっきまで二日酔いだったはずなのに、どこからそんな食欲が湧くのか不思議でもある。
「よかったら私のも半分食べていいわよ」
再びソファーに腰掛けた愛理は播磨にそう言った。 一瞬食べる手を休めた播磨は「じゃ、貰うぜ」と愛理のサンドイッチも手にとって口に頬張る。 愛理も一つサンドイッチを手にとって、播磨と同じように頬張った。
*
「美味かったぜ、ごちそうさん」
適度に腹も満たした播磨は心なしリラックスができた。 二日酔いも既になくなっている。どっしりとソファーに背を持たれて、食後の余韻に浸っていた。
───さて……
播磨はこの後どうするか、と考えた。 目の前には愛理がまだサンドイッチを頬張っている。とりあえずその食事が終わるまでは居なければいけないだろうと思った。 愛理の食事が終わった後どうするか。播磨は悩んだ。 特段話すこともない。いや、本当は聞きたいことが山ほどあったがソレには触れたくなかった。 家に帰るか、と思考を巡らすが同居人である絃子がスノボから帰ってきているのかもわからない。 かと言って、このままここに居座るのも居心地が悪すぎた。
───やっぱ、ここは早めに退散しねーとな…これ以上居たらどんな事になるかわかんねーしよ……
愛理をチラッと見た。 まだサンドイッチを頬張っている。
───しっかし、お嬢は何であんな事を…って、お嬢には全く興味なんかねえんだ! でもよ…嫌われてるとばっか思っていたのが告白なんてよ…それに意外な一面も……って、何考えてんだよ、俺は! 興味がねえったらねえんだ!
興味がないと思っていたはずなのに何故か考えてしまっている自分を戒めた。 天満一筋。播磨はこれを貫かなければならなかった。
───でもよ…振られちまったんだよな…天満ちゃんに……
大きな溜め息がもれる。
「どうしたの? 溜め息なんかついて……」 「い、いや…何でもねーぜ……」 「そう……」
───あ、危ねえ……何だかわかんねーが危なかったぜ……
溜め息に気付かれたことに播磨は焦った。
───つーか、何で俺が焦るんだ!? いや、違うな…何でお嬢に気をつかってるんだよ……
堂々巡りだった。 一つ確かなのは、今までこれほどまで愛理のことを考えることはなかった。 天満のことならいつも考えている。それが今は天満に振られたショックすらあまり感じさせない程、愛理のことを考えていた。
「ごちそうさま」
どうやら愛理もサンドイッチを食べ終わったようだった。
───よしっ、今だ!
「お嬢…これ以上迷惑をかけるワケにもいかねーし、俺はそろそろ帰るぜ」 「え…あ、ちょっと……」 「色々面倒かけちまってすまなかったな、お嬢。じゃ、そーいう事だからよ」
播磨はソファーから腰をあげた。
「ね、ねえ。ちょっと待って! 実は渡したい物があるの……」 「ん? 渡したいモノ?」
そう言った愛理も慌てるようにソファーから立つと、化粧台から小さな細長い箱を取って目の前に差し出した。
「コレか……?」 「そう…その……誕生日プレゼントよ」 「へっ!? 誕生日プレゼント!? 俺の誕生日は───」 「知ってるわよ、一日だったのは。その…渡す機会がなかっただけよ」 「そうか…って、受け取るわけにはいかねえぜ……散々お嬢には迷惑かけてるしよ」 「い、いいのよ! 私があげるっていうんだから受け取りなさいよっ!」
そう愛理は少し怒ったような口調でプレゼントを押しつけてきた。 またもや愛理の勢いに負けてしまった播磨は渋々それを手に取る。綺麗にラッピングされ、いかにもという感じだった。
「なんだか…悪いな」 「ねえ、開けてみてくれない?」 「ここでか?」 「ここ以外にどこがあるのよ……」
確かにそうだよな、と漠然と思った播磨は綺麗なラッピングを惜しげもなくビリビリと破ってプレゼントを開けてみた。 中から出てきたものは当然ながら箱だった。その箱を更に開ける。どうやらネックレスのようだった。 そのネックレスを摘むように取ると、シンプルながらもごつい作りで、いかにも男用のネックレスだということが一発でわかる。
「ねえ、つけてみて」 「ああ…ちょっと待ってろ」
ネックレスが入っていた箱を一端テーブルの上に置いた播磨は、首にそれをはめようとした。 だが、首の後ろでどうも上手く留め金が引っかからない。
「……手伝うわよ」
愛理はそう言ったかと思うと、そのまま播磨に抱きつくような形で両腕を首に回してきた。
「お、お嬢……!?」 「動かないで!」
愛理の身体が僅かだが触れる。あごの下ある愛理の髪からであろう香りも僅かに鼻孔をくすぐる。 いい香りということと、まるで密着しているかのような状況に播磨の身体はガチガチになり、思わず胸は高鳴った。 「ま…まだか?」 「もう…ちょっと……」
本当は一瞬だろうが、時間の経過というものがやたら長く感じる。 播磨にとってこんな状況も初めてだった。
「ね、ねえ…ちょっとだけしゃがんでくれない?」 「お、おう……」
きっと手元が高すぎて上手くいかないのだろうと思った播磨は言われるがままに少しだけしゃがんだ。 その時だった。急に首が引っ張られ、唇に柔らかいものがあたった。 愛理が播磨にキスをしていた。 あまりに一瞬の出来事で頭が真っ白になった。
「…これはクリスマス・プレゼント……」 「な、な、な、な……」
何するんだ、という言葉が紡げない。 大きく目を見開き、口をパクパクすることしか出来なかった。 それは一瞬で、軽く触れた程度のフレンチ・キスだったが、予想も出来ない唐突の出来事で暫く立ち尽くすことしか出来なかった。 キスをされた唇に無意識に手を当てる。そうすることで何とか考えることが可能になった。
───い、今のは……キ、キスだよな……? お嬢が…俺に……?
だが、これ以上は何も考えられなかった。 頭の中がキスでいっぱいに埋め尽くされる。例えるならそんな感じだった。 愛理の方は、これ以上ないぐらいに真っ赤になっている。 そんな愛理がグニャリと揺れている。視界の周りが何故か黒い。 だんだん周りが黒くなっていき、最後には愛理の顔だけしか映らなくなっていた。
*
無意識だった。そんなつもりは毛頭なかった。 ネックレスをつけるのにもたついていた播磨を純粋に手伝おうとしただけだった。 留め金を前にしてつければいいのに、律儀なのかわざわざ首の後ろで留めようとしていたので仕方なく腕を首にまわした。 播磨の背が高いので少し背伸びをした。 足下が安定しなく、手伝うはずの自分ももたつく。 少し屈むよう播磨に言った。 目の前にサングラスが映った。その奥にある切れ上がった彼の目も。 気付いたらキスをしていた。しようと思ってしたわけではない。 勝手に身体が動いていた。
「…これはクリスマス・プレゼント……」
体中が燃えさかっているような最中、言い訳するように口走ってしまった。 そうとでも言わないと収まりがつかない気がした。 だが、そんなことで収まりがつくはずもない。 播磨は何か言いたさげだったが、言葉にならないようだった。 そして、急に派手な音をたてて倒れた。
「は、播磨君っ!!?」
咄嗟に屈んで、突然倒れた播磨の頭を抱えて呼び掛けた。 反応はない。どうやら気絶しているようだった。 無性に腹立たしくなった。
───なんで気絶なんかするのよっ! そんなに───
嫌なワケ、と思ったが即座にそれを否定した。 自分が衝動的にキスをしてしまったわけで、播磨は自分以上に驚愕したんだろうと。
───ファースト・キスだったんだけどな……
気絶している播磨を眺めながら、語りかけるようにポツリと思った。 未だ体中が火照っているが、播磨を眺めていることで妙に心は落ち着いた。 なぜだかわからないが、これが自然な気がした。
───ごめんね、突然こんなことしちゃって……
───天満のこと諦めるななんて言っておきながら狡いわよね…私って……
───でもね…女ってしたたかなのよ、播磨君……
───あなたのコトが好きだから…あなたに振り向いて欲しいから……
目を細めて、心の中で播磨に語り始めていた。
───許してね、播磨君。今日はクリスマス・イブだから……
腕に少し力を込めて、支えている播磨の頭を愛理は抱き込み、そっと播磨の顔に重ねる。 伝わる温もりが心地よい。
───ねえ、播磨君…私もプレゼント貰っていいかしら?
───私だけの…私だけの秘密にしておくから……
愛理は目を閉じて、そっと唇を播磨の唇に重ね合わした。 長い長いセカンド・キス。 暖かさが、温もりが、息づかいが、幸せが唇から伝わってくる。 それが全て愛理の心に、身体にじんわりと広がって満たされていった。
Fin.
───────────────────────────────────────── 【本当のあとがき?】
やっちゃいました。暴走しました。それ以上でもそれ以下でもありません。 そして、この後日談は「Be Blue」の後日談も兼ねてもいます。 最後まで読んで頂きました皆様、本当にありがとうございました!
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