Re: Be blue (愛理、播磨他) ( No.7 ) |
- 日時: 2005/09/21 03:23
- 名前: によ
−終章−
「……りちゃん、えっりちゃ〜ん?」
突然の声。 びっくりして顔をあげると、天満が覗き込んでいた。
「て、天満…もう、ビックリしたじゃない……」 「あ、ごめん…でも、どうしたの? なんだかボーっとしてたけど……」 「えっ!? あっ…ちょっと考え事をね……ゴメンね、せっかくのお誕生日会なのにね。私ったら……」
いったいどれぐらい思い耽っていたのだろう…… ほんの数分なのか1時間ぐらいはたっているのか、それすらわからない。
「ううん。愛理ちゃんも楽しんでくれていればそれでいいよ〜」
いつもの笑顔で…眩しい笑顔だ。 天満の誕生日会だっていうのに、私はひたすら、ここ1ヶ月の出来事を思い起こしてしまっていた。 その笑顔が彼の心を…私が望んでも掴めそうにないその心を掴まえたってことなのね…… 彼と天満のことを考えていた私にとって、そう思わずにはいられない。 同時にそんな自分に罪悪感すら覚えてしまう。 今は天満を祝う会なんだから…そう、心から祝わないと…… そう思い直して、私は自分でも暗いと思う考え事を止めようとした。
「ねえ、天満。その花束は?」
笑顔が絶えない天満を見なおすと、手に花束を抱えているのに気付いたので聞いてみた。 ただ、違う話に変えたかっただけ。
「あ…これ? さっきね、外で播磨君がくれたんだ〜。誕生日プレゼント。キレイだよね」 「そ、そうなんだ……」
なんて残酷なタイミングだろう。 自分で振った話だけど…さっきまでの暗い気持ちをなんとか持ち直そうとした途端にコレ? 再び暗い…言い換えれば醜いともいえる気持ちが蘇ってくるのが自分でもわかった。 ただ、天満にだけはそんなことを気付かれてはいけないという気持ちが、辛うじて私の顔を歪ませるの防いでいた。 でも…押さえきれるものでもない。
「しっかし、あのヒゲが花束をね……少しは女の子に対しての気遣いってものがわかったのかしら?」
自虐的ともいえる思いが次々と心に湧いてきて、それを口に出してしまうことは止められなかった。
「そうかな? 播磨君はいつも優しいよ?」 「そう? 私から見ればデリカシーの欠片もないし、品もないし、野蛮なだけに見えるわよ」
……違う! そんなこと言いたくない! なんで…なんで止められないの!?
「ええ〜、そんなことないよ。ホント、優しいよ。優しすぎるぐらいだよ…それに播磨君は知っていたんだな〜って……」 「知っていた…って、何を?」 「私が烏丸くんのことを好きなこと、かな……」
急に天満の笑顔に少し変化が生まれた。 慈愛的というか、憂いを帯びたというか、そんな複雑な変化。 でも、それは私にとっては些細な変化…天満がもたらした衝撃的ともいえる言葉には…… 彼は知っていた!?
「ね、ねえ…天満…ヒゲと『天満ちゃ〜ん! こっち来て!!』」 「あ、さがのん! 今行くからね!!」
いったい何があったの?という私の声が嵯峨野さんの声でかき消されて、天満は「あ、愛理ちゃん。ちょっと行ってくるね」と私に言い残すと、嵯峨野さん達が集まっている輪の中へと溶け込んでしまった。 確認する機会を失ってしまい、ただその言葉だけが私の心にリフレインされてしまった。 彼は天満のことが好き。それは既に確定的だ。 その言葉が事実なら…自分の好きな人が自分とは別の人のことが好きだってコトがわかっていても…それでもなお天満のことが好きだというわけよね…… つまり…それだけ強い想い…… 絶望的じゃないの…そんな…… どうしてよ! どうして…アナタは知っているのよね!? 天満が烏丸くんのことを好きだってコト。 それなのに…それなのに、それでも好きだってコトなの!? 私なんか…最初から入り込める余地すらなかったってコトじゃない!! 唇を噛み締めて、心の中でそう叫んだ。叫ばずにはいられなかった。 叫んで、叫んで…そして、叫ぶ度に深く、深く…沈んでいく。 そんな感覚が全てを支配しようとしたとき、ズキッとした痛みが私を現実へと引き戻した。 指を唇にそっと当てると、血が滲んでいた。 全く…どうにかしてるわね、私って。 今日は天満の誕生日会なのに。最初は心の底から祝っていたはずだし、楽しんでもいた。 苦手な納豆だって、そんな楽しいノリで食べたっていうのに。 それがたったひとりの…播磨拳児のことでこんな風になるなんて…… もう認めるしかない。 彼のことが好きだって。そして、天満に嫉妬してるんだって。 嫉妬してるっていっても憎いわけじゃない。 あの娘は私の大事な親友だから。 それに彼が天満のことを好きなことも納得しているつもり。 だって…私には持ってないあの笑顔を持っているのだから…… そう思うと、思わず自嘲気味な笑いがこみ上げてきた。
「完敗だわ……」
小さくひとりごちた。そして、周りを見渡してみる。 クラスの皆が、それに何人かの後輩も、皆が楽しそうに騒いでいる。 主賓の天満はその輪の中心で笑っていた。 でも…彼は…播磨くんは見あたらない。 ただ席を外しているのか、もう帰ったのか。どちらにしても、今ここにはいない。 再び圧倒的ともいえる絶望感が私を襲ってくる。 それが辛くて…悲しくて…やるせなくて…… 気付いた時には、私はメルカドから飛び出して、ひとり夜の街を歩いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
家に帰るわけでもなく、ただ道を歩いていた。 今は何も感じられない、何も考えられない。 吐く息の白さが寒いんだろうということを辛うじて教えてくれる。 ただ、そんな寒さも…どうでもいいこと…… すれ違う人も、車のヘッドライトの光も、街灯の明かりも、全てが違う世界に存在しているような…… まるでこの世界で私だけ隔離されているようだった。 そして、彷徨い続ける私がもう何処ともわからない橋を渡っていたとき、手に感じる微かな重みを感じた。 鞄だった。普段から愛用しているただの鞄。 なんでこんなものが今更気にな───!! 私は鞄の奥底に手を突っ込み、ひとつのモノをつかみ取った。 綺麗にラッピングされて…バイトまでして買った彼へのプレゼント。 結局…渡すことは出来なかったワケね……
「こんなもの!!」
そう叫んで、私は投げ捨ててしまおうと振りかぶった。 でも…手から、自分の手から離れなかった。離せられなかった…… だって…思い出が詰まっているもの…… まるで子供のように気持ちをワクワクさせて買ったものじゃない…… 彼のために買ったものじゃない…… ラッピングの上に幾つかの水滴が落ちた。 同時に頬が灼けるように熱くて…全てが滲んできた。
「バカね…私って……」
ホント、大バカよ…… 夜空を見上げてみた。 遙か頭上に浮かぶ半月が青白く滲んでいる。 その周りの星々も…全てが滲んで…何もかもが青く染まっている世界が広がっていた。
.....the end ──────────────────────────────────────── <あとがき> このSSはここで一端終了ということにさせて頂きます。 最初は#141、TELLING LIES IN AMERICAでの愛理の挙動には何かワケがあるはずという気持ちから、貧弱な妄想力を駆使して書き始めたものなので稚拙なストーリーだったかもしれませんが、最後まで読まれてくれた方に感謝を申し上げます。 また、プレゼントの行方を楽しみにされていた方にとって期待を裏切る結果だったかもしれません。 こんな結末しか生み出せなかった私自身の力不足のせいであり、お詫び申し上げます。 それと、最後は非常に少ない文書量となってしまいました。これも(悲恋な)世界に没頭してしまい、綴る言葉を失ってしまったのが原因です。ご容赦下さい。 最後に…こんな結末を書いておいてなんですが…これで愛理が失恋をしたという風には作者自身は思っておりません。 保証はできませんが、続編が書ける(妄想が思いつけば)、愛理の恋の復活劇を書きたいと思っています。 ご感想、ご批評などありましたら、是非感想掲示板までよろしくお願い致します。
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