最終話(播磨、他数名) ( No.13 )
日時: 2006/02/08 23:09
名前: くらんきー




 うーん・・・  ううーーん・・・・・・



「・・・っは!!  って・・・なんだ、夢かよ・・・なんて夢を見るんだ、俺は・・・」

 勢い良くベッドから起き上がる播磨。周りを見渡すと、自分はベッドの上にいる。
 状況から判断して夢であった事を確認すると、一つ 大きくため息をつく。

「悪い夢を見たぜ・・・」


 嫌な夢だったぜ・・・
 留年する夢・・・
 まあ心配しなくても、夢だけどな。
 なんせ今日は・・・



「卒業式か・・・」



 部屋の入り口に、知らぬ間に気配を消して立っている同居人。

「おわ! ・・・絃子、何時の間に!? つーか、いきなり話し掛けんなよ! びっくりするだろ!!」
「“さん”を付けんか“さん”を・・・」

 絃子は何時ものラフな格好とは違い、スーツを着てメガネを掛けている。
 播磨がいつもと様子の違う絃子に気付かなかったのは寝起きだからか? それとも驚きの余りにか・・・

「・・・まあいい。それより君もいよいよ卒業か・・・ なんだか淋しいな・・・」
「何言ってんだ? ガラにも・・・」


 カチャ・・・


「ナンデモナイデス オユルシクダサイ イトコサン」
「・・・今日は めでたい日だからな・・・ 君も卒業式前に怪我したくは無いだろう」

 目にも止まらぬ速さで照準を合わせた銃だが、くるりと回すとエモノを収めた。
 普段なら彼は間違いなく眉間を射抜かれていたのだが・・・
 何が彼女をそうさせたのだろう? ・・・って、卒業式か。忘れてた・・・


「それに・・・」


「今日はあの子に告白するんだろう?」
「な!? 何で・・・そ、その事を・・・」

 枕やら布団やらを放り投げ、固まる播磨。
 枕も布団も空中に浮いたまま、重力に逆らって落ちてこようとはしない。
 つまり、彼の周りは無重力。そんな奇跡的な現象が起こっているのをフツーにスルーする絃子はこう続ける。

「何年、一緒に暮らしてると思ってるんだ? 昨日、手紙を渡したんだろう?」
「んな事まで知ってんのかよ・・・」

 最早 隠し事は出来ないと諦めたのか、ガックリとうな垂れる播磨。
 絃子は「私の情報網は広いのだよ・・・」と言うと更にこう続けた・・・

「ま、頑張りたまえ。・・・私は先に行ってるよ。今日くらいは遅刻するんじゃないぞ?」
「分かってるよ」


 そこまで言うと絃子は部屋のドアを閉める。
 ・・・と同時に表情が少し曇った。


「ふふ・・・ 子供だ子供だと思っていたが・・・ もう、高校卒業か・・・」


 それに・・・ 何だ? この気分は・・・?

 心が・・・ズキッと痛むのは何故だ・・・?

 私は・・・嫉妬してるのか? 彼女に?


「・・・悪い冗談だ・・・」


 昔は「絃子ねーちゃん、絃子ねーちゃん!」と言ってなついていた彼が・・・
 他の女の子を好きになっているのは複雑な気分だが・・・

 当たり前の事じゃないか・・・

「応援してるよ・・・  姉として・・・」


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 いよいよ今日か・・・

 どれ程 待ちわびたか・・・
 それとは裏腹に この恐怖感は何なんだ?

 ただ・・・想いを伝えるだけだってのによ・・・



 ・・・・・・



「ああ! くそ!」

 (アタマを使うなんて俺らしくもねえ! 俺は考えるよりも先に行動する男だろう!? 何時もそうして来たじゃねーか!)

「よし・・・いくぜ!」


 運命の扉をゆっくりと開き、卒業式へと・・・戦場へと赴くため、彼は一歩を踏み出した。


 ―――矢神高校、卒業式後―――


「うわ〜〜ん! 皆、ずっと友達でいようね〜!」
「もう・・・そんな当たり前のことで・・・ ぐすっ ・・・泣かないでよ! こっちまで泣けてきちゃうじゃない・・・」
「え〜〜ん! エリちゃ〜ん!!」

 チラリと自分の好きなあの子の方を向くと、涙を流してクラスメートと抱き合っていた。
 その人物は彼女の親友でもあり、自分の天敵の『お嬢』と呼ばれる(播磨が呼んでいる)人物だった。

「・・・ちっ」

 彼女の涙を見たくなかったからか、それとも金髪が眩しい天敵に絡まれたくなかったからか・・・
 播磨は背を向けると、待ち合わせの時間まで時間を潰すべく屋上へと向う事にした。



 ザッ・・・



「・・・卒業か・・・」

 色々あったぜ・・・ 本当に・・・
 お嬢にパシリをやらされたり、
 あれは誤解解くのに苦労したよなー・・・『塚本 八雲との恋人疑惑』
 色々あったが・・・

 ・・・今日、全ての決着をつける。
 後は 待ち合わせの体育館裏へ行くだけだ・・・


 覚悟を決めろ! 俺!


 気合を入れ直すと、播磨はその場を後にした。


 ―――20分後、体育館裏―――


「待たせたな」

 播磨の声に、彼女のトレードマークの括られた髪の毛がぴょこんと動く。
 くるりと振り向いた彼女の目に、先程までの涙は露ほども残っていない。

「あ・・・ ううん。全然待ってないよ。播磨君」

 ニッコリと笑うとこう返してくる。

「話って何なの? 知らない間に手紙が入ってたから ビックリしたよ」
「あのな・・・ 俺・・・ 俺、実は・・・」

 彼女の笑顔に一瞬見とれ、時間が止まる。
 そして我に返った瞬間に心を決めた!



 砕けろ! 俺!



「ずっと・・・お前のこと・・・・・・好きだったんだ!! 付き合ってくれ!!」

 言った・・・ 言っちまった・・・
 この俺の本心を知った君は・・・一体どう応えるんだ?

 どうなっちまうんだ・・・ 俺は・・・


 足元がなくなって、果てしない奈落に落ちていくかのような感覚に陥る。
 平衡感覚がなくなって、後ずさってしまいそうになるのを必死で堪えていると、彼女がゆっくりと口を開いた。

「嬉しいよ・・・ 播磨君・・・ 私も・・・あなたの事が好きだったの・・・」

 彼女の口から最高のセリフが返ってくると、播磨の強張った表情が一瞬にして緩む。
 ・・・が、その割には「信じられない」という気持ちのほうが強く、驚愕の表情で再度問いかけてみた。

「マジか!?」
「嘘でこんな事言わないよ・・・」


 か、感激すぎる!!
 生まれてこの方、こんなに幸せだと感じた事はねえ・・・
 俺は・・・俺はこの瞬間の為だけに生きてきたのかも知れない・・・


「じゃあよ・・・ な、名前で呼んでもいいか?」
「え!? う、うん・・・じゃあ私も。 ・・・なんだか恥ずかしいけど、い、言うよ?」
「お? お、おう・・・」

 ごく・・・





「私も・・・あなたの事が好きです! ・・・修治君」





「ゆ、夢じゃねえ! 俺の想いが遂に・・・!! 嘘じゃねえよな? 美緒!?」
「ホントだよ〜〜」


 ・・・えーと、話がよく分からない方のために少し説明を入れておこう。

 彼の名は播磨 修治。この上なく分かりやすいフツーの高校生だ。
 そんな彼は恋をしていた。
 彼が惚れた女性。彼女の名は天王寺 美緒。ルックスもスタイルも普通。たぶん・・・

 で、そんな彼は美緒にアプローチしまくっていたのだが、ことごとくスルー。
 更に体育祭の時、彼女の親友で留学生のエリザベス、通称『お嬢』とオクラホマミキサーを踊ったため誤解を招き、
 挙句の果てに昔好きだった女性、塚本 八雲との噂が流れ出したため、ますます想いを伝えにくい状況になっていた。

 そして今日、全ての決着をつけるべく彼女に自分の気持ちを・・・え? どこかで聞いた事のある話? 気のせいです。



 ―――エリザベス、金髪の留学生。オリジナルキャラ。



「ん? 修治君。あれ、修治君のお兄さんじゃない?」
「ホントだ・・・ おーい兄ちゃーん!」

 少し離れたところに修治の兄を発見した美緒。
 修治の兄、その人物は・・・

「・・・お? 修治じゃねぇか・・・ 元気か弟よ・・・」

 皆さんご存知、播磨 拳児。
 ちょっとは弟思いなところもあるのだろう、修治の卒業式には学校に顔を出しているようだ。

「最近なんだか、屍みてーだけど大丈夫かよ?」
「言うな・・・」

「ところで播磨先輩・・・じゃなかった。え〜と、播磨さん、卒業式に出てませんでしたよね?」
「当たり前だ! 俺は二年生だ!」



 ―――って、おい!



 ここで確認、播磨は高校二年生。そして、修治と美緒は今日卒業・・・
 ・・・って事で播磨は普通に学校に来ていただけで、弟の卒業式に駆けつけたという訳ではなかった。
 挙句、卒業式(在校生側)をサボっていた。

「でも、校歌とか送辞とか・・・」
「出るワケねーだろ!!」
「ところで、兄ちゃんは いつ卒業するんだよ?」
「知るか・・・ 絃子に聞け・・・」



 ―――播磨 拳児、7回目の留年。



 俺の名は播磨 拳児(24)・・・
 未だ高校二年生をしている・・・


終わり・・・


   ◇   ◇   ◇   ◇   ぷらす  あるふぁ   ◇   ◇   ◇   ◇


 ・・・で、今回はどっちだろ?


「英語か・・・」
「もー、ヒゲってば! また赤点取ったの? ・・・しょうがないわね! 私が教えてあげるわよ! ・・・二人っきりで♪」
「おい、お嬢・・・」
「沢近先生でしょ! ・・・もしくは愛理よ!」

「愛理は大学卒業後、矢神高校の英語教師に・・・」
「晶、いちいち説明入れなくてもいいわよ」
「・・・つまんないわね」



 〜あとがき〜

 これで『EASY RIDERS RETURN+α』は全て終わりです。
 このSSに最後まで付き合ってくださった方、本当にありがとうございました。

 最後の『ぷらす あるふぁ』は、おまけの様なものですが、これからの播磨のことでもあります。
 『ぷらす あるふぁ』を読んで下さったことによって、このSSの続きを少しでも想像していただければ幸いです。
 では・・・



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