オールバックに恋をして(播磨×八雲+高野)

 
  
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ユグゼルド



登録日: 2008年2月 28日
投稿記事: 15
所在地: 引越しの後、沖縄

投稿1時間: 2008年3月16日(日) 10:07    題名: オールバックに恋をして(播磨×八雲+高野)    

機械と自然の融合体、ユグゼルドです
今までの作品を読んで頂いていれば御分かりでしょうが…
私、おにぎり派です!
しかし、それはキャラとして播磨と八雲が好きというだけでいて…
実は、播磨とのコンビなら誰でもいけます!
と、言う訳で今回は携帯とおにぎりのコラボで書いていきたいと思います
感想など頂けますと非常に嬉しいです

それでは、どうぞ…
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ユグゼルド



登録日: 2008年2月 28日
投稿記事: 15
所在地: 引越しの後、沖縄

投稿1時間: 2008年3月16日(日) 10:07    題名: オールバックに恋をして    

夕焼けで紅く染まった屋上の地に、二つの影が伸びる。
大柄な男、播磨券児がおもむろに口を開く。

「塚本、…お、俺は、俺はお前の事が好きだー!!」

全力の叫びは小柄な少女、塚本天満の耳へと確かに届いていた。

「………播磨君、…その、私好きな人が居るの…。だから、…ごめんなさい!」

実に申し訳なさそうに頭を下げる天満。
しかし、播磨は余裕の笑みで其処に立っていた。

「烏丸だろ? 好きな奴って」

下げていた頭を上げ、小さく一度だけ頷く天満。
その顔は、まだ哀しみの色に塗られていた。
腰に手を当てて大きく空を仰ぐ播磨。

「分かってたんだ。お前が、烏丸の事を好きなんだって事は…」

顔を下ろし正面の少女を見つめる播磨。

「…でもよ、やっぱし、ケジメをつけたかったんだ」

微笑みを浮かべていた播磨の顔が少しづつ崩れていく。
「これを言わないと、答えを聴かないとな。俺って情けない男だから、無駄な努力しちまうんだよ」

天満から顔を反らし、反対側のフェンスに向かう播磨。

「悪ぃな、塚本。こんなことに付き合わせてよ」
「ううん、播磨君の気持ち、凄く嬉しかったよ。…また、明日学校でね」
「あぁ、また…明日な」

天満は身を返し、屋上から出ていく。
と、同時に播磨が泣き出した。
声を出さない男泣きだったが、何時まで経っても涙は渇れなかった。

(……ちくしょう、此れ迄か…)

すっかり日が暮れて、校内には播磨独りしか居ないという時間になってようやく
彼は動き出した。
何もかもが色を失った世界で、播磨は習慣だけを頼りに家へと戻った。
家には家主である絃子の姿が無かった。
しかし、播磨にとっては余りにもどうでもいいことだった。

(寝よ…)

夕飯を食べることも、風呂に入ることも、着替えることも忘れて、播磨はベッドへと倒れこんだ。

(てん…ま……ちゃん)







ピピピピピピッ!、ピピピピピピッ!
目覚まし時計が鳴り響く部屋の中で、播磨は目を覚ました。
それはいつもと変わらない朝の風景のはずだったが、彼にとっては地獄の様な朝でしかなかった。

(…朝かぁ。…学校、行きたくねぇな)

身を起こしボンヤリとする播磨。
昨日の出来事をありありと思い出す。
天満に振られたこと。
その申し訳なさそうな顔。
最後に交した約束。


――――また明日学校でね


彼女の言葉が、鎖の様に纏わりつき播磨の体を動かす。
(学校、行かねぇとな。約束したんだ…)
ノロノロと体を動かし部屋を出る播磨。
当然のことだが、登校の準備は何も必要なかった。
ただ、天満と顔を合わせることへの決意以外は。
(大体天満ちゃんに会うために入った高校何だから、もう用はないよな…?)
そうは思いつつもバイクに跨る播磨。
色々なことを考えていたが、その思考の隅には必ず天満の笑顔があった。


――――また明日学校でね


(…あぁ、俺は、まだ好きなんだろうか)

しかし、播磨は天満のことを考えても以前の様な苦しい感覚を味わなくなっていた。

(…分かんねぇ。俺は、どうしたらいいんだ?)

中学からの淡い恋心を振り払う様に播磨はバイクのスピードを上げた。





天満に振られてから約一週間。
播磨の生活は客観的には何も変わることはなかった。
実際、彼の異変に気付いたのは只独り、彼の異変を知ったのも只独りだけで、彼の生活は何も変わっていなかった。

異変を知った二人の名前は高野晶と塚本八雲。
今回はその二人と播磨との物語を綴ることにする。




それに気付いた少女、高野 晶の場合。



朝のHR前。
晶は窓際の席で空を眺めていた。
流れる雲も無い、まさに晴天の空。
しかし晶は視覚に集中しているわけではなかった。
むしろどの感覚神経に依存せず、ある一人の男に想いを馳ていた。

(播磨君、今日も遅いわね…)

主人の居ない席に目を移す。
ぼんやりとピントが合わなかったが、直ぐに修正が効く。

(最近、様子がおかしいのよね…)

席から目を離し、烏丸と仲良さそうに語り合う親友に目を向ける。

(まぁ、予想は付くけれどね…)

天満のぎこちない対応。
播磨の遠慮した態度。
二人の間の錆び付いた空気。
晶は、播磨が告白して振られたのだという事実に辿り着くのに、十分過ぎる要素が感じとれた。

(…私って、最低ね)

晶自身、ハッキリと本音を言えばこの状況が嬉しくて堪らなかった。
播磨の視線が天満から逸れた、この状況が。
だが、だからこそ、そんな風に考えてしまう自分が大嫌いだった。
自分から動きもしないのに、ライバルが減ったと言う事実にだけは喜ぶ自分が嫌だった。

(このままじゃ、…中途半端なままじゃ駄目)

容赦無く照り付けて来る朝日を背に、少女は一つの決意をした…。

一般的な高校にならば必ずある昼休み。
晶は屋上に来ていた。
空は相も変わらず晴天の日照り。
心地好い風が吹き、過ごしやすい空間なのに、晶以外に人はいなかった。
孤独の恐怖を感じる場所。
其処で晶は、強い意思を目に宿して一点を見据えていた。
永遠に動かないかの様にそこは不変だが、晶には確信があった。

(彼は、必ず来る…)

面倒くさそうに、屋上の扉が動き出す。
大柄な男子生徒。
播磨だ。
晶にとっては必然の事象。
彼に此処に来るように頼んだのは彼女自身なのだから。
後ろ手に扉を閉めた播磨が晶へと視線を向ける。
サングラス越しでも分かる。
播磨の疑問の色が…。

「…メール、見てもらえたようね」

目線を捉えたまま晶が口を開く。

「あぁ。…で、何か用か?」

晶に近付き、歩きながら問掛ける。

「えぇ、少し話したいことがあって」

晶まで三歩、その地点で立ち止まる播磨。
背が高いわけでも無い晶にしてみれば、この距離で話をするのには辛いものがある。
だが、晶の双眸は決して播磨を逃さない。

「…天満と、何かあったの?」

晶は、播磨はこの事実がバレている事に驚愕するものだと考えていたが、播磨の反応はあっさりしたものだった。
ゆっくりとした返事。

「…塚本から、聞いたのか?」
「いいえ、私の勘」
「…そうか」

逆に晶が驚く程に播磨は落ち着いていた。

「天満に、振られたのね…?」

晶の言葉は疑問型ではあったが、確信に近いものが含まれていた。

「…あぁ」

太陽がよく目立つ空を振り仰ぎ、播磨は天を見つめた。

「天満のこと、好きだったのね…?」
「…いや、好きだ。今も…な」

視線を落とし、播磨は晶の目を見つめ返す。
晶は、播磨が屋上に来てから一度も播磨から目を反らしていない。

「しかし、よく分かったな。高野」
「…」
「誰にも気付かれない様にしてたつもりだったんだが…」
「私は、誤魔化せないわ」

その言葉に、すぐに浮かび上がる疑問の念。
それは、屋上に来た時の物よりも明確で、簡単な気がした。

「…何でだ?」
「…」
「何で、お前は騙せないんだ?」

播磨は深い意味を求めたわけではなかった。
只、口を突いて出た疑問に過ぎなかったのだ。
つまり、播磨は晶の目の奥に在る意思に気付いていたわけでは断じてない。
だが、播磨は尋ねた。
晶の答えを求めたのだ。
見つめ合う二人の間の距離は歩幅三歩。
心の距離はどうだろうか…?

「貴方が天満を見ていた様に、私は貴方を見ていたから…」
「…?」
「私は、貴方が好きだから…。分かるわよ」
「……………はっ?」

突然、周りを見回す播磨。
しかし、屋上と言う空間には二人しか居なかった。
当然、播磨はそれを確かめたのだが…。

「…お前、それ本気で言ってんのか?」

晶は返事が出来そうになかった。
外観は何も変わらない無表情だが、精神は気絶しそうな程にプレッシャーを受けている。
だから、一度だけ頷いてみせる。

「…えーと。…な、何て言えば良いのか、分かんねぇけどよ…」

顔を紅く染め、播磨は何故晶が自分を呼び出したのかを理解した。
告白する為だ。
理解すると同時に、一気に恥ずかしさが増してくる。
そして、申し訳ない気持ちも…。

「そ、そのよ。そう言ってもらえんのは嬉しいんだが、「待って!」」

播磨の言葉を遮る晶。
二人の距離はたったの歩幅三歩。
それを、一歩縮める。

「分かってるわ、播磨君。」

また、一歩。

「天満の事が忘れられないんでしょう?」

二人の距離は歩幅一歩分。

「別に、今は構わないの…。只、何時までもそのままではいられないわ…」

制服の裾を掴まれる播磨。

「だから、私にチャンスを頂戴」
「…どういうことだ?」
「…貴方を振り向かせてみせるから、返事はもう少し待って欲しいの」

目の前には漆黒の瞳。
まだ、反らさない。

(何て真っ直ぐ人を見るんだ…)

吸い込まれそうだ。

「…分かった。返事は、必ずするからよ」
「えぇ…」

裾を掴んでいた手を引き、晶は播磨を屈ませる。
自分は背伸びを。
とても自然に重なる二人の唇。
目を閉じていたが播磨には自信があった。

(高野は、目を反らしてねぇ…)

「…それじゃね」
「あぁ…」

離れて目を開けると、晶は今まで見せたことのない微笑みを浮かべて其処に立っていた。
結局、晶は播磨から目を離さなかった。
そして、それに気付いていた播磨。
少女の決意の堅さを知らされたのだ。
だから、自らの想いがどの程度か考えた。

「天満ちゃん…」

(やっぱ、まだ好きだ…)

「断るしかねぇかな…」

(でも、待てって言われたし…)

先程まで一緒に居た少女が出ていった扉を見つめる。
思い出したのは、可憐な微笑み。

(あいつ、あんな顔出来たんだな…)

高野晶の勝負が始まった。



それを知らされた少女、塚本八雲の場合。


晶からの告白を受けた播磨は、教室には帰らず屋上に残っていた。
昼休みも終わり、今は放課後だ。
だが、時間の流れに播磨は囚われて居ない。
晶の言葉だけが、彼を掴んで離さない。

(しかし、俺を好きだなんて変な女だな…)

フェンスに肘を付き、手に顎を乗せてボンヤリと空を眺めていた。
グラウンドで運動部が活動を始め出す。
校外に活気が宿り、校内が廃れてゆく。
播磨はそれに気付いていない。

(そういえば、俺が告白したのも屋上だったよな…。やっぱ皆屋上でするんだな…)

適当な考え事を繰り返して、時間を潰していた。
その時、播磨の携帯が震える。

(誰だ?)

携帯を開くと送信主が、堂々と記載されていた。

(妹さん…?)

『播磨さん、今すぐ会えますか?』

簡潔な文が画面に浮かぶ。
少し悩んだ播磨だが、すぐに返信する。

『いいぜ、何処で会う?』

打ち終わると、屋上では無いだろうと思い扉へと向かう。
重たく冷たい扉を開けて校内に戻ろうとすると、目の前に八雲が。
そして、それを認識するとすぐに携帯が震え出す。
播磨はそれを見なかったが、内容に検討は着く。

(屋上で会うつもりだったのか…)

膠着した時間の中で先に動き出したのは、播磨だった。

「…よぉ、妹さん」
「こ、こんにちは。播磨さん、屋上にいらっしゃったんですね…」
「おぉ、ちょいと考え事をな…」

播磨は出ようとしていた体を引っ込めて、屋上に戻る。
そのまま扉を抑えて、八雲を促す。
昼休みと同じ様に、二人きりの空間が出来上がった。
計らずも、二回とも女性からの誘い。
勘の良い人なら気付きそうなものだが、播磨は全く気付かなかった。
まぁ、それも仕方がない。
八雲と屋上に来る事は、彼にとって珍しい事では無いからだ。

「…で、何か用か? 妹さん」

晶の時と同じ立ち位置。
二人の距離は歩幅三歩。
違うのは、晶が八雲だということだけ。
恐らくこれから起こることも。

「…播磨さん、最近漫画を見せてくれませんね?」
「あ、あぁ…」
「何かあったんですか…?」

胸が痛む八雲。
少女は知っていた、播磨に何があったのかを。
姉から、知らされたからだ。
『誤解してて、ゴメンね』
と、謝れて何があったのかを聞かされた。
八雲もまた、この状況が嬉しくて堪らなく、そして、凄く嫌だった。
播磨が傷付いている状況に喜ぶ自分が嫌だった。

(ごめんなさい、播磨さん。 でも、貴方が好きだから…)

「…漫画は、もう描かない」
「…」
「もう、意味を無くしたからな…」

八雲の目が、哀しみに染まる。

「…播磨さん」
「ん?」
「姉さんから、聞きました…。 此処で何があったのかを」
「…!?」

播磨は自分の告白の事実を知られていることよりも、それを天満が話した事に驚いていた。

「播磨さんと私の仲を誤解していた事を謝ってくれたんです」
「…そうか」

安堵する播磨。
天満は自分を裏切っていなかった。

「…姉さんの事、好きだったんですね?」

本日、二回目の質問。
何故か、答えが変わっていた。

「あぁ、好きだった…」

(だから、漫画を描いていたんだ…)

「だから、もう漫画は描かない」

(…あぁ。やっぱ、もう諦めてんだな)

「もう、良いんだ…」

二人の距離は歩幅三歩。
何時までも変わらない。
心の距離も、体の距離も。

(このままじゃあ、私は何時までも妹さんのままだ…。 そんなの嫌…!!)

「…わ、私は、播磨さんの漫画好きです!」

少し驚いた表情の播磨。

「…アリガトよ、そう言ってくれるのは妹さんだけだぜ」
「妹さんじゃあ、ありません」
「ん?」
「…や、八雲です」

八雲は焦っていた。
すぐにでも、自分を解き放ちたかった。
姉から、塚本天満の束縛から。
塚本天満の妹ではなく、塚本八雲として播磨に見て欲しかった。
それを知ってか知らずか、播磨は…。

「…そうだよな、何時までも妹さんじゃ失礼だよな」
「…」
「悪かったな、八雲」

少女の胸に何かが溢れ出す。
とても温かいそれを、もっと欲しくなる。
永遠に無くならない欲望。
八雲は、それを押し留められない。

「私では…」
「?」
「私では駄目ですか?」
「…何がだ?」

顔が真っ赤だが、隠さない。
決して、俯かない。
ハッキリと言い放つ。

「播磨さんの漫画の、ヒロインになれませんか…?」

再び驚愕の播磨。

「…そ、それってつまり」

歩幅三歩の距離を一気に詰める。
大柄な青年の体に腕を回し、思い切り抱きつく。

「貴方が、好きです…」

蚊が飛ぶ様な小さい声だったが、播磨の耳にはしっかり届いていた。
その証拠に彼の顔は、紅くなるか蒼くなるか迷っている。

(同じ日に、二人から告白なんて…。ホントに漫画みたいな展開だな…)

「そ、そのよ、八雲…」
「…」

八雲は抱きついたままで播磨の言葉を待つ。

「…へ、返事は少しだけ待ってくんねぇか?」
「…?」
「そ、その、ちゃんと考えて、答えを出してぇんだ」

そう言って、ゆっくりと八雲を離す。
体に埋めていた顔をあげ、見つめ合う。
互いに、本気なのだという意思を汲み取る。

「…分かりました、御返事待ってます」
「あぁ…」

もう一度、抱きつく八雲。
今度は胸ではない。
くっついたまま時が流れる。
晶の時と同じ様に重なる二人の影。

「…さようなら、播磨さん」
「あぁ、じゃあな」

八雲を屋上から見送り、 何もかもが同じだと気付く播磨。

(…高野と八雲、か)

頭の中に三人の女性が浮かび上がり、笑顔の似合う少女がすぐに消えた。
残ったのは無表情な少女二人。
二人共が、微笑みかけてくる。

(俺、どうしたら良いんだ…!?)

播磨の悩みは天満に振られた翌日の物とは、要点が違っている。

塚本八雲の勝負も、また始まった。
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ユグゼルド



登録日: 2008年2月 28日
投稿記事: 15
所在地: 引越しの後、沖縄

投稿1時間: 2008年3月25日(火) 15:56    題名: 一夜明けて、運命の道    

運命の日、翌日。
播磨はベッドの上で悩んでいた。
その悩みは、天満に振られた事よりも深く重く、乗し掛っている。

(…やっぱヤバイよな。昨日は普通に告白を受けちまったけど、二人からなんて…)

一晩の間に何度も同じ事を考えていたが、行き着く先も、やはり同じだった。

(どうしたら良いんだ…!?)

只、それだけ。

終には解答が出来上がる前に時間制限が来てしまう。

「券児君!早く起きないと遅刻してしまうぞ!」

部屋の外から、絃子の声とドアを叩く音がする。

(学校、行きたくねぇな…)

「今日は休む!」

布団の中にモゾモゾと隠れながら、播磨は叫んだ。

「………本当に休むつもりかい?」

ピタリと音が止み、一瞬空気が固まる。
刹那の静寂は、一発の銃声で破られる。
未だ、着けたままのサングラスから目が飛び出る播磨。
必然の反応だ。
部屋の扉の取手は無惨に姿を消し、掛けていた鍵は跡形も無くなった。
ギィィ…、と勝手に開いていく扉。
其処に立っていたのは…。

(お、鬼だ!鬼が居る!!)

魔王として君臨する播磨をも恐れさす般若が居た。
その名も、刑部 絃子!
本物としか思えない程精巧なモデルガン(煙が出てる!?)を片手に持ち、彼女は播磨に近付く。

「播磨君、今日は君に課題を与えていたはずだが…」

良く分かっている。
昨日はその事にも悩まされていた。
悩んだところで解けはしなかったが。

「まさか、私の授業を受けないつもりじゃあないだろうね…?」

次弾を装填する絃子とガタガタ震える播磨。
滑稽な光景である。

「きょ、今日だけは勘弁してくれ、絃子!いや、絃子さん!」
「駄目だ、早く起きたまえ」

布団を剥がされ無防備になる播磨。
威嚇に二、三発周りに撃つと、ようやく観念したのか播磨が起きる。

「わぁーたよ!行きゃ良いんだろ、行きゃあ!」
「その通りだ、早く準備したまえ」
「なら、…着替えるから出てけよ」

播磨の言葉を鼻で笑いながら、絃子は壊れた扉から部屋を後にした。
そうして騒がしい朝を過ごした播磨だが、絃子とのゴダゴダのおかげで開き直る。

(そうだよな、何で俺が逃げなきゃいけねぇんだよ…。二人とは約束したんだし、俺の答えをキッチリ出せばいいんじゃねぇか)

だから、それまでは普通に。
普通に過ごしたい、と。
播磨は、少しだけ解答を先延ばしにした。
今はまだ、この状況に甘えていたかった。
その判断が吉になるようにと、願いながら播磨はバイクのエンジンを入れた。

登校の後。
播磨は晶の態度を気にしていたが、普段と何ら変わりない生活に不安を覚えだす。

(…あれ〜、俺って告白されたよな?)

しかし、その不安はすぐに解消され、新たな不安が彼の前に立ちはだかる。

(やべーな…、結局絃子の課題分かんなかったぜ)

そう、次は四時限目。
物理の授業である。
与えられた課題は未だ解けておらず、播磨は苦悩していた。
教科書を睨みつけるが、一向に答えは分からない。
そんな播磨を友人達の輪から見守る晶。
播磨は気付いていない。
晶が見ている事にも、輪から抜け出した事にも。

「…課題、解いてないの?」
「あぁ…、どうしたら良いんだ?」

誰が話し掛けてきたかも確認せず反応する播磨。

「私が教えてあげる」
「本当か!?いや、すまねぇ…なぁ」

無感情な声の申し出に顔を上げる播磨。
誰なのかを視認した目玉が飛び出る。

「た、た、たか、高野!」
「何?」

驚くのも無理はない。
晶は今まで播磨に対して何事もなかったかのように振る舞っていたのだ。
そこへ突然この申し出。
目玉を引っ込めてる播磨を無視し、目の前に座る晶。

「何ページだったかしら?」
「…」

沈黙の播磨。
少しずつ落ち着きを取り戻す。

「…教えて欲しくないの?」
「い、いや。そういうわけじゃねぇけどよ…」
「なら、教科書を開いて」

(…あれ、本当に教えてくれるだけか?)

と、疑問に思う播磨。
本人が教えると言っているのだから、それ以上でもそれ以下でもないだろう。
だが、質問してみる。

「い、一体何のつもりだ?」
「課題が解けない貴方に、勉強を教えて上げるつもりだけど…?」

前半を強調する晶。

「だから、何でだ?」

答えに詰まる。
それは、言葉を持たない者の迷いではなく、言うべきか言わざるべきかの迷い。
彼女は数秒の後、覚悟を決めた。
播磨を現実に連れ戻す一言。
ボソッと、二言。

「…好きだから、助けたいの」
「……………!?」

無表情な頬を朱色に染めながら呟く晶。
恥ずかしさが十分伝わってくるが、彼女は目を反らさない。
あの時と同じ。

「あ、アリガトよ…」

そう意識すると妙な気分になってくる播磨。
課題の説明をする晶を正面に携えているために、視界に必ず入る唇。
教科書の文字をなぞる、細い指。
そして何より、漆黒の瞳。

(…コイツ、こんな綺麗だったか?)

ボンヤリと晶を見ていたために、話は右から左に流れていた。
朱色は未だ引かないままの頬。
端正に並んだ睫。
美しくそびえ立つ鼻。
話に関わらず播磨は晶に集中していた。
全ての説明を終えてから、それに気付く晶。

「…聞いてた、播磨君?」
「えっ…? わ、悪ぃ。 聞いてなかった…」
「なら、もう一度ね」

宣言すると、再び教科書に顔を戻す晶。
流石に今度は播磨も課題に集中していた。

「…成程な、やっと分かったぜ」
「理解してもらえた様ね」
「あぁ。サンキューな、高野」
「どういたしまして」

暫くは要点をまとめている播磨を眺めていたが、授業開始のチャイムが鳴ると晶は何事も無かったかの様に席に戻った。
再び夢に誘われる播磨。

(さっきの言葉、聞き間違いじゃねぇよな…?)

小さな口が紡いだ言葉。
好きだから。
もう晶の姿は前に無いのに、今更になって顔に血が通い出す。

(やべーな、やっぱ夢じゃねぇ…)

物理の授業の間、絃子の集中放火に合いながらも播磨は晶の事を考えていた。

(知らなかった、アイツあんなに綺麗だったんだな…。天満ちゃんの暗い友達くらいにしか思って無かったぜ…。ヤバイ、何か凄ぇ胸がズキズキする…。何でだ?)

かなり好感触の模様。
晶、大幅リードだろうか。

時は流れ昼休み。
大分落ち着いた播磨は、今日は昼食が無い事を思い出した。
月末で金が無い為に水で腹を誤魔化すのだ。

(今日も水だけか、きついぜ…)

健全な男子高校生にはかなり厳しいものがある。
しかし、播磨は不良にしてはカツアゲもしない珍しく男気のある悪なので此処は我慢する。
と、自画自賛しつつ席を離れ教室を出ようとする。
行き先は当然、播磨のオアシス水飲み場。
課題にもキッチリ答えられ、上機嫌に鼻唄を歌いながら播磨は扉を開けた。
そして、タイミングばっちりで八雲がいた。
何のタイミングかと言うと、当然扉を開けるタイミング。
彼は外に出ようとし、彼女は中に入ろうとしていた。
屋上の時とは、逆だ。

「よ、よぉ。八雲…」
「こんにちは、播磨さん」

つい意識してしまう播磨。
障害を隔てずに見合う二人。
二人を遠くから凝視する晶。
ついでに愛理も。

「てん、……塚本なら中に居るぜ」
「い、いえ。姉さんに用はないんです」

八雲の台詞を敏感に聞き付ける男。

「…つまり、僕に用があるのかい? 八雲君!?」
「違います」

花井玉砕。

「あの、播磨さん。御飯無いかと思って…」

小さな手で大きな弁当箱を差し出す。

「えっ…!?お、俺にくれるのか?」
「…はい」

晶の朱色が薄かったと思える程に、顔を紅くする八雲。
震える八雲の手から弁当を受け取る播磨。

「アリガトよ、八雲。飯無くてよ、助かるぜ」
「良かった、です…」

八雲は素直に自分の気持ちをさらけだす。
姉にしか見せたことのない満天の笑み。
心の底から自らをさらけだしたのだ。
魅せるのは播磨だけ。

(………!?うわー!ヤバイ、かなり可愛い!そういえば八雲の事、そんな風に見たこと無かったな…。やべー、凄いドキドキする…)

八雲もまたかなりの好感触だ。
しかも…。

(は、播磨さんが、わ、私の事を可愛いって!?)

ばっちり心の中を見たために八雲は色々手にいれてしまった。
紅く染まる顔。
歓喜の感情。
ついでに、女としての自信まで。
二人にとって至福の時であった。
二人にとっては…。

更に時は流れ放課後。
播磨は痛む胃を抱えながら歩いていた。
行き先は茶道部部室。
携帯に二件のメールが。

『茶道部に来てもらえるかしら?』
『播磨さん、部室に来て頂けませんか?』

自分の将来を考えるとキリキリと鈍い痛みが走る。
どう考えても二人にばれてる。
二人から告白を受けた事が。

(ちくしょー、やっぱ答えを出しときゃ良かったぜ…)

茶道部部室までの短い距離。
無い頭を精一杯に捻り、考える。
だが、結局は…。

(どうしたら良いんだ…!?)

歩く足は目的地へ。
行き着く先は地獄か天国か。
播磨はスタートラインへと辿り着いた。

(もうどうにでもなれ…!!)

思い切り開く扉。
茶道部への入り口が開かれる。
逆光で顔が見えない二人の美少女。
表情が読めない。
そのせいで、恐怖が余計に増える。

「入って、播磨君」
「…おお」

播磨は茶道部へと足を踏み入れた。
播磨の運命やいかに…。
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ユグゼルド



登録日: 2008年2月 28日
投稿記事: 15
所在地: 引越しの後、沖縄

投稿1時間: 2008年4月12日(土) 17:16    題名: オールバックに恋をして    

「話は聞いたわ、播磨君」

詰問口調の晶。
既に降参状態な播磨だが、敢えて無理を重ねる。

「話って…、何の事だ?」
「播磨さん。 先輩からの告白も受けていらしたんですね…」

きっちりバレてる。

(不味い!…このままだと最低男のレッテルを貼られる)

自ら後ろ手に閉めた扉に背を着ける。
固く冷たい扉は二度と開かないと暗示させるものがある。
自身と扉の間を嫌な汗が流れる。

「どういうつもりかしら、播磨君」
「…答えて下さい」

ジリジリと間を積めてくる二人。
身を縮める播磨。
更に積める二人。
どうする、播磨!

(逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ…)

終に追い詰められた播磨。
そして…。

(こうなったら、あれしかねぇ…!)

秘策中の秘策を思い付くのだ。

膝を折り曲げ地に着ける。
同じ様に両手をハの字にして地に着ける。
そして、顔面を思い切り振り下げて両手の元へと。

「すまねぇ! 二人を騙すつもりじゃないんだ…」

いわゆる土下座である。

「まだ、気持ちに整理が付かなくて」

青年を見下ろす四つの瞳。
少しずつ困惑に染まっていく。
顔を見合わす二人。

「…そういうことなら」
「えぇ、仕方ないわね…」

その台詞に顔を上げる播磨。
歓喜の色に染まっている。

「ほ、本当か!?」

俺の判断は間違っていなかった。
そう思い、播磨は心でガッツポーズをした。

「但し!」

追い詰められていた播磨。
状況は変わっていないので相変わらず二人が眼前に。
それが段々と左右に別れていく。
気付いた頃には両腕をガッチリとホールドされている。
耳元で囁かれる二つの美声。
男冥利に尽きるはずなのだが、播磨は再び冷や汗が流れるのを感じた。

「播磨さん。必ず、答えを」
「出してね。播磨君」
「「信じてます」」

蒼き空の元で、新たに大きなストレスが…。
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