TIME IS ON MY SIDE

 
投稿者 メッセージ
たれはんだ



登録日: 2007年11月 26日
投稿記事: 9

投稿1時間: 2008年5月03日(土) 23:58    題名: TIME IS ON MY SIDE    

こん**わ たれはんだです。

三作目ができましたので投稿いたします。

これは旧S3にて投稿したものなのですが、その後まもなくして諸々の事情からサイトがリニューアルとなり、それと同時に消えてしまったものです。
私の手元には書きかけのものしか残りませんでしたので、これを機に色々と書き直し、改めて投稿させていただきました。

最後まで読む事が出来ましたら、感想などよろしくお願いいたします。
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たれはんだ



登録日: 2007年11月 26日
投稿記事: 9

投稿1時間: 2008年5月04日(日) 00:01    題名:    

TIME IS ON MY SIDE



 深夜 目が覚める

 暗い部屋 いつもの天井 頬を伝う涙

 「また、『今日』が過ぎていく」

 結局 私は独りぼっち


***


 今日は教師達の研修のために授業は午前中で終了、私もここ最近にしては珍しく、
”公私共に”予定が白紙の状態となった。

 (迂闊だったわ。こうなるなら事前にバイトを入れていたのに)

 普段なら前もって情報を入手しておいた上で、綿密にスケジュールを立てておく所
なのだが、今回は珍しくも予想外の事。

 (まぁ、こういう日もあるか)

 確かにその分の収入が無いのは残念ではあるけど、読みかけの本も溜まっている事
だし、今日は久しぶりにゆっくりとした時間を過ごす事にする。

 ガラッ

 この時間、茶道部部室には誰も無く、レースのカーテン越しに薄く入る太陽の光と、
外から聞こえる生徒達の喧騒を感じるだけ。

 (さて)

 カバンをテーブルに置き、窓を開けて風を入れると食器棚から専用のティーカップ
を出そうとして、ふと思い出した。以前、知り合いから貰ったハイビスカスのハーブ
ティーがまだ未開封のまま残っていたこと。

 (今度アイスにしてみよう。でもあれはけっこう癖があるから、みんなが飲めるか
どうかが問題だね。いっその事、誰か実験台にしてみようかしら)

 ハイビスカスの件はとりあえず置いといて。普段通りお茶の準備を済ませてからテ
ーブルに向かい、カバンに入れておいた小説を取り出す。

『ボヘミアン・ガラス=ストリート』

 今から10年近く前に出版された小説。バイト先の一つである某古書店に入荷した
のを見つけてすぐに購入しておいた。もちろん安価なのは言うまでも無いこと。この
作家の本は殆どが初版だけで絶版になるために新刊どころか古本でも中々手に入らな
いのが痛い。全くという訳では無いけど。それに”あの頃”はこんな小説があること
なんて知らなかったし、読む時間なんて少しも

 「無かったから、ね」

 普段通りにやかんでお湯を沸かしつつ、ティーカップとティーポットの準備をする。
この辺は経験と勘。生憎か必要に迫られてか、今ではすっかり慣れてしまった。時間
があればお茶を点てることもあるけど、最近は紅茶のほうが多い。別に嫌いでもない。

 (これで良し)

 紅茶を入れたティーカップとポットをトレイに乗せたままテーブルの上に置き、そ
の隣に小説を重ねて椅子に座る。1冊は教室で休憩時間に読んでるから、残りは6冊。
外から聞こえる喧騒も思ったよりも小さく、別に気にはならない。気にもしないけど。

 (?)

 窓の近くに気配が一つ。私を監視しているらしい。特に害はなさそうだし、何より
もその気配の正体には見当が付いている。とりあえず今は無視することにする。いざ
となれば『獲物』も『手段』も『この場所』と『私』にはいくらでもある。

 (では)

 窓を背にして椅子に座り、小説を読み始めることにする。日頃周りがとても騒々し
いせいか、それともバイトなどで忙殺されているからか、普段はこんなにのんびりす
ることはない。したくても周りがそうさせてくれないし、自宅は色々と落ち着かない。
それに友人と居るときは、傍から見ていてとても楽しいのも事実。みんなが楽しいな
ら私も楽しい。例え、ただ”見てるだけ”だとしても。


***


 ガラッ 

 「やーくもっ、いるー?」

 3ページほど読んだ頃、いつもの気配と声とともに、部室に塚本天満がやって来た。
彼女の妹である塚本八雲がここ茶道部の所属であるとはいえ、ここに来ることは滅多
にない。ある種、茶道部と最も縁無いともいえる。決して悪い意味ではない。念のた
め。

 「八雲ならまだ来てないけど」

 しおりをページにはさみ、扉のほうへ向く。天満は頭だけ出して、こちらを覗き込
んでいる。

 「ふーん、そっかぁ。今晩食べたいものがあったから、八雲に頼もうと思ってたの
に」

 「良かったら、ここで待つ?」

 「ううん、いいよ。愛理ちゃん待たせてるから」

 「・・・そう」

 「そうだっ! せっかくだから、晶ちゃんもいっしょに帰ろ?」

 「いや、今日は遠慮しとく」

 「えーっ! なんでーっ! 一緒にかえろーよーっ」

 「読みかけの本もあるし、一応、部長だから」

 「むーっ。そっかぁ、それじゃあ仕方ないよね」

 と、天満の表情とともに、彼女の特徴でもある両側で結んだ髪が大きく下に下がっ
てしまう。一体、あれはどのような構造なのかとつくづく思う。

 「それじぁ私、先に帰るね。また明日だねっ、晶ちゃん」

 「また明日」

 天満は扉を閉めると文字通り「パタパタ」と駆けていった。私と違って良くも悪く
も元気である。おかげで見ていて飽きる事がない。
 
 (・・・)

 天満が去り、再び小説に目を落とそうとしたその時、扉に近づく気配が一つほど。
再び扉に顔を向けると同時に、次は沢近愛理が顔を出した。そーっと顔をのぞかせて、
部屋内を覗き込む。

 「探し物?」

 「ぇ? ええ、ちょっと、ね」

 私には一応気付いてはいるらしい。さて、どうしたものか。

 「ねぇ、晶」

 「播磨君はここには居ないよ」

 そう言った途端、顔が真っ赤になった。やっぱり。

 「だ・れ・が、探しているですってっっ!? ヒゲなんて別に探してなんかないわ
よっ。大体、何で私がヒゲを探さなきゃいけないのよ!」

 と口ではそう言ってはいるものの、私には播磨君が見つかる事を半ば期待している
様にしか見えない。この際、折角なのでもう少しだけからかってみることにする。

 「八雲だったら、今日はまだここには来てないけど」

 「なっ、何でっ、ここでその名前が出てくるのよ」

 播磨君に続いて八雲の名前を出すと、案の定動揺してる。現在、愛理はクラスメイ
トである播磨拳児に片思い中(愛理本人は否定してるが私から見れば一目瞭然)。さ
らに八雲も播磨君に片思い中とされているために、二人は冷戦状態と化している。無
意識とはいえ、播磨君を探している途中にもし八雲と出会ったりしたら、と想像して
みたりする。

 「てっきり、そうだと思ったんだけど」

 私はわざとらしく、腕を組んで顎に手を当てて考えた振りをしてみる。

 「ちがうわよっ! 天満と一緒に帰ろうと思ったのに、いきなり居なくなったから
探しにきたのっ! ホントにすぐに居なくなっちゃうんだからっ、ブツブツ」

 本人は平然を装ってるけど、傍から見れば一目瞭然。気付かないのは『当人』と『
その相手』ぐらい。尤も、もし当人たちが気付いてればこれほど面白くはならないだ
ろうし、それどころじゃなくなってるだろうから。

 「天満ならさっきここに来たわ。すぐに出て行ったけど」

 「もぅっ、それならそうと早く言いなさいよ。で、どこに行ったの?」

 「さぁ」

 「分かったっ。自分で探すわ。ほんとにどこに行ったのよ、天満の奴」

 と、愛理は出て行ってしまった。もう少し”遊んでも”良かったかも知れない。自
分のことならいざ知らず、他人事は結構面白い。まあ、事情が事情だけにあまり面白
がるわけにもいかないけど。私にも少しだけ、”心当たり”はあるから。それに良く
も悪くも、最終的に決めるのは当人同士。いざとなれば手は貸すけど、今は様子見っ
てところ。

 (もう誰も来ないみたいね)

 目を閉じ廊下に気配が無い事を確認して、再び小説を読むことにする。

 (この様子だと、今日は『お客』がまだまだ此処に来るかもね)

 2巻のページが残り1/3を過ぎた頃、今度は周防美琴が顔を出した。美琴は拳法
を習っているせいか、普段でもなかなか”感じにくい”。まぁ、その彼女に言わせる
と、私も”感じにくい”そうだけど。

 「よぉ、高野」

 「どうしたの? 珍しく」

 彼女も天満と同じく、ここに来ることは滅多にない。放課後は道場での修練とか、
近所の子供たちへの指導とかがあるからだけど。本人曰く、自分のイメージに合わな
いとのこと。確かに性格的に肌が合わないかもしれないけど、少なくとも天満に比べ
れば問題ないと思っている。ここだけの話。

 「あっと、いや、あのな? 最近、花井の奴がアレだろ? 道場の稽古でも全然気
合が入ってないしさ、一度根性叩き直してやれって頼まれちまって、な」

 「なるほど」

 現在、美琴の幼馴染であるところの花井春樹という男は、塚本八雲に片思い中であ
るのだが、当の八雲は播磨拳児という、彼にとってはライバルに当たる人物と付き合
っていることになっている。そのため、結果として最近では完全に屍状態になってい
る。いい気味。

 「花井君はここには来てないよ」

 もし来ても、ロープで縛り上げた上で外に吊るしておくことになるけど。もちろん
冗談。

 「しょうがねぇなぁ。もし見かけたら道場に顔を出せって伝えといてな」

 「ええ、分かったわ」

 と、美琴は去っていった。けど、彼に私が伝えるなんて事、まず無いわね。

 (・・・んー)

 ここでふと思う。どうも花井君がらみになると彼をイジメたくなってくるようだ。
相性が悪いと感じているのか、それとも生理的に嫌いだからなのか、私自身、未だに
よく分からない。

 (今はどうでも良いことね)

 とりあえずは気にせず、小説の続きを読むことにする。

 それから十数分して、また部室に近づく気配が一つ。この感じ、多分・・・

 「失礼します。高野さんはいらっしゃいますか?」

 (やっぱりね)

 今度は一条かれんが顔を出した。本当に今日は『お客』の多い日。

 「おや? 珍しい」

 一条さんはクラスの中でも比較的地味な存在であり、クラス内にていくつか分かれ
ている『仲良しグループ』という一種の派閥から見ても、別々のグループであるため
かそこまで面識があるというわけではない。だからと言って、特に仲が良い悪いとい
うわけではなく。
 尤も。私自身、愛理や天満、美琴たちと出会わなければ、今頃は地味な存在の仲間
入りである。正直な所、その方が”色々と”都合が良い場合もあったりはするのだが、
今は今でこの状態がとても心地良い。

 (一条さんは、体育祭で一躍人気者になったからね)

 先日の体育祭での活躍もあってか、一条さんの人気は他のクラスを中心に最近高く
なってきてる。おかげで私も少なからず”繁盛”はしてるわけで。

 「あの、高野さん」

 「どうしたの? 今鳥君はここには居ないよ?」

 現在、一条さんはクラスメイトである今鳥恭介に片思い中である。一見意外なよう
でいてありえなくも無い組み合わせではあるのだが。にしてもなぜ周りには片思い中
面々ばかりなのだろう。あ、なくも無いか。

 「いえっ、あの、違います。今はまだ、その、またあとで・・・ それより、この
前の件、なんですけど」 

 ふむ。ここに来て人探しでない、か。さすがに何度も同じパターンにはならないか。
となると、『この前の件』だね。確か・・・

 「にがうりランドの件」

 私のバイト先の一つに、『にがうりランド』という遊園地がある。そこで毎回行わ
れるヒーローショーは、TVに出演している俳優本人がTVと同じ役で実際に登場す
ることで大好評。なのだが、今月のステージはスーツアクター、いわゆる着ぐるみ役
数名が当人の都合により欠員となり、頭数が足りない事態になってしまった。私も少
なからずそのショーには関わっているため、一応その代理を探してはいたのだが。

 「出てくれる気になった?」

 「はい。ぜっ、ぜひっ、お願いしますっ」

 体育祭の活躍に目をつけて一条さんに頼んでみたら案の定、応じてもらえたようだ。
今鳥君のこともあるしね。

 「あの、実はお願いが・・・」

 「ギャラなら心配ないよ。交通費も出すようにするし」

 「いえ、そうではなくて。実はララさん、D組のララ=ゴンザレスさんも、私と一
緒にやりたいって」

 ララ・・・ あぁ、体育祭で一条さんと死闘を演じたあの娘(コ)ね。確かに彼女
なら悪役でも十分やれるかも。スーツアクターって、結構体力使うし。ちなみに私は
やらない。疲れるから。

 「いいわ。人手は多いほうがいいし、私も助かるから」

 「ありがとうございますっ」

 「あ、そうそう。これ、頼まれてたチケット」

 私は机の上に置いたカバンから白い封筒を取り出す。一条さんから出演の条件とし
て、「そのヒーローショーのチケットを2枚用意すること」が提示されていた。最近
のヒーローブームと本物の俳優が出るということで、このチケットを手に入れること
は意外と難しい。それに一条さんの弟と彼女の片思い中の相手である今鳥君が特撮ヒ
ーローのファンであることも関係しているのはまず間違いない。

 「はい、これ」

 私がチケットの入った封筒をテーブルの上に置くと、一条さんはテーブルに近づき、
大事そうに封筒を手にする。

 「あの、ありがとうございます」

 「次の土曜にリハーサルがあるから。後で詳しいことは連絡するわ」

 「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」

 と、一条さんはいそいそと部室を後にした。あの様子だと、あのチケットを使って、
今鳥君をデートに誘うわね。今鳥君は自他ともに認めるプレイボーイ(死語)なんだ
けど、なぜか一条さんを恐れていたりする。その理由、分からなくも無い。

 (一途な女の子ほど、恐ろしいものは無い)

 なんて、私には縁遠いこと。

 ”今の私”には。


*** 


 2冊目を読み終え、3冊目の中ごろまで差し掛かった頃か、

 「やぁ、おはよう」

 小説から顔を上げると同時に隣の部屋とをつなぐドアが開き、茶道部顧問であり、
八雲の担任でもある刑部絃子先生が現れた。

 「おはようございます」

 刑部先生は普段通りの白衣姿だが、珍しく髪が所々乱れており、最初の挨拶とあく
びをかみ殺している様子から考えて、先ほどまで隣で寝ていたようだ。

 「歌を口ずさむとは珍しいな」

 私自身気付かぬ内に、小説を読みながら何かを歌っていたらしい。以外といえば以
外。

 「気のせいです」

 「そうか? 確か『木蓮の涙』だったな。いい声じゃないか。いい曲でもあるしな」

 スターダスト=レビューの『木蓮の涙』。よりにもよって、この歌を口ずさむとは。
刑部先生の言う通りだとすると、我ながらかなり油断していたことになる。

 「先生、今日は研修では?」

 全く気にしていない事にして、さりげなく話題を逸らしてみる。

 「あぁ、あれは2年の先生だけだよ。私には関係ないさ」

 「そうですか」

 刑部先生は眠たそうに首のあたりをさすりながら、いつもの窓際の席に腰掛ける。

 「すまないが、私の分も頼むよ」

 「はい」

 席を立ち、流し台にて紅茶の用意をする。一緒に私の分も淹れ直す。その時、一瞬
だけ時計を確認して、直感とこれまでの行動パターンからそろそろ他の面々が部室に
現れると判断、部室に現れるであろう人数と到着時間を計算する。

 「葉子に付き合うのはいいが、流石に徹夜で飲むのはな・・・」

 後ろの席から刑部先生の呟きが聞こえる。ちなみに葉子とは刑部先生の後輩で親友
でもある美術教師の笹倉葉子先生のこと。確か刑部先生は現在、笹倉先生の家に一時
避難中のはず。あの様子だと毎晩遅くまで2人で酒を飲んでいるようだ。2人ともか
なりの酒豪とのことだが、毎晩飲み続けるとなると・・・ 下戸の私は遠慮したい状
況である。それ以前に私は一応未成年ということになっている。自分自身、信じられ
ない事に。

(そろそろだね。さて)

 私はキャビネットから刑部先生、八雲、サラ、播磨君と来客用のティーカップを2
脚取り出し、時間を見てティーポットよりそれぞれに紅茶を注いでいく。

 「ん? 八雲君とサラ君の分もか?」

 その様子を見た刑部先生は、やはり不思議な顔をする。

 「はい。もうすぐ此処に」

 「まぁ、確かにあの2人ならここへは来るだろうが・・・ それよりも、後のはど
ういう事だ?」

 先生としては残りの『3脚』が気になるらしい。

 「播磨君が多分、八雲達と一緒に。そして修治君もそろそろ。あと一人は・・・」

 私は紅茶を注ぎ終えると、静かに窓側に歩み寄り、さりげなく隠し持っていたカッ
ティング用のナイフを外の茂みに向けて素早く放つ。本来はケーキを切るための物だ
けど、部室のものは普段から”キチンと手入れをしてる”から、うまく命中すれば人
だって十分に。

 『ぅぁっ!?』

 「何だ? 今の声は」

 特に動じることもなく、読み始めた雑誌から目を離さないまま、刑部先生は私に聞
いてきた。別に私に聞かなくとも、先生も分かってるはずだが。

 「単なる曲者です」

(やはり、ずっと隠れていたか)

 案の定、窓から外を覗くと、茂みの中から一人の人物が現れた。私が放ったナイフ
はその人物が持っていたデジタルカメラに刺さっており、当人自身には特に怪我はな
いようだ。

 (ちっ)


***


 「いやぁ、悪いね。俺の分まで用意してくれちゃって」

 ずっと窓際に隠れていたのは冬木武一という、クラス専任のカメラマン、というよ
りパパラッチといった類である。私も人のことは言えないが。

 「オイッ、何でテメェがここに居んだよっ」

 「別にいいじゃないか。その点では君も一緒だろ? 「ハリマ」君?」
 
 「さすがは刑部先生。いい事言うね」

 「ケッ」

 茂みに隠れていた冬木君が部室に”改めて”現れた頃、サラと八雲、播磨君と修治
君もほぼ同時にやって来た。大体予想通りである。刑部先生は平然としているように
見えるが、その実複雑な表情をしているようにも見える。多分播磨君と八雲に対して
であろう。

 「播磨先輩は別にいいんじゃないですか? ねっ、八雲?」

 「え、う、うん」

 「ヒューヒュー」

 「何だってんだ、ったくよ」

 部屋の中央よりのテーブルに、窓際の私から時計回りでサラ、播磨君、八雲、修治
君、冬木君と、窓際の机に刑部先生が一人、それぞれ席に着く。テーブルの上にはあ
らかじめ用意しておいた紅茶と洋菓子が並ぶ。

 「それにしても、まさか美人ぞろいで有名なこの茶道部で一緒にお茶が飲めるなん
て、ホント夢にも思わなかったなぁ」

 「テメェ、いちいちうるせぇぞ」

 楽しく会話を進める冬木君とサラ。椅子に寄りかかり、明らかに不機嫌である播磨
君と隣で俯いて静かに紅茶を飲む八雲、テーブルの上にあるお菓子を一心不乱で食べ
てる修治君。刑部先生は雑誌を読んでいるようだが、視線を感じるので時々はこちら
を見ているようだ。私以外は誰も気付いてないが。

 「ふふ。冬木先輩、お世辞お上手ですね」

 「そうかい? 今度良かったら2人きりで撮影会でも」

 「うちの店子の無断撮影は禁止」

 「い、いやぁ、冗談だって」

 楽しく、そして少しだけ寂しく、時間は流れていく。

 「播磨さん。あの、これ」

 「おっ、ワリィな」

 「八雲姉ちゃんっ、俺にも」

 播磨君は何時の頃からかこの部室に顔を出すようになった。本人はまったく答えよ
うとしないけど、八雲をアシに漫画を書いているのはすでに知ってる。弟の修治君は
修治君で八雲に惹かれたようで、二人とも今日のように時折顔を出している。それし
ても、兄弟そろって塚本姉妹に縁があるというのも、これはこれで面白い。今の所は
一方通行だけど。

 「八雲、シナモン足りる?」

 「うん、大丈夫」

 「サラちゃん、砂糖取ってくれないかな」

 「はい。冬木先輩、どうぞ」

 「サラ姉ちゃんのつくったクッキー、おいしい」

 「ありがと、修治君」

 「あまり食いすぎんじゃねぇぞ」

 こうして皆を見てると、つくづくこの場所とこの時間が大切だと思えてくる。時間
は決して止まることのないもの。昔も今も、そしてこの先も。いずれは私もここに居
る者も全員がこの場所から居なくなる時が来る。だとしても、いや、だからこそ、こ
うしてここに居ること、皆を見ていることが私は好きなのだろう。

 (なんてね)

 「あ・・・ 高野先輩、今」

 ふとした拍子に八雲がこちらを見、そして私の顔を見て驚く。

 「私の顔に何か付いてる?」

 「いえ、ただ、その」

 「八雲、高野先輩がどうかしたの?」

 「えっ、ううん。何でもない」

 私の顔を見て驚いているところを見ると、何らかの感情が表に出てたらしい。まだ
私にもそんな顔ができるなんて、我ながら驚いたもの。『営業スマイル』なら仕事上
何とかできるけど、普段の生活ではなかなか難しい。かといって、普段はする必要も
無いから別に気にもならないけど。

 「そうだ。みんなで写真撮らない?」

 突然、何か思い出したように、冬木君がさりげなく言う。

 「ハァ? いきなり何言ってんだ? テメェは」

 「写真、ですか?」

 真っ先に反応したのはやはりサラである。ここの部員は顧問も含めあまり積極的に
会話をしないものが多いために、よく喋る人間に対してはなかなか対応できない。そ
んな時はサラのような「聞き上手・話し上手」の人間が居ると非常に重宝する。

 「そうそう。このクラブ、部員達の集合写真取ってないだろ? 全員そろってるし
折角だからさ」

 通常、卒業文集に載せる為、毎年各クラブごとに部員を全員集めて写真を撮ること
になっているのだが、茶道部は3年が居ないために今年は全く撮っていない。例え撮
っても載せる必要も無し。一応、夏休みに合宿に行ったときの写真はあるものの、全
員揃っていない上に写っているのは部外者ばかり。まあ、結局のところ『合宿』とい
う名の親友同士でのキャンプということで、別段問題は無かったわけだけど。

 「それはいいですね。ぜひ撮りましょう。ね、高野先輩」

 何事にも積極的なサラは、冬木君の意見にすぐに賛同する。もちろん賛同すること
自体には別に問題は無い。冬木君自身に何らかの企みさえなければ。

 「別に良いけど」

 持っていたティーカップとソーサーをテーブルに置く。

 「冬木君、カメラはどうするの?」

 「え? あぁ。そういえばさっき壊されちゃったんだよなぁ」

 と、他人事のようにに平然と言う。先ほど冬木君のカメラは私がナイフで破壊した。
彼にとっては商売道具であり、決して安くは無い代物ではあるはずだが、さほど気に
している様子は無いように見える。まあ、別に今更のことではあるし、彼の性格から
考えても大した問題は無いと判断する。

 「何なら私が撮るけど」

 「え? 先輩は写らないんですか?」

 彼と同じように、私も”色々と”写真を撮ることは多い。今もこっそりとカメラを
隠し持っていたりする。

 「その方が確実」

 「おぃおぃ、それじゃ集合写真にならないって。『部長』が居ないと意味無いだろ
? 写真を撮るなら俺にまかせて」

 「・・・仕方ないわね」

 写真を撮ることは好きだが、撮られるのは実は好きではない。写真写りが良くない
のもあるが、何より”自分自身の姿を見るのが一番嫌い”なだけ。だから写真の中の
私はいつも半分だけしか写らない。少しでも写らないようにしたいから。

 「どこで撮るんですか?」

 「やっぱりここで撮るのが一番かな」
 
 「ここ、ですか?」

 「ああ。『茶道部部員の集合写真』を撮るんだからね。やっぱ部室じゃないと」

 部長と顧問を差し置いて、サラと冬木君は2人で話を進めていく。私は”私自身が
写らなければ”別に問題なし。刑部先生も”部員の意思に任せる”というわけで他人
事。播磨君は相変わらず不機嫌なままで、修治君はお菓子に夢中なのか気にする様子
もなし。八雲は只ひたすら2人のやり取りを聞いている状態。時々播磨君の方を見て
るけど。

 「話はついた?」

 2人の話がまとまった所で準備に入ることにする。といってもテーブルを少し動か
して食器類を片付け、各自で座っていた椅子をいくつか並べ直すだけ。冬木君とサラ、
八雲の3人に、サラと八雲の言う事に素直に従う播磨君と修治君の二人。5人のおか
げですぐに準備は完了。私は刑部先生と2人、窓際でただ紅茶を飲んでいるだけだが、
こうして見ていると何か微笑ましくなってくる。多分無表情の私に対して、刑部先生
の方はそれが直に顔に出ているのだが、生憎5人は気付いていない。
 
 「さてっと。それじゃあ、そろそろ」

 「高野せんぱいっ」

 準備が完了し、後は並んで撮るだけ。

 「はい、これ」

 私は持っていた自分のカメラを冬木君に手渡す。

 「サンキュ」

 「冬木君のカメラ、ナイフ刺さったままでしょ? 抜いといてあげるから貸して」

 「はは、悪いね。良かったら弁償してくれると−」

 冬木君の言う事は無視して、冬木君のカメラからナイフを引き抜く。ナイフはカメ
ラのレンズ部分の隙間に見事に刺さっている。抜いたナイフに傷は無く、欠け一つも
無い。折角なので、ついでに彼に気付かれないようカメラの中に入っているメモリー
カードを手持ちの予備のカードに掏りかえておく。私の写真を売買するなど千年早い。
ましてや今日の写真なら尚更のこと。

 「はい」

 ナイフを抜いたカメラを冬木君に返す。

 「先輩、高野先輩。さぁ、こちらに座ってくださいっ」

 サラが私に真中の席を勧める。写真に写ること自体なら我慢は出来るが、流石に真
中は遠慮したい。

 「私はここ」

 わざと端に立ち、少しでも写らないようにする。

 「駄目です。高野先輩は『部長』なんですから」

 「そうそう。やっぱ、中心に『部長』が居ないとね」

 冬木君だけならともかく、サラにに説得されると流石に断りづらい。

 (・・・仕方ない)

 写真撮影に反対しなかったことを少しだけ後悔しつつ、仕方なく中央の椅子に座る。
その間にサラは刑部先生と播磨君を説得にかかる。

 「播磨先輩、折角ですから写真撮りましょうよ」

 「はぁ? 俺は別に部員じゃねぇし、大体、写真なんか別に撮りたかぁ」

 「ねっ、八雲も先輩と一緒に撮りたいでしょ」

 「え・・・ 私は、その」

 「オ、オィ、ちょっ待ってくれぇ」

 積極的に話を進めるサラを相手に、播磨君も強くは言えないようで。八雲も内心播
磨君と写真を撮りたいと思っているのが顔に出てる。

 「刑部先生もどうぞ、こちらへ座ってください」

 「いや、私は遠慮するよ」

 「刑部先生は顧問なんですから」

 「いや、だから。お、おいっ」

 日和見を決め込む予定がサラの積極性には通用せず、服を引っ張られる形で前に連
れてこられる事となる。私にとっては道連れと言ったところか。

 「修治君も、一緒に写真を撮ろ?」

 「え? 俺も写っていいのか?」

 「いいですよね? 先生」

 「ん? ・・・まぁ、別にいいんじゃないか?」

 「冬木先輩」

 「俺も別にかまわないよ」

 冬樹君の横で見ていた修治君もサラに呼ばれて前に連れて来られた。本来は一応部
外者にはなるのだが、全く無関係でも無し、この際折角だから全員で写ってしまおう。

 「こっちも準備できたし、そろそろいいかい?」

 「やれやれ。仕方ないか」

 「播磨先輩は真ン中に。八雲は播磨先輩の隣ね」
 
 「う、うん」

 「おっおい、ちょっと待ってくれ」

 「いいね、いいねぇ」

 「俺、八雲姉ちゃんの隣がいい」

 「その場所だと写らないんじゃない?」

 「修治君は私の隣」

 「わ、わかったよ」

 結局、窓側を背にして手前側左に修治君が立ち、中央に私、右に刑部先生がテーブ
ルを前にして座り、後ろ側中央に播磨君、播磨君を挟んで右にサラ、左に八雲が立つ
形となった。

 「それじゃあ。えっと、八雲ちゃんはもうちょっとだけ中央へ寄って。そうそう、
あ、高野はもうちょっとだけ笑ってもらえないかなぁ。折角なんだからさ」

 「無理」

 流石、人の物とは言え、カメラを持って実際に撮影する段となるとまじめな顔つき
になるようだ。顔つきだけは。

 「おいっ、さっさとしねぇかっ」

 「さっさとしてほしかったら、じっとしてろ」

 言葉とは裏腹に明らかに緊張している播磨君と、平然としている刑部先生。

 「播磨先輩も落ち着いて。八雲も。ねっ」

 「う、うん」

 微笑みながら播磨君と八雲、修治君に話し掛けるサラ、恥ずかしがって動けない八
雲。

 「・・・」

 意外と平然としている、様に見えて実は後ろを気にしている修治君。後ろが八雲だ
からまあ、仕方ないか。

 (正面に向くのは久しぶり)

 そして、他人事のように正面のカメラを見つめる、私。

 「それじゃ、い・・・」

 と、シャッターを切る寸前で一瞬動きが止まる。

 「おぃ、早くしろっ」
 「カメラがどうかしたんですか?」

 私のカメラのメモリは十分あるし、動作チェックも抜かりない。冬木君が使い方を
知らない訳はありえないから、多分、ファインダー越しに”何か”を見たのは間違い
ない。ファインダー越しに見ると普段では見えないものが見えることがある。色々と。

 「ワルぃワルぃ。それじゃ、改めて。いい? 撮るよ?」

 カシャッ


***


 写真撮影の後、しばらくしてお茶会は終了。冬木君は一足先に部室を去り、播磨君
は荷物を取りに行くと言って逃亡。サラと修治君は食器と菓子類を片付け、八雲は流
し台で食器を洗う。例によって私と刑部先生はただ椅子に座り、片付けの様子を二人
で見ているだけ。

 「そういえば、高野先輩?」

 「何?」

 サラが片付け中の手を止めて、私の方を向く。何か気になっていることがあるよう
だ。

 「今日の写真ですけど、クラブの写真ですよね?」

 「そうだけど」

 サラが気にしている事の見当は付いている。出来れば忘れてたことにしたいのだが。

 「花井先輩が写ってませんけど、いいんですか?」

 やっぱり。

 「いいんじゃない?」

 とりあえず、他人事として聞き流す事にする。

 「はぁ」

 サラは少々納得がいかないようだ。でも『理由』ならいくらでもあるし。

 「写真なら」

 再び雑誌を読み始めつつ、

 「また何時でも撮ればいいさ。それにあの写真が本当に”文集に載せるため”のモ
ノかどうかも分からないしな。そうだろ?」

 横で会話を聞いていた刑部先生は、雑誌に目を向けたままそう言った。

 「はい」

 その通り。確かに冬木君が卒業文集用の写真を撮り続けているのは一応本当。でも
もう一人、写真撮影を担当している人物が居るわけで。何を隠そう、それは私。私も
冬木君も”裏で色々と”やっているから、そっち方面で何かを企んでいる事も十分考
えられる。私をこっそりと盗撮しようとしてたことだし。

 「そうなんですか?」

 「後で当人に聞いてみるわ。カメラも返してもらわないといけないし」

 と言って読書を再開する事にする。でもこれ以上は時間が無さそうだから、残りは
帰ってから読むしかないかも。

 「サラ姉ちゃんっ」

 先に流しへ食器を運んでいった修治君がサラを呼んだ。

 「あっ、ゴメンね」

 サラが残りを流しに持って行く。

 「にしても、今日は珍しい事ばかりだな」

 雑誌を読むふりをして、八雲達3人を眺めつつ刑部先生は言う。

 「こう、都合良く皆で集まってお茶を飲んで、その上、まさか写真を撮らされる事
になるとはな」

 「そうですか?」

 小説に目を落としたまま、私は言う。

 「フッ。 たまにはそんな日もあるか」

 「ええ。たまには」

 偶然、皆が一度に此処に集い、仲良くお茶会をして、おしゃべりをして。

 「本当は写真を撮られるのはイヤじゃなかったのか?」

 そして、皆で写真を撮って。

 「いえ。”写るのが好きではない”だけです」

 時間が過ぎて行く・・・

 「高野先輩。片付け、終わりました」

 程なく片付けは一通り終わり、時間もちょうど良いので今日はそのまま解散するこ
ととなった。

 「戸締りは私がしておくから、皆は先に帰っていいわ」

 普段通り、戸締りは部長である私の役目。読みかけの小説を入れたカバンを持ち、
もう一方の手の中にある鍵で部室の扉の鍵を閉める。

 「それでは、お先に失礼します」
 「先輩、また明日」

 「三人とも、気を付けて帰るんだぞ」

 「大丈夫だよ。八雲姉ちゃんは俺が守るから」

 八雲とサラ、修治君と部室の前で別れ、私と刑部先生がそれを見送る。

 「おっ、間に合ったーっ。 すまねぇ、大事なモン預けたまま忘れてたゼ」

 と、その直後、播磨君が戻ってきた。あの様子だと余程重要な事みたい。

 「あ。 あの、原」
 (しーっ しーっ)

 つまりは八雲に渡したマンガの原稿をそのままにして忘れてしまい、部室を出て帰
る間際で気が付いて慌てて取りに戻ってきた、と。

 「?」
 「何、コソコソしてんだよ」

 サラと修治君は訝しげに思っているようだけど、私と刑部先生はとっくの昔に知っ
ている。だから今更隠したところで何かあるわけでもなし。

 「さて、私も職員室に戻るとするか」

 4人が去り、遅れて私も刑部先生と二人で旧校舎を出る。そして旧校舎を出た所で
先生に部室の鍵を渡した。

 「じゃ、高野も気を付けてな」

 「はい。では失礼します」

 そのまま刑部先生と別れ、旧校舎の前で独りになる。

 (これでまた『今日』が終わる)

 別に感傷に浸るわけではない。ただ、どんどん『今日』が『昨日』になって行く、
それだけの事。

 (本当に、どうかしてる)

 夕日に沈んでいく旧校舎を見上げながら思う。

 「ぉーぃ」

 肩をすくみつつ柄にも無い事を考えていた最中、遠くから誰かを声が聞こえた。グ
ラウンドではなく新校舎の方から。

 「いたいた。さっき、サラちゃん達から、まだ部室に居るんじゃないか、って聞い
たからさ」

 呼んでいたのは冬木君でその相手は私。校門近くでサラ達を見つけ、私の居場所を
確認してわざわざここに戻ってきたらしい。

 「いやー、さっき部室で写真を現像してたんだけどさ、メモリの中に写真が一枚も
残ってないから。もしかして高野に渡したときにすり替えたんじゃないかって思って
ね」

 チッ、もう気付いたか。

 「それで?」

 とりあえず、無視して帰ろうとしたのだが。

 「いや、だから、メモリを返してくれって」

 余程大事なものなのか、珍しく全く引こうとしない。中身にはとても興味があるけ
ど、今の所そこまで『ネタ』に不自由しているわけでもなく。逆に壊れたカメラの事
をここで持ち出されたら後で面倒になりかねない、か。

 「はい」

 今日のところは素直に返す事にするか。

 「悪いね」

 と、手を出したところに返すふりをしてすぐ引っ込める。

 「条件があるんだけど」

 「何だい? まあ、データのコピーくらいなら」

 「データは別にいいわ。ただ、私の写真は消しておいてくれる?」

 他の女子生徒の写真くらいなら私も持っているし、今のところは十分足りてる。た
だ、私の写真だけはなるべく消しておきたい。

 「へ? それくらいなら別にかまわないけど。でも今日は”高野の写真は”全く取
れなかったけどね」

 と平然と笑って言う。私自身、普段ならそう簡単に取らせるつもりも無いから大丈
夫なんだけど、今日、特に午後から少々油断していたから。時間があればあらかじめ
中身を確認しておくのだけど。

 「それとカメラ返してくれる?」

 メモリを返した事だし、今度は此方が返してもらう番。

 「あぁ、サンキュ」

 カメラはあっさりと手元に戻ってきた。念のため確認してみたけどメモリはきちん
と入ったままになっていた。

 「ちゃんとメモリは入れてる。流石にすり替えたりはしていないって」

 少々皮肉が入っているように聞こえるけど、聞かなかったことにする。

 「中の写真はプリントした?」

 さっき部室で撮影した写真の事を聞いてみる。

 「ああ、もちろん。これさ」

 スカートのポケットにカメラを仕舞い、冬木君から部室で写した写真を受け取る。

 「いやー、こうして見るとこの写真一枚でいいネタになるんじゃないかなー」

 冬木君の妙に明るい表情が引っかかるけど、とりあえず写真を見てみることにした。

 (・・・)

 見て最初の感想。

 (参ったわね)

 と心の中で呟いて苦笑いするしかなかった・・・


***

 
時は過ぎて。

 私は今日も相変わらず茶道部の部室にて本を読んでいる。あの時と変わらないまま、
と言うわけにはいかなかったけど、これまで通り皆の楽しむ姿を見て私も楽しんでい
るつもり。でも愛理に言わせると”アンタも一緒になって十分楽しんでるじゃない”
とのこと。

 「先輩?」
 
 サラが扉の向こうから顔を出す。

 「ええ。今行くわ」

 読みかけの小説にしおりを挟んで席を立つ。そして、部室を出ようと扉に手をかけて
ふと、窓の方を見る。

 (フッ)

 あの日、あの時。部室で皆と共に写った写真はずっと、窓際に写真立てに入れて飾っ
てある。もし、この写真を『あの人』が見たらどう思うだろう、なんて。

 (じゃあ、また)

 写真の中の、私にとって唯一の”微笑む私”にそう告げて、私は部室を後にした。


end
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