The Side Stories of −ツンデレラ−………(旧S3掲載作品
日時: 2007/07/21 00:38
名前: 一日一膳

この作品は「ツンデレラ−本章−」のサイドストーリーです。
本章と同じく、保管のため投稿しました。

 

  いつものこと ( No.1 )
日時: 2007/07/21 00:39
名前: 一日一膳


――むかーしむかし、とある小さな国の物語――


   『 ツンデレラ外伝 −いつものこと− 』



 あるところに、ヤガミ王国という平和な国がありました。
 どのくらい平和かといいますと……

 一国の王子様が結婚相手を決めるのに、舞踏会で一回いっしょに踊った
だけで綺麗だったからその日に求婚してしまいました。っておぃおぃそん
なに簡単に決めていいのかよ!

 ……と思わず突っ込んでしまいたくなるほど平和だったりします。


  そんなのんびりした国の お話 お話





「ねぇ、ヒゲ」
「…………」

 空は晴れ渡り。今日もいつものようにゆったりとした一日になりそうな、
そんなある日のこと。


「ヒゲってば」
「……んだよ、この金髪お嬢」

 立派なお城のお膝元。立派なお屋敷の一角で。
 あまり立派でない会話が交わされる。


「あんたね……どこの世の中に自分の主人を「金髪お嬢」なんて呼ぶ召し
使いがいるのよ!?」
「うるせーな。大体、俺はオメーの召し使いじゃねぇっつーの! 俺はお
前の親父さんに仕えてんだよ。それに執事見習いだ。あと、ヒゲももう生
やしてねぇ」

 片や眉目秀麗、金色(こんじき)の髪が麗しいお嬢様。
 対するは端整な顔立ちなからも目元のりりしい、どこかいかつい青年。
 あわや一触即発な二人なのですが、その傍らで長身の執事がのほほんと
しているところを見ると、沢近家においてはそれほど珍しい光景ではない
のかもしれません。


「愛理お嬢様」

 威嚇の唸り声を挙げあう二人に、言い争いの原因は何だったのかなどと
気にした様子もなく執事が声をかけます。

「そろそろお出かけのお時間ですが、よろしいのでしょうか?」
「あ、そ、そうだったわね、ゴメンナサイ。ったく、ほら、アンタのせい
でまた美琴たちを待たせちゃうじゃない!」
「んだよ。何で俺のせいで……」
「い・い・か・ら。早く馬車の用意をしなさい」

――ギロリ――

「……ハイ、ワカリマシタ、エリオジョウサマ」


 ……どうやら、主従関係以前に問題があるようです。



 逃げるように走っていく彼の後ろ姿を見詰めながら愛理は小さくため息
をついた。

「ねぇ、ナカムラ……」
「はい、お嬢様」



「執事見習いと召し使いって何が違うの?」
「…………」



――そんな細かいこと気にしないで下さい。
















――また、やっちゃったな

 頬杖をつきながら、愛理はぼんやりと横に流れる風景を眺めていた。
 車道に沿って植えられたポプラは青々と茂り、枝葉の間からは暖かい春
の日差しが漏れている。
 ふと目を前にやると、馬車を御するあいつの逞しい背中が目に入った。


――こいつが家に来て、もう八年になるんだ

 そういえば、あの時もこんな天気のいい日だったな、と愛理は深く息を
吸った。
 土の匂いが芳ばしい。そんな春の一日だった。





 八年前、やんちゃな少女だった愛理お嬢様は(今でもやんちゃだと言う
話も聞くが、賢明な者は彼女の前で口にしない。)好奇心から普段は通ら
ないような裏通りを冒険してみる事にしたのです。
 無論、そういった所は古今東西の世を問わず、治安というものはあまり
よろしくない。そんなところを、少なくとも黙っていればどこぞの令嬢な
愛らしい愛理ちゃん(8才)が、うろうろしていてさらわれたりしなかった
のは……それだけこの国が平和だってことです。はい。

 慣れない場所で案の定、迷子になった愛理ちゃん(8才)はそこで播磨
拳児くん(同才)と出会います。
 彼に不本意ながらも助けられ、ケンカして、一緒に遊んで、……そして
ちょっとした事件があって。
 紆余曲折の結果、播磨少年は沢近家で働くこととなったのです。


  良くも悪くも八年間。 ケンカしながら八年間。




 でもそのせいか、最近の愛理お嬢様は色々とお悩みのようです。
 気がつけば目線と並んでしまった彼の肩の高さにちょっとどきどき。
 スカートの裾を踏んで転びかけた時、ささえてくれた彼の腕の逞しさに
とってもあわあわ。
 ……もっとも、その後のよけいな一言で彼は地に沈むことになったので
すが……。
 乙女心は複雑なんです。












「そういや、もう八年になんだな」

――ほぇ?


 唐突なあいつの言葉に私は自分でも随分な間抜け顔をしてしまったと思
う。あいつが私と同じ事を考えていたということに気づくのにちょっと時
間が掛かってしまった。

――嬉しい――

 ……ん? な、なによ今のは? いや、違う、嬉しいとかそゆんじゃな
くて……。ほら、あいつヒゲだしって今はもう生やしてないんだった……
って関係ないし……(あせあせ




   愛理お嬢様、悶々




 そんな愛理さんに気づかず、話し続ける播磨くん。
「あんときゃ俺もオメーもガキだったな。まぁ、お嬢が生意気だったのは
昔からだったけどな」

 へへっと笑いながら振り向くあいつに、自分の胸の鼓動が高まるのを感
じた。いつもは鋭いあいつの目。でもこんな時は、いたずらっ子みたいに
無邪気になる。
 不覚にも私は……ちょっといいかなって……。
 本当に、本当にちょっとだけ……そんな風に思ってしまった。


「八年も経つと変わるもんだな。あのやんちゃだったお嬢が……」

 勝手にどきどきする私の胸。
 遠くに連なる山々。
 風が私の髪を掻き上げた。
 あいつの目がふっと優しくなって……

「さらに輪を掛けてやんちゃになりやがった。それに加えて、この凶暴性」
 もう手に負えねーぜ、うはははははは――とばか笑いするあいつ。


「…………」








 小鳥が枝の上で気持ち良さそうにさえずっている。
 目的地の周防家が見えてきた。
 白を基調とした屋敷の壁が日を映して目に眩しい。

「どうどう。よーし、偉いぞコペルニクス。おい、着いたぞおじょ……」



 私の膝が風を切った。








   ――――――― 閃 ―――――――

















 今日はいつものみんなでお茶会だ。
 でも活発な私の親友達はその後、乗馬に狩りにと男性も真っ青な行動力
を見せる。だから美琴なんて、女だてらに騎士なんてやってるのよね。
 ……でも天満はこの間、烏丸王子と婚約したのよね?
 こんなところで遊んでていいのかしら……。
 ま、楽しければいいか。

 んっと軽く伸びをする。体がほぐれて気持ちいい。
 空を見上げながら私は思う。
 そうだ、今日は楽しもう。












「ほら、ヒゲ。いつまで寝てるのよ。さっさと来なさい」





 ――乙女心は複雑なのだ



















      ――ツン ツン デレデレ

                 ツン  デレデレ


       気になるあいつに 膝蹴り放つ

                そんな彼女は ツンデレラ 


         乙女心は 複雑怪奇 

               明日は素直になれるかなぁ



        ――ツン ツン デレデレ

                   ツン  デレデレ




      むかーし むかしの 平和な国の

            小さな 小さな  いつもの物語






  彼女の後悔 ( No.2 )
日時: 2007/07/21 00:40
名前: 一日一膳


――むかーしむかし、とある小さな国の物語――



   『 ツンデレラ外伝 −彼女の後悔− 』


 少年の名を播磨拳児と言った。両親はいない。
 赤ん坊の時、教会の門前に捨てられ、その教会で育てられたのだ。
 彼は粗暴で、単純で、素直ではなかったけれど、本当は優しい少年だっ
た。単純ではあったが、決して鈍くはなかった。
 だから彼は知っていた。
 神父は優しかったけれど、教会にあの人数の孤児を養うだけの蓄えがも
う無いことを。
 口調は厳しいけれど、いたずらをすると苦笑をしながら優しく頭を撫で
てくれるシスターのお姉さん。
 彼女が、夜遅くまでつくろい物をしていることを。
 男の自分がいなくなれば、食べ物に随分余裕ができることを。

 夜、彼がこっそりと教会を抜け出そうとした時、シスターに見つかった。
 だから捻くれ者の彼は言ったのだ。


 ――教会ってのは性に合わねぇ。俺は町で自由に生きるんだ。――


 夜明け前の暗闇の中で、いつもは凛とした雰囲気を崩さない彼女が、
その時はやけに儚く見えた。











  ――――お姉さんは泣いていたのかもしれない。




















「ケンジ君」

「おぅ、絃子か」

「コラコラ、さんを付けないか。それよりもおかえり、ケンジ君」

「おぅ、ただいま……って、俺がここを出て何年になると思ってんだよ」

「それでも、ここは君が育った家だろう?」

「ま、まぁそうだけどよ……」

「おかえり、ケンジ君」

「…………」

「おかえり」

「た、ただいま」















 十年前、君がここを出て行くのを止められなかったことを。

   私はまだ後悔しているのだよ。



 父の老い先が短い事がわかっていたとは言え、やはり私が出て行くべき
だったのだ。
 君が出て行って一月ほどしたある日、町の配達人がお金を届けてきた。
 なけなしのお金を包んだしわくちゃな紙に

   ――これで、ふくでもかへ――


 ぶっきらぼうに書かれた文字を見つけた時、
 私は不覚にも泣いてしまったのだよ。






 買い物などで町へ出かけると。
 小さな男の子を見掛ける度に、ついつい私は振り返ってしまう。
 そんな癖がついてしまったのはそれからだ。
 どうしてくれるんだい、ケンジ君。















「あっ! ケンジ兄だ!! ケンジ兄が帰ってきてるー!」

「ケンジ兄ちゃん、おかえりー!」

「おーぅ、元気にしてたか……って、だから登るんじゃねーよ、コラッ!!」

「ワーイ」

 子供たちに囲まれるケンジ君を見て、私はふと笑みを漏らす。
 度々この教会に帰ってきては、土産に遊びにと子供たちの相手をする。
 彼は人気者なのだ。


 「……いい加減にしやがれこのガキ共! うらぁっ!!」















 それからさらに二年が過ぎたころ。突然、教会に沢近伯爵がやってきた。
 この孤児院に寄付をしたいと。
 すでに寝たきりの父に代わって伯爵を迎えた私は、そこにしゃちほこ張っ
て控える一人の少年を見つけた。
 随分と大きくなってはいたけれど、目とへの字に結んだ口ですぐに君だ
とわかったよ。





 最期の夜に父は笑って言っていた。
 ケンジの立派になった姿が見れてよかった、と。
 頭を撫でられながら君は、涙を流すまいと歯を食い縛っていたね。
 代わりに鼻水を垂らしていたけれど。


 クスクスと笑う私を、一人の子が不思議そうに見上げている。
 その子の頭を優しく撫でながら私は彼に話し掛ける。

「なぁ、ケンジく……」

 ――バタンッ――






 その時、大きな音と共に教会の扉が開かれた。
 そこにたたずむのは、森の妖精かと見まがうほどの美しい少女。

「ちょっとヒゲ、あんたねぇ! 少しは、女の子に気を使おうとか思わな
いの!?」


 ……黙っていればの話だが。













 肩で息をする彼女は沢近伯爵の一人娘、愛理嬢だ。
 気を利かせた子が一人、お水を持って行く。
 笑顔でそれを受け取る彼女はとても魅力的だ。

 そう、彼女は大変可愛らしい。
 何かあったのか、最近特に綺麗になった。
 困ったことにね。


「御機嫌よう、沢近さん」

 あ、お、お邪魔します。シスター――
 少し照れながらペコリとお辞儀する少女はやっぱり愛らしい。
 そんな彼女に群がる子供たち。
 彼女もまた、人気者なのだ。



 
 子供たちに囲まれた二人はほどなくすると、
 何よ、んだよ――の漫才を始める。
 子供たちは大喜びだ。

 その光景はとても平和で。
 とても仲が良さそうで…………



 ―――私は、後悔しているのだよケンジ君。

     いろんな、意味でね。






















 けれどね














「ケンジ君」

「なんだよ?」




 両肩に子供をかついだまま振り返る彼に
 私はにっこりと微笑みかける。






「今夜は泊まっていくんだよね」




「へ?」

「……っ!!!!」







――――私はまだ、諦めたわけじゃないんだよ






















      ――ツン ツン デレデレ

                 ツン  デレデレ


      気になる弟分に「さん」付け強制

                  そんな彼女も ツンデレラ? 


        ガラスの靴は ないけれど 

               彼女は一歩 踏み出した



        ――ツン ツン デレデレ

                   ツン  デレデレ




      むかーし むかしの 平和な国の

            小さな 小さな  お姉さんな物語








  交わされた密約 ( No.3 )
日時: 2007/07/21 00:40
名前: 一日一膳


――むかーしむかし、とある小さな国の物語――



   『 ツンデレラ外伝 −交わされた密約− 』







 トツトツトツ……


 一人、道を行くのは高野晶さん。
 ヤガミ王国の茶道部部長兼宮廷魔術師です。

 相変わらずのマイペースっぷりでどんな仕事をしているのだろうかとか、
秘密っていくつ持ってんだろうとか……。
 茶道部の部費はどっから出ているのだろうなどなど、興味の沸く話は事
欠きません。
 今日も上天気、穏やかな一日になりそうです。





 …………

 トツトツトツ



 …………

 トツトツトツ



 …………

 トツトツト……


「……ねぇ」

 晶さんが立ち止まって声をかけます。
 辺りに人影は見当たりません。



「ねぇ」

 …………


「どうして私の物語は無いの?」

 …………飛ばしてもいない電波を受信するのは止めてください。


「気にしないで。それより、なぜなのかしら?」

 それは……だって、あなた謎が多いじゃないですか。
 カップリングだって作りにくいし……


「そうね。私、秘密が多いわね」

 そうそう。だから多少なりとも、その秘密を教えていただけたりしたら
その……それを元に物語作っちゃおうかなーなんて………


「問題無いわ」

 えっ!? そ、それじゃ秘密を??

「茶道部だからね」

 へ?



「…………」

 …………

「…………」

 …………



















      ――ツン ツン デレデレ

                 ツン  デレデレ


       バイトにガンファイト 傍観者

                秘密なあの娘も ツンデレラ 


         猛る想いは胸に秘め 

               今日も彼女の道を行く



        ――ツン ツン デレデレ

                   ツン  デレデレ




      電波の受信は ほどほどに

            小さな 小さな  不思議な物語






  ( No.4 )
日時: 2007/07/21 00:41
名前: 一日一膳


――むかーしむかし、とある小さな国の物語――



   『 ツンデレラ外伝 −嘘− 』







『気になる娘がいるんだけどさ……彼女、意地っ張りでね』


『彼にもっと甘えたいんだけど……どうしても素直になれないの』





『そんなあなたにこれっ! ガラスの靴]!!』

『これさえ履けば勝気なあの娘も。
 彼氏についつい意地を張ってしまうあなたも。
 あっと言う間に素直なかわいい女の子になってしまう優れもの!』




 ムチムチでぱっつんぱっつんな金髪美女
『もう、すごい効果なの! 私も最初こんな靴一足で素直になんかなれる
わけないって疑ってたんだけど……。
 これを履いてからすっかり素直になっちゃったわ。
 彼も優しくしてくれるし、そんな彼にありがとうって自然に言えるよう
になったのも、この靴のおかげね。
 そうそう、この間なんか久しぶりに会ったジムに「ワォ!? 君があの
ジェニファーかい? すっかりしおらしくなっちゃって見違えたよ!」な
んて言われちゃったわ』


 Tシャツがはちきれんばかりのむきむきさわやか男性
『僕も早速彼女にプレゼントしたんだけど、本当にすごい効き目だね。
 すっかり素直になっちゃってびっくりさ。
 なんだか、こっちも優しくしてあげなくっちゃって気持ちになるし、少
しくらい我が侭を言われても、むしろそれがかわいく思えるくらいだよ。
 でも、ちょっと素直になっただけで、彼女があんなに変わって見えるな
んて思わなかったな。
 この靴に新しい彼女の魅力を教えてもらったって感じだよ』




『どうだい? すごい効果だろう。これだけじゃないんだ!!
 ここだけの話だけどね……実はあのツンデレで有名なお嬢様のE・Sさん。
 なんと彼女もこの靴を履いて最近彼氏をゲットしたって言うんだから驚
きだ!!』

『使い方は簡単。この靴をただ……』



  ――――バンッ――――


「晶ぁッ!!!」



「あらいらっしゃい、E・Sさん」

「誰がE・Sよ、誰がっ!!
 って言うかなんなのよあの魔法ビジョンのコマーシャルは!!!」

「うちの新製品」

「違うっ!! ……確かにそうなんだろうけど……そーゆーことじゃなく
てっ! 勝手に人を宣伝に使わないでよ!!」

「大丈夫。モザイク掛かってるから」

「細すぎて目がほとんど出てんじゃないっ!!
 あれじゃ誰が見ても私だってわかるわよ!!!」

「……問題無いわ」

「有りまくりよッ!!!!」




 …………


 …………





「…………ったく。って言うかあんなの売ったりしたら危ないじゃないの。
 怪我人でも出たらどうするのよ」

「それなら心配ないわ」














『でもトニー。その靴ってガラスで出来てるんでしょ?
 割れたりしたらあぶないんじゃないの?』

『その事なら心配いらないよエミリー。この靴は魔法で丈夫になっている
からね。ちょっとやそっとのことじゃ割れたりなんかはしないのさ。
 例えば……ほらこの通り』


 ガラスの靴の上に乗る百人
『『百人乗ってもだいじょーぶ!』』














「ね?」

「……私はどうやったら靴の上に百人乗れるのかが気になるんだけど」

「秘密」

「…………まぁいいけど。そんな便利な魔法があるなら私の時にもかけて
くれればよかったのに……」

「かけてあるよ」

「……へ? ……私の靴?」

「うん」

「………………最初から?」

「象が踏んでも壊れない」


「…………」

「…………」













 お城の中で、追いかけっこをする二人の姿は

 いつもの いつもの光景です。



















 ピースをしながらウィンクする魔法ビジョンの中のE・Sさん。

 『私も使ってまーす♪』


 「やかましいっっ!!」






















      ――ツン ツン デレデレ

                 ツン  デレデレ


       冗談 本気 からかい半分

                友達想いの ツンデレラ 


         彼女の願いを叶えるために 

               ひとつの事実を 隠してた



        ――ツン ツン デレデレ

                   ツン  デレデレ




      むかーし むかしの 平和な国の

            小さな 小さな  嘘をついた物語






  視えない心 ( No.5 )
日時: 2007/07/21 00:42
名前: 一日一膳


――むかーしむかし、とある小さな国の物語――



   『 ツンデレラ外伝 −視えない心− 』



 私の名前は塚本八雲。今度、沢近先輩のお屋敷で、住み込みで働くこと
になったメイドです。
 今までは町の酒場で働かせもらっていたのだけれど……。
 姉さんの突然の婚約でバタバタしてしまったので、お暇をもらう事にし
ました。

 あ、私には一人姉さんがいます。名前は塚本天満。
 明るくて、優しくて……少しドジなところもあるけれど、とても頼りに
なる姉さんです。
 その姉さんが今度、烏丸王子と婚約することになりました。
 姉さんは前からずっと烏丸さんの事が好きだったのだけれど……それに
しても突然です。
 姉さんが言うには……魔法使いさんが、かぼちゃでねずみさんだったそ
うですが……私には何のことだかよくわかりませんでした。
 ……でも……夢が叶ってよかったね、姉さん。

 今回のお仕事は高野先輩が紹介してくれたのですが、まさか沢近先輩の
お家だとは思いませんでした。沢近先輩は高野先輩と同じ、姉さんの大切
なお友達のお一人です。だから私も沢近先輩とは多少面識がありました。
 あ、この国では親しい目上の人の事を先輩と呼びます。
 年がかなり離れていたりすると敬意も込めて先生と呼ぶことも多いです。
 姉さんと沢近先輩、高野先輩、あと周防先輩の四人はお城でも仲の良い
ことで評判なんだそうです。

 そういえば、お世話になったお酒場もなんだかいろいろあったみたいだ
けれど……。……でも、あの二人ならきっと大丈夫だと思う。
 がんばって、サラ。









「よう、妹さん」

「あ、おはようございます、播磨さん」


 この人は播磨拳児さん。沢近先輩のお家の執事見習いさんです。
 播磨さんとは何度か顔を合わせたことはあったけれど、きちんとお話を
したのはこのお屋敷に来てからが初めてです。
 最初は怖い人なのかなって思ったりもしたけれど……

――き、君は天……つ、塚本の妹さん!! お、お姉さんは元気……だよ
 な……。王子さんと婚約したばっかだし……。……天満ちゃん、嬉しそ
 うだったなぁ。……いや、俺は彼女が幸せなら、それで……それでっ!!
 …………グッバイ マイ青春……。 へ、へへへへへ……


 ……自己紹介の時、突然うな垂れて泣き出してしまったけど……

  多分、いい人。



 姉さんと何かあったのかな?








「ちはーっ。毎度、どうもー。八百八ですー。ご注文の品をお届けにあが
りましたぁー」

 私のお仕事は主にお掃除です。
 今日は厨房のお掃除をしていると、裏手から声が掛けられました。
 どうやら頼んでいたお野菜が届いたみたいです。


「……ご苦労様です」

「どもども。えーと、今日はかぼちゃに大根、それから…………」
――― ラッキー! あの怖そうな兄ちゃんじゃなくて八雲ちゃんだ。
   うーん、やっぱりかわいいなぁ。



   ………………





 ……実は私、少し変わった力があるんです。
 それは……人の心が……特に男の人の、私のことを考えている心が……




――― くぅーーっ! メイド姿がたまらん!!



 ……心が、視えるんです……。




「…………あ、あの……」

「あ、すみません。それじゃこちらに受け取りのサインをお願いしまーす」
――― あーもうっ! 俺のメイドになってくれないかなぁ!!
   そんで……「お帰りなさいませ、ご主人様……」なんて言われた
   日にゃ…………。むっ、むはぁーーーーっ!!!!


「…………」





 ………………男の人は少し苦手です。











 ……でも


「あ、妹さん、ちょっとこれ手伝ってくれないか?」
   ――― しーーん ―――

「……は、はい」



「すまない、妹さん。これ、やっといてくれ」
   ――― しーーん ―――

「えっと……わかり……ました」
 ……視えない……






 こんな人、初めてです。(もう一人の執事さんは「……美しい」とか
「ビューティフォー……」とかたまに視える)







 だけど……


「悪いな妹さん、手伝ってもらっちゃって」
「い、いえ、これもお仕事ですから……」
「うっし、あとは俺がやっとくわ。妹さんは休んでてくれ」
「あ……大丈夫です、私もやります」
「いいから、いいから。さんきゅーな」


 …………視えないけれど……播磨さんはやっぱりいい人だと思います。








 播磨さんは動物にも詳しいみたいで……よくお庭で動物達のお世話をし
ているのを見かけます。
 ……でも、どうしてお屋敷のお庭にあんなにたくさんの動物さんがいる
んだろ……。犬さんや猫さんならまだしも……キリンさんやライオンさん
が普通に歩いているのは……すごいと思う……。
 飼っているわけじゃないそうです。
 
 みんなよく播磨さんに懐いています。
 この間は、私の飼っている猫の伊織が足をケガしている時助けてくれま
した。伊織もそれ以来、すっかり懐いてしまったみたい。
 今度……動物のこととか、お話してみたいな……。

















 午前のお仕事がひと段落したらお昼ご飯です。
 今日は良い天気なので、おにぎりを作ってお外で食べることにしました。
 池のそばの石に腰を掛けて……よく、噛んで食べます。
 お米の甘味と香りに、お塩のしょっぱさがちょうどよくておいしいです。

 青いお空には白い雲が流れていて……
 そよ風に揺れる木々のざわめきが耳に心地良い……
 そんな静かな午後の一時……



「ばぅっ」


 ……視線を下ろすと、いつの間にか目の前に……なんだか白くて、大き
くて、ふわふわしたものが……。

 …………白くて 大きくて……ふわふわ?


「ばぅっ」

 白くて、大きくて、ふわふわしたものがもう一度吠えました。


「……犬……さん?」


――へっへっへっへっへっ――

 白くて、大きな犬さんは息を弾ませながら私の方を……違う、私の手元
をじーーっと見詰めています。


「…………これ、欲しいの?」

「ばぅっ!」


 私はおにぎりを一つ手に取ると、土がつかないように草の葉の上に置い
てあげました。その犬さんは数度臭いを嗅ぐ仕草をすると、少しかじって
ゆっくりと食べ始めます。
 よく噛んで食べる犬さんです。

 私、本当は犬は少し苦手なのだけれど……この犬さんは大丈夫そう。
 大っきいけど、とても優しい瞳をしていて………

「ばぅっ」

「……もう一つ、欲しい?」

 左右にゆらゆらと揺れる、白いしっぽ。
 少し考えます。
 私はまだ一つしか食べてないけど……
 喜んでくれてるみたいだから……



「おーい、ルドルフーっ!」

「! ばぅっ!」


 向こうからやってくる播磨さん。
 犬さんは立ち上がると、しっぽをパタパタ振り始めました。

 ……お名前、ルドルフさんって言うのかな。


「ったく、こんなところにいたのかよ……。おっ、昼飯か? 妹さん」
「あ……はい、そうです」

 私を見て、おにぎりを見て……そしてルドルフさんを見る播磨さん。


「……妹さん、こいつにおにぎりねだられなかったか?」
「……あ、はい。一つ、あげました」

 …………あげちゃ、いけなかったのかな


「あちゃー……。いや、わりぃわりぃ。こいつ、握り飯が好物でさ」

――人が食ってるの見ると、すぐねだるんだよ。
 苦笑しながら手を顔の前に立てると、頭を下げる播磨さん。

「そ、そんな、いいんです。それに、喜んで食べてくれましたし……」

「ばぅっ!」

「いや、これ以上昼飯の邪魔をするわけにはいかねぇよ。こいつは連れて
くから、妹さんはゆっくり……」



       ぐぅううぅぅぅ。



「…………」
「…………」
「…………」


 辺りに響く、お腹の虫。



「あ、あの……よかったら播磨さんの分も作ってきましょうか?」

「………………いいの?」
「あ、はい。おにぎりくらいならすぐ出来ますから」

「……………………オネガイシマス」
「……はい」


 小さくなって頭を下げる播磨さん。普段とのギャップがおかしくて、悪
いとは思ったのだけれど……私は少し笑ってしまいました。


「ばぅっ!」

「……うん、ルドルフさんの分も……作ってくるね」

「ばぅっ♪」


















 それから、私達三人はよくお庭でおにぎりを食べるようになりました。
 このお屋敷では、基本的にお昼は皆で一緒に食べるので(沢近先輩も一
緒に食べるのには驚きました)おやつ時に一つか二つ……。
 おにぎりを一緒に食べるようになってから、私は播磨さんとよくお話す
るようになりました。

 動物のお話も……いっぱいしました……。


 あのお庭にいる動物さん達は、実は近所の動物園から遊びにきているん
だってことや……。
 ……一時期、一緒に旅をしていたお話も……

 なんでも播磨さんは動物さんと意思疎通が出来るそうで、そのおかげで
どんな動物ともすぐに仲良くなれるんだそうです。

 ……ちょっぴり羨ましいです。




 動物さんともいっぱい仲良くなりました。

 キリンのピョートル。
 豚のナポレオン。
 ライオンのレオニダス。
 そして狸の田中くん。


 みんな みんなお友達。

 ――ばぅっ


 ルドルフさんともお友達。




 みんなとお庭をお散歩するのが最近の私の日課です。



























 ルドルフさんが亡くなりました。


























 朝。いつも寝ている木の下で。
 ルドルフさんがなかなか目を覚まさないので、おかしいなと思って触れ
てみたら……。
 白い毛はいつものようにふわふわだけど……いつもと違って冷たくて。
 まるで眠っているように穏やかな顔をしていたのだけれど……
 その瞳はもう二度と開きません。










 町から少し離れた森の中。
 よく見ると、辺りに幾つかの動物達のお墓が並んでいます。
 小さくて、簡素で……でも丁寧にお手入れのされたお墓。
 その中の……新しいお墓の前で、播磨さんは静かにたたずんでいます。

 ルドルフさんは、播磨さんと出会った時から随分と老犬だったそうで……
大往生なんだそうです。
 播磨さんは……あいつは幸せだったのかな、なんて心配しているけれど
……私は、ルドルフさんは幸せだったと思います。

 だって、こんなに………こんなに大事に思われているのだから。






 お供え物におにぎりを三つ作ってきました。
 播磨さんはその一つをお墓に添えると、一つを自分に……
 そして一つを私に差し出します。


 ―― 一緒に食べてやってくれ ――


 涙が溢れそうになったけど……一生懸命がまんして、コクンと頷くと
おにぎりを受け取りました。
 一口、一口……ゆっくりと噛みしめます。

 いつものようにお米は甘くて……
 塩味が程よく利いて……


  ………しょっぱい………



 えっと顔を上げると、播磨さんが涙をいっぱい流しながらおにぎりを食
べていました。
 瞳から溢れる涙を拭おうともせず、おにぎりと一緒に飲み込む播磨さん。



 ……私はもう、堪えることが出来なかった。
















  今日のおにぎりはとてもしょっぱかったです。






















 次の日。いつもと変わらぬ様子の播磨さん。
 いつもと同じ様に挨拶をしてくれました。

「おぅ。おはよう、妹さん」
――― おにぎり、ありがとな ―――



「……っ!??」


 慌てる私を不思議そうな顔で見る播磨さん。
 その視線が何故かとても恥ずかしくて………
 私はますます慌ててしまいました。

「? どうかしたのか、妹さん?」
「あ、い、いえっ……。だ、大丈夫ですっ」
「? そうか? ……んー、うっし、そんじゃ今日も一日がんばるかぁ!」
「あ……は、ハイっ」







 にぱっと笑って歩き出す播磨さん……。
 その心はやっぱりわからないけれど。

 だけど……

 さっきは……確かにはっきり視えた………。















 私は好きって気持ちはよくわかりません。
 男の人はまだ少し怖いです。



 ……でも


 ……………



 でも……播磨さんは優しい人。

 この人の側にいると安心する。





 この人の側に………もっといたい……










 そう思う。














 だから………
















「…………あの……播磨さん」



















―――まずは名前で呼んでもらおう。











           内気な少女の小さな願い

























      ――ツン ツン デレデレ

                 ツン  デレデレ


         視えない心は 自分の心

                そんなこの娘も ツンデレラ 


       ガラスの靴は 動物 おにぎり 

               些細な日々が想いを育む



        ――ツン ツン デレデレ

                   ツン  デレデレ




      むかーし むかしの 平和な国の

            小さな 小さな  妹さんな物語








  春、ところにより冬 ( No.6 )
日時: 2007/07/21 00:42
名前: 一日一膳


――むかーしむかし、とある小さな国の物語――



   『 ツンデレラ外伝 −春、ところにより冬− 』



――誰もいないわよね?

 
 ある晴れた、暖かい春のこと。
 ここは沢近伯爵邸、見習い執事の部屋。
 そのドアを静かに開いて中を窺うお嬢様の姿がいた。
 部屋の主が用事で出かけている事はもちろん確認済みである。
 彼女は素早く中に滑り込むと、後ろ手にドアをゆっくりと閉めた。
 ―しん―と静まり返る部屋。


――あいつの部屋だ。

 何故か込み上げてくる嬉しさに疑問も持たずに、彼女は部屋を物色し始
める。気になる男の子の部屋を彼のいない間に探索などと、年頃の女の子
に似つかわしくかわいらしいものかもしれない。
 ただ……その顔に浮かべているそこはかとなく嫌らしい笑みを見たら、
彼女に幻想を抱いている何人かの坊ちゃん達が幻滅したかもしれないけれ
ど。



――あいつの部屋。どことなくあいつの匂いがする。
 あまり、物とかは置いてないのよね。目に付くものと言えばあいつの趣
味の絵画のキャンパスくらい。

 そう。意外かもしれないけど、あいつの趣味は絵を描くこと。
 それに結構うまい。絵が好きな事は知っていたけど、ここまで本格的に
取り組んでいると知ったのはつい最近だ。
 その……前はあいつの絵を見ても素直に評価なんかできなくて……。
 売り言葉に買い言葉。結局、ケンカばかりしてたのよね。
 ……でも……その、色々あって……。
 い、今は少しは素直に評価出来るようになったわよ! ……多分。
 さ、最近は一緒に絵を描いたりもするし、それにあいつ……。お、教え
方結構上手だし。
 この間だって上手くなったって私の頭を…………




 男の部屋の真ん中で、キャンバス持ってえへえへ妄想する少女が一人。
 はっきり言ってかなり危ない。
 暫くすると、はっと気がついたのか彼女はあたふたとあたりに置いてあ
るキャンバスを再び見渡しだす。
 取り繕う様に、んーこれもなかなか、なんて感想を呟いたりし始めた。

 彼の絵は実に多彩で、しっかり仕上げてあるものからデッサンの様なも
のまで数多い。
 木、鳥、馬に泉や草原。
 あえて共通していることと言えば……どれも皆、楽しそうに描かれてい
るということだろうか。
 そんな絵を眺めているうちに、お嬢様も優しい気持ちになってきたよう
だ。
 今、彼女が浮かべている微笑の前では美の女神すらその姿が霞んでしま
うかもしれない。

――私、あいつの絵、好きだな。

 愛理は素直にそう思った。




 そんな恋する乙女の視線が、ふと一枚の絵の上に止まった。
 まだ描きかけだが、どうやらこの間新しく雇ったメイドのあの子の肖像
画のようだ。
 キャンバスの中の彼女は儚げながらもじっとこちらを見つめている。
 はにかんだ口元などとても魅力的で、絵の中の彼女がいかに描き手を信
頼しているのかがよく窺える。そんな一枚だ。

 ……その瞬間、部屋の空気が一変した。
 春の日差しはどこへやら。今、この部屋に踏み込んだ者は極寒の地に放
り出されるような涼しさを体感することが出来るだろう。
 特に背筋の辺りに。
 今の彼女を目にしたのならば、地獄の閻魔様だって裸足で逃げ出すこと
間違いない。


 不機嫌な様子を隠そうともせず、愛理はフンッと息をついた。



  あいつはいつもそう。私をいらいらさせる。
 私が悪いんじゃない。だって、私を怒らせるのはあいつだもの。
 今だってほら………


   ――絵に描かれたあの子の瞳はとても綺麗で――


  ……やっぱり帰ってきたら一発殴ろう。



 物騒な決意を胸にしながら、少女はそっと部屋を後にする。

 こぶしをぎゅっと握り締めて。























      ――ツン ツン デレデレ

                 ツン  デレデレ


       春の女神は立ち去って

                冬の魔王が降り立った 


        握る拳に力を込めて 

            本当はただ、かまって欲しかっただけなのだ



        ――ツン ツン デレデレ

                   ツン  デレデレ




      むかーし むかしの 平和な国の

            小さな 小さな  魔王の物語









  不満 ( No.7 )
日時: 2007/07/21 00:43
名前: 一日一膳


ある、晴れた昼のこと。メイド服姿の少女が一人、庭の木陰に置かれた椅子に座ってい
る。肩で切りそろえられた黒髪が、その娘のしとやかさを一層引き立てている。
少女は前を見つめたまま、じっと動かない。
……じっと
……


「あ、あのよ妹さん」「はい」

「じっとしてるのも大変だろうから、少しくらい動いてもいいんだぜ?」
「はい、播磨さん」


 私の名前は塚本八雲。今日は播磨さんに頼まれて、絵のモデルをしています。最初は
恥ずかしかったのだけれど……播磨さんがとっても一生懸命お願いされるので……引き
受けることにしました。それからは時間のある時にこうしてモデルをしています。
 播磨さんは趣味で絵を描かれます。人物はあまり描いたことが無くて、少し苦手なん
だそうですが……そんなことはないと思います。私は……播磨さんの絵、好きです。


――妹さん、さっきからずっと動かないけど、疲れないのかな……

「…………」ピクッ



 ……私には少し変わった力があります。私のことを考えている人の心が……時々見え
るんです。でも、播磨さんの心は……普段はあまりよく見えません。


 …………少し、残念…かも……です。

 でも……


――……ここは、こうした方が妹さんらしさが出るかな?

「………」ピククッ


 播磨さんが前に言っていました。絵を描く時は描く物のことをよく考えるんだって。
 外側だけでなく、その内側まで。
 その対象が何を考えているのか、何を想っているのか…。どんな事が好きなのか、ど
んな時に嬉しいのか。そうすると、なんだか上手く描ける様な気がするんだそうです。


――……妹さんって……やっぱり美人なんだよな。

「っ!?」ビクッ!


――実際優しい娘だし。面倒見もいいし、料理も上手い。将来はいいお嫁さんになるん
 だろな。


「………」かぁぁぁっ


 ……絵を描いている時の播磨さんはとても真剣です。
 とてもとても集中しているから……だから、こんなによく見えるのかな……。


「い、妹さん?」
「…あ、は、はいっ」
「あ、あのよ。ほんとに動いていいんだぜ?」
「え…あ、はい。大丈夫……です」




 …………

 播磨さんは、しきりに私がじっとしている事を心配してくれるけれど……本当に大丈
夫なんです。


――妹さん、全然動かないけど、退屈じゃないのかな?


 全然、退屈なんかじゃ……ありません。


――妹さんの目って綺麗だよな。なんつーか……不思議な色だぜ。

 いつもはあまり見えない播磨さんの心が……この時間だけは、いっぱい見えます。

 だから……


――……えーと……じ、じっとしててくれるのは助かるんだけど……。……あの瞳で見
 つめられると……な、なんか恥ずかしいんだよな。

「…………」


 だから……

 もっとたくさん見ていたいから……

 もっと もっとこの人の事を知りたいから……


 ……この時間はとても心地良いから……



 だから私は、じっと見つめます。


「あ、あのよ妹さん」

「はい」




 ――はい、何でしょう、播磨さん



 名前で呼んでくれない事が、私は最近何故かちょっぴり不満。







      ――ツン ツン デレデレ

                 ツン  デレデレ


       いっぱい視えた あの人の心

                いまだに呼称は 妹さん 


         緋色の瞳に想いを乗せて 

               少女はじっと見つめ続ける



        ――ツン ツン デレデレ

                   ツン  デレデレ




      むかーし むかしの 平和な国の

            小さな 小さな  不満な物語










 



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