白い息(播磨×八雲)

 
  
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 59

投稿1時間: 2008年4月16日(水) 00:37    題名: 白い息(播磨×八雲)    

第三作目となります。
《お子様ランチ》,《旗》と来たので今回は《おにぎり》です。

前作の『サングラスを外してみると……』については,自分としては納得いかない
ものとなってしまいました。
今回は前作の反省を踏まえ,少しでも自分で良いと感じるものに,
そして読んでくれる方々にそう思っていただけるものに仕上げることができたらと思います。

相変わらず文章を書くのが苦手で,読みづらいかもしれませんが,
そこのところをご理解のうえで読んでもらえたらと思っています。

今回は短編です。
更新は1〜2回程度となる予定です。
作風を少し変えてみました。

また,もし良かったら簡単なもので構いませんので,作品の完成前後関係なく感想掲示板
の方に感想を書いていただければと思います。


それではどうか,宜しくお願いします。


編集者: ボロネーゼ, 最終編集日: 2008年4月16日(水) 16:27, 編集回数: 2
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 59

投稿1時間: 2008年4月16日(水) 00:39    題名:    

ふと気がつくと,横を通りすぎていく街路樹の枝はいつのまにか葉を
すべて落とし終わっていた。
どうやら自然界では寒さを乗り越える準備はとっくに終わっており,
「さぁもう大丈夫だ,いつでも来い」って感じなんだろう。
そのまるはだかの枝の向こうは淡く白い光に覆われた空がどこまでも広がっている。
明日の天気はどうなるのかと空を見上げていると,

「あの,お忙しいところわざわざ手伝ってもらってすみません」
「いや,全然かまわねぇって
 ちょうどヒマしてたとこだしな」

私の少しばかり前を並んで歩くふたりの会話が,ローファーのカツカツという
乾いた音とともにきりりと身を引き締めるような冷たい空気の間を縫って届いてきた。
背の高いその人は大きく膨れたスーパーの紙袋を左腕いっぱいに抱えており,彼女からの
すまなそうな言葉と眼差しに穏やかな笑顔で応えてあげているみたい。
やっぱりあの人は優しくて,彼女が持とうとしていたビニール製の買い物袋までも
「重いだろ? これは俺に運ばせてくんな,な?」と右手に提げている。
後ろからでは見えないが,きっと今の彼女は申し訳のない表情を浮かべながらも,その心は
本人の自覚してないところで安心しきっているのではないだろうか。
このふたりは一緒になると,いつもこんな暖かく柔らかい雰囲気でもって私をなごませて
くれるのだ。
だから私はこんなふたりを眺めているのが好き。
幸せな気分をちょっぴりおすそ分けしてもらってるって感じかな。
もっともふたりにとってこれが幸せと自覚しているものなのかは私には分かりようの
ないことなのだけれど。

でも実はそんな微笑ましいことだけじゃない。
ちょっと心配な事もあるのだ。
それは距離。
ふたりの距離はカップルと表現するには十分ではないだろう。
それは今実際に二人して並んで歩いている物理的な意味でも,そして心理的な意味でも。
今までの長い時間この距離は保ち続けられたままで,縮まったとは感じられなかった。
いや,ふたりにはお互いに対する信頼感のようなものがきっとある。
これはほぼ間違いないと思う。
でも,それから先の変化があったようには見えない。
だから思ってしまう。
もしかしたらずっとふたりはこのまま進展がないんじゃないかって。
限りなく細い間隔を維持し続ける平行線のようなものなのではないかって。
なにも,このふたりの間に恋愛感情が芽生えるのが当然だと思ってるわけじゃない。
むしろ,世間一般ではそんな可能性―――「恋愛」という心理的なものを「可能性」
なんて理系っぽい言葉と一緒に使うのは適当じゃないと思うが―――のほうが圧倒的に低いのだろう。
けれども親友としてはやはり彼女の恋が実ってほしい,彼女には幸せになってほしいというのが
私の正直な気持ちなのだ。
なにかいいきっかけがあるといいんだけど………
白い息は漂ったままなかなか消えない。

「うぅ〜なぜだ
 八雲くんはなぜ播磨に対しては………ぶつぶつ」

おっとそうだった。
この人もいたんだっけ。
なんだかさっきから隣でボソボソと音がするなぁ〜って感じてはいたんだけど,全くと言って
いいほど意に介してなかった。
どうやらほったらかしたままにしちゃってたみたい,………ごめんなさい。
もう結構時間経っちゃってるけど,少し励ましてあげないと

「花井先輩,元気出してください
 八雲はなにも花井先輩のことがキライってわけじゃないんですから,ね?」

花井先輩は私たちがお店を出た直後に,どこからともなく現れて「いや〜,なんだか八雲くんが
助けを必要としている気がしてね」と言い,自分が荷物を持つと進み出てきた。
けれど,すでに播磨先輩が持ってくれていたので八雲はその申し出を丁重にお断りし,花井先輩は
ショックを引きずりながらもここまで一緒に歩いてきたというところ。
方向転換が利かなくなってひたすら突進を続けるイノシシの如きいつものけたたましさがウソ
のように,まるで水分を失って今にも干乾びてしまいそうなアサガオの双葉のようになってしまった
花井先輩は,もはや消え入りそうなしわがれた声で

「しかしサラくん,僕はただ手伝いをしたかっただけなんだ
 そしてこの道を八雲くんとふたりで並んで歩い,ブァホゥッ!」
「花井! お前こんなとこでなにやってんだ,買出しの途中だろうが!」

スパーンと気持ちのいい音がして花井先輩の頭が突然前方に平行移動したと思ったら,
息を切らせた周防先輩がいつの間にかそこにいた。
先を歩いていたふたりも何が起きたのかと歩を止めて振り返っている。

「いや〜イキナリごめんな3人とも
 コイツがまた変なことを言い出したかと思ったら急に走り出して,慌てて追ってきたんだけど……
 そうか,やっぱり花井の悪い癖が出たか………
 ごめんね八雲ちゃん,花井がまた迷惑かけた?」

花井先輩の腕に自分の腕を組んで逃げられないようにしたまま,周防先輩は
散歩中に勝手に走り出したペットの犬にほとほと困った飼い主のような語り口で話す。

「いえ,迷惑だなんてそんな……」
「いいんだよ八雲ちゃん
 コイツはちょっと強めに言ったくらいじゃないと効果無いんだ
 迷惑です,もうやめてくださいってね
 まぁ,そうは言っても優しい八雲ちゃんはそんな事しないか」

「なんだ周防,オメーらも買いモンか?」

播磨先輩の疑問は私も共通なので,耳を傾ける。

「ああ,ほらアタシら道場やってるだろ?
 それで明日はチビたちとかみんなで道場の納会やるからさ,それの準備」
「へぇ〜納会ですか,なんだかまだ少し早いような気もしますけど,とても楽しそうですね」
「なんだったらサラちゃんたち3人も来るかい?
 ちょっとくらい人数増えたって全然平気だし,みんな喜んで歓迎するよ」
「そうだ!それがいい!
 ぜひとも来てくれたまえ八雲くん
 この花井春樹と共に今年を締めくくろイデデッ」

笑顔で花井先輩の頬をつねったまま周防先輩は答えを待ってくれている。

「え〜と,行きたいのは山々なんですが私たちも明日のクリスマス会の準備が……」
「へ? あ〜そうかサラちゃんはクリスチャンだったね」
「ハイ 明日は自治会館を借りて,地域の子供たちを呼んで一緒にクリスマスの歌を歌ったり,
 お話をしたり,ケーキを食べたりするつもりです」
「なるほど,それで播磨と八雲ちゃんはその手伝いってワケだ」
「まあな」「はい」

実際は明日は12月23日でクリスマスでもなければクリスマスイヴでもないのだけれど,
当日はちょっと避けたほうがいいかなと思い,この日程になった。
まぁ,クリスマスツリーが片付けられ,ジングルベルがもう街に流れなくなった26日以降に
クリスマス会をやるよりかはずっといいはずだ。

「ん,そうか
 ならしょうがないな
 ………おっと,そろそろアタシらも行かないとな
 まだ買い物残ってるんだし
 それじゃ,3人とも頑張って!
 メリークリスマス!」

涙を流しながら八雲の名を叫ぶ花井先輩を引きずったまま,周防先輩は大きく手を振って
去っていった。
うん,やっぱり周防先輩はいつも爽やかで気持ちのいい人だ。
思いやりのある明るさの中には,決してやましいところなんて無い。
私もあんな人になれたらいいなと思う。

二人の姿が曲がり角で見えなくなるのを確認すると,私たちも歩みを再開する。
さて,花井先輩が欠けた今,3人ということはちょっと困りものだ。
どう考えても私は余り者になる。
ふたりはそんな風に思わないかもしれないけど,まだ自治会館までは少しあるし,
あからさまだと感じながら,

「八雲,私は先に行って鍵開けて部屋温かくしてるね」
「え? あ……うん。ありがとう,サラ」

一緒に行けばいいのに,とハテナマークの浮かんだ八雲の顔を確認し,

「それじゃ播磨先輩,お願いしますね」

播磨先輩にはちょっぴり含みを持たせた言い方をしておく。

「? おう,任せときな」

予想通り頭にハテナマークが立ったが,播磨先輩の場合は実にこの人らしい。
そんな姿に安心感とわずかな不安を感じながら,私は歩を速めるのだった。
白い息はなかなか消えない。
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 59

投稿1時間: 2008年4月20日(日) 19:20    題名:    

いまのところクリスマス会は順調に進み,子どもたちには楽しんでもらえて
いるみたい。
ケーキをぺろりと平らげた子どもたちの中には,飽きが出てくる子もいるようで,
落ち着きの無さが目につくようになってきた。
たいていそういうのは小さい子が多いのだが,精神年齢がちょっぴりオトナに
なってきた女の子たちは私や八雲のところに来て「彼氏さんは?」
「好きな男の人いるの?」といった内容の質問を
浴びせてきて,私たちも答えるのがなかなか大変だ。

さて,時間的にも雰囲気的にもそろそろ良い頃合いだろう。
私たちも最後の準備にかかることにする。
女の子たちの質問責めからうまく逃れた私たちは打ち合わせどおりそれぞれの持ち場に移動。
八雲が部屋の電気を消すと同時に部屋の隅のクリスマスツリーに色とりどりの豆電球が灯る。
突然暗くなった部屋でカラフルな豆電球の光に照らされた子ども達からは「なになに?」
「なにが始まるの〜?」と疑問と興奮の入り混じった声が聞こえ,こちらとしては嬉しい反応だ。
ここはぜひそれに応えてあげたい。

「はーい,ちょっと聞いてもらっていいかな〜?
 なんと,今日はみんなのためにスペシャルゲストが来てくれてます
 それでは,どうぞお入りください」

クリスマス会と思いきり銘打ってある会である。
ゲストとして想像できるのはひとりしかいなく,もし八雲の好きな時代劇の万石や動物園の空太くん
なんかが登場してきたりしたら,それはもはや何の催しなのか全然わからない。
いや,それはそれでなかなか面白そうな気がするのは否定できないんだけど。
で,その考えはこの子たちにも同じようで,いつもは静かな自治会館は,子ども達の歓声でいっぱいに包まれる。
多分,年内でもこの建物がここまで盛り上がるのは数えるほどでしかないのではないだろうか。
蛍光灯がふたたび灯り,CDプレイヤーからは「サンタが町にやってきた」のBGMが流れ出す。

さぁ,舞台は整った。
ノブが回され,ゆっくりと扉が開かれる。
徐々にその赤い姿が明らかになっていくのに比例するように,子ども達の顔も輝きを増してくる。
そして,期待通りそこに堂々と立っていたのは………あら?

そこには確かにサンタが立っている。
その全身真っ赤な服と帽子,プレゼントがたくさん入っているであろう大きな白い袋を肩にかけているその姿
はまさしくサンタそのものだ。
ただ,もじゃもじゃの白くて柔らかいひげの代わりにチョンチョンと黒いひげが生えている
こととサングラスをかけていることをのぞけば……

「播磨さん,その,ひげが……
 あと,サングラスも……」
「え? うぉわっ! ヤベェ!」

自分の理想とは微妙に異なるサンタクロースの登場に子どもたちはそろって「アレ? サンタさん?」
といった顔でポカンと口を開きっぱなしのなか,CDプレイヤーだけが「俺は仕事をやってるぜ!」
という具合に「サンタが町にやってきた」をながし続けている。
打ち合わせでは播磨先輩はひげをつけ,サングラスを外し,誰がどうみても「あ,サンタだ」と思わざる
を得ない完璧なサンタで登場するはずだった。
しかしまさかの予想外のハプニング。
いや,ハプニングはそもそも予想できないものなんだけど。

さてどうしようか。ひげが無いのは若いサンタさんだからと言い訳ができるかもしれないけど,
子ども達の思い描くサンタさんは白くてふわふわのひげを生やしたサンタさんのはず。
そしてサングラスはどうする。サングラスをかけたサンタさんなんて聞いたことがない。
いや,もしかしたら本場フィンランドにはお洒落でサングラスをかけたサンタさんも
いるのかもしれないけどここは日本でありそんなサンタさんは誰も望んでないだろう。
ここはどう子ども達を納得させて乗り切るべきか必死で考えていると,

「あーっ!
 あの時花嫁を奪いにきた」
「そうよ,昔の男だわ」
「ねーねーなんでそんな格好してんの?」

子ども達が急に騒ぎ出した。
花嫁,昔の男,それってどこかで………
そうだ,この子たちはよく私たちがお世話してあげてる子で,あのパンフレットの写真撮影の時に
いた子も多い。
だったら,

「はーい! みんなその通り!
 このお兄さんはあの写真撮影の時に花嫁の八雲お姉さんを奪いに来た人です。
 今日はみんなのためにこのお兄さんがクリスマスプレゼントを持ってきてくれました。
 本物のサンタさんは明日のクリスマスイヴの夜遅く,みんなのところにプレゼントを持ってやって
 きます。 楽しみに待っててあげてね〜。
 それじゃあみんなは一列に並んでならんで〜」

そう言って播磨先輩に目配せをする。
播磨先輩はなんだか顔が引きつりながらもその意を汲み取ってくれたようで,並んだ子ども達に
プレゼントを渡していく。
なんだか結構無理やりな感がするけど,ミスをしちゃった播磨先輩にはこれでいいよね?
実際,明日はおうちの人がこの子たちにプレゼントをあげるはずだし,とりあえずはこれでなんとかなりそうだ。
と,思っていたのだが,「ふぅ,ヤバかったぜと」とプレゼントを配り終えた播磨先輩が
退出しようとしたしたとき,

「あれ〜? 八雲お姉ちゃんにはプレゼント無いの〜?」

という声に播磨先輩の足がぴたと止まる。

「やだ,あるに決まってるじゃない。
 愛する人に男はなにかしらプレゼントを渡すものよ。
 それに今日はクリスマス会ときたわ。
 きっと指輪よ,ゆ・び・わ」

ちょっと恋愛に厳しい子の発言に播磨先輩が凍りつき,八雲もどう対処したらいいか
分からないようでオロオロしはじめた。

「ゆ〜び〜わ!」「ゆ〜び〜わ!」「ゆ〜び〜わ!」

一方,子ども達はその子を筆頭についに指輪コールが始まってしまった。
指輪コールはどんどんと過熱していき,播磨先輩の頬に汗がたらりと流れるのが見て取れる。
小さな子どもが相手なだけに困っているのだろう。そんなところがやはり優しい播磨先輩。
そもそも小さい子というのはまだ直感とか本能的な部分が大きくて,本当に悪い人には寄り付かない
ものだ。それを踏まえると,この先輩の優しさは本物と言ってもいいだろう。
さて,ここは場を落ち着けたほうがいいんだろうけど,実は私もちょっと気になってたりして……
指輪ってことはないだろうけどやはりクリスマスである。
播磨先輩から八雲へ何かしらプレゼントがあっても不思議じゃない。
というかプレゼントが是非ともあってほしい。これは完全に私の願望だ。

と,そこで指輪コールの鳴り止まない中,播磨先輩がギギギと音をたてて動くブリキのおもちゃの
ように八雲の方へと向き直った。

「え,え〜とだな妹さん」

なんだかひどくぎこちないご様子。これはもしかしたら……

「え?
 あっ,ハイ……なんでしょう?」

ビクっと反応した彼女の頬にほんのりと朱が挿すのが分かる。可愛い!

「その……だな
 あとでちょっといいか?
 渡したいものがあるんだ」

おっと,これはもしかしたら本当に何かプレゼントが?

「あ……はい
 ………わかりました
 えっと,その播磨さん?」
「ん,なんだ? 妹さん」
「えっと,実は私も播磨さんに渡したいものが………」

なんと,八雲からもプレゼントがあるみたいじゃない。
あ〜もう播磨先輩も八雲も顔赤くしちゃって。
目の前で繰り広げられた嬉し恥ずかし光景に子どもたちもキャーキャー言って大変だ。
私も心のなかではかなりのテンションなのだが,しかしやはりここはお姉さん,そして場を
取り仕切るものとして頑張らないと。

「は〜い,じゃあ今日のクリスマス会はそろそろみんなお別れの時間で〜す。
 お外もすぐ暗くなっちゃうから気をつけて帰ろうね〜」

「え〜」とか「もう終わり〜?」とか聞こえてくるけど,ウソでもなんでもなく実際にもう終わりの時間である。
外には子どもたちの迎えに来たお家の人の車のエンジンの音もしてるし,あんまり遅くに子どもたち
を帰らせるわけにはいかない。
それに,八雲たちもこのままでは困るだろうしね。

「はいは〜い
 忘れ物はないかな〜?
 せっかくもらったプレゼント忘れないようにね〜」

良いところを邪魔されたようで最初はぶ〜ぶ〜言ってたが,その割にはみんなすぐに帰り支度をはじめ,
玄関から出て行く。

「またね〜」と手を振って走って帰る子たちに私たちも手を振りながら笑顔で見送る。
やがて最後の子も見送り終えると,自治会館はさっきまでの騒がしさが夢だったかのような静かになり,
冷たい風が身を震え上がらせた。

「さて,後片付けをしましょうか」

と建物の中に入ろうとしたのだが,どうしたことかふたりが動く気配がない。
不思議に思って振り返ってみると,さっきまでは気付かなかったのだがふたりは
それぞれ何か手に持っているではないか。
播磨先輩はなにやら書類封筒らしきものを,八雲は小さな紙袋を手にしている。
はは〜ん,どうやら今ここでお互いに交換するつもりみたい。

「分かりました。
 それではおふたりともごゆっくり〜」
「サ,サラったら……
 そんなんじゃ……」

否定しようとしてもそんなに顔赤くしてたら説得力ないよ八雲。
まぁとりあえず邪魔者ははやく消え去るのみ。
それにしても,そういう事はふたりきりになってからにすればいいのに,このあとふたりが中に入って
来たら私が居づらくなってしまう………
ふたりが戻ってくる前に私ひとりで出来るだけ片付けてしまおうと思う私なのでした。



           ◇                ◇


「ごめんねサラ
 すぐに手伝うから」

ほどなくしてふたりは入ってきた。
八雲から播磨先輩へのプレゼントは一目で分かった。
播磨先輩の首には真っ白で暖かそうな手編みのマフラーが巻かれている。
さっそく身に付けてあげるなんて本当にいい人だ。
八雲もさぞや喜んでいることだろう。
いっぽう播磨先輩から八雲へのプレゼントはよく分からない。
けれど,若干瞳を潤ませて嬉しそうにそして大切そうに胸に抱えている様子からは,
きっと彼女にとって書類封筒の中身は素敵なものにちがいない。
こうして気恥ずかしそうに並んだふたりを見てると,自然と笑みがこぼれてしまう。
さて,こうなったらなるべくはやく片付けて,さっさと私は退散させていただこう。
そしてキッチンで洗い物をする手を速めながら私は思うのだった。



よかったね,八雲
そして,いつか指輪がもらえるといいね って
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