For good cause?(播磨・八雲・愛理)
 
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:49    題名: For good cause?(播磨・八雲・愛理)  

「いけない…また遅くなっちゃった……ごめんね,姉さん…急がなくちゃ」

もうすでに空が暗くなりつつある時間,急いで道を行く一人の少女の姿があった。

少女の名前は塚本八雲。矢神学院高校の一年生である。

彼女はひとつ年上の姉の天満と二人暮らしをしている。家事は二人で分担
しており,夕食の支度をするのは妹の八雲の役目であった。

しかし今日の八雲は,いつでもどこでもすぐに寝てしまうという悪い癖のため,
帰りのホームルームが終わってしばらくしても教室でひとり眠り続けてしまっていたのだ。


八雲が起きたときにはいつもとかなり時間がズレてしまっていた。
(サラは珍しく学校を休んでいたので起こす人がいなかった)

(早く行かないとお店閉まっちゃう)

そんなことを考えながら急ぐ八雲であったが,ふたつの黒い影が背後から忍び寄っ
てくる事には全く気付いていなかった。

途中,八雲は比較的人気の少なく,そして暗い通りにさしかかった。

ふと,つい最近同じ学校の女生徒が車でつれさられそうになった事件があったことを
思い出す。

(……きっと大丈夫,すぐに通り過ぎてしまえばきっと大丈夫)

普段なら危険な事をあらかじめ用心して明るい道を選ぶ八雲だが,急いでいる今日は
自分にそう言い聞かせるようにしてその道を急ぎ足で通り始めた。

すると突然,ガラのわるい二人の男が八雲の前に立ちふさがった。

先ほどから八雲をつけていた二人である。

「へぇ〜,お嬢ちゃん。カワイイね。今から俺たちと良いトコに行かないかい?」

「そうだよ,お嬢ちゃん。ささ,こっちこっち!!」

八雲はすぐにこの男たちが悪い人たちだと分かった。

二人の態度からもそれは分かる。しかし八雲は自分に対して向けられた異性の好意
の心が読めるという力のため,より二人の企みがなまなましく感じられた。

(ダメ,捕まっちゃ。はやく,はやく逃げないと……)

そう思い,八雲はもと来た道に走り出そうとする。

しかし,それは叶わぬ願いだった。八雲が向きを変え,走り出そうとした瞬間,男の
一人が八雲の腕をつかんだのだ。

「おっと,お嬢ちゃん。せっかく人が誘ってるのに急にどっか行こうとしちゃう
なんてソレはないんじゃない?」

「そうだぜ,お嬢ちゃん。別に俺たちそんな危険な人たちじゃないんだからさ」

いやらしい顔で二人の男はそう言うと,そのうちの一人が八雲の腕を
強く引っ張る。

「イタっ,……その……離してください!!」

八雲は精一杯大きな声で言った。 

しかし,男たちは聞く耳を持たない。

「ちょっと,お嬢ちゃん,そんな事言ったら俺たちが誘拐しようとしてるみたい
じゃないか」

ブロロロッ キキィーッ

その時車がやって来て三人の前で止まった。

これで助かる。

そう思った八雲だったが,現実は甘くなかった。

「遅かったじゃねぇか」
「いいから早く乗せろ!!」

開いている助手席の窓を通して会話が交わされる。

「じゃっ,そ〜ゆ〜コトでやっぱりキミを誘拐しちゃうからね〜」

そう言うと二人の男は後部座席のドアを開け,力任せに八雲を車に押し込もうとする。

「だ,誰か助けてください!!!」

八雲は涙目になりながらも必死に助けを求めた。

するとどこからか黒い影が猛スピードでやってきた。


「播拳蹴!!!!!」 「ぐぇっ」

聞き覚えのある声がした。 

そしていつのまにか男の一人は白目をむいて地に崩れ落ちていた。

気がつくとそこには背が高くがっしりし,ヒゲにサングラスをかけた男が先程
まで車に押し込められそうだった八雲をお姫様抱っこして立っていた。

(え?播磨さん?播磨さんが助けに?)

見上げるとそこには,守るもののために闘う真剣に怒る播磨の顔があった。

それを見た八雲はこんな状況なのに赤面してしまう。

この時,自然と恐怖はなかった。

(播磨さんが守ってくれてる)

「誘拐は犯罪ですよ お兄さん方!」

播磨はそう言ったかと思うと,八雲を抱き上げたまま目にも止まらぬ速さで右足を軸に
左へ一回転し,左足で後ろ回し蹴りをもう一人の左の顔面へと繰り出した。

その動きは腕の中の少女の重みなどまるで感じていないかのような動きであった。

「ぐは」 ガッシャーン

男は避けきれずにモロに蹴りを受け,開いていた後部座席のドアの窓ガラスに強く頭を
打ち付け,崩れ落ちた。  

顔の形はかかとがヒットした部分がめり込んでいる。

ガッシャーンという音はその衝撃で窓ガラスが割れた音であった。

闘うシーンが怖かったんだろうか八雲は播磨の腕の中で,体を縮めて手で播磨の
制服をしっかりと握り締め,目をギュッとつむっていた。


「ヒイィ,こ,殺される!!」

播磨の圧倒的な強さにビビッた運転席の男はそう言って,気絶した仲間
二人を置いたまま,後ろのドアを開けっ放しで逃げて行った。

「誘拐は最低だが,仲間を捨てて逃げるなんてのはそれ以下だな」

そう言って播磨は八雲を優しく降ろしてやり,先ほどまでとは違うとても優しい表情
をし,穏やかな口調で八雲に語りかけた。

「大丈夫か?妹さん。ケガはないか?」

八雲は首を横に振って返事をした。

しかし,播磨に助けられてホッとし,それまで抑えていたものがこみ上げて
きたのだろう,八雲は顔を両手で覆って泣き出してしまった。

突然八雲に泣き出されて,動揺した播磨だったが,ちょっと戸惑ったものの,八雲を
優しく正面から抱いてやることにした。

伸ばした両腕がガチガチになりながらも,なんとかその太い腕を八雲の背中に
まわし,抱いて支える。

「もう大丈夫だ妹さん。怖がる必要はねぇ。大丈夫だから,な?」

声を出さずに八雲は震えて泣いていて,返事をしない。 

聞こえてないのかもしれない。


数分程経ったのち,八雲が少し落ち着いてきたのを確認して
播磨が再び優しく八雲に語りかけた。

「大丈夫か?妹さん」

すぐ耳の上で言われ,すぐ顔を上げるとそこに播磨の優しい顔があったことに
八雲の頬は カァッ と赤くなる。

今まで播磨に抱かれていたことに気付いてなかったのだろうか。

しかし,気付いてたにせよ,そうでなかったかにせよ,いつまでもこうして
もらってる訳にはいかない。

八雲は少し名残惜しい気がしながら播磨から離れた。

「は,はい………その,播磨さん………ありがとうございました」

八雲は深々と頭を下げて言った。

感謝の気持ちを表すためだったが,赤くなってしまった顔を隠したかった。

(私,播磨さんに抱かれてた……どうしよう…顔…真っ赤かも…心臓ドキドキしてる…)

「そうか。いやーそれにしても妹さんが無事でよかったぜ。今から帰るんだろ?
もう暗いし,あんな事の後だからな,送ってくぜ,妹さん」

「え?でも…悪いです…それにもう大丈夫ですから」

「いいや,送らせてくれ,妹さん。大事な妹さんにこれ以上怖い目にあって欲しく
ないんだ。これは俺からのお願いってことでどうだ?」

播磨に大事と言われ,八雲はドキッとする。ここは播磨に甘える事にした。

「その…じゃあ,お願いします」 ぺこりとお辞儀をする。

「礼なんかいらねぇぜ,妹さん。じゃ,行くか」   「はい」

そう言うと二人は塚本家に向かって歩き出した。


帰り道,二人は漫画の事や動物の事など話す。

言葉を交わしながらも,八雲はついさっきまで播磨の腕のなかにいたという事が頭から
離れられずにいた。

(……どうしよう……播磨さんの顔を見るのが恥ずかしい)

播磨は隣で八雲が少しモジモジしている事には気付かずに話を続ける。

(そうだ,私播磨さんに助けてもらったんだから何かお礼をしなくちゃ。でも何が
いいんだろう)

(……とりあえず聞いてみよう……)

八雲は上手くひとつの話が切れたところで尋ねた。

「あの……播磨さん?」

「ん? なんだ?」

「えと…その…播磨さんにさっきのお礼をしたいんですけど…何かありますか?」

「お礼?  いや,いーっていーって妹さん。 そこまでしてくれなくていいよ。
 俺は妹さんを助けたくて助けたんだし,それに俺はいつも妹さんの世話になりっ
 ぱなしだからな。気持ちだけで充分ありがてぇぜ。ありがとうな,妹さん」

それでも,どうしても播磨にお礼がしたいという強い思いが八雲を
いつもよりも突き動かす。

そして,八雲はいつもよりずっと強い声で言った。

「で,でも…私は…その,ちゃんとしっかりお礼がしたいんです!!。
 どうか…その…何かさせてください。お願いします!!」

八雲はそう言ってまた頭を下げる。

八雲のいつもとは明らかに違う強い申し出に播磨はたじろいでしまう。

(妹さん,ホントにいいのに。でも,そこまで言われてもなぁ  う〜ん)

「サンキュー,妹さん。でもよ,俺そう言われても特に何も思いつかないんだよな」

「……そうですか,…残念です」

そう言うと,八雲はさみしそうに目線を地面へと落とす。

そんな時,見覚えのある特徴的なピコピコ髪のシルエットをした影が外灯の光で
曲がり角から伸びてきた。

「あ〜いたいた八雲。 も〜今までドコに行ってたの?  心配したんだよお姉ちゃん。
 アレ? ハリマくんも一緒だったの?」

「あ…その…ごめんなさい…姉さん」  「よ,よう塚本」

突然の天満の登場ながら,すぐに対応する八雲と動揺する播磨。

二人は今まであった事を天満に説明した。

「そうだったんだ。 ごめんね八雲。 八雲のピンチに助けてやれなかった私は
 八雲のお姉ちゃん失格だね。 でもホントに八雲が無事で良かった。ありがとう播磨君。
 播磨君には何度お礼を言っても言い足りないくらいだね。」

天満は自分が妹を助けてやれなかった事にひどく落ち込みボロボロ涙を流しながら言った。

それを見て播磨が言う。

「塚本,お前は決してお姉さん失格なんかじゃねえぜ」

「え?」 

 天満は播磨を見る。

「だってよ,塚本。今,お前は一体なんでこんなところにいるんだ?」

「え,それは八雲の事が心配でまたどこかで寝てるんじゃないかって思って探しに…」

「ホラ,そこだぜ塚本。お前はちゃんと妹のことを心配してそういう行動をとった
 訳だろ?それは妹を思っての立派な姉の行動だ。だから塚本。お前は立派な妹さんの
 お姉さんなんだ。」

「…でも,私は八雲を助けてあげられなかった」

「違う!!!  今回に関しては逆に現場に遭遇したのが塚本じゃなくて良かったんだ。
 もし俺の代わりに塚本が助けに行ってみろ。 相手は男3人だ。 塚本と妹さんは
 二人とも誘拐されていただろう。 大事なのは結果でなく塚本がそういうアクション
 をとったって事実なんだ。」

「播磨君…」  「播磨さん…」

 播磨の真剣な態度と言葉にジ〜ンとくる天満と八雲。

「だからな,今回は妹さんが無事に済んだって事でいいじゃないか,な?」

「うん。 わかったよ。 そうだね……ありがとう播磨君」

天満は涙でグシャグシャになった顔を服の袖で拭いてから,笑顔で言った。


その後,播磨は二人をしっかりと塚本家まで送ってから,マンションへと帰った。







八雲は帰宅後,天満と夕食をとりながら播磨に対してのお礼をどうするか考えていた。
(夕食の材料は天満が八雲の居眠りを予測して買ってきていた)

(播磨さんが喜んでくれること。播磨さんの役に立てること。…なんだろう?)

ふと,以前播磨の漫画を徹夜で手伝ったときの事を思い出す。

(そういえば播磨さん,ご飯の代わりにビーフジャーキー食べてた。もしかしたら
 普段の生活でもあんな感じの食生活なのかな?)

そう思うと急に播磨の事が心配になる。

そして八雲はあるアイデアを思いついた。

(そうだ。播磨さんにお弁当を作ろう。迷惑かもしれないけど)


「ね〜八雲。私たち何か播磨君にお礼しなきゃだよね?八雲はどうするの?」

「え?えっと,私はその…播磨さんにお弁当を作ろうと…思って」

不意を突かれてつい答えてしまう。

「そっかぁ!!八雲にはそれがあったんだよね。 うんうん。 ナイスアイデア
 だよ八雲。 きっと播磨君も喜ぶよ!!」

「そ…そうかな?」

「絶対だよ!!八雲の料理食べて喜ばない人なんかいないし,なんてったって播磨君
 は八雲の彼氏なんだから」

「姉さん,それはちが『そっかぁ,お弁当かぁ。じゃあ私はどうしようかなぁ。
 お風呂でゆっくり考えよっと』」

誤解を解こうとしたが,天満は聞いちゃいない。

まぁいつものことだから思い,八雲は諦めた。


編集者: ボロネーゼ, 最終編集日: 2007年6月08日(金) 02:22, 編集回数: 5
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:50    題名:  

翌朝

《塚本家》

塚本家の台所にはお弁当を作る八雲の姿があった。

いつもと同じ光景。

しかし,テーブルの上の物はいつもと違っていた。

いつもと同じお弁当箱が2つ。

そのすぐ横に1サイズ大きいお弁当箱がひとつ。

その大きなお弁当箱に心を込めて作ったおかずを詰めていく。

あの人がおいしそうに食べる姿を想像しながら。

お弁当を作るその少女の心はいつもより少し踊っていた。




《学校》

教室では天満が昨日の事を美琴,愛理,高野の3人に話していた。

「でねでね,播磨君が悪い人たちをやっつけて,八雲を助けてくれたの」
「マジでか?そんな事がこんな身近に起こるなんてなぁ〜。矢神もあぶねぇなぁ」
「へぇ〜,そんな事があったの?八雲は大丈夫だったの?」
「うん。すごく怖かったみたいだけど,ケガはなかったんだ。ホント播磨君
のおかげだよ。」

「彼は〈やる時はやる男〉だものね」

突然,高野が言う

「え?」

3人は高野を見た

「まぁ,確かにアイツはそんな感じがするけど,何でお前がそんなに断言するんだ?」
「そうよ晶,何でなのよ? なんか証拠があるの?」
「アラ? 愛理,それは多分あなたのほうがよく分かってると思うんだけど」
「ハァ〜? なんで私なのよ?」
「リレーの約束とか」

そう言われて愛理は,播磨がケガをした自分のためにリレーで勝つという約束をし,
そして本当に勝ってくれたことを思い出す。

確かにあの時の播磨は〈やる時はやる男〉であった。

「ちょ,ちょっと晶  なんでアンタがそのこと知ってんのよ!!」

そういう愛理の頬は赤く染まっている。

「え〜? なになに愛理ちゃん? リレーで播磨君となにかあったの?}
「な,なんにもないわよ天満」
「オイオイ 何があったんだ沢近? ホレホレ 言うてたもれ」
「もう!! うるさいわよ美琴!!」

ガララーッ 

うわさをすればなんとやらとはよく言ったものだ。

ちょうど播磨が教室に入ってきた。

「おはよっ 播磨」
「播磨君おはよう」
「お おはよう ヒゲ」(もう なんてタイミングで入って来んのよ このヒゲは)
「オハヨー播磨君!! 昨日はホントにありがとうね  おかげでもう八雲も大丈夫だよ」

「オ,オウ!! いいってことよ」(くぅ〜ッ 朝から天満ちゃんと接触できるとは
今日の俺はツイてるぜ)

「ところでさ,播磨君に聞きたいんだけど,播磨君と愛理ちゃんってサ 体育祭の
リレーで何か むぐぐ んう〜」
「ヒ ヒゲ これはなんでもないの ささっ 早く自分の席にでも行きなさい」

天満の口を両手でふさぎつつ,播磨をなんとかこの場から遠ざけようと愛理は言った。

「なんでもなくは見えねえけどな。つーか俺の席は今お嬢が使ってんじゃねーか」

「え?」

そう言われて愛理は自分が座ってる席を確認する。 

確かに播磨の席だ。

実は愛理,播磨が教室にいないときに播磨の席をよく使うのだ。

天満の席が隣で美琴の席と近いからだ。

しかし,それだけの理由で愛理がいつも播磨の席を使うのではない という
ことは,愛理を知る友人たちからすれば明白であった。

特に高野なんかは,愛理がその席を離れるとき,いつも少しだけ名残惜しそうに
席をたつのに気付いていた。





愛理は自分の発言の失敗に気付き,少し恥ずかしくなる。

けれども,口から出てきた言葉はその感情どおりではなかった。

「もう!! ウルサイわね いいからヒゲはどっか行きなさいよ!!」

「あん? 何でそ〜なんだよ」

愛理は「なんか文句あんの?」と言わんばかり ジロッ と播磨をにらみつける

「イイエ,モンクナドゴザイマセン サワチカサン」

そう言うと播磨は小さくなって屋上へと向かった。







「ったく 朝っぱらからなんなんだっつーんだよあのお嬢は!! せっかく天満ちゃん
と接触できてたのによ  しゃーねぇな しばし屋上で眠るとするか」

ブツブツ言いながら階段を上る播磨。

するとそこでケータイにメールが届く。

「ん? 誰だ? っっっっってオイ マジかよ 天満ちゃんから俺にメールが!!」

普段そんなに天満からメールが来ない播磨。

期待に胸を膨らませ,ドキドキしながらメールを見た。





【無題】
 
 ごめんね播磨君  
 さっき言い忘れちゃったんだけど,今日は播磨君を想う人から播磨君に渡す物
 があるの
 
 今は多分屋上にいるんだよね?
 
 もし播磨君がお昼まで屋上にいるんだったら,昼休みになっても降りて来ないで
 屋上で待っててね
 
 それと,播磨君は今日,お昼ごはんは買わないでおいてね


 
 
 じゃあ楽しみに待っててね 播磨君






(こ これは…まさか…もしかして…)



《播磨の思考》
 
 そういえばさっき天満ちゃんはリレーがどうのこうのとか言ってた。

 それにこのメールには『播磨君に渡す物』とある。

 『リレー』,そして『渡す物』…
 


 そ,そうか分かったぜ天満ちゃん こういう事なんだな
 
 リレーといえばバトン。 

 バトンといえば『愛のバトン』。(←根拠は?)

 そして『渡す物』とは愛のバトンを意味する。
          ↓ 
 天満ちゃんは俺に愛のバトンを渡そうとしている。

 つまり天満ちゃんは今日のお昼休みに俺に愛の告白をしようとしているわけだ。

 お昼ごはんがいらないというのは,きっと天満ちゃんが俺たちカップル成立
 を祝うためにケーキか何かを作ってきてくれたからに違いない。
 
 クゥ〜ッ 可愛すぎるぜ天満ちゃん よ〜し分かった。

 ここはしっかりとキミの愛を受け止めてやるぜ。


 ついに ついにやっとこの時がやってきたんだな。 

 思えば色々あったもんだ。

 辛く,苦しく,いくら頑張っても努力が報われないこともたくさんあった。
 


 だがそれも全て今日を境に良い思い出へと変わるだろう。

 ヨシッ!!! こうなったら今のうちに眠っておいて昼休みにはビシッっと
 カッコよく君を迎え入れるぜ。
 


 待ってるからな 愛しのマイエンジェル

                     
                       以上 思考終了





 勝手に自分にとって都合の良い解釈をした播磨は,しばし眠るのであった。








《1−Dの教室》

八雲のケータイにメールが届いた。

(姉さんからだ…)

どうしたんだろうと思い,ケータイを開く。

 





 【無題】
  
 八雲〜 播磨君はお昼休みに屋上にいるからね。
 
 お姉ちゃんが上手くセッティングしといたよ。

 ちゃんと八雲があのお弁当で播磨君にお礼ができて,そしてもっとラブラブに
 なれるようにお姉ちゃん祈ってるから。
 
 じゃっ しっかり頑張るんじゃゾ  ふぉっふぉっふぉ






 「ね,姉さん(汗)」

八雲は返信のメールを打とうとしたが,ちょうど1時間目開始のチャイム
が鳴り,先生が入って来たので返信は後にした。
 


編集者: ボロネーゼ, 最終編集日: 2007年7月16日(月) 17:52, 編集回数: 2
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:51    題名:  

    キーンコーン カーンコーン

4時間目終了のチャイムがなり,昼休みになる。




《1−Dの教室》

「八雲〜 お弁当食べよ。」 

いつものようにサラがやってくる。

「あ,…ごめんサラ…今日はちょっと…」

いつもと違う八雲の反応にどうしたのかとサラが思うと,八雲が手に何か持っている
のに気付いた。

水色の包みにつつまれた大きめのお弁当箱。

「あ〜 もしかして八雲 それって播磨先輩の?」

 サラがからかうように言う。

「え? う…うん。 そう…播磨さんのお弁当」 

モジモジしながら答える八雲。

「そっか。 じゃあ しょうがないね。 行っといで八雲。」

 そう言って八雲の背中を両手で押し出すサラ。 その顔はとても嬉しそうだ。

「う…うん。 ごめんねサラ。 …じゃあ行ってくるね」 

そう言って教室を出た八雲は播磨が待つ屋上へと向かって行った。








《屋上》

(ふぅー  そろそろ天満ちゃんが俺に愛の告白をするためにここにやって来るころだ。
 睡眠は充分とった。それに時間があったから花束も買ってきた。 

 ぬかりは無ぇ。

 キミだけに勇気ある告白をさせるわけにはいかない。

 俺も男らしくこの花束とともに気持ちをキミに伝えるぜ)

澄み渡った空を見上げながらそんなことを考える。





ガチャッ ギギィー バタン

八雲が屋上にやってきた。




(あ…播磨さんだ  どうしたんだろう?  あっち向いて)

(き,来た  天満ちゃんがやって来たぜ  よ,ヨシ バッチリ決めるぜ)



「あ…あの…はり」
「待ってたぜ。 実は俺もお前に言わなきゃならねえ事があるんだ。  
 まずは俺から言わせてもらうぜ!!」

後ろを向いたまま播磨は言う。

八雲の声は播磨の声でかきけされていた。

「実はな,俺は…俺はずっと前からキミのことが好きだったんだ!!!
 俺と付き合ってくれ!!!」

振り向きざまにそう言うと,そのまま頭を深く下げ,両手で花束を八雲に突き出す。




(え…?  播磨さん? これって……告白?)




「もう一度言う!!!  好きだ!!!  俺と付き合ってくれ!!!」

そのままの姿勢で続ける播磨。

(ヨシッ!!!  これでちゃんと俺の想いは伝わったはずだ。 
 キミの返事を聞かせてくれ!!!)




(やっぱり告白だ…)








今まで告白された事は何回もあった

でもそれは全部断ってきた

なぜなら恋というものが分からなかったから

異性を好きになるということが分からなかったから

そして男の人たちの周りに見える,自分に向けられた感情が少し嫌だったから






でも今回告白してきた人はあの播磨さん

播磨さんの心は視えない

でも私が近づけた初めての男の人

初めて一緒にいても嫌じゃないと感じた男の人

それどころか,気付いたら一緒にいるのが幸せと感じていた男の人

そして昨日私を必死で守って助けてくれた人






いつのまにか漫画の件で呼び出されるのを心待ちにしていた

播磨さんからのメールが来るたびに心が弾んだ

でもしばらくメールが来ないとなぜか寂しくなった






バイト先に播磨さんが来店してくれるとうれしかった

学校ですれ違ったときの簡単なあいさつだけでもうれしかった

播磨さんの事を思うと心が温かくなった

そしてそのうち私の心は播磨さんでいっぱいになっていた







私,播磨さんのことをどう想ってるの?

播磨さんのことが好きなの?

わからない

でも一緒にいたいと思う

一緒にいてほしいと思う




これが人を好きになるってことなの?



そうだ



きっと私播磨さんのことが好きなんだ

そう,私は播磨さんのことが好き


だったら私……






(アリ?  天満ちゃんの返事が無ぇ  俺なんか間違ったか?)
不安になって頭を上げる

目に入ってきたのは両手に花束を持ち,顔を真っ赤にした八雲が
うつむいて立っていた。

(い,妹さん?  天満ちゃんじゃない。 なんでここに? …………
 …アレ?……もしかすると俺……やっちゃった?)

2度目の誤爆告白に気付き,石化する播磨。







心臓がドキドキする。

体が急に熱くなる。 

前が涙でゆがんで見える。

いつのまにか喉は乾いてカラカラになっていた。

声がなかなか思うように出ない。




(言わなきゃ……播磨さんの想いに応えなきゃ…そして私の想いを…)




弁当を包む布を持つ手に力が入る。

八雲は意を決した。

顔を上げ,播磨の目をしっかりと見る。

「その…よろしくお願いします!!」

言った  言ってしまった

八雲は恥ずかしくてなって頭を下げる。

でも言ってしまったら不思議と緊張は無くなっていた。






石化していた播磨だったが,八雲の言葉でようやく我にかえる。

しかし,突然のことに状況が飲み込めてない。

「悪い,妹さん。 もう一度言ってくれねえか?」



(え? もう一回?)



八雲は再び勇気をふりしぼり,今度はしっかり伝わるよう大きな声で言った。

「わ,私も播磨さんのことが好きです!! こ,こちらこそよろしくお願いします!!」




「へ?」




(え???   な,なにいぃぃぃぃぃぃ!!!   うっそぉぉぉぉぉぉん!!!
 妹さんオッケーしちゃったョ!!!  ヤバイ。 ヤバすぎるぜこれは。
 でも今ならまだ冗談だと思ってくれるかもしれねぇ。 でもその場合俺に告白
 してくれた妹さんに申し訳ねぇ。  だがしかし,早く誤解を解かなければ)



「あ,あのな妹さん。実はな……」

なんとか自分の失敗を分かってもらおうと切り出す播磨。

しかし,八雲の表情を見て言葉を失う。

とても幸せそうな表情だ。

どうやら今から事態を修正することはほぼ不可能のようだ。



(妹さん  すげぇ幸せそうな顔してる  そういや妹さんの幸せそうな表情見る
 の初めてかもしれねぇ   できねぇ   こんな妹さんの表情を曇らせること
 なんか俺にはできねぇ  できるわけがねぇ  つーか今の今になって気付いた
 けど,妹さんもかなりカワイイんだな   っっってオイ俺は天満ちゃん一筋
 じゃなかったのか?)



「あ,あの…これで私たちは本当に付き合うってことになるんですよね?」

「あ,ああ。 そうだな」(だってそう言わないと妹さんが…)



「私…今…なんだかとてもうれしいです。 あ,そうだ。 私…昨日のお礼にと
 思って播磨さんにお弁当作ってきたんです。 その……食べてくれますか?」

そう言って播磨にお弁当箱を差し出す。

「お,おう  モチロンだぜ。 妹さんの作った料理はすげぇウマイからな」
(ここで断っちまったら妹さん悲しむからな。  それに妹さんの料理は実際スンゲェ
 ウマイし。  ちょうど腹ペコだし。)



弁当を受け取った播磨だが,八雲がなぜか目の前でモジモジし始めたのに気付く。



「えっと…どうかしたか? 妹さん?」

八雲がモジモジしながら上目遣いでたずねる。



「あの…その…私も…一緒にお弁当食べても…いいですか?」



     バッキューーーーーーン!!!!!



播磨の心は八雲のその言葉と表情で完全に射抜かれた。


(やべぇ……俺…妹さんに完全に惚れちまったかもしれねぇ  ごめんよ天満ちゃん
 俺……もうだめかも)


そんなことを考えていると,八雲がまた不安そうに聞いてきた。


「その……ダメ……ですか?」

「い,いいや!!  ダメじゃねぇ  全然ダメじゃねぇ  俺も妹さんと一緒に
 食えたらいいな〜 とか思ってたりして ハハハ…」

「よかったぁ   えと,じゃあ……私のお弁当教室なんで,取ってきますね」

「お,おう!!! いいぜ。 行って来な。 待ってるからよ」



そう言われて八雲はうれしそうに階段を降りていった。



(あ〜もう俺ホントにダメかもしれねぇ。 妹さんのことが可愛く見えてしょうがねぇ。
 天満ちゃん一筋だったハズなのに……これで良いんだろうか…俺)



ひとり屋上に取り残され,悩む播磨であった。


ボロネーゼが2007年5月29日(火) 23:19に記事を編集, 編集回数: 1
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:52    題名:  

《2−Cの教室》

「どうしたんだ沢近? さっきから教室の入り口の方チラチラ見て」
「え? エリちゃんどうしたの? 誰かアッチにいるの?」
「え? べ,別に私はいつもどおりよ。」
「そうかぁ〜?」
「気になるのよね。 カレのことが。」

 それまで黙々と食べながら話を聞いていた高野が口を挟む。

「ちょ,ちょっと晶!!。 あんたイキナリなに言い出すのよ!!
 わ,私は別にあんなヒゲのことなんか…」




「……ははぁ〜ん。 そういうことか。 納得。」

 ニヤリと笑う美琴。

「な,なによ美琴!! その顔は!!」

「あのよ〜沢近。 高野は別に一言も播磨とは言ってないぜ。
 そうだよな? 高野」

「そうね。確かに私は『カレ』としか言ってないわ。」




「あ……」
ようやく自分の失敗に気付いた愛理。

カァ〜!! っと顔が赤くなる。



「ち,違うわよ!!  ただ,今朝アイツが出ていったきり
 戻ってこないからどうしたのかなってちょっと思ってただけよ」


それを聞いてまたニヤリとする美琴。


「そうか そうか 沢近は播磨のことが心配でしょうがないんだな?」
「『カレ』 といったら愛理はまず播磨君を思いついたわけだしね」
「播磨君のことでエリちゃんの頭はいっぱいなんだね!?」


「あ〜んもう!! そんなんじゃないんだってばぁ〜!!」

3人に立て続けに言われ,まともに反論できない。



(あれ? そういえば播磨君って……)



何か心あたりがあって思い出そうとする天満。

「ああぁーッ!!!」 
「お,おい  急にどうしたんだよ? 塚本」

驚いた美琴がたずねる。

「そうだった!!!  播磨君は確か今屋上で八雲と一緒に……」




(……え?……八雲と?…)




「ごめんみんな。 私ちょっと用事を思い出したから。」

そう言うやいなや弁当を片付け始める愛理。

その表情は笑顔だが,彼女の体の周りにオーラのようなものが
見えたのは気のせいだろうか。


「え〜エリちゃん もう食べないの〜?」

「うん。ごめんね天満。  じゃ 行ってくるわ」

そう言ってさっさと教室を出ていってしまった。



「……なんだか悪い予感がするわ」  


「ああ………そうだな」


「え〜なになに? ようかんなら私も大好きだよ〜。
 あったか〜いお茶といっしょに食べると最高なんだよね〜」




「塚本…お前なぁ…」
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:52    題名:  

(天満…確か屋上って言ってたわよね…
 べ,別にあの2人が会ってようが私には関係ないわ。
 ただ…その…ちょっと様子を見にいくだけよ。
 何してるのかなぁ〜ってね。)

屋上に行くのに理由づけをする愛理。

しかし,教室を出たときに彼女の周りに漂っていたオーラ
はいつのまにか消え失せ,屋上への階段を上っていくとともに
だんだんと足取りが重くなってくる。


(…もし…もしもあのヒゲとあの子が良い雰囲気だったらどうしよう…

 でもあのヒゲも八雲もどっちも付き合ってないって言ってたし…

 そう……きっと大丈夫……きっとなにもないわ…

 だって,あの八雲がそんなに自分から積極的に行動するとは思えないし…

 でも…もしかしたら万が一ってことも…)


そんなことを考えているちに,屋上の扉の前まで着いてしまっていた。


心臓の鼓動が速くなるのを感じる。


ドアノブに手を伸ばす。


しかし,ドアノブに伸ばされた右手は震えていた。



(まさか2人で抱き合ってたり,キスしたりとかしてないわよね…
 あ〜もうヤだ。 お願いだから何もありませんように…)


左手を胸にあて,目をつぶり, 1回,2回と大きく深呼吸する。


ガチャッ


少しだけドアを開け,気付かれないように そぉ〜っと覗き込む。



(…え?……うそ……あれって……)




「うおぉぉぉ!!! ウメェ!!! マジでウマイぜ!!! 
 やっぱ妹さんのメシは最高だな」

ガツガツと凄まじい勢いで八雲が作ってくれた弁当を食べる播磨。

みるみるうちに量が減っていく。

「そ……そうですか?
 ……その……播磨さんにそう言ってもらえるとうれしいです。
 あ…あの…もしよかったら私のもどうぞ。」

そう言って自分の弁当の卵焼きを播磨に差し出す。

「お? いいのか? じゃ,遠慮なくいただくぜ。 (パクッ)
 ウメェ!!!」





目に入ってきたのは段差に2人並んで腰掛け,仲良く一緒に弁当を食べる
播磨と八雲のすがた。


八雲の頬はほんのりと赤く,今まで見たことがないくらい幸せそうだ。





(……うそ……

 ……うそ……うそよ……何よ……何なのよあの2人……
 
 ……なんであんなに仲良さそうなのよ……
 
 ……だって前に付き合ってないって言ってたじゃない……

 ……イヤ……

 ……イヤよ……
 
 ……そんなの絶対にイヤ……)



眼前に広がる光景に,体からなにかが一気に抜け出る感じがした。

そのままドアノブから手を離してしまう。


 ガチャンッ


さっきよりも大きな音をたててドアが閉まる。



その時,愛理の頬を一筋の涙がつたって流れた。

そしてそれはあごを離れ,一瞬白く輝いたかと思うと,乾いたコンクリートの
床に聴こえないほどの音を立て,黒く丸い痕を残す。


その痕は,つぎつぎと落ちてくる涙で形を変え,だんだんと
その面積を広げていった。



(うそ?……わたし……泣いてる?)



「お〜い!! だれかそこいるのか〜!!」

ドアの閉まった音に気付いた播磨が近づいてきた。


(いけない……このままだと見つかっちゃう……逃げなきゃ…)


目を制服の袖でぬぐい,駆け足で階段をおりる。


 ガチャッ ギギギッ


「あれ? 誰もいねえ。 気のせいか?」

「播磨さん…誰かいましたか?」

「いいや 誰もいねぇ どうやら俺の間違いだったみてぇだ」

「そうですか…」

「ま いっか。 それより早く弁当食べちまおうぜ」

「あ…ハイ…そうですね」









「ばか…ばか…ばか…ばか…」

愛理はトイレの個室に入って閉じこもって泣いていた。



(……なんで?……なんでなのよ……

 ……ヒゲのばか……
 
 ……いえ……    
   
 ……ばかなのは私?……

 ……イヤ……
 
 ……イヤ……

 ……もうなにもかもがイヤ……
 
 
 ……誰にもこんな私を見られたくない…


 ……今は誰にも会いたくない…






 ……確か次の授業は移動教室だったわね……

 ……チャイムが鳴るまで待とう……
 
 ……そしてみんなが移動しちゃってから教室のカバン取って
   
   今日はもう早退しよう……)







《2−Cの教室》

(愛理,なかなか戻ってこないわね。 見てくるとするか)


「そういえば,私も用事があったんだわ。 
 天満,美琴さん 行ってくるわね」
「え〜晶ちゃんも行っちゃうのぉ〜」
「まあまあ,しょうがねぇだろ塚本。 でも高野,次は移動教室だぞ」
「分かってるわ。 すぐ戻るつもり。
  じゃっ 行ってくるわね」






屋上にやってきた高野。

そっとドアを開けて覗き込む。




(…なるほどね  ややこしくなりそうだわ…  今日は愛理,戻って来ない
 かもね)




「……なにか手をうつ必要がありそうね」
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:53    題名:  

《放課後 帰り道》

夕焼けの空の下,なが〜く伸びた影が今日は3つ

「ね〜ね〜ミコちゃん晶ちゃん  結局エリちゃん戻ってこなかったね」

「え? あ,ああ そうだな  どうしたんだろうな アイツ」

「愛理なら私たちが5時間目のときに早退したわよ」

「えぇ〜!!! うそぉ〜!!! エリちゃんに何かあったの?
 ケガ? 病気? 晶ちゃん知ってるの?」

「大丈夫  心配するようなことじゃないわ」

「オイ なんだよ高野 教えてくれないのか?」

「今はそっとしといてあげて  愛理のことは私に任せて」

「ま,まぁ お前がそこまで言うならよ。
塚本,ここは高野が言うとおりにしとこうぜ」

「う,うん  分かった。
 じゃあ晶ちゃん, 愛理ちゃんのことよろしくね」

「任せといて」









「じゃあね〜 バイバイ晶ちゃん また明日ね〜」
「じゃあな 高野 また明日な」
「じゃあね 美琴さん 天満」




2人と別れ,高野はおもむろにケータイを取り出す。

(今回の件は私ひとりの力じゃダメね…
 あの人に協力を頼まないと……   
 あと,あの人にも断りを入れておかないと余計な心配かけちゃうわね)


  ピッピッピッ


「もしもし,どうしたんだね? 高野君」

「刑部先生……ちょっと頼みが……」







「…むぅ,わかったよ  そういう事なら協力しよう」
「ありがとうございます  ではよろしくお願いします」


  ピッ


(……あとはあの人ね…)


  ピッピッピッ


「はい,こちら沢近家でございます。」

「もしもしナカムラさん?  高野ですけど」

「これはこれは高野様。  いつもお嬢様がお世話になっております。
 お嬢様なら今自室にて」 

「ナカムラさん,今日はあなたに用があるの」

「わたくし にでございますか?  どういったご用件でございましょう?」







「…むむう  …しかしこれもお嬢様のため。 
 わたくしも先程お嬢様が早退でお帰りになったときに,具合が悪いという
 よりは,何か別の原因があるのではないか思っておりました。
 分かりました。 そういうことなら,どうかお嬢様を
 よろしくお願いいたします。」


  ピッ   パチンッ


(これでひとまずオーケーね。 あとは,明日愛理がちゃんと学校に来る かつ
 天気が予想通りになるかどうかね)



「…これは賭けだわ…」

少女はひとりつぶやいた。


しかし,自分の独り言が急におかしく思えた。

(ふっ『賭け』だって。 いつも100パー勝てる勝負しかしないのに……私らしくないわね)


陽はすでに山並みに沈み,あたりは暗くなりはじめていた。
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:53    題名:  

《同日 帰り道》

播磨は八雲を家まで送っていた。

「あ…あの…播磨さん」

「ん? どうした? 妹さん」

「えと…お弁当の事なんですけど…」

「弁当? おお!!! うまかったぜ妹さん。サンキューな」

「あ…ありがとうございます…
 でも…そうじゃなくて…」

「なくて?」

八雲はまたモジモジし始める。

「その…また…播磨さんに…お弁当作ってきてもいいですか?」

「マジか!? 妹さん!! 助かるぜ……じゃなくて,嬉しいぜ」


と,ここでなにか考え出す播磨。


「でもよ,妹さん。 そうするとアレじゃねぇか? え〜っとその
 作る量が増えて大変だ。それに今日みたいだと友達の…え〜っと
 なんていったっけ…そう…サラだ。 サラとかとは弁当食べ
 られないんじゃ?」


 「あ……」


さびしそうな顔になる八雲。

しかし,すぐに何かを思いついたようだ。


「じゃ…じゃあ,週に3日というのはどうでしょうか?」

「週に3日?  おお!!! なるほどな。 そしたら妹さんはサラとも
 一緒に弁当食えるもんな。 さえてるな妹さん」




そして塚本家に着く。

「それじゃな,妹さん」

「あ…はい…ありがとうございました。」




そうして播磨は帰っていった。

これからの自分の運命がどうなるかも知らずに。
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:53    題名:  

《沢近邸》

「もうよろしいのですか? お嬢様」

心配そうにナカムラがたずねる。


「ええ  今日はなんだかあまり食欲がないの
 コックには すまない って言っておいてちょうだい」


そう言ってナイフとフォークをテーブルに置く。

テーブルの上の食事はほとんど減っていない。


「シャワーはもう浴びたし,私もう寝るから。
 ナカムラ  あなたも今日はもう休んでいいわよ」


「ハッ…お嬢様」


愛理は椅子から立ち上がると,そのまま自室に向かった。


執事はその姿を後ろから見届ける。


(高野様……頼みましたぞ)





  バタンッ




はぁ〜


部屋の扉を閉めたら,自然と溜息が出た。

枕を抱きかかえ,そのままベッドに倒れこむ。

瞳を閉じるが,まぶたの裏に浮かんできたのはあの光景。

胸がギュっと締め付けられる。

気付いたら,枕が涙で濡れていた。





 私……また泣いてる…

 どうして?

 なんで泣くの?

 どうしてこんなに涙が出てくるの?





 アイツがあのコと一緒にお弁当食べてるのがイヤだったから?

 アイツがあのコと仲良くしてるのがイヤだったから?

 どうしてイヤだったの?

 あのヒゲなんかどうでもよかったんじゃないの?






 でも……



 悲しかった

 あれを見たときに胸が急に苦しくなった

 どうして?

 なんで?

 私アイツのことが好きだったの?

 あのヒゲを?

 あのバカで単純でただ逞しいだけのヒゲを?

 まさか……ね






 でも……




 アイツと話してるととても楽しかった

 いつの間にかアイツにつっかかるのが楽しみになってた

 そしてアイツに言いがかりをつけるための理由を探していた







 なんでだろう……

 気付いたらアイツのことばかり見てた

 気付いたらアイツのことばかり考えてた

 アイツのことを考えるとなんだかドキドキしてた

 私…アイツのことが好きなのかな

 




 そうだわ……

 そうなんだ……

 きっと私,あのヒゲのことが好きなんだ

 そう……
 
 私,ヒゲのことが好き

 やっと分かった

 ちょっと悔しいけど……










 でも……




 でも……




 アイツはもう……



 あのコと……





その夜,愛理の部屋の枕が乾くことはなかった。


ボロネーゼが2007年6月05日(火) 00:09に記事を編集, 編集回数: 1
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:54    題名:  

《翌日》

昨晩は夜通し泣き続け,ほとんど眠れなかった愛理。

しかし学校に行かなくてはという思いから,無理をして学校に来ていた。

天満と美琴に昨日のことを心配されたが,急に体調が悪くなっただけ
と笑顔でごまかした。



《3時間目終了後の休み時間》

席に座っていると,高野がやってきた。

「愛理,昨日は何かあったの?」

そういわれて,昨日のことをまた思い出してしまう。

「別に。 ただ具合が悪くなっただけよ」
「今日はもう大丈夫なの?」
「ええ。 もう大丈夫。 ただ,寝不足だからとても眠いってことぐらいよ」

そう言ってあくびをする愛理。

「そう。 じゃあ眠気覚ましの飴をあげるわ」

高野は愛理に飴を差し出す。

「ありがと。 (パクッ) ん〜? 変わった味のする飴ね。 これ」
「新商品なのよ。」
「へぇ〜」
「すぐに効き目が出るわ。 じゃっ」
「ありがとね 晶」
「いいのよ」


(ごめんなさい愛理。 これもあなたのためなのよ)





《4時間目の授業》

(うぅ〜 あの飴のせいか眠気はなくなってきたけど,なんだか頭痛が
 してきたわ。  しかもだんだん強くなってきてるみたい。
 寝不足が原因かしら)


授業中,愛理はひとり頭痛と格闘していた。


ふと播磨へと視線を向けてしまう。

播磨は授業などおかまいなしに腕を枕にして寝ていた。


(もぉ〜 あんたのせいなんだからね)



《4時間目終了7分前》


(うぅ〜 頭痛に加えてなんだか熱っぽくなってきたわ。
 昨日体に何もかけないままでいたのがいけなかったのかしら)
 

そう思うとまた播磨の方を見てしまう。


(まだ寝てる。 まったく…人の悩みなんか知らないで。あんたの
 せいなのよ。 あ〜それにしてもツライわ)


「ねぇ,愛理大丈夫? 具合悪そうだけど」

隣の席の高野がさっきから苦しんでいる愛理を見て聞いてきた。(←これはあくまでこのSSでの設定です)

「え? あぁ…平気よ。 ありがと 心配してくれて」
「そうは見えないわ。 ちょっとおでこさわるわよ」

高野が愛理のおでこをさわる

かなりの熱だ。

(ちょっと効きすぎたかしら。 あの飴)

「ちょっと愛理。 かなりの熱よ。
 先生。 沢近さんがかなりの熱があるので保健室に連れていきます」


「ホントか?  そういや沢近は昨日も具合悪くて早退したんだったな。
 ヨシ,高野連れてってやってくれ」


「分かりました。 じゃ 行くわよ愛理。 立てる?」

「え,ええ」

2人は保健室に向かった。








《保健室》

「あら? ひどい熱じゃない。 沢近さん,今日はもう帰って
 寝てたほうがいいわよ。 昨日も具合悪かったんでしょ?
 きっとまだ治りきってないのよ」

測り終わった体温計を見て姉ヶ崎妙が言う。

「分かりました。 そうすることにします。」
辛そうに答える愛理。

「それが良いわ。  高野さん,悪いけど沢近さんの荷物まとめて
 もってきてくれるかしら?」
「はい。」

高野は教室に向かった。

「ひとりで帰れる? でも,その熱じゃ家の人に迎えに来てもらった
 ほうがいいかしら?)

「あ…大丈夫です。 ひとりで帰れます」

その時,高野が愛理の荷物をまとめて戻ってきた。  (←高野,戻ってくるの早っ!!!)

「そう。 ありがとうね高野さん。
 それじゃあ沢近さん,気を付けて帰ってね。」

「はい。 ありがとうございました」

ぺこりと頭をさげ,保健室を出る。



昇降口に向かう愛理と高野。

「愛理,ホントにひとりで大丈夫なの?
 歩くのかなり辛そうよ」

「大丈夫よこのくらい。  じゃ ここまででいいわ。
 ありがとうね 晶。 じゃあね」


高野に別れの挨拶をし,靴を履いて外に出る。

空を見上げるとなんだか雨が降ってきそうなかんじだ。

(雨が降りそうね。 家に着くまでに雨が降りませんように)

そう祈って少女は頭痛と熱と闘いながらも歩き出した。




(あとは播磨君をうまく誘導するだけね…それまで頑張って愛理)

昇降口で見送っていた少女は,作戦遂行のため,教室に戻った。
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:54    題名:  

キーンコーン カーンコーン

12時50分となり,学校は昼休みとなった。

《昼休み》

「播磨君 起きて」
「むにゃむにゃ。 誰だ? えっと…」
「高野よ」
「そうそう!! 高野だ高野。俺に何か用か?」

(まだ私の名前覚えてくれてないのかしら)

「言い忘れてたんだけど,確か談講社の三井って人が1時に
 ここの喫茶店に来てくれって言ってたわ」

そう言って播磨の机に地図を広げ,そこを指差す高野。

「マジか? やべえな。 原稿の事かな。 って何で三井
 は俺に直接伝えないでお前に伝えさせたんだ?」
「そんなこと私には分からないわ。
 でもいいの? もうこんな時間よ」

「え?」

教室の時計を見る播磨。

時計の針は12時53分をさしていた。

「やっべぇぇぇ!!! もうギリギリじゃねえか。 高野,
 教えてくれてサンキューな。
 それとこの地図借りてくぜ。 じゃな」

そう言って慌てて教室を飛び出そうとする播磨。

「播磨君,待って」

そこで高野が播磨を引き止める。

「なんだよ高野。 俺が急いでんの知ってるんだろ?」
「あなたに渡すいいものがあるの」
「あん? いいもの?」
「コレよ。」

そう言うと高野はポケットから飴玉をとりだした。

「オイ!! 俺は急いでんだ。 そんなの今度でいいだろ」
「播磨君最近歩いて登校してるでしょ?」
「あん? ああ,そうだが?」
「これは『足が速くなる飴』よ。これを食べたらきっと間に合うわ」
「ホントか? サンキューな高野。 お前っていいやつだな」

高野から飴を受け取り,口に放り込む播磨。

「ヨシッ じゃあ行ってくるぜ」

そう言ってダッシュで教室を出て行く播磨。
(ちなみに今日は八雲の弁当はナシ)


(頼んだわよ播磨君。あなたしか愛理を救ってやれる人はいないのよ)
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:54    題名:  

(うぅ〜  ひとりで帰るって言ったものの,結構
 ツライわね。 やっぱナカムラに来てもらおうかしら)

そう思ってケータイを取り出す愛理。

ナカムラのケータイに電話をかける。

しかし,呼び出し音がするどころか,なにやら変な音がする。

(うそ? 何コレ? ケータイ壊れちゃった? ど〜しよ〜)










《学校 某室》

暗く,明かりといえばパソコンの画面しかない部屋に2人はいた。

「高野君,まずはこれでいいんだな?」

「はい。 妨害電波を飛ばして,愛理がケータイを使えない
 ようにする必要があります。」

「でも,そんなことをして沢近君は大丈夫なのかね?」

「大丈夫です。執事のナカムラさんには予め許可をとってあります。
 それに,愛理の制服には超小型盗聴器をつけておきましたから,
 想定外の事が起こってもすぐに駆けつけて対処できます」





「高野君,キミはホントに女子高生かい?」

「それを言うなら,先生も似たようなもんじゃないですか?」


「ふっ 確かにね」










ケータイをいじっていた愛理だったが,『泣きっ面に蜂』
とはこのことを言うのだろうか。 急に強い雨が降り出した。

(うそ? マジ? も〜最悪じゃない!! あ〜もう雨宿り
 できる場所ないのかしら? 具合良くないってのに)

そう思うがこのあたりはコンビニや喫茶店など時間をつぶせる
場所が無いことを思い出す。

(あ〜も〜 やっぱり走るしかないみたい。 まだ家まで
 けっこう距離あるのよね)

大雨の中少女は走り出した。










(チッ 雨が降ってきやがったぜ 
 しかし,俺は今止まるわけにはいかねぇ。
 もうほとんど時間がねえんだ。
 っつーかあの飴本当に効き目あんのか?
 大して変わってねえような気がすんだが。)


そんな事を考えながら,大雨の中猛スピードで走る播磨。


(つ〜か地図よく見ると,俺が今向かってる喫茶店って,俺<絃子>の
 マンションの近くじゃね? こんな所に喫茶店なんかあったか?)  (←愛理の帰り道というこのSS内での設定です。)

  ザーッ

(やっべ,さらに雨強くなりやがった。 いそがねえと。
 …ん?……確かあの後ろ姿は……)


見ると,金髪のツインテールが傘も差さずにふらふらと覚束ない
足取りで歩いていた。

追いつき,声をかける。

「オイ お嬢。 傘もささずにお前こんなとこでなにや」

声をかけた播磨だったが,沢近は急に播磨の方へ倒れこんできた。

慌ててそれを支える播磨。

顔を覗き込むと,その顔はとても苦しそうにゆがんでいた。

どうやら気を失ってしまったようだ。

「オイ!!! お嬢!!!」

手をほっぺたとおでこにあててみる。

(コイツ すげぇ熱じゃねぇか
 やべぇな…すぐにどっかコイツを運ばねぇと…)

そう思って目に入ってきたのは自分(絃子)のマンションだった。

(チッ しょうがねぇ  ウチに運ぶか)

沢近を抱きかかえ,走り出す播磨。

(悪いなミッチー<三井>。 今日は無理そうだぜ)
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:55    題名:  

 はぁ はぁ はぁ

「な,なんとかたどりついたぜ。コイツが予想外に軽かったのが幸いだな。
 鍵は……よし,開いたままだ」

愛理を両手で抱きかかえているので,片足で器用にドアを開け,中に入る。

「さてと…問題はコイツをどうするかなんだが……イトコの部屋は…ダメだ。
 確か赤外線センサーが網のように張り巡らされてて,前にひでぇ目に
 あった。 ソファーは……散らかってやがる。
 くそっ!!! 俺の部屋しかねえじゃねえか」


先程と同じように自分の部屋のドアを片足で開ける。

ベッドに愛理を寝かそうとする。

しかし,そこであることに播磨は気付いた。

(コイツ…びしょぬれじゃねぇか。 このままにしてたらもっと具合悪く
 なるんじゃねえか?)

そして,またさらに新しいことに気付く。

(オイオイオイ!!! まさか俺にお嬢の体を拭けっていうのか?
 ちょっと待て!!! それは無理だ!!! 絶対に無理!!! ったく,なんで
 こんなときにイトコはいねえんだよ!!!(怒))



だが,愛理の辛そうな表情が目に入る。

「うっ」


「くそっ!!! やるしかねえのか。」

いったん部屋を出,タオルを大量に持ってきた。

「大丈夫だ。 きっと大丈夫。 下着が見えそうになったら,見える前に
 すぐさま色つきタオルでその場所を隠す。 そうすれば目に入ることはねえ」

独り言が多く,その声がデカイ。

「言っとくが全く下心はねえからな。 お嬢,頼むから途中で絶対に目を
 覚まさないでくれよ」

そこでなにかひらめいた。

「そうだ,まずは頭から拭いてやればいいんだ。 頭拭いてる途中で目が覚めた
 んなら,あとはコイツが自分でできるからな。 途中で起きるはずだ」

愛理の頭を拭きだす。

「こいつ……こうして見ると,ホントに綺麗な髪してやがんな」

「おっと あぶねぇ あぶねぇ 俺はお嬢相手に何考えてんだ
 はやく拭いてやらねぇと」






愛理の髪を拭く作業は何も起こらず,無事に終了した。

「頭…拭きおわっちまった…こいつ…結局起きなかったし…」


「くそう!!! やっぱりやるしかねぇのか」


震える両手を愛理の制服ボタンへと伸ばす。

(ま,まあ 制服はな。 まだ下にブラウス来てるしな)

自分を落ち着かせ,なんとか全部のボタンを外すのに成功。

(ふぅ〜緊張するぜ。 しかし,いったん体を浮かせねえと
 この制服脱がせねえぞ)

上手くブラウスと制服の間に片手を入れ,背中を持ち上げ,
その間に上手く脱がすことに成功した。

(ヨシッ つぎはこの赤いリボンだ これなら楽勝だぜ)

  シュルッ

(ここからが問題だ。 ブラウスとスカート。
 こっから先の段階でお嬢が起きたら,俺間違いなく死ぬな。
 途中でイトコが帰ってきても間違いなく死ぬな)


(まず目でボタンの位置を覚える。 そして目をつぶり,首元
 からひとつづつボタンを外していく。 そしてやばいとこまで
 きたら,すぐにタオルで隠す。 完璧だ。 ヨシ。やるぜ)

作戦どおりに行動に移していく。

(そろそろ危険ポイントだぜ。 今だ!!! ここでタオルを!!!(バサッ)
 ふぅ〜。 成功だ。)

そうやって全部のボタンを外すことに成功。

(よし。 ここでお嬢の体が見えなくなるくらい沢山のタオルを
 お嬢の体に乗せ,拭くべし)

  パッ  バババッ  フキフキフキ

そしてブラウスも脱がすことに成功。

(背中は…まあ,俺のベッドが雨をすでに吸ってるだろ。
 よしっ じゃあここでいったん何か代わりに着せるものを…)

探してみたが,ベランダに干してあったものは雨で全滅。

(くそっ なにか着せやすいものは……これだ)

部屋にあった自分のワイシャツを見つける。


(くそっ 脱がすのよりも着せるほうがずっとムズイぜ。
 はぁ,なんとか成功だ)

「残るは…」

残っているのはスカートと黒のハイソックス。

(よしっ まずは靴下からだ。 これなら楽勝だな。
 って くそっ!! 濡れててなかなか…ウラァ!!)

靴下も成功。

(あとは,スカートか…くそっ!!! 最後にこんな大ボスが
 待ち受けていやがったとは!!!  し,しかし…
 よ…よし…さっきと同じ作戦だ)

まずはつま先からひざ上の方までをタオルで拭いてやる。

(あとは……このラスボスのみ……って……あれ?
 スカートってどうすればいいの?……あぁー!!!
 こんなサイドにファスナーがありやがった。
 さすがラスボス……一筋縄じゃいかねぇってわけだな。
 フッ,やってくれるぜ)

ファスナーを下ろす播磨。

(よ よし!!! ここで残りのタオル全て使うぜ!!!
 (バサバサバサ)

そしてスカートも脱がすことに成功した。

大量のタオルの上から手で軽く押すようにして水滴を取っていく。

(よっしゃ!!! あとは何か着せるのみ……でもやっぱイトコの部屋
 には入れねえからな……俺のジーンズを一本貸してやろう)

つま先から順調に脚を通していくが,途中で愛理の体を持ち上げなく
てはいけないポイントになる。

(くそ!!! ヨシ!!! タオル越しにお嬢のケツを……ウラァ!!!フッ 成功だ!!!)(←もはや恥ずかしくなくなってる)


「さ〜て とりあえずコレで一段落ついたぜ。 それにしても
 よくこいつ起きなかったな  ま,おかげで命拾いしたけどな。
 そういや,俺もびしょぬれだったぜ。
 シャワーでも浴びてくっか。」

そうして,バスルームへと向かう播磨だった。


編集者: ボロネーゼ, 最終編集日: 2007年6月04日(月) 21:46, 編集回数: 2
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:55    題名:  

「あ…あれ?…ここ…どこ?」

目を覚ました愛理。
目に入ってきたのは今まで見たこともない部屋。


「え?……なに?……なにがどうなってんの?…
 それに…なにこの格好?…なんかタオルが
 いっぱい散らかってるし…」

自分が置かれている状況が全く理解できない。


そこに小鍋を持った播磨が入ってきた。

「お? お嬢,やっと目が覚めたか?」

突然の思い人の登場が余計な混乱を招く。

「ちょ,ちょっと!!! なんでヒゲがここにいんのよ!!!」

そう言って,周りのタオルを手当たり次第に播磨に投げまくる。

「わ!!! バカ!!! ちょっと落ち着け!!! 俺,今熱い鍋持ってん
 だからよ!!!」

「え? あ…ご…ごめん」

「まったく。 やっと落ち着いたか」

そう言って,いつも漫画を執筆する小さな机に,タオルを
鍋敷き代わりにして小鍋をおく。

「ねえヒゲ ここはどこなの?」

「あ? どこって ここは俺んちに決まってんじゃねーか」

「え? なんで私がヒゲの家にいるのよ?」

「ああ? お嬢 おめえ 何にも覚えてねーのか?
 ってそういやおまえは気絶してたんだったな。 無理もねえ」

「うそ? 私気絶してたの? どこで?」

「どこって……道で」

「あ……そういえば雨の中走ってたらなんだかクラクラしてきて…
 それから……覚えてない」

「だろ? そこを俺がたまたま通りかかって,お嬢をおれんちに
 抱きかかえてやってきて,看病してたんじゃないか」

それを聞いて急に胸がドキドキし,顔が赤くなる。

「うそ? ヒゲが私の看病してくれてたの?」

「さっきから『うそ? うそ?』って。 俺はさっきからホントの
 ことしかしゃべってないぜ。 ホレ その氷嚢もだ」

「じゃあ,私が制服じゃなくなってるのは?」


(ぐ…そ…それはホントのことを言う訳にはいかねぇ)


「あ あ〜 それはだな 俺がお前を部屋に入れたとき,
 一瞬だけお嬢の意識がもどったんだ。 
 それでな,急にお嬢が制服脱ぎだしたもんでな,俺は慌てて部屋を
 出たわけよ。 あん時はマジでビビッたぜ〜。
 そんでよ しばらくしてドア開けてみたらその格好になって
 お嬢がまた気絶してたって訳だ。 
 そんで俺はお嬢を持ち上げて俺のベッドに寝かせたってわけ。
 ま まあ〜 その高熱だし お嬢は覚えてなくても不思議はねえけどな」

「そ…そうだったんだ。 あ…ありがとうね…ヒゲ…助けてくれて」

「お…おう!!! いいってことよ」
(うおぉぉぉ!!! その場で考えた言い訳だったが,どうやらうまく
 いったみてえだ。 セーーーーーーーーフ!!!!! 天才だな 俺)

「ホレ それよりお嬢!!! おかゆだ!! 食え!!!」

「えぇ〜!!! アンタって料理できんの!?」

「うっせぇな 前にイトコが熱出したときに挑戦してみたら何となく   (←このSSでの設定です)
 成功しただけだ。 ホレ…早く食わねえと冷めちまってまずいぞ」

「わ,わかったわ。アンタが料理するなんて信じられなかったのよ。
 ……ねえヒゲ……アンタほかになんか料理できんの?」

「他に? ん〜あとはカップめんくらいだな」

「はぁ!? あんたそれって料理じゃ……イタタタ」

「お,おい お嬢大丈夫かよ?」

「う…うん ちょっと頭痛が…」

「頭痛? どれ?」

そう言って播磨が愛理のおでこに手をふれる。

(え?……ちょっと何?……ヒゲの手が私のおでこに…)
またもや胸がドキドキしてしまう。

「あ〜お嬢 おめぇ まだすげえ熱あんじゃねえか。
 じゃあ このおかゆは今はいらねえか?
 もうちょっと寝てたほうがいいだろ? そうしとけ」

そう言って小鍋をさげようとする播磨。

「ま 待って!!!」

「んだお嬢? やっぱ食べるか?」

頬を染め,コクコクとうなずく愛理。

「じゃあ よそってやる」

そう言って播磨は小鍋の蓋を開け,器によそいはじめる。

どうやら卵のおかゆのようだ。

「ホレ お嬢」

おかゆの入った器を差し出す。

しかし愛理は布団に入って,毛布で顔を半分を隠したまま受け取ろうとしない。

「おい 食わねぇのか?」


「……てよ」

「あん?」

「……させて」

「んだよ もっと大きな声で言えよ」

「食べさせてって言ってるの!!!」   (←愛理,『甘えんぼモード』スイッチオン)
顔を真っ赤にして愛理が叫んだ。

「はぁ〜? なんで俺がお嬢に食べさせにゃならんのだ!?」

「うるさいわね!! 起き上がろうとすると頭が痛くてしょうがないのよ!!
 だからヒゲが私に食べさせてって言ってるの!!」

まだ真っ赤な顔で言う。

「そんなデカイ声だせるのにおかゆは自分で食えねぇってのかよ」

「あぁ〜 さらに頭痛が……あ〜痛い痛い」

「ったく 分かったよ 食わせりゃいいんだろ? 食わせりゃ。
 ったく 恥ずかしいんだよ 俺は」

「うるさいわね。 私だって恥ずかしいんだから。 
 でも……せっかく……せっかくアンタが私に作ってくれたんだし…」
両手の人差し指を胸の前でツンツンさせる愛理。

「もうぐちゃぐちゃ言ってないで早く食べろよ ホラ」

おかゆが乗ったスプーンを愛理の口元にさしだす。

「ちょっと!! アンタ コレ まだ湯気たくさん出てるじゃない!!
 こんな熱いの食べられないわよ!!」

「じゃあ自分の息で冷ませばいいだろ 持っててやるから」

「こんな寝てる角度じゃちゃんと息がかからないわ!!
 ………その……アンタが息で冷ましてよね……」

また恥ずかしがりながら言う。

「ああぁぁぁ!?  何を言い出すんだこいつは いい加減にしねぇと」

「あ〜頭がイタイ頭がイタイ」

(くっ こいつ…)

「わーったよ!!! やってやるよ。 フゥー フゥー  ホラッ」

「ちょっと!!! それじゃ どのタイミングで口をあければいいかわからないじゃない!!
 『あ〜ん♪』 って言いなさいよ」

愛理,『甘えんぼモード』 全開。

「オッメェェェ!!! ふざけんのも大概に」

「頭が〜頭が〜」

(こいつ ぜってぇーワザとやってやがんな
 
 しかし,こいつは今実際かなりの重病人だ くそっ 覚えてろよ)
 
「あ〜もう分かったよ  ハイ あ〜ん♪」

「あ〜ん♪(パクッ) へぇ〜 おいしいじゃない」
今まで見せたことない笑顔でおかゆをたべる愛理。

  ドックンッ

(あれ? なんだ? 気のせいか?)

「ホラッ 早く次食べさせなさいよ」

「あ? ああ はい あ〜ん♪」

「あ〜ん♪(パクッ) もぐもぐもぐ  はい次」

  ドックンッ ドックンッ

(あれ?)

「ハイ あ〜ん♪」

「あ〜ん♪(パクッ) もぐもぐもぐ  次」

  ドックンッ ドックンッ ドックンッ

(やっべぇぇぇぇ!!! なんか知らんけど急にお嬢のことがすげぇ
 可愛く見えてきやがった。 どうした? どうしちまったんだ?)

「ホラ なにぼさっとしてんのよ 次よ」

「ハイ あ〜ん♪」

「あ〜ん♪(パクッ) もぐもぐもぐ」

  ドックンッ ドックンッ ドックンッ ドックンッ

(なんだぁぁぁぁ!?  なんでお嬢がこんなに可愛いんだぁ〜!!)







《学校 某室》

「な,なんだコレは? ケンジくんの血圧・体温・脈拍数が急激に上昇
 しているぞ」

「刑部先生,大丈夫です。心配いりません。 これはあの飴の力です。」

「…高野君 どういうことか説明してくれたまえ」

「ハイ,私が播磨君にあげた飴……じつはあれは私が海外の知人から
 譲り受けた一種の闇の道具なんです」

「闇の道具?」

「はい,物理教師である先生にはしんじられないかもしれませんが,
 あの飴ははるか昔から伝説として知られている飴で,闇の者しか
 作り出すことのできないものなのです。
 そしてあの飴の効果は『舐めたひとが料理を作り,その料理を異性に
 食べさせると,飴を舐めた人は料理を食べさせた異性の事が好きに
 なってしまう』というものです」

「ば,ばかな…そんなものが」

「信じられなくても見てれば分かりますよ」



「高野君,……私はキミの事がおそろしく思えてきたよ」

「………」


編集者: ボロネーゼ, 最終編集日: 2007年6月07日(木) 19:48, 編集回数: 5
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:55    題名:  

  ゼェッ ゼェッ ゼェッ

(ふぅ〜。マジでお嬢が可愛すぎて死ぬトコだったぜ。
 しかし、あいつあんな可愛いやつだったか?)

小鍋を台所の流しに置いて部屋に戻る。

さっきよりも少し楽になったのだろう、播磨のベッドには愛理が
幸せそうな顔をして眠っていた。

「クソッ なんて可愛い顔して寝てやがんだ。 それにさっきなんか…」



《さっき》

「食べ終わったら、なんだかまた眠くなってきちゃった。
 ねぇ…ヒゲ…また少しここで眠らせてもらってもいい?」

(せっかくヒゲのベッドで寝てるんだし……ヒゲがいつも使ってる
 ベッドに……ずっと寝てたいし……)

「あ? ああ、構わねぇぜ。 ゆっくり休め。
 俺は別の部屋にいるからよ」


小鍋をもって部屋を出ようとする播磨。

「待って!!!」

「あん? なんだ?」

「その……えっと…私が寝つくまでここにいなさい!!」

「子供かっ!!!」

「あぁ〜頭が痛いわ」

「ちっ わーった わーった いりゃいいんだろ?」

それを聞いてニコッとする愛理。

「最初からそうすればいいのよ。 
 じゃあホラ 私が眠るまで私の左手を握ってて!!」

「はぁぁ〜!? 何で俺が!!!」

「うるさいわね!!! 早く眠りにつくためよ!!! えっと……イギリスでは  (←大嘘です)
みんなそうなんだから!!!」

「うっそくせぇ〜  それにここは日本だぜ」

「いいの!!! 早く握りなさい!!!」

「あぁ もう分かったよ」

愛理の左手をそっと両手で優しく包み込んでやる。

「そ それでいいのよ」

愛理はとても満足そうにその美しい瞳を閉じた。

  ドックーーーーーン!!!

(あー くそぉ こいつマジで超可愛い!!! 惚れちまうかもしれねえ。
 頼むから早く眠ってくれ〜)








《『さっき』と同時刻 学校 某室》

「高野君、沢近君はこんなコだったかね?」

「いいえ、これも飴の力です」

「な!? またなのかね?」

「はい。 彼女には播磨君にあげた飴の効力に加え,『普段自分が
 意識的に抑えている願望が表面に出る』という効果があります。」



「……高野君,それもまた闇ルートかね?」

「はい。 そうです。
 それより先生,そろそろ出番ですよ」

「あ ああ そうだったな」











《イトコのマンション》

ルルルルルルルル!!! ルルルルルルルル!!!

愛理の美しい寝顔につい見とれていた播磨だったが,
電話の音で急に現実に呼び戻される。

(わっ!!! ヤベェ電話だぜ。 お嬢が起きちまう。
 早く受話器を…)

  ガチャッ 

「もしもし?」

「おう,コゾウか?」

「そ,その声はオヤジ……いや……船長?」

「久しぶりだなコゾウ……達者にやってるか?」

「ハ…ハイ!!」(なんで俺んちの番号知ってんだ?)

「うそつくんじゃねぇ!!! コゾウ……おめぇ,好きな女を
 まるでなかったかのように別のムスメにのりかえたそうじゃねぇか!!!」

(へ? 妹さんのことか?)

「オラ!!! コゾウ,聞いてんのか!!!」

「へ へい!!! 聞いておりやす(汗)」

電話を持ったままペコペコする播磨。

「で…でもなんで船長がそのことを?…」

「うっせぇ!!! 俺の船に乗ってた男がいちいち小せぇ事
 気にすんじゃねぇ!!!」

「へぃ!! す すいやせん」

「しかもコゾウ。 てめぇ それには飽き足らず
 またそのムスメとは違う別のムスメが気になり始めたときた」

(え?……もしかして……お嬢のことか?)

「コゾウ,てめぇ!!! それでいいと思ってやがんのか!!!」

「す…すいやせん」

「おっと。ちょっと待て…今兄弟にかわる」

(へ? 兄弟?)


 ゴホッ ゴホッ


(なんだ今の咳? なんか聞き覚えのあるような…)


「よう 小僧, てめぇがそんなやつだとは思わなかったぜ」

「な!? …もしかして……編集長っすか?」

「バカ野郎!!! あたりめぇだろ!!! てめぇ上司に向かって
 何いってやがる!!!」

「へぃぃぃ!!! すいやせん」

電話なのに土下座する播磨。

「小僧,てめえには罰が必要だ」

「…罰?」

「そうだ  てめぇは好きだった女から勝手に乗りかえた。
 そのうえ,今までてめぇのことが好きなムスメ
 の気持ちを傷つけちまったんだからな」

「へ? 俺のことが好きなムスメ?」

「バカ野朗!!! てめぇまだ分かんねぇのか!!!
 今お前の部屋で寝てるムスメのことだ!!!」

「え? お嬢が? 俺の事を?」

「罰として,おめぇは今気になってるムスメ2人を平等に
 しっかりと愛し,幸せにする!!! いいな?」

(2人? お嬢と妹さんのことか?)

「聞いてんのか小僧!!! もし罰を受けないのなら俺と兄弟
 がてめぇの家に行くからな」

船長と編集長の2人がマンションにやってくる場面を
想像して凍りつく播磨。

「わかったな? てめぇ その2人のことが好きなら
 大した罰じゃねぇだろ? じゃあな」

  プツッ  ツー ツー ツー


(な…なんてことになっちまったんだ…2人を平等に愛せだと?)


呆然と立ち尽くす。


ルルルルルルルル!! ルルルルルルルル!!

再び電話が鳴り出す。

  ガチャッ

「もしもし?」

「おうケンジくん もう帰ってたんだな。
 急な用事ができたから 今日からの金・土曜は帰らないから。
 よろしく。 じゃ,頼んだよ」

  プツッ  ツー ツー ツー

(俺…どうなっちゃうんだ?…いったい…)








《学校 某室》

「先生,けっこう演技派なんですね。一人三役もこなすなんて」

「1人は本人だよ」

そう言って電話を机に置く。

「キミが作ったこの『音声切替装置』とかいうどっかの
 探偵マンガに出てくるような機械のおかげだ。
 …それにしても喉が渇いた……高野君,水をくれないか」

「…どうぞ。先生,ご協力ありがとうございました」

「……いや,いいんだよ」


編集者: ボロネーゼ, 最終編集日: 2007年6月04日(月) 22:30, 編集回数: 2
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:56    題名:  

 ガチャッ

電話を終え,部屋に戻るとなぜかベッドの毛布が震えていた。

「オイ,お嬢 もう起きたのか?」

しかし,愛理は壁の方に顔を向けたまま返事をしない。

毛布を小刻みに震わせてるだけだ。

「オイ お嬢?」

心配になって愛理の顔を覗き込む。

「……んで……よ」

何か言ったようだがよく聞こえない。

「ん? なんだ?」

「なんでそんなに優しくしてくれるのよ!!!」

愛理が目に涙をいっぱい溜め,キッ と播磨の方を向く。

「お おい お嬢…いきなりどうしたんだよ?」

だが,また壁の方を向いてしまう愛理。


「だって……だって……ヒゲは…あのコのほうがいいんでしょ!!」


泣いてるせいだろうか,声が少しかすれている。

「あん? あのコって誰のことだよ?」

「分かりきった事言わないでよ!!! 八雲に決まってるじゃない!!」

「あん? なんで妹さんがそこで出てくるんだよ?」

「ホントはここにいて私の世話するより彼女の八雲と一緒にいたい
 とか思ってるんでしょ!!!」

「オイ 落ち着けお嬢!! なんのことだか分かんねぇぞ。
 いいから落ち着け」




そう言われて愛理は少しおとなしくなった。

「……ごめんなさい。」

「よし,ゆっくり話せや」




数分の沈黙。




「私ね…ヒゲのことが好きなの」

「お…おう」





「……ねぇヒゲ……ヒゲは……私のこと……キライ?」








≪実はすでにこの時,播磨と愛理の舐めた飴の効果はなくなっていた。
高野は飴の効果が一時的なものである事までは知らなかったのだ。

愛理の体調と態度は元に戻り,播磨の愛理に対する思いも通常に
戻っていた。


高野にしては珍しすぎるミスだった。


しかし飴の効果こそなくなったものの,それがきっかけで
播磨はそれまで気付かなかった愛理の魅力に
気付き始めていた。≫










「キライじゃねぇよ」

それを聞いて愛理の毛布が ビクッ と動く。





「じゃあ……私のこと……どう思ってる?」

「すげぇかわいいと思ってるぜ」

(え? うそ? なんで?)
それを聞いて急に胸がドキドキし始めた。






「…じゃあ……私のこと……好き?」

「ああ,好きだ」

「…うそ…」


その言葉を言われると涙がポロポロと溢れ出す。


「…アンタはもう…(ひっく)あのコと付き合ってるじゃない…
 (えっぐ)…なんでそんなこと言うのよ…ばか…」

泣きじゃくりだす愛理。


「悪ぃ お嬢。 
 …俺,おまえと妹さんの2人を同じくらい
 好きになっちまったみてぇなんだ
 いけねえ事なのはわかってんだけどよ…」

「…そんなこと言ったって…」




そこで突然,播磨の部屋のドアが開く。


「待ちなさい2人とも!!!」

「「え?」」

声のするほうを向くと高野が立っていた。    (←自分のミスに気付き,様子を見にきていた) 

「晶…なんでここに」  「高野…」

「ごめんなさいね 急に。
 播磨君,私の意見を言わせてもらうわ」

「な なんだよ」

「播磨君,あなたは愛理と八雲の2人と付き合うのよ」

「あん? そんなことできるわけないだろ?」

「黙りなさい  それもこれも2人を同時に
 惚れさせ,そして2人を同時に好きになって
 しまったあなたが全て悪いのよ。
 解決策はそれしかないわ」

「ぐっ…でも そうしたら,すでに付き合い始めた
 妹さんが悲しむじゃねえか」

「だから そこはあなたが土下座して八雲に許可を得るのよ。
 愛理,あなたも八雲に頼むのよ。
 私も八雲を説得するわ

 …あのコきっと一旦は悲しむだろうけど,
 愛理の気持ちを分かって許してくれるわ。
 本当に優しいコだから……

 愛理, 播磨君と付き合うためよ
 それでいいわね?」


「わ わかったわ。」

「すまねえ高野。 恩にきるぜ」

高野に土下座をする播磨。

「ただし,3人が上手くいくためには……愛理,
 あなたには守ってもらうある必要最低限のルールがあるわ。
 八雲もだけど……
 それでいいわね?」

「え ええ わかったわ」
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投稿者 メッセージ
ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:56    題名:  

播磨の必死の謝罪と愛理の頼み込み,そして高野の説得により,
播磨が八雲・愛理の2人と同時に付き合うことを
メチャメチャ優しい心の持ち主の八雲は許してくれた。


しかし,それには高野が決めた必要最低限のルールがあった。

もっとも,1番目のルール以外はルールというほどの圧迫感はなく,
楽しく過ごせるものだったのだが。




【ルール】

○もともとは八雲は播磨を独占できる状態であった。
 よって八雲の気持ちを考え,
 この3人の交際が始まってからの最初の播磨のキスは
 八雲としなければならない。



○八雲・愛理は2人とも1週間に3回,播磨のために学校に
 手作りの弁当を作って来て,播磨と2人きりで仲良く食べなければならない。
 曜日と彼女の組み合わせは以下のようにする。

 月曜日 愛理
 火曜日 八雲
 水曜日 愛理
 木曜日 八雲
 金曜日 八雲&愛理

 また,播磨は作ってもらった弁当を
 おいしく食べ,残してはならない。 (←播磨,金曜の昼飯は2人前)

 ※愛理はマサルに料理を特訓してもらうこと


○播磨は以下の表にのっとって,毎日彼女を家まで腕を組んで(あるいは
 手を繋いで)おくりとどけなければならない。

 月曜日 八雲
 火曜日 愛理
 水曜日 八雲
 木曜日 愛理

なお,金曜日に関しては2人を金曜のたび,順番におくりとどけること。



○彼女同士は,仲良くし,お互いの播磨との付き合い方に干渉しない。



○播磨は同じ彼女と2回以上連続でデートをしてはならない。
 ただし,3人でのデートなら何回連続でしてもよい。



○播磨の漫画執筆作業は3人で協力して行うこと。






こうして播磨は『正当な理由で?』 両手に花 状態となり,
3人は幸せにすごしましたとさ。





(ちなみに天満の播磨へのお礼は3枚の水族館のチケット)






《イトコのマンション》


「高野君……私ってあまり出ても意味が無かったんじゃ……」
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:56    題名:  

《オマケ》

「おいおい,お前ら
 両側から腕組まれたら歩きにくくてしょうがねえじゃねえか」

「ねぇヒゲ!!
 あれ見てよ!!! 『深海魚ゾーン』だって!!
 なんだか暗くて面白そうよ。 あっち行ってみましょ。 ホラっ早く!!!」

「あの…播磨さん…私…『イルカショー』見てみたいです。
 その…あっち行きませんか?」

「……イテテッ  お前ら,腕を反対方向に引っ張るな。
 っっって,2人とも全然聞いてねえし……」
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月29日(火) 17:57    題名:  

《オマケ パート2》


昼休み 屋上


澄み渡った空


気持ちのいいそよ風


段差に腰掛けた3人


4つのお弁当箱


そのうち2つのお弁当には白いご飯の上に
大きなピンクのハート模様



「播磨さん…次は卵焼きです。
 ハイ……あ〜ん♪」

「あ〜ん (パクッ) ウメェ!!!
 やっぱ妹さんの作った卵焼きは絶品だな!!!」

「あ…ありがとうございます」

頬を赤らめる八雲。

「ヒゲ!! 次は私よ。 こっち向いて
 ホラッこれ見て!!」

「おお!!! お嬢,ウインナーがタコになってるじゃねぇか」

「そうよ〜 あんたのために頑張ったんだから。
 ハイッ 口開けて あ〜ん♪」

「あ〜ん(パクッ) ウメェ!!!
 お嬢!!  また腕上げたな」

「あったり前じゃない
 毎日練習してるんだから」

「播磨さん…ご飯です。 あ〜ん♪」

「あぁ!! 私が今ご飯あげようとしてたのにぃ〜」






毎週金曜の屋上はいつもより2倍幸せな空間なのであった。


ボロネーゼが2007年6月07日(木) 19:49に記事を編集, 編集回数: 1
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年5月30日(水) 12:32    題名:  

《オマケ パート3》

「ヨッシャ!! やっと終わったぜ」

そう言って伸びをする播磨。

八雲、愛理もそれにならい、伸びをする。

漫画の原稿が書き終わったのだ。

「2人のおかげで思いのほか早くおわったぜ。
 ありがとな、八雲、愛理」

「当然よ。 だってこれは私達がやりたくて手伝って
 るんだもん。 ね? 八雲?」

「は、はい。…もちろんです」

「そっか。 でもありがとな。
 愛してるぜ、愛理、八雲」

「ちょ、ちょっと!!
 い…いきなり言われると…その……照れちゃうじゃない…」

赤くなる愛理。

見ると八雲も赤くなっている。


(やっぱこいつら……最高に可愛いぜ)


2人のその様子に播磨は微笑んだ。

ふと壁の時計を見る。

もう夜中の3時だ。


「おっと!! もうこんな時間だ。
 もう寝ることにしようぜ。
 俺は床で寝るから、2人には悪いけどよ、俺のベッドと
 イトコのベッド使ってくれな。            (←イトコ、葉子の家に避難中)
 大事なお前らを床で眠らせるわけにはいかねぇからな。
 それに明日……いや、正確に言うと今日だが、学校は
 休みだからたっぷり寝坊しろ」


そう言って播磨は原稿をトントンとまとめ、机の脚をたたみ、
それを部屋の隅に立てかけると、床に寝転がって眠って
しまった。


それを見た愛理は八雲に目配せをし、播磨のベッドの毛布を手に取る。

どこかいたずらな表情だ。

そして、眠っている播磨に毛布をかけ、自分も播磨の右側
へと毛布にもぐりこむ。

「ホラッ 八雲も早くケンジの隣に入りなさい」

「あ…は、はい…」


(…ケンジさんの隣…)


部屋の電気を消し、八雲も播磨の左側の毛布へともぐりこんだ。









まだ暗い朝、新聞配達のバイクの音で播磨は少し目を覚ます。

気づくと1枚の毛布の中、左側に八雲が、そして右側に愛理が
真ん中の播磨に寄り添うようにスースーと眠っていた。

また、愛理の左手は播磨の右手とカップルつなぎにされており、
愛理の右手は播磨の厚い胸板の上に置かれている。

偶然八雲も、愛理と左右対称に同じ事をして眠っていた。



(こいつら……)



2人に握られていた両手をそっと握りかえす。


すると、愛理と八雲は眠りながらどこか幸せそうな表情に
なった。




2人のその表情に微笑んだ播磨は、再び目をつぶり、
幸せの夢の世界へと向ったのであった。
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年6月02日(土) 00:30    題名:  

《後日談? ナカムラ編》

高野様,先日は大変お世話になりました。

おかげさまでお嬢様がようやく播磨様と正式に交際するにいたり,私としてもやっと安心
することができました。
なにやら,播磨様は塚本様の妹の八雲様とも交際するとの事ですが,お嬢様がそれで満足なら
私も満足でございます。

お嬢様はこの頃,よく播磨様と八雲様を屋敷にお招きになり,私どもとしてもお嬢様の笑顔を
見られる機会が増えて大変幸せでございます。

また,最近お嬢様は八雲様と一緒に「ぬいぐるみケンジくん」とやらをお作りになっているようで,
お裁縫を勉強中でございます。


ところで現在,遅ればせながらもお嬢様と播磨様,そして八雲様の交際開始を祝福するパーティー
を企画中でございます。間もなく皆様のもとへ招待状が届くころかと思います。

さて,ここで私,私的な事ながら高野様にお願いがあります。
私,刑部様にも招待状を出したのですが,高野様からも刑部様にご出席いただけるよう,頼ん
ではもらえないでしょうか。
勿論,お礼はさせていただきます。

ではパーティーにてお待ちしております。



                            沢近家執事 ナカムラ
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ボロネーゼ



登録日: 2007年5月 29日
投稿記事: 48

投稿1時間: 2007年6月02日(土) 00:31    題名:  

《後日談? 伊織編》

よう,ひさしぶりじゃないか。

実はよ,なんだか最近俺の周りの様子が変わったんだ。

まず八雲の事なんだが,この頃,あの同じ格好をしている人がたくさん行く建物に行くのが
なんだか楽しみになったみたいなんだ。
それに,前までは月がまんまるになる頃にはそこへ行くのを休むことが多かったんだけど,
今では月が丸くなってもそこに行ってる。

そして,家にハリマとなんだか眩しい髪の毛の人がよく来るようになったんだ。
ハリマはいいやつだ。 俺の言葉も分かってくれるしよく遊んでくれる。
眩しい髪の毛の人とはあまり遊ばないけど,この前足元に近づいたら頭をなでてくれたから
きっといい人なんだろう。

天満は相変わらずうるさいけど,その2人が家にくると余計うるさくなる。
この前も目だけ出した真っ黒い変なカッコして,紙で作った星みたいなの俺に投げてきたし。
今度,仕返しに天満のベッドに生きたままのバッタやコオロギをいっぱい入れといてやるんだ。

お? この匂いは……どうやら今日の夕食は焼き魚みたいだ。
ちょうど腹が減ってきたな。


それじゃあまたな,ナポレオン
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