Little Bits (鬼怒川、播磨他) 【一話完結】 |
- 日時: 2005/11/08 12:29
- 名前: によ
こんな普通でいいのかな? なんか皆はいつも楽しそうだし。 ってか、うちのクラスはヘン───個性的な人が多い。 男子は…ヘンなのばっか。まともなのは麻生君とか梅津君……烏丸君はちょっと微妙かな? 女子は凄い人が多すぎるよ。 学校でも1、2位を争うぐらいにモテる沢近さんでしょ。 周防さんのあの胸は反則っていうぐらい大きいし……って、私、コンプレックス持ってるのかな!? 高野さんも綺麗で頭もいいし、塚本さんは誰とでもうち解けて、密かに男子の人気もすごい高いし。 あの四人組には敵わないなぁ。 それに一条さんや冴子、円だって。 せっかくの高校生活なんだし、ちょっとは思い出に残るような楽しいことが私にもないかな……
─── Little Bits ───
今日も学校に行って、部活やって、家に帰って手伝いと。 単調だな。私の生活って。 文化祭の時は普段とは少し違って楽しかったけど。 でも、あんなアドリブばっかの劇になって本当に良かったのかな? 嵯峨野は「いーの、いーの!」なんて言ってたけど……
「あの〜、すみません……」 「あ…ごめんなさい。220円になります」
いけない。店番中だったんだ。 私はお客さんからお金を受け取って、ロッカーの鍵を渡した。 中学生になった時からずっとやってる番頭の手伝い。 もう日常の一部で、今のお客さんも名前こそ知らないけど、結構見る顔の人だ。 変わりない手伝いにあんまり変わらないお客さんに…ちょっと退屈。 真面目に考え過ぎるのかな。今だって物思いに耽っちゃったし…って、集中しないと。またお客さんを待たしちゃう。 あ…お客さんが来たようだし。今度はちゃんとしないと───あっ!
「あの…いくらっす───うぉ! お、お前は……」 「播磨君、2回目でしょ!? ここ来るの…それから、私は鬼怒川綾乃。ま、別にいいけど……」 「い…いや…別に名前を知らねーってワケじゃなくてだな……家の風呂釜がぶっ壊れちまったからよ……」
播磨君って嘘つくのヘタなのね。 文化祭の準備で来た時と同じように驚いて、口をパクパクさせてちゃ名前知らないのバレバレじゃない。 それにここに来た理由なんて聞いてもいないのに。 でも、播磨君と話すのって初めてかも。ま、誰であろうとお客さんだから別にどうでもいいんだけど。 「220円よ。それから前にも言ったけど、別に見ないから」 「あ…お、おう……」
お金を受け取った私は播磨君に鍵を渡すと、そそくさと奥に引っ込んでしまった。 一様、気遣いってやつで奥のロッカーの鍵を渡したんだけど。 ほんのちょっとだけど、日常とは違う出来事なのかな。これって?
*
昨日に引き続いて、今日も播磨君が来た。
「まだ風呂釜が直らなくってよ…き、木曽川!?」 凄い不良だって聞いてたし、見た目もそんな感じなのに照れるなんてちょっと面白い。 でも、人の名前を覚えるのは苦手みたいね。
「鬼怒川よ。それと別に理由なんていいから。うちにとっては播磨君はお客さんだし」 「そ、そうか!?」 「そんなに恐縮する必要なんてないと思うけど。クラスメートなんだし」 「お、おう…すまんな。暫く厄介になるぜ」 「いつでも歓迎するよ。お客さんだから」
なんかイメージと違うなぁ。 授業は殆ど寝てるかサボってるし、たまに沢近さんと口喧嘩してる姿とは大違い。 あ…また、そそくさと奥に引っ込んだ。 不良なのに結構シャイなんだ、播磨君って。 それからだった。播磨君へのイメージが変わった時から、ほんの少しだけの彼との接点が始まったのは。 相変わらず学校では一言も喋らない。 でも、学校が終わって私が番台に座っている時に交わすほんの少しの会話。 3日目になると播磨君も少し慣れてきたようだった。
「おう、今日も厄介になるぜ! 鬼怒川」 「名前覚えてくれたんだ、意外」 「チッ…お前、俺のことバカだと思ってただろ?」
苦虫を潰したように渋い顔をする播磨君。 全く知らない頃の私なら少し怖かったかも知れない。 でも、今の私には全然怖いとは感じない。 逆に彼っぽい愛嬌とすら感じてしまう。
「そんなこと思ってないけど。それより風呂釜はまだ直らないの?」 「ああ…うちには同居人がいるんだがよ。ソイツがなかなか直そうとしねーんだ……」 「へ〜。同居人ってことは家族とは一緒に住んでいないんだ?」 「まあな。昔は一人暮らしだったんだけどよ、色々あって今はソイツとふたりでな」 「ふ〜ん。もしかして…彼女と同棲とか?」 「ちっ…ちげーよっ! ソイツはなんだ…イトコなんだよっ!」
うわぁ。何気なく聞いてみただけなのに顔真っ赤にしてる。 本当にシャイだね、播磨君って。
「そっか。まあ、いいけど。はい、ロッカーの鍵。いつもの場所だから」 「お、おう…いつもすまんな」
いつも通りお代を貰って、同じロッカーの鍵を渡す。 結構……播磨君と話すのって楽しい。
*
今日は土曜日ということもあって学校はない。 私は普段通り部活に行って帰ってくるというお決まりの土曜日。 夕食を食べた後はいつも通り番頭の手伝い。 ちょっと前までは退屈だと思っていたのに、播磨君が来るのを少しだけ楽しみにしている私がいる。 相変わらず学校では一言も喋らない───と言うよりそんな機会もないんだけど。 ただ、今日はいつも来ている時間帯に播磨君は来なかった。 時間は刻々と過ぎて、もう11時半を回った。 うちは午前0時に閉めてしまうので、もうすぐ閉店の時間だ。
「綾乃。こっちはお母さんがするから、綾乃はボイラー室に行ってお父さんの手伝いをしてきて」 「あ…うん。わかった……」
土曜日の夜だけ浴槽の掃除という手伝いがある。 今日はもう女性のお客さんが一人だけなので、少し早めに閉めてしまおうってことだろう。 私は播磨君が来なかったので、少しだけ後ろ髪を引かれるような気持ちでお母さんに言われた通りにボイラー室へとまわった。 お父さんはボイラーの火を落としているところで、いつも通りちょっとだけそれを手伝う。 手伝うといっても配管の栓を閉めるだけなんだけど。 それからモップを持って男湯の通用口の覗き窓を覗いた。 お客さんはいないだろうけど、いちよう確認してからでないと驚かせてしまうし。 中を確認してもやっぱりお客さんはいない。 早速、掃除を始めるかなと覗き窓から顔を離そうとした瞬間、奥のガラス戸が開いた。 いつもは湯気でハッキリとわかるようなことはないけど、入ってきたお客さんが播磨君だとすぐにわかった。 慌てて覗き窓から顔を離した。 湯気が凄いし、顔しか見てないけど…胸がちょっとドキドキしているのがわかる。
「どうした、綾乃?」 「あ…お客さんが入ってきただけ。お父さん、掃除はもう少し後になりそう」 「ん…そうか。こんな時間に来るお客もいるんだな」 「まだ閉店時間じゃないし」 「そうだな」
お父さんが気付くぐらいオーバーアクションしてたのかな? ま、それはいいとして…播磨君ってお風呂に入る時にもサングラスしてるんだ…… すっごいヘン! 面白すぎるよ、播磨君って。 今日は話す機会はなかったけど、また違った───面白い一面を見れて、ちょっと得した気分。 そう思いながらボイラー室でぼんやり待っているとお母さんがお客さんは全員帰ったよと伝えに来てくれた。 浴槽の掃除をお父さんとお母さんの3人でする。 モップをかけながら『明日は手伝う日じゃないんだよね』と思うと、少し残念な気もした。
「お母さん、明日の夜も手伝うよ」 「珍しいわね、今までそんなこと言わなかったのに。じゃあ、明日も頼もうかしら?」
一緒にモップがけをしていたお母さんに私はそう言っていた。 でも、そんなちょっとした楽しみも長くは続かない。 平凡な生活というのはすぐ戻ってきてしまうものだった。 日曜日の夜は閉店まで番頭の手伝いをしていたけど、播磨君が来ることはなかった。
*
昨日は播磨君来なかったな。とうとう家の風呂釜が直ったのかな? そうぼんやり思いながらの通学。
「おっはよー、おキヌ」 「あ…おはよう。嵯峨野」
いつも元気な嵯峨野。毎日が楽しそうでちょっと羨ましい。
「んんっ? 元気がないね、おキヌ?」 「そう? 普通だけど」 「いやいや〜、何か思い詰めたような顔してるよ……ああっ! さてはおキヌ、恋の悩み?」 「は? 違うよ。私、そんな思い詰めたような顔してた?」 「違うのか〜。私はてっきりおキヌにも春が来たと思ったのに♪」
そういえば嵯峨野はこの手の話が大好きだった。 にしても敏感って言えば敏感だなぁ。 別に播磨君に恋なんてしてないけど、男子のことを考えていたのは確かなんだし。 って、こんなこと嵯峨野の言おうものなら凄いことになりそうだから絶対言わないでおこう。 そう思った時、後ろからエンジンの音が響いてきた。 バイクが私達を抜き去ったかと思ったら、急に目の前で止まった。 播磨君だった。
「おっす。鬼怒川」 「は、播磨君……」 「いやな、やっと家の風呂釜直ってよ。先週は世話になったな」 「世話って、播磨君はお客さんだったんじゃない」 「まあ…そうなんだけどよ。いちよう礼を言っとこうと思ってよ」 「別にお礼なんていいよ。それより、これからもたまには売り上げに貢献してね」 「ははっ、そうだな。でけー風呂ってのも気持ちいいもんだしな。じゃ、またな」
播磨君はバイクに跨ったままそう言い終えると、再びエンジンを吹かして学校へと走り去っていった。 シャイでお風呂に入る時もサングラスをかけて、その上律儀なんだ。 また新しい一面を見たな。
「お、キ、ヌ♪ 播磨君と交友があるなんて聞いてなかったよ〜♪」 「……ち、違うよ。播磨君はうちの銭湯にお客でちょっと来てただけで……」 「ふ〜ん…でも、なんか顔赤いよ♪」 「えっ…って、何か勘違いしてるでしょ?」 「私だって播磨君とは話したことないのに〜。そっかー、おキヌは播磨君が……」 「ち、ちょっと、嵯峨野!」
私が抗議の声を上げると、嵯峨野は笑いながら走って───逃げていった。 まずい。あの嵯峨野の事だから、クラスでどんなことを言われるかわからない。 嵯峨野は足が速いけど、私は陸上部。追いつけないということはない。 全力でダッシュして、嵯峨野のあとを追う。 あとを追いながら思った───私もあの騒がしいクラスの一員なんだなって。
Fin.
──────────────────────────────────────── 【あとがき】 思いつき&即興の超マイナーCP!?!?のSSでした。 本編では殆ど科白のない鬼怒川なので、皆さんのイメージ通りか全くわかりませんが…こんな話があってもいいんじゃないかと思って書いてみました。 ご感想等を頂ければ幸いです。
|
|