お祭りのあと (結城、高野、花井他)【一話完結、おまけ付き】
日時: 2005/11/11 00:24
名前: によ


 − お祭りのあと −



「舞ちゃん、また明日〜!」
「うん、またねー」

 日曜日。同じクラスの大塚舞ちゃんと一緒に買い物をして、駅前で別れたところ。
 秋深く…というより、もう冬だよね。寒いし……
 まだ5時を少しまわっただけの時間なのに夕暮れ時になってた。
 家も駅から結構遠いから早めに返らないと日が暮れてしまうのが辛いかな。
 駅前に停めてあった自転車にまたがって家路に急ぐ。
 矢神銀座を抜けて…と思った時、小さな古本屋が目に留まった。
 確か…高野さんがバイトをしてた古本屋だよね。ちょっと覗いてみようかな。
 才色兼備な高野さんの姿を何となく見たくなって、私はお店の中に入ってみた。
 小さいお店だから、誰がいるのかすぐにわかる。
 案の定…というより幸運にも高野さんは本を読んでいた。

「高野さん、こんにちわ」
「……結城さん。いらっしゃい」
「あっ…今日はその…お客じゃなくて、高野さんがバイトしてるんじゃないかな〜って思って寄ってみただけなんだ」
「……そう。暇だし、よければゆっくりしてって」
「う、うん…ありがと」

 っと、ちょっと寄ってみただけのつもりだったから何話していいかわかんないよ〜
 高野さんはゆっくりしてって言ってくれてるし…ああ、私のバカバカ!
 せめて何か話題ぐらい考えておくんだったなァ。
 ───って、高野さん、本読み始めちゃった。
 やっぱり本を読んでる高野さんってハマってる!
 くぅ〜、カッコいい───!!
 ……じゃなくて、話題考えないと……っと?
 高野さん、どんな本読んでるんだろ?

「ね、ねえ…高野さん。それってどんな本なの?」
「……ん? これ? 真田太平記」

 真田太平記…な、なんだろ……あー、もうっ!!
 天体とかプロレスとかギターの話題とかならいくらでも話せるのに……
 他には何かないの? いい、つむぎ。せっかく高野さんが居たんだから気の利いた話題を話さないとダメなんだから……って、あった!

「なんだか難しそうな本だね…って、そうそう! 文化祭の劇のことだけど、かなりウケてたし、やっぱり高野さんに頼んで良かったって思ってたの。ホント、引き受けてくれてありがとう」
「ただの歴史小説だよ。それと劇のことは私も結構楽しませてもらったし」
「うん、楽しかったなァ。途中でお姫様が播磨君になってたり、塚本さんの妹さんまで登場したかと思ったら、花井君や周防さんも───うわぁ!!」

 そ、そう言えば…最後は高野さんが天井から降りて、播磨君とキ…キスしたのよねっ!?
 高野さんって、もしかして…あの播磨君のこと好き…ううん、キスまでしちゃってるんだからつき合ってるのかな?
 聞きたい…すっごく聞きたい!

「どうしたの? 結城さん」
「え…あ、あのね…この際聞いちゃうんだけどサ。高野さんと播磨君てつきあってるの?」
「……な、何で?」
「だって…あの劇の最後で、その…高野さん、播磨君とキ、キスしたよね!?」
「……フッ。それは違うわね」

 あ…高野さんが笑った……初めて見るかも!

「あのキスは鼻だから。ノーカンよ」
「は、鼻……で、でも───」

 キスしたことには変わりなんじゃ……?

「そうね。さしずめ播磨君はペットって感じかな。彼、弄ると面白いし」
「ペット……弄る……」

 す、凄い…あの播磨君をそんな風に見てるなんて!
 私なんかちょっと怖くて近寄りがたいのに…さすが、高野さん!
 やっぱりカッコいい───!!

「それより…外は陽も暮れかかってるけど大丈夫なの? 結城さんの家ってここから結構あるわよね?」
「えっ!? あ───っ!! ホントだ! もうこんなに…家に帰らなくちゃ……」
「気をつけてね、結城さん」
「ありがとう。それよりゴメンね、バイト中なのに話し込んじゃって」
「ううん。こっちも楽しかったし」
「じゃあ、また明日学校で───」

 私は高野さんにお別れの挨拶を言うと、お店の外に出た。
 さ、寒い……
 屋内にいたせいもあるけど、やっぱり冬だよな〜
 あーァ…もう少し話をしたかったけど、残念。 
 それに家に帰るにしても山を一つ越えないといけないし…家に着く頃には真っ暗だなァ……
 さっきまで楽しかったこともあって、殆ど暮れかかってる空が無性に私を虚しくさせていた。


          *


「結城君じゃないか?」

 自転車に乗ろうハンドルに手をかけようとしたとき、突然呼び掛けられた。
 聞き覚えのある声。振り返ってみると思ったとおり花井君がいた。

「は、花井君……」
「どうしたんだ? こんな時間に」
「こんな時間にって……まだ6時ぐらいだよ?」
「うむ…そう言われるとそうなんだが、陽も殆ど暮れてしまっているぞ」
「ちょっと買い物帰りに寄り道をして…って、花井君はどうしたの?」
「僕か? 僕は野暮用でな。確か…結城君の家はここから結構な距離だったと思うが?」
「そうなのよね…自転車で来てるし、バスは苦手だし……」
「ヨシ! そう言うことならこの花井春樹、結城君を家まで送ろうじゃないか!」

 えっ! 送るって……

「い…イイ! イイよ!」
「ホラ! 後ろに乗りたまえ! 女子の夜道は物騒だ。送ってやろう!」

 うはぁ! いつの間にか私の自転車に乗っちゃってるよ!

「で、でも…悪いよ……」
「ハハハッ、遠慮はいらん。君の自転車は僕がこぐ!」

 そりゃ…既に乗っているし……
 相変わらず強引だなー。でも、天然だし仕方ないか……

「ゴメンね、ワザワザ」

 そう言って、自転車の荷台に腰掛ける。
 こうやって送ってもらうのは二度目かァ。
 あの時はメガネが割れちゃって自転車に乗るのもままならなかったけど。

「当然のコトだ。気に───ムッ!?」
「ど、どうしたの?」
「いや、強い光が一瞬……」
「あ…今の? 自動車のライトじゃないのかな?」
「そう…だな。スピードを出すからしっかり捕まっているんだ、結城君」
「ハイハイ……」

 花井君が自転車をゆっくりと、そして徐々にスピードを出してこいでいく。
 振り落とされないように彼の腰に片手を回すようにと添えると、結構大きな背中が間近に感じる。
 この辺りはさっすが少林寺の猛者って感じだなー。
 こんなに逞しいなら格好いいはずなのに、格好良くないし天然でお笑いキャラだから全然モテないのよね〜
 あ、稲葉さんは花井君に興味示してたっけ?
 そう思っている間に花井君がこぐ自転車は結構なスピードが出ている。
 あっという間に商店街を抜けて、住宅街も抜けて、山の上り坂まで来ていた。

「こうやって送ってもらうの二度目だね」
「ハァ…フゥ…な、何か言ったか?」
「ぜ、全然! それより坂道だし、もう少しゆっくりでもいいよ……」
「そういうワケには…もう陽もとっぷり暮れてしまったしな…フゥ……」

 ヘンに頑固で律儀だなァ。
 花井君らしいって言えばらしいんだけど。
 って、もう坂の上だ───わぁ…夜景が綺麗……

「ねえねえ。ちょっと休憩しようよ!」
「む…しかし……」
「ちょっとは景色も楽しまなきゃ。綺麗だよ、矢神の夜景……」
「うん? あ、ああ…確かにな。じゃあ、少しだけ休憩させてもらおう」

 ちょうど坂のてっぺんまで来たところで、花井君は自転車を止めた。
 私は荷台から降りると真っ先にガードレール脇まで駆け寄って、眼下に広がる夜景を眺めた。
 そんな大きな街じゃないから、どこかの百万ドルの夜景ってワケじゃないけど綺麗なことには変わりない。
 今度は夜空を眺めてみる。冬の星座であるオリオン座が南の空に浮かんでいる。

「もう冬だよね……」
「ん? ああ…夜は結構冷えるようになったな」
「もう…そうじゃなくて。南のほうを見て。オリオン座が見えるでしょ? あれは冬の星座なの」
「ああ…三つ星が並んでいるやつだな」
「うんうん。あれはね、オリオンの帯とも言うんだ。左からアルニタク、アルニラム、ミンタカって言って、アルニタクのすぐ傍には馬頭星雲が観測できるの」
「詳しいんだな、結城君」
「え? 天文部だし。好きなんだ、天体観測……いつか宇宙飛行士になって行ってみたいなァ…って、可笑しいでしょ?」
「いや。いい夢だと思うぞ、結城君」
「……ありがとう。男子でこの話聞いて笑わなかったのは花井君が初めてだよ」
「僕はそんな無粋なマネはしないぞ! 誰もが夢を持つ権利があるし、夢を追う努力を絶やさないことが大事だと思っている!」
「……花井君」

 なんか…ちょっとだけ…格好いいこと言うなァ。
 いつもこーだったら、女の子にもモテそうな気がするのに……
 それにしても冷えるなァ…コート来てこればよかっ───

「クシュン……」
「むっ!? だいぶ冷えてきてるな…そろそろ行こうか?」
「あ…うん。それより花井君、帰りはどうするの? あとは坂を下るだけだし…もうここまででいいよ?」
「大丈夫! 帰りは走って帰る! それよりちゃんと家まで送るのが僕の使命だしな!」

 使命って…そんな大袈裟なっ!
 でも…甘えちゃおっかな……

「じゃあ…お願いしちゃおうかな……」
「うむ。任せてくれたまえ! ハハハッ……ハクシュ〜ン!」
「は、早く行こ! このままじゃ風邪引いちゃうよ!?」
「むう…すまん。しっかり捕まっているんだぞ!」

 再び自転車に乗って、今度は坂を一気に下る。
 当然ながらスピードがかなり出て、切り裂く風が冷たいけど、寄せてる彼の背中からほんのり温もりが伝わってくる。
 なんか…男の人だなァ、って感じるよ。
 格好良くないのに格好いい気もする。
 やっぱり───ホントにわからないもんだな……
 寒い冬空の下、ちょっとした暖かい瞬間に巡り会えたことに少しだけ感謝しようと思った。





 Fin.

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【あとがき】
思いつき&即興SS第二弾です(ウヲーイ)
今度は結城×花井のちょっとだけメジャーなCP(虹)にしてみました。
よろしければ感想なりを頂けると嬉しいです。
なお、今回は【おまけ付き】だったりもします。









 − お祭りのあと 〜おまけ〜 −



「もうすっかり冬だね〜」
「昨日の夜は結構寒かったね」

 月曜日の朝。SHRが始まるまでの時間、私はいつものメンツ、嵯峨野と舞ちゃんとたわいのない雑談を交わしていた。
 ホント、昨日の夜は寒かった。
 花井君、風邪なんか引いていなければいいけど……

「おはよう、皆」
「おっはよ〜、高野さん」
「おはようー」
「高野さん、おはよー。昨日はゴメンね。バイト中にお邪魔しちゃって」
「いいよ、昨日は色々面白かったし。それより…結城さん。昨日のお礼にこれあげるわ」

 高野さんはそう言って私に白い封筒を手渡してくれると、一瞬だけフッと含み笑いをしたような感じがした。
 そして、すぐに自分の席へ戻ってしまってもいた。
 また笑ってくれた……?
 って、いったいコレ何だろう?
 それにお礼を貰うようなコトはなんにも……?

「ねねっ! なになにソレ?」

 いつも好奇心旺盛な嵯峨野が真っ先に飛びついてきた。
 舞ちゃんも興味深げに眺めてる。

「うん…開けてみるね……」

 封筒は糊付けされてなかったので、そのまま中身を取り出した。
 写真……かな?
 何が映っているん────うっわあぁぁっ!!

「写真……って、何コレッ!!!」
「つむぎちゃん──っ!!」
「こ、これ…これは……」

 映っていたのは私と……花井君だった。
 自転車の二人乗り。こ、この写真って昨日の────あ、あ…あの時の!!

「は…ははっ……」
「早まっちゃダメ! 絶対ダメよ! いい? 男は顔よっ!!」
「………悩みごとがあるんならどーして相談しないのっ!」

 嵯峨野の舞ちゃんも猛反対してるよ……って、違う。違うったら!

「ち、違うの…これは昨日、偶然───」
「き、昨日!? だって、つむぎちゃんと私は一緒だった…って、あの後なの!?」
「ま、まま、舞ちゃん…お、落ち着きなよ…って、さ、嵯峨野もっ!」
「「落ち着くのはそっち〜!!」」


 な、なんで…高野さんがこんな写真を……
 私…何か気に障るような───っ!
 もしかして…あ、アレ? 播磨君とのキスのコト聞いちゃったから……?
 え、えっと……私も……ペット……ですかァ?
 ……高野さん……格好いいけど……こ、怖いよぅ………




 おしまい。


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