トラブルだらけのTravel(笹倉、絃子) |
- 日時: 2005/09/07 16:24
- 名前: ウエスト
- 注)この話は、笹倉先生が壊れ気味です。
絃子さんも壊れ気味です。 それでも大丈夫な方は先へとどうぞ……
播磨と八雲が談講社から帰ってきて、マンションのドアに貼られていた張り紙、内容は絃子と葉子がスノボ旅行へ行くという内容のものだった。 実はこの張り紙、絃子が書いた文字は一切ない。全て葉子が書いていた。 中には絃子が書いたような内容もあったが、それも葉子が書いたもの。 2人が旅行に行ったことで、播磨が塚本邸で冬休みを過ごすミラクルが起きていようとは、絃子はおろか葉子でもその時は予想していないだろう…… その頃、2人はスキー場へと車を走らせていた。 2人が旅行する経緯は、少し過去へと遡る。
2学期も終わり、絃子は学校に残って仕事をすることはしなかった。というか、既に終えていた。 いつも通りマンションへと帰り、ラフな格好へと着替え、ポテチを肴に一杯引っかけていた。 こんな格好、他人には決して見せられない。唯一許せるのは、親友の葉子と、彼女の愛しの従姉弟の播磨のみ。 絃子は年末の予定をいかにして播磨と過ごすかを思案していた。酒は飲んでも、思考は鈍らない。それが刑部絃子である。
「去年は寂しかった……。拳児くんは年末中、ケンカしてて帰ってこなかったからな。帰ってきた傷だらけの拳児くんを見てどれ程私が心配したか……」
確かに心配はした。が、照れ隠しでモデルガンをぶっ放しさらにダメージを負わせていた。そのおかげで、播磨は痛みから家を出られず、お正月は絃子と過ごすことになった。 本来なら2人水入らずのはずなのだが、葉子が遊びに来たせいで、絃子の2人っきりの時間は脆くも崩れ去った。 今年はそんなことがないようにしようと、絃子は密かに決心をしていた。 ただ去年と違うのは、播磨を取り巻く環境。去年は女性の影は見られなかったが、今年はそうではなかった。 絃子の脳裏をよぎったのは、自分と同じく素直じゃない沢近愛理、何故か播磨と親しい姉ヶ崎妙、そして自分たちの聖域に足を踏み入れてきた塚本八雲、以上の3名。この3名と播磨は会わせない、絃子はそんな考えを巡らせていた。 そして思いついたのが、『矢神町逃亡』である。地元にいてはいずれは誰かと巡りあってしまう、それを避ける為のシンプルな作戦だった。 しかし2人だと播磨が嫌がると思った絃子は、播磨の警戒心を和らげる為に、葉子を誘い、播磨対策も行なっていた。
「今年は拳児くんも色々あったからね。去年通りの人間関係なら旅行する必要もないけど、今年は違う。拳児くんを狙うハイエナから守らないと!」
一人で決意を新たにした絃子は、無造作に置かれていた旅行雑誌を手に取った。 そして開いたページには絃子たちの旅行先の特集が掲載されていた。
「スノースポーツを楽しんだ後は温泉で体を癒す。そして美味しい夕食を満喫した後は、2人っきりで……♪いけないよ、拳児くん、私たちはまだ……ああ、そんなに積極的にされたら……。いいよ、私は君になら全てを委ねよう……」
誰一人ツッコミを入れる人間がいないのか、絃子の妄想は止まらなかった。 このまま妄想がエンドレスされようとしたその時、一人の訪問者にとって妄想はカットされた。
ピーンポーン♪ 「ちっ。誰だい?人の夢を台無しにして……」
愚痴りながらも絃子は、玄関へと向かった。 播磨の帰ってくる時間は大体、把握していたので不機嫌だった。播磨が帰ってくるなら、こんな態度はとっていない。 不機嫌な絃子だったが、それを悟らせないようにいつも通りのクールな表情を装った。 そして、内心は面倒臭かったが、仕方なくドアを開けた。
ガチャ! 「どちら様ですか?……って葉子?」 「はい、絃子先輩。お迎えに上がりました♪」 「は?だって出発は拳児くんを含めて明日の朝って教えておいたよね?」 「ええ。でも、計画変更です」
そう言うや否や、葉子はいきなり絃子の口元にハンカチを当ててきた。 不意打ちだったので、絃子はかわすことが出来なかった。
「よ、葉子……。一体何を……。クッ、意識が……」 バタッ。 「ク○○ホ○ムの味はどうですか、絃子先輩?これから2人っきりの楽しい旅行の始まりですから♪それまでどうぞいい夢を……」
葉子の言葉は絃子には届いていなかった。それだけク○○ホ○ムの量が多かったのだろう。 倒れた絃子を担いで、葉子は絃子の部屋へと入っていった。 そして勝手に荷造りを始めた。何故かどこに何が入っているか全て知っていた葉子は、手際よく荷物を纏めた。 荷物を纏め終えると、今度は絃子の着替えを始めた。こちらは意図的にゆっくりしていた。その時の葉子の顔から微量ながら鼻血が出ていた。 そうして旅行の準備を滞りなく終えた葉子。最後に播磨へのメッセージを書いていた。全てを書き終えると、メモに500円玉をテープで貼り付けた。 絃子を背負い、絃子のカバンを肩にかけて、マンションを出た葉子。鍵をかけて、ドアにメモを貼り付けた。
「ごめんね、拳児君。絃子先輩は頂くからね♪いろんな意味で……」
妙に引っ掛る言葉を残して、葉子はマンションを後にした。
そして播磨がマンションでドアの張り紙を見て呆然としている頃、絃子は目を覚ました。 ク○○ホ○ムのせいか、意識がまだハッキリしていない絃子。頭をフル稼働させて、状況把握を始めた。
(……うぅ。どこだ、ここは?私は確か、自分の部屋にいたはずだが……。それにいつの間にか服も変わってる。葉子が好きなヤツだな) (それに、風景が動いてるな……。見たことのないところだな。まるで車に乗ってるかのような……ってまさか!)
ようやく自分の居る場所を把握した絃子は勢いよく起きた。 しかし、シートベルトをしているせいか、胸に痛みが走った。
「痛っ!」 「あれ、目が覚めましたか、絃子先輩?よく寝てましたよ。可愛らしい寝顔でした♪」 「よ、葉子!これは一体どうゆうつもりだ?!」
目を覚ました途端、絃子は葉子に対して怒りを露にしていた。 誰だって急に意識を奪われ、目が覚めてみると見たことのない場所にいたとなれば、誰だって怒るだろう。 そんな怒り心頭状態の絃子を見ながら、葉子は冷静に話し始めた。
「すみません、絃子先輩。フライングしてしまって」 「フライングもそうだが、どうしてこんな馬鹿な真似なんかしたんだ!それに拳児くんはどうした?」 「これも全ては私と絃子先輩の愛のメモリアルを作るためにしたことです!悪気は一切ありません。拳児君は置いてきました。500円と共に♪」 「な、何ー!!拳児くんを置いてきただって?せっかくの私と拳児くんの愛のメモリアルが……」
播磨がいないことにショックを受けながらも、絃子は外の景色をよく見てみた。 辺りは暗かったが、周りは自然に囲まれていた。木や路面に雪が薄っすらと積もっていることから、葉子が向かっている先を把握した。
「ひょっとして、向かってるのは今回の旅行先かい?」 「そうですよ。言ったじゃないですか、フライングって」 「……ちょっと待て。確か予約は3人で入れておいたはずだが?」 「それなら安心してください、キャンセルして2名にしておきましたから♪」 「ど、どうして君はそんな勝手なことするんだ!拳児くんがいなければ今回の旅行の意味が無いじゃないか!!今頃、拳児くんは他の女の毒牙に……」
勝手なことをした葉子を前に、絃子はさらに怒りのボルテージを上げた。 しかし、葉子はなおも冷静に話し続ける。
「心配しすぎですよ、先輩は。拳児君ならそんな簡単に女の子の誘いには乗りません。信じてあげてください、彼を。そして私を!」 「……拳児くんのことは私も信じよう。でも、君のことはどうあっても信じられないね。だから今すぐ私を帰してくれ」 「ダメです」 「じゃあ、いいよ」
聞き分けてくれたと思った葉子は安心した。 しかし、次の絃子の行動は予想できなかった。
「歩いて帰るから」 カチャ。ガチャ! 「え?ええーーー??待ってーーー!!」 キキキキキーーーッ!!……ガッタン 「はあ、はあ、はあ……」
絃子がいきなり車から飛び降りようとしていたのを見て、葉子はさすがに焦った。 慌ててブレーキを踏んで車を止めた。焦りからか、葉子は息を切らしていた。 葉子のことを無視して車から降りようとした絃子の腕を、葉子は咄嗟に掴んで引き止めた。
「離してくれないか、葉子」 「嫌です。それにこんな所で一人で歩いたら大変です」 「大丈夫だ、私なら何とかできる」 「万が一のことがあった場合、一番悲しむのは誰だと思うんですか?」 「……どうせ君とでも言うんだろう?」 「いいえ違います、拳児君です!!」 「……え?」
葉子の口から播磨の名前が出るとは思っていなかった絃子はビックリしていた。 内心、自分が一番と言いたかった葉子だが、今回は引止めのために本心を隠した。
「本当かい?拳児くんは私のことを心配してくれるかい?」 「ええ、間違いありません!拳児君にとって絃子先輩は大切な人ですから!!それに先輩は、拳児君を悲しませたいんですか?」 「そんなわけ無いだろう!私は拳児くんを他の誰よりも愛し続けてきたんだ!彼の悲しむ顔なんて見たくなんて無い!!」 「だったらこんな無謀なことはしないで下さい。今回は私とスノーボードと温泉を楽しみましょう♪拳児君とは年始にでも旅行に行けばいいですから」
葉子の説得に折れ始めていた絃子は、葉子を許そうかどうか迷っていた。せっかくの計画を潰されたのだから普通なら許せないだろう。 しかし、年始の旅行のことを持ち出された絃子は、葉子にちょっとした質問をしてみた。
「その旅行には葉子、君も来るのかい?」 「いいえ。それに、今回のことの罪滅ぼしも兼ねてセッティングは私がしますから」 「……信用していいのかい?」 「混浴の温泉なんてどうですか?」 「こ、こ、こ、混浴??」 「はい!そこで拳児君と愛を育んで来てください!」 「ありがとう、葉子!!今回は君と楽しむことにしよう。その代わり、混浴の温泉の件、任せたからね」 「ええ、それはもう」
ようやく、絃子の説得を終えた葉子は、既に疲れ始めていた。心にも無いことを言ったせいもあるだろう。 ともあれ、これで絃子との楽しい旅行が出来ると思うと気分は晴れやかだった。 再び、車を走らせようとした時、コートのポケットに絃子のマンションの鍵を入ってるのを思い出した。 ポケットから鍵を取り出して、絃子に渡した。 マンションの鍵ともう一つ、別の鍵が付いてることに気付かないまま……
「あ、そうそう。先輩のマンションの鍵、返しておきますね」 「…………」 「ん?どうしたんですか、固まっちゃって」 「葉子、この鍵はどこから持ってきたんだい?」 「えっと、リビングの机の上からですけど」 「それは拳児くんの鍵だ。その証拠にバイクの鍵も付いてるだろう。私のは、帰ってきて早々ベッドの上に放り投げたままだぞ」 「……それって、拳児君は家なき子ってことですか?」 「…………」 「先輩?大丈夫ですか?」 「帰る」 「は??」 「帰るったら帰る!!拳児くんをこんな寒空の下、放置しておけるか!!」 「わーー!落ち着いてください、絃子先輩!!」 「いーやーだー!!かえるったらかーえーるー!」 「あー、もー、拳児君のバカー!!」
結局、再び絃子を説得し始めた葉子。何とか説得し終わった葉子は大幅にチェックインの時間を過ぎていたことに気付き、大急ぎで車を走らせた。 ホテルにチェックインした時は、フロントの人に申し訳ない気持ちで一杯な葉子だった。
その頃、播磨は八雲の誘いで塚本邸にやっかいになることが決まっていた。 そのことを絃子が知り、なお且つ落胆するのはまだ少し先の話……
【完】
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