私のカレは変態さん (天満×播磨)
日時: 2006/04/18 00:14
名前: たぴ

 『私のカレは変態さん』はコメディです。そして王道です。
 なので以下の物をお持ちの方は、一身上の都合により使用を禁止させていただきます。

・えんぴつ (ボールペンなら可)
・旗 (他のお客様のご迷惑になりますので振り回さないでください)
・携帯電話 (マナーモードに設定の上、通話はご遠慮下さいますようお願い致します)
・おにぎり (お腹がすいて仕方がない場合は正方形のものをご用意しております)
・烏丸君と共に過ごしたあの蒼き日のメモリーズ (過去に縛られるのはもうやめなよ)

 では、騙されたと思って軽い気持ちで読んでみてください。
 騙されます。(えー)

 

  私のカレは変態さん ( No.1 )
日時: 2006/04/18 00:27
名前: たぴ

「はっ、はっ、はっ・・・・・・」

 薄暗い路地裏を少女は息を切らせながら走っていた。

「いたか?」
「あっちだ!」

 背後からは数人の男の怒号が響いてくる。おそらく4人程度だろう。
 男女間の体力の違いからか、その差はみるみる縮まっていく。
 いや、訂正。その原因は少女の先天的運動オンチの賜物か。このままでは捕まるのは時間の問題だ。
 しかしこの少女、土地勘もない。
 てなわけで、自ら行き止まりに辿り着いてしまった。
 ついでに言っておくとこの少女、たぶんフツーの女子高生(本人談)である。
 金髪ツインテールなツンデレのように、言い寄ってくる男は数知れず、かといってヒゲの生えた男には滅法弱い無敵艦隊ってわけではなく。
 クールビューティーな姐さんのように、何考えてるのかわからんところに神秘的な魅力を感じてもいいのやら、さっぱりわからん鉄壁要塞ってわけでもなく。
 だいなまいとせくしーな格闘家のように、爆発物処理班ですら無条件降伏を余儀なくされるほどの破壊力を持つ最終兵器Dと呼ぶには程遠い。
 なのになぜか、このテのトラブルに巻き込まれやすい。
 それこそが主人公たるものの宿命なのか、それともただ単に運が悪いだけなのか。
 ちょっとこの件について詳しく議論してみれば、巻物一本分ぐらいの分量はかるく突破できそうだ。
 が、そんなことをやってる間にこの少女、塚本天満への危機が刻一刻と迫っていた。
 てな具合にこんな物語のはじまりはじまり。

「さあ、観念しな。お譲ちゃん」
「や、やめてください」

 すでに逃げ場を失った天満に、リーダー格の男がにやけ笑いを浮かべながら近づいてくる。
 天満は少しでも距離をとろうと後ずさりをするが、足がもつれて尻餅をついてしまった。
 もうだめだ、と思ったそのとき。
 鈍い音と共に、何かが倒れる気配がした。

「どうした?」

 男が慌てて振り返ると、仲間の一人がうずくまっているのが見えた。
 その傍に、サングラスをかけたガタイのいい男が一人。

「てめえ、なにもんだ!」
「オメエなんかに名乗る名前はねえよ」

 天満のピンチにさっそうと現れる男、播磨拳児。もはやお決まりの展開だ。
 愛する女の為ならたとえ火の中水の中。
 好感度を上げる為なら、こっそり尾行するぐらいの心構えも必要さ。
 だけど花井のように正々堂々ストーカーは認めない。
 男なら隠密行動に徹すべし。 (←犯罪です)

「は、播磨君!?」

 突然の登場に思わず声を上げる天満。
 惜しむらくは、播磨がタンクトップにジーパン姿ということか。
 初冬なのに寒くないのー? なんてツッコミもどこ吹く風。
 一目瞭然で播磨とわかってしまい、勘違いできる要素がひとかけらも存在しない。
 例えば格好よく退治しようとも、播磨と認識してもらえないとか。
 もしくは播磨が変態さんに間違われて思いっきり嫌われるとか。
 そんな若手芸人が泣いて羨ましがる役回りを自ら放棄しているとしか思えないほどの芸のない登場の仕方。
 それはそれで悲しいものがある。なんたる醜態、カッコ悪。

「大丈夫か、塚本。安心しろ、悪党はこの俺が許さねえ!」 ←棒読み

―――俺はいま・・・サイコーに輝いている! 天満ちゃん、俺を見てくれ。そしてホレてくれ! ←本心

 感情を表に出すことなくさらりと決め台詞を口にする播磨君。
 しかしそれはクールと呼ぶには程遠く、一般的な関西のおばちゃんの脚線美に勝るとも劣らないくらい見事な大根っぷりである。
 気持ちは素直に。基本です。
 だけど、わかっていてもうまくいかないのが恋心。
 天満に気づかれないよう、ギンギラギンにさりげなく熱いハートに火をつけている間に、不良たちが播磨を取り囲む。

「なにカッコつけとんじゃぁ!」

 おそらくパソコンの前のみんなが感じているであろう魂の叫びを代弁して、不良の一人が背後から播磨の顔面めがけて殴りかかる。
 しかし、そんな責任重大な役目を背負った割に、そのパンチは播磨が目をつぶっていても避けられるほど、スピードも威力も感じさせないものだった。
 だが、それはあくまで臨戦態勢でのこと。
 他のことに気をとられていた場合、集中力は霧散してしまう。
 例えば天満ちゃんに思いっきりアピールだとか。
 例えば天満ちゃんと一緒に登下校だとか。
 例えば天満ちゃんとのあま〜い結婚生活だとか。
 そんな人生バラ色幸せ一色きみを俺色に染めてやるぜ的な妄想で口元が緩みきった播磨は、思いっきり不意打ちを食らい。
 その拍子にサングラスがすっぽ〜んという気の抜けた効果音と共に宙を舞い、身伸の新月面が描く放物線は栄光への架け橋となって、天満の手元にすっぽりと収まった。

「くっ!」
「大丈夫? 播磨君!」
「全然ヘーキ。痛くねえ!」

 天満の黄色い声援で息を吹き返した播磨君。ご丁寧に親指もグッ! と突き上げている。
 今なら地球のみんなから元気を分けてもらったサイヤ人にすら勝てそうな勢いだ。
 所詮満月の夜にしか猿になれないような戦闘民族とは違って、播磨は年がら年中お猿さん。
 男のコにはね、みんなそんな時期があるの♪

「いまだ!やっちまえ!」

 物欲と本能のカタマリにノせられてるなんて気づくはずも無く、不良たちはチャンスとばかりに一斉に襲い掛かる。
 しかし、この瞬間、その不良たちの運命は確定していた。
 そんなセリフを吐いてしまったら、次に残された選択肢は地面に倒れるだけ、と相場は決まっている。
 てなわけで、播磨はあっという間に不良たちを捻じ伏せた。
 播磨が本気を出せばこんなもの。たぴが手を抜けばそんなもの。

「は、播磨君、すごい・・・・・・」
「大丈夫か? 天・・・・・・塚本」
「え・・・・・・あ、うん」

 播磨の雄姿にすっかり見惚れていた天満。
 急にかけられた声にふっと我に返って立ち上がろうとしたけれど、動けなかった。
 足に力が入らない。

「どうした?」
「・・・・・・腰、抜けちゃった」

 このシチュエーションはアレですか?
 お姫様抱っこをさせようっていう魂胆ですか?
 そんなことになっちゃったら、播磨君泣いて喜ぶよ。
 播磨君、だけど天満に背を向けた。

「家までおぶってってやるよ」
「でも・・・・・・」
「こんなトコに塚本を置いてくわけにはいかねえからな」
「・・・・・・ありがとう、播磨君」

 播磨の背中に寄りかかり、そっと首に手を回す。
 やっぱりあれだけ激しく動いたあとだから、呼吸の乱れが背中越しに伝わってくる。

「大丈夫? 重くない?」
「どーってことねえよ。塚本が軽いってコト、知ってっからな」
「そっか。肝試しのときにもおんぶしてもらったっけ」
「・・・・・・おう」

 天満にとっては二回目のおんぶ。
 だけど、播磨にとっては三回目。

―――そういや、初めて会ったあの日も天満ちゃんをおぶったっけ。

 天満は知らない。あの日のことを。
 播磨が恋に落ちたあの日のことを。

「ねえ、播磨君」
「ん?」
「播磨君って優しいよね」
「なっ! ・・・・・・んだよ、イキナリ!」
「だってさ、他人のためにあんなふうに大人数相手に立ち向かえないよ、フツー」
「そりゃ、なんつーか・・・・・・」

 もしかして普段では考えられないほどいいムードってヤツですか?
 オーケイ播磨君、ココはビシッと決めちまいな。

「・・・・・・オマエだからだよ。この拳は誰かを傷つけるためじゃなく、大切な人を守るためにあるんだぜ」

 さらりとスゴイこと言う播磨君。
 使う相手を間違えれば鳥肌もののセリフを臆面もなく口にするその心意気。
 そこに痺れる憧れるぅ。

「あっ、焼き鳥おいしそ〜」

 だけど欠片も伝わらないのはお約束。
 天満はいつだって花より団子。
 ちょうどいいところにいた屋台のおっちゃんに身も心も釘付けになっていた。

「で、まえだから、ってなに?」
「こないだ、昔のツレの前田から電話があったんだよ。久しぶりにな」
「へぇー」

―――って違―よ! なんの脈絡もなくツレの話をするやつがいるか!

 心配しないで。ここにいるよ。
 やはり鈍い。わかっていたけど相当鈍い。鈍すぎだろ。
 本来なら地団太踏んで悔しがりたいところだが、天満を背負っているため断念。
 そんなこんなで塚本邸に到着。

「着いたぜ」
「ありがとう、播磨君」
「立てるか?」
「うん、もう大丈夫だよ」

 播磨の背中から降りた天満は、その場で一回転ターンをしてみせた。
 少しバランスを崩してよろけてしまい、恥ずかしそうな笑みを浮かべるところはご愛嬌。

「今日はホントにアリガトっ♪」
「別に大したコトしてねーよ」

―――ふっ。天満ちゃんはいま、絶対に俺を尊敬のまなざしで見ているぜ。

 今日の活躍で天満の心を鷲掴みにしたと信じて疑いのない播磨君。
 告白するならここしかない。
 播磨の脳内ではすでに長年夢見た、めくるめく禁断の世界が構成されていた。


『好きだ!』
『私も!』


―――カンペキだ・・・・・・。完璧すぎて逆に怖いぜ。

 そんなご都合主義全開のステキ展開に酔いしれる播磨君。
 サングラスをクイッと上げようと、人差し指を眉間に近づけて。
 しかし、とっても大事なことに気づく。

―――ヤベッ! いまサングラスしてねぇ!

 路地裏に落としてきたと思い込んでいる播磨は、天満の握り締めているサングラスに気づかなかった。
 素顔をさらしたままで天満と向き合うわけにはいかない。
 だがここでチャンスを逃すわけにもいかない。
 微妙に顔を逸らしながら、そんな葛藤を続ける播磨。

 そんな播磨の様子を、天満はじ〜っと眺めていた。
 播磨の素顔を見るのは初めてではないが、これがなかなかカッコイイ。
 しかも襲われていたところを助けられたなんていうシチュエーションも手伝ってか、いつもの3割増しで美化されている。

「でもさ、今日の播磨君、本当に格好良かったよ」
「マ、マジか?」
「うん。惚れ直しちゃうかもよ?」

 思春期真っ只中なんだから、心情の変化が生じるのが当たり前。
 そんななか、連載当初から一途な想いを持ち続けている天満。
 スクランの世界では播磨と共に絶滅危惧種に指定されているとかいないとか。
 そんな天満が不覚にも播磨にときめいてしまった。
 吊り橋効果、侮り難し。
 天満は指先で銃を作り、播磨のハートを狙い撃ち。

「八雲が聞いたらねっ♪」

 その銃の放つ弾丸は情け容赦なく播磨拳児の夢見る乙女心もといオトコ心を木っ端微塵に撃ち砕く。
 精神的ダメージだけでなく、物理的にも播磨を吹き飛ばすその威力。
 銃刀法に引っかかるのではないかとの噂もあるようなないような。

「だ、だから何度も言ってるけど、妹さんのことは違うんだって・・・」
「どう違うの?」
「それはマン・・・・・・」

 たとえ狙撃されようとも不死鳥の如く立ち上がる播磨君。
 こんなところで絃子先生の『健全なるゆとり教育』の恩恵を受けるとは思ってもみなかった。
 しかし八雲との誤解を解こうにも、漫画の打ち合わせとは口が裂けても言えない。

「・・・・・・マンドリル!」
「そっかー、マンドリルかー」

 マンドリル:霊長目 オナガザル科
 学名 Mandrillus sphinx
 アフリカ西部に生息する大型の霊長類で、鼻の両側についたヒダの模様がトレードマーク。
 特に顔の模様が色鮮やかで、アゴヒゲが立派なオスがモテるらしく、一頭のオスに複数のメスからなる群れを作る。
 その群れの名は「ハーレム型」というのだそうだ。
 黙っていても女のほうから寄ってくる播磨拳児にふさわしい称号と言えよう。

 まあ、心配しなくても天満はそこまで深く考えてはいない。
 ただ頭の中でマンドリルがウッキーと叫んでる。

「やっぱりお猿さんだったんだね、播磨君って」
「うぉっ! しまったぁ!」

 播磨拳児、17歳。
 この歳にしてすでに立派な墓穴をお持ちのようで。
 とんでもない失言に慌てふためく播磨君。
 このままでは、これまた立派な墓石で蓋をしてしまいそうな勢いだ。
 コレはマズイ。マズすぎる。

「ち、違うんだ・・・。俺にはその、好きな娘がいてよ・・・・・・」
「え?」
「妹さんにはイロイロと手伝ってもらってんだ。その娘にふさわしい男になるために」

 漫画家として認められる。それが男としての第一歩。
 だからといって八雲に『俺を男にしてくれ』と頼むのはどうかと思うのです。

「いままで黙っててすまなかった」
「そうだったんだ・・・。てっきり八雲かと思ってたよ。そういえば海に行ったとき、好きな人がいるって言ってたっけ」
「ああ。でも俺の好きな娘は周防でもお嬢でも妹さんでもなくて、ずっとひとりだけを見てきたんだ」

―――だったら、播磨君が好きな人は・・・。

「ゴメンね・・・。気づかなくて」
「イヤ、俺のほうこそ、ちゃんと言わなかったから」

   ―――天満ちゃん、ついに俺の気持ちに気づいてくれたんだな。

「でもね、播磨君。八雲と播磨君が会ってるのは感心しないな。他の女の子と一緒にいるのを見ると不安になっちゃうよ」

―――好きな人には自分だけ見てほしいものなんだよ。

「ああ、わかってる。言ってくれてありがとな」

   ―――オーケイ、これからはいつでも天満ちゃんの傍にいるぜ。

「あんまり待たせちゃダメだよ」
「ああ。すぐにでも気持ちは伝えるつもりだぜ」
「ホント? やったー!」

 諸手を挙げて喜ぶ天満を前に、幸せを噛み締める播磨。
 長期に及ぶスニーキングミッション・・・じゃなかった、積年の想いがついに実を結ぶときが来たのだから。
 そんな播磨に、天満は満面の笑みで素直な想いを口にした。


「よろこぶよ〜、晶ちゃん!」


 高野晶は神出鬼没。その行動を予知することなどできません。
 播磨の脳裏に颯爽と現れた女スパイは、気づかれることなく淡い期待をさっくりと掠め取る。

 天満の放った満面の笑みは、すべてを暖かく包み込むほどの輝きを放っていて。
 でもその言葉は播磨を凍りつかせるのには十分で。
 カメさんマークの思考回路は、突然の寒波の前に完全冬眠を余儀なくされた。

 播磨君が好きな人って誰なんだろ、と考える天満。
 美琴でも愛理でも八雲でもないってことはつまり。
 消去法で考えれば高野晶しか残らない。
 そんな結論に達しました。
 自分という可能性を全く考えないあたり、やはり天満。

―――あれ?

 しばらくフリーズ状態の播磨を眺めていた天満。
 ただ、サングラスのかかっていないその瞳に、なんだか嫌な思い出があるような気がしてきた。

「もしかして・・・・・・変態さん?」
「いいっ!」

 突如天満の口からポロッと零れ落ちたひとことに、安らかな眠りから飛び起きた播磨君。
 寝込みを襲われた動揺を隠せないまま、天満の次の言葉を待つ。

「あれ〜、おっかしいなぁ。播磨君とおしゃべりしてたはずなのに、いつのまに変態さんとすりかわったんだろ?」
「つ、塚本・・・・・・?」
「播磨君、どこ〜?」

 あたりを見渡して播磨を探し始める天満。
 その勘違い機関車を止めるすべなど存在しない。
 線路の上に偽りのない真実が待ち構えていようとも、聞く耳持たずになんのその。
 そこのけそこのけ天満が通る。

「ちょ、ちょっと待て塚本! 目の前にいるじゃねーか!」
「ええ〜! じゃあ、播磨君が変態さんってこと?」
「ち、ちがうんだ。変態さんは確かに俺なんだけどよ、俺は変態さんなんかじゃねーんだ」
「変態さんは播磨君だけど変態さんじゃないってことは、播磨君は変態さんだけど播磨君じゃないってことだから・・・・・・うう、ワケわかんなくなってきた」

 ぶつぶつと呟く天満の頭上には、蒸気機関よろしく幾筋もの湯気が立ち昇る。

「だから、俺はあの日出会った変態さんなんだけどよ、誓って俺はなんもしてねえんだ」
「なんだ、そっかぁ。すっかり騙されちゃったよ」

 そのひとことですんなりと納得してしまった天満。
 とりあえず播磨の名誉のためにこれだけは言っておこう。
 騙すつもりなんてこれっぽっちもありませんでした。確認。

「でもさ、どうして部屋に連れ込んだりしたの?」
「貧血で倒れた女の子をそのままにはしておけねえだろ? だから連れて帰ったんだ」
「だからって押し倒して口を塞ぐなんて・・・」
「ありゃ、塚本が寝ぼけてキスしようとするのを必死で抵抗しただけだよ。信じられねえかもしれないけどな」
「あ・・・・・・」

 そういえば、中三のころ、寝ぼけて抱きつくクセがあったことを思い出した天満。
 八雲が天満を起こす際、相当苦労したらしい。
 寝ぼけている天満は考えるのではなく感じるままに行動しているため、八雲の心眼が通用しない。
 しかも天満はたま〜に八雲の運動能力を遥かに凌駕する動きをする。
 迫り来る天満の猛攻を必死でかわす八雲だが、善戦の甲斐なく捕縛されることもある。
 そんな時、八雲はどうするか?
 力尽くで振りほどく、なんてコトは姉さん第一主義の八雲にはできるはずもない。
 なので精一杯天満を起こそうと努力はするが、基本的にされるがまま。
 ということはつまりこういうこと。


 八雲のファーストキスの相手はおねえちゃん?


『おはよ〜。あれ? どうしたの八雲。顔真っ赤だよ?』
『う、ううん・・・なんでもない・・・・・・』

 目が覚めたらそこは秘密の花園でした。
 信じる信じないは自己責任でお願いします。
 閑話休題。

「そっか、私が勝手に抱きついただけだったんだ」
「信じてくれるのか?」
「うん。播磨君がそう言うなら、信じるよ」

 播磨が変態さんのような行為をするはずない。
 今日の播磨を見てたらわかる。

「播磨君はそんないい加減な人じゃないって知ってるから。ね♪」
「天・・・塚本・・・・・・」

 そう、知っている。
 意外と恋愛のこととか、マジメに考えているって知っているから。
 播磨へ信頼を寄せて放った笑顔はまるで、太陽のような輝きを放っていた。

―――それに、全部思い出しちゃったから。

 思えばあの日も、今日のように肌寒い日だった。
 そんな冬の寒さにも負けずタンクトップ姿で現れた播磨が、路地裏で襲われていた天満を助けてくれたということを。
 ナイフを持った相手に素手で戦いを挑み、守ってくれたということを。
 胸の高鳴りが止められない。
 いままで烏丸が独占していた天満の心。
 そこにじわじわと播磨が侵食してくるのを、天満ははっきりと感じた。

「あ、そうだ。これ・・・」

 サングラスのことを思い出し、慌てて取り出して播磨の顔にセットしようとした。
 しかし、ふとその手が止まる。

「ど、どうした?」

 気づいてしまった。
 いつもサングラスの奥に隠された瞳。
 鷹のように鋭い目つきなんだけど、どこか優しくて。
 見つめられると、吸い込まれそうになるその輝きを。

「やっぱり、サングラス取ってるほうがカッコイイよ」
「え? そーか?」
「そーだよ」

 そんな瞳を隠してしまうなんてもったいない。
 ついでにちょこっと悪戯を思いついた天満は。

「だから、これは没収♪」

 ちょっぴり舌を出して見せると、播磨のサングラスを自分でかけた。
 少し大きすぎるから、上目遣いをすると全然役には立たないけれど。

「なんかさ、サングラスしてると告白の練習したの、思い出すよね〜」

 天満の脳裏に海へ行ったときの記憶が蘇る。
 播磨とふたりっきりで、夜更けまで特訓したあの思い出が。
 練習なのに恥ずかしがって全然うまくいかなかったのはきっと。
 外見からは想像できないほど純粋な心の持ち主なのだろう。
 そんな播磨のかわいらしい一面を思い出し、控えめに髪をピコピコ動かしていると、
 播磨はそっと天満のサングラスを外した。

「どうしたの? 播磨く・・・」

 両肩を掴み、真剣な表情で見つめられて、それ以上言葉が続かなかった。
 天満のハートのド真ん中にデッカイ矢が突き刺さる。
 もう誤魔化せない。天満は恋に落ちてしまった。

「聞けよ! おれはなぁ・・・お前のことが・・・・・・」

 タコさんのような口をした播磨は天満のハートをロックオン。
 想いを詰め込んだ大砲が、一斉放火を試みて。

「す・・・す・・・スゥ〜〜〜〜〜・・・・・・」

 ピンポンパンポン♪
 業務連絡、業務連絡。
 船長、主砲がイカレました。

「・・・言えない」

 想いを込めた弾丸は、相も変わらず不発弾。
 緊張に耐え切れず、ぽすんぽすんと情けない音を立てて縮こまる播磨。
 もしかして、晶への告白の練習しているのだろうか、と少しズレたことを考える天満。
 だけど天満は知っている。
 きっと彼は、自らの想いを表現することが苦手なのだろう。
 みんなと打ち解けることが出来ずに、黙々と雑用をこなす姿を幾度となく見ているから。
 あまりに不器用で、手を差し伸べたくなる。

「ねぇ・・・・・・。ひとことだけ、いいかな?」

 でも今回は手伝うつもりなんてさらさらない。
 そこまでお人好しじゃないから。

 溢れる想いが止められないから。

「私は播磨君のこと、好きだよ」
「へ? ・・・そーなの?」

 玉砕覚悟で告白するつもりだったのに、先手を打たれるとは思ってなかった播磨。

「お、俺もオマエのこと、好きだぜ」
「え? ・・・そーなの?」

 玉砕覚悟で告白したつもりだったのに、成功するとは思ってなかった天満。

「えっと、その・・・・・・不束者だけど、よろしくね」
「あ、いや・・・・・・こちらこそドーゾよろしく」

 ぎこちなく。控えめに。お互いに頭を下げる。
 顔を上げると目が合った。やはりちょっと照れくさい。
 天満は頬を赤らめながら、満面の笑みを浮かべる。
 播磨は頬を掻きながら、ほんの少し微笑んだ。

 まだ急な展開に戸惑いを隠せない二人だけど。
 とにかく播磨&天満、おめでとう。
 そして急な展開に戸惑いを隠せない読者様にこの言葉を捧ぐ。
 こんな展開ありえない? ありえないなんてありえない。

「でも播磨君、どうしてあのときすぐに誤解だって言わなかったの?」
「あのとき?」
「助けてもらったのに、私が変態さんと勘違いしたとき」
「イヤ、言おうとしたんだけどよ、その前に一本背負いされちまったから・・・」
「・・・あ」

 襲われると思って、播磨を投げ飛ばしたことを思い出した天満は少しバツが悪そうに微笑んだ。

「あはは・・・・・・。ゴ、ゴメンね」
「別にいいって。変な話だけど、あんとき投げられたからお前に惚れたようなモンだからな」
「そっか・・・・・・」

 天満はしばらく俯いたまま。
 やがて躊躇いがちに播磨の傍へ歩み寄る。
 少し戸惑い気味の表情で、ちらちらと播磨へ視線を送る。
 そんな潤んだ瞳で見つめられたら、もう抱きしめるしかないじゃないですか。
 播磨は、まるで他人のものになってしまったような腕をぎこちなく天満の背中に回そうとして。
 しかし、天満はするりと身をかわし、播磨の腕を掴むと。

「へ?」

 次の瞬間、播磨の体は宙に浮き、背中から地面にたたきつけられていた。
 天満の一本背負いが見事に決まる。
 何故投げられたのか全く見当がつかない播磨。
 仰向けの状態のまま見上げると、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
 播磨アイを発動していなくても、十分にド真ん中ストライク。

「もう一回投げたらもっと好きになってくれるかと思ったんだけど、どう? 惚れ直した?」
「・・・・・・ああ!」

 播磨はゆっくりと上半身を起こす。
 でも、少し気恥ずかしいのか、立ち上がる素振りは見せず。
 天満に背を向けたままゆっくりと呟いた。

「でもまさか、また投げられるとはな」
「えへへ。私ってときどきスゴイの」
「なんだそりゃ?」

 天満はひざ立ちになり、背後からそっと抱きついた。
 そのまま播磨の右肩にちょこんと顔を乗せる。
 播磨の鼻腔をほのかなシャンプーの香りが刺激した。

 播磨は前を向いたまま。
 本当は天満のほうを向きたいのだけど、今は無理だ。
 サングラスがないと、天満の笑顔が眩しすぎて直視できない。
 いや、あってもたぶん無理。
 こんな至近距離じゃ、心臓が耐え切れない。

 天満は播磨の横顔を眺めたまま。
 本当は播磨に振り向いてほしいのだけど、今はダメ。
 もう少しだけ、播磨を見つめていたいから。
 振り向かれると、たぶんダメ。
 きっと恥ずかしくて目を逸らしてしまうから。

「ねえ、播磨君・・・・・・」
「な、なんだ?」
「播磨君のこと、もっともっと好きになるから、播磨君も私のこと、もっともっと好きになってね」
「・・・・・・たりめーだ」
「・・・・・・ありがと」

 天満は抱きしめる腕に、ぎゅっと力を込める。
 播磨はその腕にそっと自分の掌を重ねた。




「じゃあ、もっともっと好きになってもらえるように、これからもドンドン投げてあげるね♪」
「・・・マジか?」





 めでたしめでたし。




  しかし現実はそんなにうまくはいかんのでした。 ( No.2 )
日時: 2006/04/18 00:27
名前: たぴ




「てな感じのストーリーなんだけど、どう思う? 妹さん?」
「え、えっと・・・・・・」
「実は次回作のタイトルも決めてんだよ。第二部が『愛に彷徨う不良さん』、第三部が『夜はやっぱりお猿さん』だ!」
「は、はぁ・・・・・・」
「名づけて『ろーど・おぶ・ざ・きんぐ』三部作だ。どうだ? なんかイカスだろ」
「そ、その名前はちょっと・・・・・・」
「もし気になるところがあったらぜひ忌憚のない意見を聞かせてくれ」
「じゃ、じゃあひとつだけ」




「・・・・・・どうして紙芝居なんですか?」





 おしまい


〜あとがき〜

 脚本:ハリマ☆ハリオ。朗読:播磨拳児でお送りしました。

 


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